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帰れっていうのに
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「いやー運動して汗かいた後に食うお前の飯って本当に最高だよな」
幸せを顔全体で表現しながら猫柳は腹を叩く。そのおっさん臭い仕草も猫柳がするとなんだか愛嬌があるように見えるから不思議だ。これも人柄ってやつなんだろう。
「もうおれここに住もうかな」
「断固拒否するから」
「えーなんでよ」
なんでじゃねえよ。今でさえ煩悩と戦ってるのにこれが毎日なんて御免こうむる。
「そうしたら寂しいときは毎日慰めてやるぞ」
「うぐっ」
虎豪さんに会えないおれにその殺し文句は効果抜群すぎるからやめてほしい。
目の前の虎野郎は縞模様が映える逞しい腕をこちらに伸ばしてこっちに来いと誘ってきている。こいつ、おれがホモだと知ってから、からかいが加速してやがる。
さすがにおれもふてくされたように口をとがらせてしまう。
「人がホモだっていうのがそんなに面白いんですかねー」
「いやーおれはお前がホモとかどうでもいいんだけどよ。お前が気にしてるからついつい」
「気にしてるのがわかってるなら、からかうんじゃねえよ!」
からからと快活に笑う猫柳はいい奴なんだけどむかつく野郎だ。おれはかっさらうようにテーブルから食器をぶんどって、キッチンに放り込む。洗うのはもう明日でいいや。
いや、そういうわけにもいかないんだった。おれはこれから虎豪さんのためにケーキ(試作)を作る予定が入ってる。愛情込めたケーキを焼くために最高の物を出すんだ。
「というわけで、とっとと帰れ」
「え、お前のケーキ食えるの。すっげえ楽しみ」
「話を聞け!」
いまだ上半身裸の猫柳は帰るつもりなど毛頭ないと主張しやがった。座ったまま携帯までいじり始めて居座る気が満々だ。その表情は期待に満ちているんだが、お前、まだ食うの……?
いや、試作を食べてくれる人がいるのはまあいい。だが、時間が時間だ。晩御飯後にケーキを焼いて、できるのはいったいいつになる。夜も更ければ、この怠惰な猫科は絶対おれの家に泊まろうとするのが目に見えている。
「だから帰れ」
「朝飯食ったらな」
「泊まる気しかないのな!」
そこまで一通りつっこんで、おれは猫柳がここに来た目的を思い出した。
そうか、こいつはおれを心配して家に来たんだった。この心配性が夜におれを放っておくわけもない。と考えれば、ここまでの流れはこいつにとって予定通りなんだろう。
うーん、なんだかそれに気付いてしまうと追い返す気が失せるな。しょうがない、今日だけはサービスしてやろう。
「次からは本気で追い出すからな。帰らなかったらホモによる夜這い攻撃が待ってると考えろ」
「おれに寝技で勝負するとか度胸あるなお前」
あくまで負ける気などないと言わんばかりの猫柳は、柔道で鍛えた屈強な筋肉を誇示しながら挑発的に口角を釣り上げた。くそ、勝てる気がしない。
もういいと、嘆息しながら冷蔵庫から材料を取り出し、ケーキ作りに移ることにする。ちなみに後ろの猫柳はバスタオルを首に掛けやがったので完全な裸状態だ。絶対に後ろは見ない。
「そうそう、猫柳に頼みごとがあるんだけど」
「なんだ?」
背中から声が聞こえる。おれは材料を量り取りながら、極力後ろを見ないように会話を進ませる。
「ちょっと見てきてほしいお店があるんだけど」
「どこだ?」
「喫茶店で『サンシャイン』って名前のお店」
「なんかダサい名前だな」
それに関しては最初のおれも思っていたので黙殺。アプリの音楽を鳴らしながら携帯をいじる猫柳がどんな顔をしているのかわからないが、おれの思い人に関して何か察しているはずだ。
「そこで飯でも食ってくればいいのか?」
「うん、お願い」
「あいよ」
あまりにあっさり承諾するものだから、話聞いてないんじゃないかと思いつい振り返ってしまった。
首からバスタオルをかけた大柄な虎は携帯を凝視していたが、不意に顔を上げおれと目が合うとニカッとほほ笑んだ。
「任せとけって。お前の恋路くらい応援してやるからさ」
「……たまに思うんだけど、君っていい奴だよね」
「たまにかよ」
その言葉に少しだけへそを曲げた猫柳だけど、すぐに含みのある笑みを浮かべるとおれに向かって喉を鳴らし始めた。
「だけど、代わりにこれからも友達でいてくれよ? なに、ノート見せてくれたり晩飯作ってくれるだけでいいからさ」
「安いもんだね」
「おれっていい奴だからな」
自分で言うなよ、と思ったけどその通りだったので今日は調子に乗らせてあげよう。
猫柳はすでに自分の家のようにくつろいでおり、ついには床にごろんと転がってアプリをし始めた。全裸で、だ。やっぱり調子に乗らせるんじゃなかったとすぐに後悔した。
まさかそのまま服を着ずに寝るんじゃなかろうか、なんて不安が頭をかすめたけれど、そうなったら電気を消して何も見ずに寝よう。そうするしかない。
すぐ後ろにおかずが転がっている事態に目をつむり、ケーキ作りを始めよう。頭の中を虎豪さんでいっぱいにしなければ。猫柳なんて排除だ、排除。
