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羽根くんと僕 3
しおりを挟む羽根くんの家に遊びに行くとまず一緒に勉強を猛烈にした。
猛烈に勉強するのは好成績を維持しないと羽根くんの家に行かせてもらえなくなるから。それとさっさと課題を片づけていちゃいちゃするため。
課題が終わるといちゃいちゃをしてから風呂に一緒に入って洗いっこをする。
羽根くんの家で僕の立入禁止エリアはなくなった。全部屋入りたい放題だ。
僕にも開放された羽根くんのベッドで口づけをしながら足を絡めあう。
お互いの身体に触れそっと性器を愛撫する。
羽根くんの性器は重くてぼってりとしている。舌先で先端や裏を舐め上げ、歯があたらないよう口に含んで吸い上げた。
羽根くんも僕も口や指を使って愛撫をしているので、ふうふうと鼻息だけが妙に荒くなってしまう。
僕らがやっているのはバニラセックスというもので挿入を伴わないものだ。
僕はアナルもやってみたかったけど、羽根くんが躊躇をしていた。
僕はいつの日かに備えて自分で練習をすることにした。
*
いつかの日は意外に近くにきて、誕生日に羽根くんにお願いをして後ろを使ってもらった。
思っていたよりは痛みが少なく、ネットで見かける体験記ほど快楽はなかった。
慣れたら気持ち良くなるのかな。
羽根くんが僕で気持ちよくなっている姿を見るのは気分が良かった。
ただ、初めて羽根くんを受け入れた後は、しんどくて動けなくなった。
腰に力が入らずうごけない。
本物は練習で使っていたエナジードリンクの瓶レベルではなかったから。
羽根くんは少しおろおろした後、台所でごそごそとして僕の為に雑炊を作ってくれた。
茶碗によそわれた卵が入った雑炊は塩気が足りなかったけど、身体と心が温まってほっこりした。
*
僕は大学に入った。
頑張って父さんと羽根くんの後輩になった。
大学の入学を機に羽根くんと同居をしたいというと、父さんには怒られた。
でもはなは、僕と羽根くんの関係を理解していたらしくて暴れる弟を抱きながら父をなだめていた。
「いいじゃないの。羽根さんが迷惑じゃないなら。和くん、大学を卒業したら結婚するの? 」
はなの僕への問いかけに父はキョトンとしていた。
「できたら、いいよね」
僕ら二人の会話が見えていないのは父だけだった。会話に置いてきぼりにされた父は余計に怒っていた。
僕の半分は羽根くんの好きな父さんからできていて、残りは羽根くんから僕をネタに父さんを奪った美奈子さんでできている。
「母さんに似ていると思うところはどこ? 」
「目かな」
「じゃあ、僕の目は嫌い? 」
「いや。和くんの目だから、好き」
僕は羽根くんの返事に嬉しくなって、ふふふとにやける。
羽根くんは長年父が好きだった。
もしかしたら今も僕より好きかもしれない。
抱き合った直後の自信でパンパンに膨れた僕の風船は、どんな高さまでも飛んでいけそうなのにしばらくするとしぼんでしまう。
羽根くんは父に抱かれたかったのだろうか。ぼんやりと考えることがある。
最近声変わりは済んでいたのに、更に声が低くなってきている気がする。
ヒゲも週に1回剃ればよかったのに、週2回になってきていた。
最近会いに行った美奈子さんに言われた。声が父に似てきたって。
*
「羽根くんを抱いてみたい」
ある時、羽根くんに言い出してみた。
羽根くんはしばし黙りこんでから返事をした。
「いいよ。あ、でも1週間後でいい? 」
なぜ1週間週間後と思ったけど、羽根くんにも心の準備とかあるんだろうなと思ったから1週間後に約束した。
1週間後の僕は、羽根くんにキスをする。今日のリードは僕が担当。
羽根くんを脱がせてみるとあそこや足の毛が無くなっていて、つるつるでびっくりした。
「年は隠せないから、せめてきれいにしとこうと思って」
「永久脱毛? 」
「そう、何回か通わなくちゃいけないけど」
「良いなぁ。僕もしたい」
「今度一緒に行く? 」
「うん」
羽根くんの唇に吸い付き甘噛みをした。
僕は羽根くんにされて気持ちいいことを羽根くんにも施す。
首筋から唇を落としていく。
胸の突起を押して摘まむと、羽根くんは大きく息を吐いた。
つるつるになったくぼみを舌先でつつくと羽根くんは熱い吐息をこぼす。
ジェルで濡れた指で中の膨らみをこすると羽根くんは身もだえる。
中を指で広げながら性器を口に含むと羽根くんは嬌声を上げながら露をにじませた。
羽根くんがよい程合いに蕩けた時に、目隠しをするよと言って羽根くんにアイマスクを付けた。
僕はゴムを付けジェルでぬるつく強ばりを羽根くんのくぼみに当て、ずるっと中に押し入れた。
羽根くんの中は温かくて気持ちがいい。羽根くんは大きく息をしている。
なじませてからゆるゆると腰を動かした。
羽根くんからは僕が動くたびに、あっあっあっと声が漏れていた。
「痛くはない? 」
「だ、大丈夫。痛みはないよ、あっ」
体勢を背後からに変えもう一度羽根くんの中に入った。
そして父の振りをして、父の声音で父の呼び方で羽根くんの名前「暁人」と何回か呼んだ。
羽根くんは固まった。
混乱していた。
戸惑っていた。
「正樹さん?和くん?止めて」
羽根くんの制止を振り切って腰を進め、さらに耳元で囁くと
「……やだ。こんなのは嫌だ。僕は和くんがいいんだ」
羽根くんは泣きだしていた。
そんな羽根くんをみて僕も泣いていた。
