6 / 50
楽しいビラ配り
しおりを挟む
「おい、本当にここでビラを配るのか?」
虎豪さんがそう疑うのも無理はない。ここは人気の多い駅から少し離れた場所で、あまり意味がないように見える。明かりがないうえに建物が密集しているため、昼だというのに日が入ってこないのもそれに拍車をかけている。
いわゆる裏通りといって差し支えないへんぴなところ。そんなところに今、おれと虎豪さんはチラシを持ってやって来ている。
「駅でも配りましたし、別の場所でも配った方がいいんじゃないかと思いまして」
「いやまあ、そうなんだけどよ。ここは空気が淀んでるからな。犯罪が起きやすい場所なんじゃねえか?」
さすが元刑事。確かにここはあまり治安のいい場所とは言えない。でも、もちろんあえてこんなところを選んだのには意味がある。
「淀んでいるってか、なんだ、この浮ついた感じは。しかし、風俗街にしちゃなんかおかしい」
鋭すぎる。でもさすがにゲイ向けのお店が多く並んでいるなんて虎豪さんにはわからないだろう。
虎豪さんはいつも通りの燕尾服だ。しかし、外でもいつも通り服を破いていたら確実に逮捕される。なので、細心の注意を払い体を縮こめてビラを配る虎豪さんは奇異の目で見られてしまい、あまりうまくビラを配れなかった。それに加えあの恐ろしい笑顔があると考えれば読めていた展開ともいえる。
そう、だからこそおれはここでビラを配ることを提案したのだ。
「なんか視線を感じるな。ねっとり絡みつくような、嫌な視線だ」
野生の勘と刑事の勘が合わり最高の感度を誇る虎豪さんのアンテナはすかさずこの場所の特異性をキャッチしたみたいだ。大方、おれのお仲間が虎豪さんの値踏みをしているに違いない。
夏真っ盛りのこんな炎天下の中、綺麗に燕尾を着こなした虎豪さんはさぞかし暑さに苛まれていることだろう。たまにシャツの首元をパタパタと動かし空気を取りこんでなんとかしのいでいるのを見ると、早く切り上げたほうがいいなと思う。
「怖い顔しちゃダメですからね。ちゃんと配らないと、せっかく刷ったのが無駄になります」
「……わかってるよ」
それでも虎豪さんは警戒を緩めない。ああ、わかってない。わかってないな虎豪さん。
虎豪さんみたいなかっこよくていかつい顔を持ち、さらに燕尾服なんて着こんでる最高級の雄がそんな鋭い表情をしたら惚れられるに決まってるじゃないですか。
案の定視線は量を増し、ちらほらとこっちに興味を持った人が集まってきた。おれと同じ人種があつまるこの場所ならうまくチラシを配れるだろうという作戦を、今から開始する。
「喧嘩か?」
「違いますよ! 買ったらダメですからね!」
さらに鋭さを増した眼光でにらむ虎豪さんに待ったをかける。おれはこっちに興味を持ってくれた人に率先して駆け寄り、手に持っていたチラシを渡す。
「喫茶『サンシャイン』です。新商品始めたのでよかったら来てくださいね」
しかも、チラシはお店ではなく店主の虎豪さんを大々的にアピールする構図になっている。虎豪さんにも突っ込まれたが、そっちのほうが受けるはずなのだ。
「ほら虎豪さんも」
虎豪さんは警戒していたが、しぶしぶと集まった人にチラシを渡し始める。笑顔なんてとっくに忘却の彼方らしく、喫茶店店主というより完全に刑事の顔になっている。眼光の光をさらに強め、射抜くような視線を放ついかつい雄はこの場でなかったらきっと誰からも逃げられていたはず。
「よろしくおねがいします」
ぶっきらぼうになってしまっているが彼らの耳に届いているのかどうか。
いつも通り着ている燕尾の虎豪さんが見せるいやらしい肉体美。チラシを渡された人はそのぱんぱんになった肉体に目を奪われ、思わずチラシを受け取ってしまう。動くたびにもり上がるフォーマルなエロスは群衆を魅了してやまない。
完璧な作戦だとおれは内心ぐっとこぶしを握る。雄としての魅力にあふれすぎている虎豪さんを利用した、まさに完璧な作戦なのではないだろうか。
「落ち着け。チラシはたくさんあるんだ、そんなに焦らなくても……おい誰だ今けつを触ったのは!」
なんだと。うらやましすぎる。あの虎豪さんヒップを揉みしごけるなんて、羨望のまなざしを送るしかないじゃないか。
おれの妬みの視線の先で、引っ張りだこになってチラシを配る虎豪さん。こうして見ると群衆の中でさえ頭一つとびぬけているその巨体は本当にかっこいいなあ。あれだけ忙しそうでも警戒を失わないあたりまだ刑事としてのくせが残っているみたいだけど、そろそろ愛想を振りまいてほしい。宣伝しなくては意味がないんだからさ。