真剣にケーキを作るおれとごろごろしている猫柳の夜はこうして更けていく。そして、全裸のまま寝落ちした猫柳の処理に困るのはもうちょっと先の事になる。
幸せを顔全体で表現しながら猫柳は腹を叩く。そのおっさん臭い仕草も猫柳がするとなんだか愛嬌があるように見えるから不思議だ。これも人柄ってやつなんだろう。
「もうおれここに住もうかな」
「断固拒否するから」
「えーなんでよ」
なんでじゃねえよ。今でさえ煩悩と戦ってるのにこれが毎日なんて御免こうむる。
「そうしたら寂しいときは毎日慰めてやるぞ」
「うぐっ」
虎豪さんに会えないおれにその殺し文句は効果抜群すぎるからやめてほしい。
目の前の虎野郎は縞模様が映える逞しい腕をこちらに伸ばしてこっちに来いと誘ってきている。こいつ、おれがホモだと知ってから、からかいが加速してやがる。
さすがにおれもふてくされたように口をとがらせてしまう。
「人がホモだっていうのがそんなに面白いんですかねー」
「いやーおれはお前がホモとかどうでもいいんだけどよ。お前が気にしてるからついつい」
「気にしてるのがわかってるなら、からかうんじゃねえよ!」
からからと快活に笑う猫柳はいい奴なんだけどむかつく野郎だ。おれはかっさらうようにテーブルから食器をぶんどって、キッチンに放り込む。洗うのはもう明日でいいや。
いや、そういうわけにもいかないんだった。おれはこれから虎豪さんのためにケーキ(試作)を作る予定が入ってる。愛情込めたケーキを焼くために最高の物を出すんだ。
「というわけで、とっとと帰れ」
「え、お前のケーキ食えるの。すっげえ楽しみ」
「話を聞け!」
いまだ上半身裸の猫柳は帰るつもりなど毛頭ないと主張しやがった。座ったまま携帯までいじり始めて居座る気が満々だ。その表情は期待に満ちているんだが、お前、まだ食うの……?
いや、試作を食べてくれる人がいるのはまあいい。だが、時間が時間だ。晩御飯後にケーキを焼いて、できるのはいったいいつになる。夜も更ければ、この怠惰な猫科は絶対おれの家に泊まろうとするのが目に見えている。
「だから帰れ」
「朝飯食ったらな」
「泊まる気しかないのな!」
そこまで一通りつっこんで、おれは猫柳がここに来た目的を思い出した。
そうか、こいつはおれを心配して家に来たんだった。この心配性が夜におれを放っておくわけもない。と考えれば、ここまでの流れはこいつにとって予定通りなんだろう。
うーん、なんだかそれに気付いてしまうと追い返す気が失せるな。しょうがない、今日だけはサービスしてやろう。
「次からは本気で追い出すからな。帰らなかったらホモによる夜這い攻撃が待ってると考えろ」
「おれに寝技で勝負するとか度胸あるなお前」
あくまで負ける気などないと言わんばかりの猫柳は、柔道で鍛えた屈強な筋肉を誇示しながら挑発的に口角を釣り上げた。くそ、勝てる気がしない。
もういいと、嘆息しながら冷蔵庫から材料を取り出し、ケーキ作りに移ることにする。ちなみに後ろの猫柳はバスタオルを首に掛けやがったので完全な裸状態だ。絶対に後ろは見ない。
「そうそう、猫柳に頼みごとがあるんだけど」
「なんだ?」
背中から声が聞こえる。おれは材料を量り取りながら、極力後ろを見ないように会話を進ませる。
「ちょっと見てきてほしいお店があるんだけど」
「どこだ?」
「喫茶店で『サンシャイン』って名前のお店」
「なんかダサい名前だな」
それに関しては最初のおれも思っていたので黙殺。アプリの音楽を鳴らしながら携帯をいじる猫柳がどんな顔をしているのかわからないが、おれの思い人に関して何か察しているはずだ。
「そこで飯でも食ってくればいいのか?」
「うん、お願い」
「あいよ」
あまりにあっさり承諾するものだから、話聞いてないんじゃないかと思いつい振り返ってしまった。
首からバスタオルをかけた大柄な虎は携帯を凝視していたが、不意に顔を上げおれと目が合うとニカッとほほ笑んだ。
「任せとけって。お前の恋路くらい応援してやるからさ」
「……たまに思うんだけど、君っていい奴だよね」
「たまにかよ」
その言葉に少しだけへそを曲げた猫柳だけど、すぐに含みのある笑みを浮かべるとおれに向かって喉を鳴らし始めた。
「だけど、代わりにこれからも友達でいてくれよ? なに、ノート見せてくれたり晩飯作ってくれるだけでいいからさ」
「安いもんだね」
「おれっていい奴だからな」
自分で言うなよ、と思ったけどその通りだったので今日は調子に乗らせてあげよう。
猫柳はすでに自分の家のようにくつろいでおり、ついには床にごろんと転がってアプリをし始めた。全裸で、だ。やっぱり調子に乗らせるんじゃなかったとすぐに後悔した。
まさかそのまま服を着ずに寝るんじゃなかろうか、なんて不安が頭をかすめたけれど、そうなったら電気を消して何も見ずに寝よう。そうするしかない。
すぐ後ろにおかずが転がっている事態に目をつむり、ケーキ作りを始めよう。頭の中を虎豪さんでいっぱいにしなければ。猫柳なんて排除だ、排除。
真剣にケーキを作るおれとごろごろしている猫柳の夜はこうして更けていく。そして、全裸のまま寝落ちした猫柳の処理に困るのはもうちょっと先の事になる。
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