目隠しを外して、羽根くんの顔を両手で挟みこんだ。泣いている羽根くんに口付けながら謝った。
「羽根くん……ごめん」
「……もう、こんなことしないで」
羽根くんは目をつぶってぐったりしていた。
僕は羽根くんに何回も謝った。
どうしてあんなことを思い付いたのか、根本の原因は自分に自信がなかったからだ。
羽根くんに愛されている自信。
父に似ていることを利用して羽根くんと関係を持った。
父の息子だから父の関係者枠で採用された気がしていた。
関係者だったら誰でも良かったのかもしれないと、頭の中でささやく声がする。
実際の羽根くんはそんな人じゃないし、そんな事はあり得ないのに。
そんな事を考えるだけでも羽根くんに失礼だ。
だからといって、僕でなくてはいけない理由がわからなかった。僕が父よりも必要とされていることが知りたかった。
僕は混乱しながら考えたことをそのまま羽根くんに伝えた。
羽根くんはしばらく黙ってから、ぽつんと話しだした。
「僕は正樹さんよりも和くんが大事だ。正樹さんを、好きだった過去は否定しない。今も正樹さんは大切な人だ」
僕はその先を聞きたくなくて身じろぎをする。
「続きがあるんだ。ちょっと聞いて。どういう意味で大切かというと正樹さんは大学の先輩で、会社の先輩だ。この辺りの大切さはわかるね? 」
羽根くんは強い力で僕を見つめてくる。
僕は頭を縦に振る。
「そして1番ここが重要だよ。僕の大切な人の家族だから大切にしている。君の大事な人だろう? 正樹さんは。美奈子さんもだけど」
僕は鼻の中が急に鋭く痛みだすのを感じた。
「僕は君が大切にしたいと思っているものを一緒に大切にしたいと思っている。それは君を大切にすることに繋がるから。だから、正樹さんも大切なんだ」
そう言って羽根くんは僕の顔に手を当ててきた。
「納得した? 」
僕はいつのまにか溢れた涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながら、ブンブンとうなづいた。
流した涙と鼻水で大河ができそうだ。
それを凍らせたら氷河になって、そのまま押し流したらフィヨルドになるんだろうな。
泣きすぎと鼻水の出すぎで頭ががんがん痛む。苦痛にあえぐ僕を羽根くんは何回もティッシュで拭っては抱きしめてくれた。
この日の僕は何も考えず泥のように眠った。こんなに無心に眠れたのはいつ以来だろう。
*
羽根くんと実家に挨拶に行った。
はなは、分かっていて事前に話をしておいてくれたみたいだけど父は怒っていた。
羽根くんがあいさつをして僕がひととおり説明を終えると、黙って聞いていた父が口を切った。
「幼かった和をたぶらかして。混乱につけ込んで卑怯じゃないか」
父は羽根くんに文句をつけだした。
自分の後輩だからって言いやすいからって。羽根くんは後輩でお願いする立場上、父には何も言い返せないのに。
「ちょっと待ってよ」
この場で父と対等に発言できるのは僕だけだ。僕しか羽根くんを守れない。
「父さんは、羽根くんに混乱につけ込んだって言うけど、そもそも先に混乱を引き起こしたのは誰? 僕か? 羽根くんか?
違うだろ、父さんと母さんじゃないか。
困っていた僕を助けてくれたのが、羽根くんだったんだ。好きになって何が悪いんだよ! 」
父さんは黙り込んでしまった。
はなが後は任せろと合図を送っている。
はなに任せて家をあとにした。
後から、承認が出たわよーとメッセージがきた。
母さんにも、挨拶に行った。
母さんは羽根くんの肩をたたいて「そうだったんだ。苦労したねぇ」とか浪花節みたいなことを言っていた。
母さんの旦那が「和くんが女役なの? 」と超セクハラ発言をして母さんに殴られていた。この人これで弁護士なんて信じられない。
人妻に手を出すし子どもを睨みつけるし昔からへんな人だった。
僕は春には大学の学部を卒業し、大学院に進む。戸籍上だけど羽根くんの養子になる。
学費は親が、二人の生活費は羽根くんが、僕は自分の経費をバイトで稼ぐ。
生活は今までと変わらないし、僕たちの本質も変わらない。
年の差があって、いざとなった時にそばにいられるようにしたかったから。
今、同性婚の集団訴訟が行われている。
本当は配偶者として二人の新しい戸籍を作りたかった。
養子縁組を解消したカップルは現行法では婚姻は認められないらしい。
もし、法律が変わって同性婚が認められたら、その場合は、不本意だけど美奈子さんの旦那に相談してみようと思う。
渉外をメインとしてるそうなので苦手かもしれないけど。紹介くらいはしてくれることを期待して。
「羽根くん」
羽根くんを呼ぶと羽根くんはふわりと笑う。
「和くんも、羽根くんですよ」
「あー! 」
そのことをすっかり忘れていた。
二人で「羽根さん」と呼び合い、にこにこする。
それは嬉しくて楽しいけれど、実際に羽根さんと呼び合うのはいまいちだ。
羽根さんになった僕が、羽根くんを羽根くんと呼ぶのも不自然な気がした。
暁人さんって呼ぶ練習をしなくちゃいけないな、と思いながら、歩道を先に進む羽根くんに声を掛けた。
「羽根くん-! 待ってよ! 」
羽根くんを羽根くんと呼ぶのは、あと何回だろう。
立ち止まって僕を待つ羽根くんのもとへ、僕は無心で走り出していた。
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