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貴方を思って作りました
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そうして出来上がったケーキは真っ白なショートケーキ。虎豪さんと同じものを作ったけど、味は全然違う。
試食してくれた猫柳曰く「お前の優しさが溢れている」だそうだ。
「うん、俺もそう思うよ」
家にまでケーキを取りに来てくれた狗守さんが一口食べたのちにそう言ってくれた。
前来た時より少しラフな格好なのは気兼ねする必要が無くなったからだろう。露出面積を増やした夏らしい薄手のシャツを着たイケメンは朗らかに笑った。
「虎豪さんの作ったケーキより柔らかいんだね。俺は味にうるさい方じゃないけど、これだけ明らかに違ったらすぐにわかるよ」
虎豪さんのケーキは優しいけれど、やっぱり虎豪さんらしいどっしりしたものがあった。けど、おれのケーキにはそれがなく口どけもとろけるようなものになっている。
「自己主張が弱いところも作り手に似るんだね」
「う……味が薄かったですか?」
「いいや、逆にもっと深く知りたい気分にさせる味だよ」
なんてほほ笑む仕草なんて悩殺ものだ。オオカミ特有の長いマズルに浮かぶ雰囲気は性格の良さがそのまま反映されているんだろう。
そして、長くきれいな灰色の指がおれのケーキを指差した。
「これ、乗せるんだね」
狗守さんが言っているのはハート型のチョコレート。以前虎豪さんが言っていた、愛を歌う象徴がケーキの上に鎮座している。
これだけはどうしてもはずせなかった。虎豪さんの事を許しているんだと示すと同時に、いまだに愛していると伝えるにはこの印を乗せるのが一番だと思ったから。
ケーキ自体の味を控えめにしたのだって、すべてはこのハートのチョコレートを際立たせるため。おれが持つ一番の気持ちを、一番目立たせたかったからに他ならない。
「じゃあ、これは預かるね。これで、虎豪さんが君の気持ちに気付いてくれるといいね」
「はい。あの、虎豪さんは……元気ですか?」
「元気だよ。だけどね、ちょっと料理の味は戻らないかな。師匠的存在だった君がいないのが大きいのかもね」
「そうですか……」
ああ、できることならすぐにでも店に乗り込んで虎豪さんの手料理を味わいたい。でも、それができないから猫柳にお願いしてるんだ。狗守さんが何を隠しているのか知らないけれど、猫柳が持ってくる情報に期待するしかない。
「あの、いつもありがとうございます」
ケーキを受け取ってもらったことを確認して、おれは頭を下げる。いつもいつも狗守さんに頼ってばっかりだ。最初にあれだけ目の敵にしてた過去の自分を殴り飛ばしてやりたい。
「いいんだよ。あれは陽の店でもあるんだから」
こんなに大人で素敵な狗守さんが入れ込んでいる陽さんってどんな人だったんだろうか。狗守さんとは恋人同士だったりしたのかな。
聞いてみたい気もするけれど、いらない傷口を抉ってしまいそうで怖かったから、またの機会にしよう。今は虎豪さんとのことに集中しないと。
「だから、あのお店を守ることに関して、俺は手伝いを惜しまないよ」
箱に保冷剤を入れて、狗守さんは立ち上がる。本来ならもうちょっとおもてなしをすべきだったんだろうけど、この夏の暑さでクリームが溶けてしまっては元も子もない。
だから、「今度来るときは晩御飯をごちそうします」と自分ができる数少ないお礼方法でもてなすことを伝えておいた。
「ありがとう。楽しみにしてるよ」
それだけ言って、颯爽と狗守さんは帰って行った。もっとゆっくりお話ししたいんだけど、忙しそうなんだよなあの人。必要最低限の登場だけして帰っていく狗守さんは自分の役割に忠実なようで、親交を深めるという言葉とは少し違う気がしてきた。
「……今度、絶対に招待しよう」
こんなにお世話になっているのに、何もしないのはさすがに心苦しい。それに興味があるんだ。狗守さんのこと、もっとよく知りたい。できれば、友達になりたいな、なんて思ってる。
まだ出会って間もないんだから、当然と言えば当然。今度会った時、それとなく好きな食べ物でも聞いておこう。
毛皮持ちの狗守さんに配慮してクーラーの設定温度はいつもより下げたから、一人残されると少し肌寒い。おれは設定温度を上げ、これからの行く末に思いを馳せる。
打てる手は全部打った。猫柳には偵察を頼み、狗守さんにはケーキをお願いした。
あとは報告を待つだけ。おれの事なのに、そのおれが何もできないのはとてももどかしい。
冷房の効いた部屋はおれからぬくもりを奪ってしまい、自然と脳裏に焦がれる人を描き出す。
「会いたいな……」
あの黄色い虎に。不器用で素直じゃない大人に。
やはり一人の時間はこたえる。会いたい人ばかり考えてしまうから。無理やり泊まりに来た猫柳はいい友であったことを確認し、早く帰って来てくれないかなと思う。
