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第2話
しおりを挟む「そうだね…あれは僕が5歳の時。もう3年も前の事だ」
僕のお父さんは産まれる前に死んだ。だから顔を見た事はない。お母さんはずっと一人で僕を育てた。でも育てる為には、生きる為にはお金が必要不可欠だ。お父さんが残したお金は少ない。これだけでは到底生きてはいけない。お母さんは朝から夜まで働いて働いて金を稼いだ。その姿は金に取り憑かれた鬼のようであった。
こんなお母さんであるが、僕にとって彼女は本当に女神のようなキラキラと輝いた存在だった。普通のお母さんじゃ無いかも知れない。でも僕は好きだった。僕の為に身を削って働いていたお母さんの後ろ姿がかっこよくて、かっこよくて仕方がなかった。僕もいつかあんな風に人の為に尽くせる大人になりたいと憧れを持っていた。それにお母さんは必ず僕の誕生日とクリスマスには家に帰ってきてくれた。この日がいつも待ち遠しかったんだ。
「でも、事件はその日に起きた」
猫が話をしている途中に声を挟む
そう、僕が5歳の時。
その日はクリスマスイブの夜だった。
家に電話が掛かってきた。
「息子さんですか?」
電話の主は女の人で、病院からだった。
「お母さんが車に跳ねられました。緊急手術で命はまだありますが、危ない状況です。来てくれますか?」
「はい…」
明日はクリスマス。
お母さんに会える日。
楽しみにしてた。
そのお母さんが、事故に遭った?
死にそう?
冗談だよな?
いや、冗談だと思いたかっただけだ。
僕は雪が降る中、パジャマ姿でお母さんがいる病院まで懸命に走った。はぁはぁと息を出す事に白い息が口から出る。
寒い。だけど、そんな事を考えている場合じゃないんだ。
お母さんが死んでしまうかもしれない。
「お母さん!!」
お母さんがいる病室につくと、お母さん体中に包帯をぐるぐる巻きにされた状態でベッドに横たわっていた。
「そう…た?」
彼女は小さい声で僕の名前を呟いた。
今にも消えてしまいそうだ
「お母さん!!!」
「メリークリスマス…そうた…」
「いつも一人に…させ…て…ご…めんなさい」
お母さんは目に涙を溜めて僕に話す。
「だめ!もう喋らないで!!」
僕は怒鳴った。
これ以上喋ったら…
「そうた…にね…クリスマスプレゼント…」
「おか…あさんの…鞄の中に…猫がいる…の」
「そう…たが、さ…びしく…なら…ないよう…に」
お母さんの呼吸が荒くなる。
僕はただ、ただ泣く。
「いま…までありが…とうね。おかあさ…ん。そう…たと…あ…えて幸せ…だったよ…」
「こ…れからも…生きて…ね」
最後にお母さんはそう優しく微笑むと静かに目を閉ざした。
病室には僕が泣き喚く声と心拍数を測る機械の「ピーーーー」という音だけが流れる。
そのあとは、お母さんの最後のクリスマスプレゼントの猫を抱えて静かに家に帰った。どうやって帰ったかも分からない。
お母さんが死んだのはクリスマスの日だった。
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