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好きなのはわかるけど
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はあ、とサンドイッチを持っていった虎豪さんを見送ってため息一つ。やはり、ものすごく忙しい。虎豪さんはどうやってこれを一人でまわしていたんだ。
でも、お店はいい方に向かっている。たまに給仕二人に手が伸びているけれど、そこまで雰囲気は悪くなってない。狗守さんにも安心してもらえるのではなかろうか。
お客さんはこの前と違う、まっとうな喫茶店としての雰囲気に驚いていたけれど、徐々に慣れつつあるようだ。むしろ、あの肉感たっぷりな燕尾キャラが二人に増えたことでご満悦な様子も感じられる。これなら客離れもあまり心配ないだろう。
虎豪さんも生気のある表情でやりがいを感じているのは明らかだ。もっとも、猫柳は四苦八苦って感じで眉間のしわが取れてないけど、こればっかりは慣れてもらうしかない。
だんだんと朝の時間が終わっていく喫茶店で、おれは未来の明るさに希望を抱き始めていた。お店の事はこれでいい。後は、おれと虎豪さんの事だ。あー、虎豪さんがおれの事を好きになってくれないかな。
愛しい人を網膜に焼き付けて、時間は過ぎていく。
その後、特に変わったこともなく。初めてのバイトは終わりを見せてきた。
さすがに朝から夜までは労働時間の関係上いられないのが悲しい。後は一人で大丈夫だと虎豪さんに言いきられ、一緒に働くのはこれでおしまいになった。もっと一緒に居たかったなと思う反面、さすがに初めての作業ばかりで体が悲鳴を上げている。こんなのを一人でずっと切り盛りしていた虎豪さんは本当にすごいと思った。
「だいぶ楽ができた。おかげで夜の時間帯も働けそうだ」
そして、まだ働くと虎豪さんは言う。朝と昼をターゲットとしている店だが、夜も客が来ないわけではない。むしろ、虎豪さんの体目当ての連中は夜に多いはず。
「今日は脱ぐのか?」
「脱ぐわけないだろ馬鹿」
猫柳の軽口にむっとした軽口で返す虎豪さん。今日一日で結構打ち解けたらしく、だいぶ会話のとげが減っている。もし店内にお客さんがいたら、この反応ももうちょっとマイルドなんだろうけど。
もう燕尾を着ているのは虎豪さんだけになってしまった。おれと猫柳は着替えを済ませ、今日の反省をしているところだ。ちょうどお客さんがいないという事でカウンターに座らせてもらい、おごりとしてもらった一杯のコーヒーで体を休めよう。
「はあ、やっぱり大変なんだな。おれが来てよかっただろ?」
押しかけを正当化しようとする猫柳がにやにや笑いながらおれに同意を求めてくる。
調子に乗るなと言ってやりたいところだが、確かに猫柳が来てくれたおかげでかなり楽になったのは事実だ。おかげで虎豪さんも夜に向けて体力を温存できている。
さすがに猫柳にも虎豪さんがどういう人なのかわかってきたらしく、あくまで同意を求めているのはおれにだけ。虎豪さんに聞いても素直な返事をもらえないことは明白だからだ。
「まあ、そうだね。君がいてくれてよかったかも」
「だな」
相槌だけで同意する虎豪さんを満足そうに見て、猫柳は尻尾を得意気にくねらせる。それでもう十分だと言わんばかりにコーヒーを一気飲みし、元気よく椅子から飛び降りた。
「んじゃ、おれはサークル始まるし行くわ。今晩楽しみにしてるからな!」
窮屈な燕尾から解放された四肢が大股で歩き、猫柳は店から去っていく。その広い背中を見せつけるように出ていく姿は実に堂々としたものだ。
それにしても、私服のズボン越しに見える尻は何度見てもでかいな。しかもノーパンという情報を得てしまった今、まともな目で見れる自信がない。ぼーっと見ていると、虎豪さんとは違う、ふり幅を大きくして揺れる尻尾が夏の日差しを浴びて外の光にとけていった。