「ただいまー」
うん。帰ってきてほしいとは思ったけど、ここは君の家じゃないからな。
試食してくれた猫柳曰く「お前の優しさが溢れている」だそうだ。
「うん、俺もそう思うよ」
家にまでケーキを取りに来てくれた狗守さんが一口食べたのちにそう言ってくれた。
前来た時より少しラフな格好なのは気兼ねする必要が無くなったからだろう。露出面積を増やした夏らしい薄手のシャツを着たイケメンは朗らかに笑った。
「虎豪さんの作ったケーキより柔らかいんだね。俺は味にうるさい方じゃないけど、これだけ明らかに違ったらすぐにわかるよ」
虎豪さんのケーキは優しいけれど、やっぱり虎豪さんらしいどっしりしたものがあった。けど、おれのケーキにはそれがなく口どけもとろけるようなものになっている。
「自己主張が弱いところも作り手に似るんだね」
「う……味が薄かったですか?」
「いいや、逆にもっと深く知りたい気分にさせる味だよ」
なんてほほ笑む仕草なんて悩殺ものだ。オオカミ特有の長いマズルに浮かぶ雰囲気は性格の良さがそのまま反映されているんだろう。
そして、長くきれいな灰色の指がおれのケーキを指差した。
「これ、乗せるんだね」
狗守さんが言っているのはハート型のチョコレート。以前虎豪さんが言っていた、愛を歌う象徴がケーキの上に鎮座している。
これだけはどうしてもはずせなかった。虎豪さんの事を許しているんだと示すと同時に、いまだに愛していると伝えるにはこの印を乗せるのが一番だと思ったから。
ケーキ自体の味を控えめにしたのだって、すべてはこのハートのチョコレートを際立たせるため。おれが持つ一番の気持ちを、一番目立たせたかったからに他ならない。
「じゃあ、これは預かるね。これで、虎豪さんが君の気持ちに気付いてくれるといいね」
「はい。あの、虎豪さんは……元気ですか?」
「元気だよ。だけどね、ちょっと料理の味は戻らないかな。師匠的存在だった君がいないのが大きいのかもね」
「そうですか……」
ああ、できることならすぐにでも店に乗り込んで虎豪さんの手料理を味わいたい。でも、それができないから猫柳にお願いしてるんだ。狗守さんが何を隠しているのか知らないけれど、猫柳が持ってくる情報に期待するしかない。
「あの、いつもありがとうございます」
ケーキを受け取ってもらったことを確認して、おれは頭を下げる。いつもいつも狗守さんに頼ってばっかりだ。最初にあれだけ目の敵にしてた過去の自分を殴り飛ばしてやりたい。
「いいんだよ。あれは陽の店でもあるんだから」
こんなに大人で素敵な狗守さんが入れ込んでいる陽さんってどんな人だったんだろうか。狗守さんとは恋人同士だったりしたのかな。
聞いてみたい気もするけれど、いらない傷口を抉ってしまいそうで怖かったから、またの機会にしよう。今は虎豪さんとのことに集中しないと。
「だから、あのお店を守ることに関して、俺は手伝いを惜しまないよ」
箱に保冷剤を入れて、狗守さんは立ち上がる。本来ならもうちょっとおもてなしをすべきだったんだろうけど、この夏の暑さでクリームが溶けてしまっては元も子もない。
だから、「今度来るときは晩御飯をごちそうします」と自分ができる数少ないお礼方法でもてなすことを伝えておいた。
「ありがとう。楽しみにしてるよ」
それだけ言って、颯爽と狗守さんは帰って行った。もっとゆっくりお話ししたいんだけど、忙しそうなんだよなあの人。必要最低限の登場だけして帰っていく狗守さんは自分の役割に忠実なようで、親交を深めるという言葉とは少し違う気がしてきた。
「……今度、絶対に招待しよう」
こんなにお世話になっているのに、何もしないのはさすがに心苦しい。それに興味があるんだ。狗守さんのこと、もっとよく知りたい。できれば、友達になりたいな、なんて思ってる。
まだ出会って間もないんだから、当然と言えば当然。今度会った時、それとなく好きな食べ物でも聞いておこう。
毛皮持ちの狗守さんに配慮してクーラーの設定温度はいつもより下げたから、一人残されると少し肌寒い。おれは設定温度を上げ、これからの行く末に思いを馳せる。
打てる手は全部打った。猫柳には偵察を頼み、狗守さんにはケーキをお願いした。
あとは報告を待つだけ。おれの事なのに、そのおれが何もできないのはとてももどかしい。
冷房の効いた部屋はおれからぬくもりを奪ってしまい、自然と脳裏に焦がれる人を描き出す。
「会いたいな……」
あの黄色い虎に。不器用で素直じゃない大人に。
やはり一人の時間はこたえる。会いたい人ばかり考えてしまうから。無理やり泊まりに来た猫柳はいい友であったことを確認し、早く帰って来てくれないかなと思う。
「ただいまー」
うん。帰ってきてほしいとは思ったけど、ここは君の家じゃないからな。
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