でも、おれの子の心配はすぐに杞憂に終わった。それも最低の形で。
「あ」
その声はおれと虎豪さんが同時に出したもの。忙しくなると服に気を配る余裕もなくなったのか、思いっきり服が裂けたようだ。破れてしまったのはまさに股間の部分。おれが店に通いながらも拝むことのできなかったものが、運悪く今起こってしまった。
どうやらあの詰め物でもしてそうな股間が、ついにチャックの弾圧では抑えきれず解放されてしまったみたいだ。勢いよく飛び出した布地をよく見ると、虎豪さんのアレの形を浮かび上がらせているようにも、み、え……駄目だ刺激が強すぎるおれの股間落ち着いて。
ちょっと内またになりながらも、おれは虎豪さんの股間を凝視する。なんという僥倖、でなく不幸。今の虎豪さんは道の真ん中で裂けたズボンで雄を誘っている状態になってしまったということだ。どんなパンツはいてるのかものすごく興味あるけれど、いまはそんな場合じゃない。早くここから逃げたほうがいいはず。
「真っ赤なボクサー……だと。ものすごく似合ってますね虎豪さん」
ごめん本能には逆らえなかった。
虎豪さんがそう疑うのも無理はない。ここは人気の多い駅から少し離れた場所で、あまり意味がないように見える。明かりがないうえに建物が密集しているため、昼だというのに日が入ってこないのもそれに拍車をかけている。
いわゆる裏通りといって差し支えないへんぴなところ。そんなところに今、おれと虎豪さんはチラシを持ってやって来ている。
「駅でも配りましたし、別の場所でも配った方がいいんじゃないかと思いまして」
「いやまあ、そうなんだけどよ。ここは空気が淀んでるからな。犯罪が起きやすい場所なんじゃねえか?」
さすが元刑事。確かにここはあまり治安のいい場所とは言えない。でも、もちろんあえてこんなところを選んだのには意味がある。
「淀んでいるってか、なんだ、この浮ついた感じは。しかし、風俗街にしちゃなんかおかしい」
鋭すぎる。でもさすがにゲイ向けのお店が多く並んでいるなんて虎豪さんにはわからないだろう。
虎豪さんはいつも通りの燕尾服だ。しかし、外でもいつも通り服を破いていたら確実に逮捕される。なので、細心の注意を払い体を縮こめてビラを配る虎豪さんは奇異の目で見られてしまい、あまりうまくビラを配れなかった。それに加えあの恐ろしい笑顔があると考えれば読めていた展開ともいえる。
そう、だからこそおれはここでビラを配ることを提案したのだ。
「なんか視線を感じるな。ねっとり絡みつくような、嫌な視線だ」
野生の勘と刑事の勘が合わり最高の感度を誇る虎豪さんのアンテナはすかさずこの場所の特異性をキャッチしたみたいだ。大方、おれのお仲間が虎豪さんの値踏みをしているに違いない。
夏真っ盛りのこんな炎天下の中、綺麗に燕尾を着こなした虎豪さんはさぞかし暑さに苛まれていることだろう。たまにシャツの首元をパタパタと動かし空気を取りこんでなんとかしのいでいるのを見ると、早く切り上げたほうがいいなと思う。
「怖い顔しちゃダメですからね。ちゃんと配らないと、せっかく刷ったのが無駄になります」
「……わかってるよ」
それでも虎豪さんは警戒を緩めない。ああ、わかってない。わかってないな虎豪さん。
虎豪さんみたいなかっこよくていかつい顔を持ち、さらに燕尾服なんて着こんでる最高級の雄がそんな鋭い表情をしたら惚れられるに決まってるじゃないですか。
案の定視線は量を増し、ちらほらとこっちに興味を持った人が集まってきた。おれと同じ人種があつまるこの場所ならうまくチラシを配れるだろうという作戦を、今から開始する。
「喧嘩か?」
「違いますよ! 買ったらダメですからね!」
さらに鋭さを増した眼光でにらむ虎豪さんに待ったをかける。おれはこっちに興味を持ってくれた人に率先して駆け寄り、手に持っていたチラシを渡す。
「喫茶『サンシャイン』です。新商品始めたのでよかったら来てくださいね」
しかも、チラシはお店ではなく店主の虎豪さんを大々的にアピールする構図になっている。虎豪さんにも突っ込まれたが、そっちのほうが受けるはずなのだ。
「ほら虎豪さんも」
虎豪さんは警戒していたが、しぶしぶと集まった人にチラシを渡し始める。笑顔なんてとっくに忘却の彼方らしく、喫茶店店主というより完全に刑事の顔になっている。眼光の光をさらに強め、射抜くような視線を放ついかつい雄はこの場でなかったらきっと誰からも逃げられていたはず。
「よろしくおねがいします」
ぶっきらぼうになってしまっているが彼らの耳に届いているのかどうか。
