僕たちは無邪気に遊ぶ

balsamico

文字の大きさ
6 / 16

旅立ち前夜

しおりを挟む

 明日は16歳の誕生日だ。普通の誕生日前日なら嬉しくてそわそわするものの、今日の雰囲気はやけに湿っていた。

 マスターの家から迎えが来て、明日でここを引き払う。今日が全員揃う最後の日になる。

 最後の食事に普段からマナーに口うるさい寮監が泣いていた。癖の強い棗も、よく笑う容も泣いていた。泣いていないのは僕と密だけだった。


 部屋に戻る。すでに片付けられた部屋、トランクに詰められた最後の私物。残されたのは寝具と寮のパジャマを着た僕たちだけだった。


 密に泣いている様子は見られなかった。何も言わずに僕に背を向けてさっさと自分の寝床に入ってしまった。


 寮監が最後の見守りをしながら各所の電気を消していく。この光景も最後だと思うと感慨深い。
 巡回後にこっそり他の部屋を襲撃したり、ふざけあって見つかり怒られたことも度々あった。寮監が階下に遠のいていく足音が聞こえた。


 布ずれの音がした。ほどなく密が僕のベッドに忍び込んできた。密は何かがあるとよく僕のベッドにやってきていた。


 めくりあげられた布団の上、密は僕の上にまたがり僕の顔を見下ろしてきた。


 消灯されてわずかな時間、暗闇に目が慣れない。カーテンを照らす月光。微妙な暗さに目がなじんできたら密のきれいな顔が見えた。


 シミそばかすのない青白く透ける肌。筋の通った鼻。切れ長の目。薄い赤い唇。目を細め僕に近づいてくる。


 唇に触れる。そして僕も密の唇に触れる。柔らかな唇。感じた密の体熱はそっと離れていく。
 目を開けると瞳のきれいな密と目があった。もうこんな事は最後だ。お互い何も言わない。話す言葉はなかった。


 密のマスターは身なりの良い歳のいった人で優しそうに見えたが、それだけだった。


 僕らは明日からはマスターに属する何らかの身分を持つ。今後どこで顔を合わせても、僕らは見知らぬように振る舞う。各自が連絡を取り合ってはいけない。何故なら僕らは非合法な存在だから。


 密の目から涙がこぼれた。密は何らかの不安を感じている。不安なのは皆一緒だ。仲間から離れ、新しい暮らしや新しい家族の中に入るのだから。でも、密の不安は少し違っているように見えた。


 でも、僕は何もかける言葉を持ち合わせなくて指で密の涙を拭い、横に抱き寄せた。
 子どもの頃から寝つきの悪い時や慰める時には背中を等間隔で軽く叩く。ナニーの習慣づけだ。


 僕は声を殺して泣く密の背中をトントンとリズムを付けて叩く。しばらくすると密は静かになり、寝息が聞こえはじめた。


 僕の横で寝入る密。一緒で寝るのも最後。密は思い悩んだ時、どのように対処していくのだろう。もう僕らはいないのに。


 月の明かりは彼が頬に流した涙筋を、青く照らしていた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

処理中です...