「辰瀬はどうするんだ?」
猫柳が消えるのを見送って、虎豪さんがおれに聞いてきた。
「あ、あの……お邪魔でなければここにいてもいいですか? レポートしなきゃいけないんで、家だとちょっと……」
「構わんが、どうせなら奥の部屋でも使うか?」
やった、言ってみるものだ。家にいたって虎豪さんの事を考えるんだ。どうせなら近くに居たほうがいいに決まってる。
「ありがとうございます。なら、ノートパソコン持って来てるんですぐ奥へ向かいますね」
「……用意がいいな」
なぜなら元からこうやって居残る作戦でいましたから。夜まで虎豪さんといられないなら、猫柳が家に来るまでここで時間を潰すつもりでいたんだ。準備に抜かりなどない。
さっそく虎豪さんに案内され奥の居住空間へと通される。来るのは二回目だが、前と変わらず綺麗に整頓されたダイニングキッチンは誰もいないため初めて来たような気持ちになれる。
「ここなら好きに使っていいぞ。また夜に呼びに来るから」
そして、でかい掌が頭に置かれる。無造作に置かれた手の平は不意打ちでおれの心をときめかせた。
「あ、わりぃ。置きやすいもんでつい」
身長差からいってそれもあるけど、前に「癖で」って言ってませんでしたっけ。そのことを指摘すると、虎の顔がばつの悪そうな表情で唸る。
「あーそうだな。……陽のやつがさ、好きだったんだよ。なでると喜ぶんだ、あいつ」
「そうですか……確かに、おれも虎豪さんになでられると嬉しいです」
だから癖になってたのか。狗守さんのなで癖もおそらくここから来てるはず。
意外なところに陽さんの影を見て驚いたけど、それ以上にそんな話をあっさりする虎豪さんにも驚いた。前はおれの事を無関係だと言ってはじいていたのに。
「まあ、別に隠すことじゃないしな」
そこで虎豪さんはガシガシと縞模様の頭を掻きむしった。黄色い毛がはらりと燕尾にかかり、それをウザったそうに払いのける。
「前から言おうと思ってんだがよ。お前、頑張りすぎだ」
「え?」
二人しかいない部屋で、虎豪さんの真摯な目がおれを撃つ。
でも、お店はいい方に向かっている。たまに給仕二人に手が伸びているけれど、そこまで雰囲気は悪くなってない。狗守さんにも安心してもらえるのではなかろうか。
お客さんはこの前と違う、まっとうな喫茶店としての雰囲気に驚いていたけれど、徐々に慣れつつあるようだ。むしろ、あの肉感たっぷりな燕尾キャラが二人に増えたことでご満悦な様子も感じられる。これなら客離れもあまり心配ないだろう。
虎豪さんも生気のある表情でやりがいを感じているのは明らかだ。もっとも、猫柳は四苦八苦って感じで眉間のしわが取れてないけど、こればっかりは慣れてもらうしかない。
だんだんと朝の時間が終わっていく喫茶店で、おれは未来の明るさに希望を抱き始めていた。お店の事はこれでいい。後は、おれと虎豪さんの事だ。あー、虎豪さんがおれの事を好きになってくれないかな。
愛しい人を網膜に焼き付けて、時間は過ぎていく。
その後、特に変わったこともなく。初めてのバイトは終わりを見せてきた。
さすがに朝から夜までは労働時間の関係上いられないのが悲しい。後は一人で大丈夫だと虎豪さんに言いきられ、一緒に働くのはこれでおしまいになった。もっと一緒に居たかったなと思う反面、さすがに初めての作業ばかりで体が悲鳴を上げている。こんなのを一人でずっと切り盛りしていた虎豪さんは本当にすごいと思った。
「だいぶ楽ができた。おかげで夜の時間帯も働けそうだ」
そして、まだ働くと虎豪さんは言う。朝と昼をターゲットとしている店だが、夜も客が来ないわけではない。むしろ、虎豪さんの体目当ての連中は夜に多いはず。
「今日は脱ぐのか?」
「脱ぐわけないだろ馬鹿」
猫柳の軽口にむっとした軽口で返す虎豪さん。今日一日で結構打ち解けたらしく、だいぶ会話のとげが減っている。もし店内にお客さんがいたら、この反応ももうちょっとマイルドなんだろうけど。
もう燕尾を着ているのは虎豪さんだけになってしまった。おれと猫柳は着替えを済ませ、今日の反省をしているところだ。ちょうどお客さんがいないという事でカウンターに座らせてもらい、おごりとしてもらった一杯のコーヒーで体を休めよう。
「はあ、やっぱり大変なんだな。おれが来てよかっただろ?」
押しかけを正当化しようとする猫柳がにやにや笑いながらおれに同意を求めてくる。
調子に乗るなと言ってやりたいところだが、確かに猫柳が来てくれたおかげでかなり楽になったのは事実だ。おかげで虎豪さんも夜に向けて体力を温存できている。
さすがに猫柳にも虎豪さんがどういう人なのかわかってきたらしく、あくまで同意を求めているのはおれにだけ。虎豪さんに聞いても素直な返事をもらえないことは明白だからだ。
「まあ、そうだね。君がいてくれてよかったかも」
「だな」
相槌だけで同意する虎豪さんを満足そうに見て、猫柳は尻尾を得意気にくねらせる。それでもう十分だと言わんばかりにコーヒーを一気飲みし、元気よく椅子から飛び降りた。
「んじゃ、おれはサークル始まるし行くわ。今晩楽しみにしてるからな!」
窮屈な燕尾から解放された四肢が大股で歩き、猫柳は店から去っていく。その広い背中を見せつけるように出ていく姿は実に堂々としたものだ。
それにしても、私服のズボン越しに見える尻は何度見てもでかいな。しかもノーパンという情報を得てしまった今、まともな目で見れる自信がない。ぼーっと見ていると、虎豪さんとは違う、ふり幅を大きくして揺れる尻尾が夏の日差しを浴びて外の光にとけていった。
「辰瀬はどうするんだ?」
猫柳が消えるのを見送って、虎豪さんがおれに聞いてきた。
「あ、あの……お邪魔でなければここにいてもいいですか? レポートしなきゃいけないんで、家だとちょっと……」
「構わんが、どうせなら奥の部屋でも使うか?」
やった、言ってみるものだ。家にいたって虎豪さんの事を考えるんだ。どうせなら近くに居たほうがいいに決まってる。
「ありがとうございます。なら、ノートパソコン持って来てるんですぐ奥へ向かいますね」
「……用意がいいな」
なぜなら元からこうやって居残る作戦でいましたから。夜まで虎豪さんといられないなら、猫柳が家に来るまでここで時間を潰すつもりでいたんだ。準備に抜かりなどない。
さっそく虎豪さんに案内され奥の居住空間へと通される。来るのは二回目だが、前と変わらず綺麗に整頓されたダイニングキッチンは誰もいないため初めて来たような気持ちになれる。
「ここなら好きに使っていいぞ。また夜に呼びに来るから」
そして、でかい掌が頭に置かれる。無造作に置かれた手の平は不意打ちでおれの心をときめかせた。
「あ、わりぃ。置きやすいもんでつい」
身長差からいってそれもあるけど、前に「癖で」って言ってませんでしたっけ。そのことを指摘すると、虎の顔がばつの悪そうな表情で唸る。
「あーそうだな。……陽のやつがさ、好きだったんだよ。なでると喜ぶんだ、あいつ」
「そうですか……確かに、おれも虎豪さんになでられると嬉しいです」
だから癖になってたのか。狗守さんのなで癖もおそらくここから来てるはず。
意外なところに陽さんの影を見て驚いたけど、それ以上にそんな話をあっさりする虎豪さんにも驚いた。前はおれの事を無関係だと言ってはじいていたのに。
「まあ、別に隠すことじゃないしな」
そこで虎豪さんはガシガシと縞模様の頭を掻きむしった。黄色い毛がはらりと燕尾にかかり、それをウザったそうに払いのける。
「前から言おうと思ってんだがよ。お前、頑張りすぎだ」
「え?」
二人しかいない部屋で、虎豪さんの真摯な目がおれを撃つ。
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