いつも通り着ている燕尾の虎豪さんが見せるいやらしい肉体美。チラシを渡された人はそのぱんぱんになった肉体に目を奪われ、思わずチラシを受け取ってしまう。動くたびにもり上がるフォーマルなエロスは群衆を魅了してやまない。
完璧な作戦だとおれは内心ぐっとこぶしを握る。雄としての魅力にあふれすぎている虎豪さんを利用した、まさに完璧な作戦なのではないだろうか。
「落ち着け。チラシはたくさんあるんだ、そんなに焦らなくても……おい誰だ今けつを触ったのは!」
なんだと。うらやましすぎる。あの虎豪さんヒップを揉みしごけるなんて、羨望のまなざしを送るしかないじゃないか。
おれの妬みの視線の先で、引っ張りだこになってチラシを配る虎豪さん。こうして見ると群衆の中でさえ頭一つとびぬけているその巨体は本当にかっこいいなあ。あれだけ忙しそうでも警戒を失わないあたりまだ刑事としてのくせが残っているみたいだけど、そろそろ愛想を振りまいてほしい。宣伝しなくては意味がないんだからさ。
でも、おれの子の心配はすぐに杞憂に終わった。それも最低の形で。
「あ」
その声はおれと虎豪さんが同時に出したもの。忙しくなると服に気を配る余裕もなくなったのか、思いっきり服が裂けたようだ。破れてしまったのはまさに股間の部分。おれが店に通いながらも拝むことのできなかったものが、運悪く今起こってしまった。
どうやらあの詰め物でもしてそうな股間が、ついにチャックの弾圧では抑えきれず解放されてしまったみたいだ。勢いよく飛び出した布地をよく見ると、虎豪さんのアレの形を浮かび上がらせているようにも、み、え……駄目だ刺激が強すぎるおれの股間落ち着いて。
ちょっと内またになりながらも、おれは虎豪さんの股間を凝視する。なんという僥倖、でなく不幸。今の虎豪さんは道の真ん中で裂けたズボンで雄を誘っている状態になってしまったということだ。どんなパンツはいてるのかものすごく興味あるけれど、いまはそんな場合じゃない。早くここから逃げたほうがいいはず。
「真っ赤なボクサー……だと。ものすごく似合ってますね虎豪さん」
ごめん本能には逆らえなかった。
0
あなたにおすすめの小説
イケメンダブルセンターとアンチ>ファンな平凡な俺
スノウマン(ユッキー)
BL
アイドルグループ【オーバーウェルミング】は圧倒的な歌唱力の深山影月、圧倒的なパフォーマンス力の漣陽太、そして圧倒的な平凡力な俺間桐真緒の3人で結成されている。
大人気の二人と違いアンチしかいない俺だが、メンバーからもファンからも愛される日が果たしてくるのか!?
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
大事な呼び名
夕月ねむ
BL
異世界に転移したらしいのだが俺には記憶がない。おまけに外見が変わった可能性があるという。身元は分からないし身内はいないし、本名すら判明していない状態。それでも俺はどうにか生活できていた。国の支援で学校に入学できたし、親切なクラスメイトもいる。ちょっと、強引なやつだけどな。
※FANBOXからの転載です
※他サイトにも投稿しています
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
モブなんかじゃ終わらない!?
MITARASI_
BL
気がつけばそこは、人気BLゲームの世界。
けれど与えられた役割は、攻略対象でも悪役でもない――ただのモブ。
本来なら物語の外でひっそりと生きていくはずだった。
だが、そんな彼の存在が、少しずつ“運命のルート”を揺さぶっていく。
選ばれないはずのモブが紡ぐ、新たな恋の物語。
ゲームの定めを超えて、彼が辿り着く未来とは――。
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。
星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。
前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。
だが図書室の記録が冤罪を覆す。
そしてレイは知る。
聖女ディーンの本当の名はアキラ。
同じ日本から来た存在だった。
帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。
秘密を共有した二人は、友達になる。
人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる