僕は隣国王子に恋をする

泡沫の泡

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第2章 僕はオリヴァー王国第一王子の誕生会に出席したくない

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握られた手が熱い。
どこまで行くのかな。
女性の、男性の視線が痛い。
驚いた姉さまの悲鳴が聞こえた気がした。

なぜこうなったんだ。
僕は、姉さまの脇で、目立たないようにしているはずで。
こんな、目立つ真似を、するはずでは。

「ユヅ、また会えた」

先程の険しい顔とは打って変わって、優しい微笑みを僕に向けて振り返るルーク王子。

「ルーク王子、僕はあなたにお会いしたこと……」

なぜ、彼は僕の名前を知っているのだろう。
会ったことはあっただろうか。
記憶を遡るが、全く思い出せない。

「ごめんなさい、ぼく、思い出せなくて……」

段々と声がしぼんでいく。
せっかく王子は覚えていてくれたのに。
失礼だよね。怒られちゃうかな。
下を向いて、潤んだ目に涙が貯まる。

「ユヅ、私は怒っていない。泣かないでくれ、ほら」

覚えていない僕を怒ることなく、頬を手で包んで、服の裾で涙を拭いてくれる。
まだ頬には垂れていないのにバレてしまったか。

「ごめんなさい。あの、ありがとうございます……」

未だに頬に添えられた両手に僕は違和感を感じる。
顔に熱が集まり、また目が潤んできてしまう。

「……あの、離して、ください」

ようやく気がついたのか、ルーク王子はぱっと手を離し、すまない、とボソッと呟いた。
タイミングよく、音楽が流れる。
大広間の真ん中で王子とダンスを踊った。

王子と指を絡め、密着して踊る。
とてもエスコートが上手い。
やっぱりいい指導者がついているのだろうなとふと王子の顔を盗み見た。

「……え、」

バッチリと王子と目が合ってしまう。
ずっと見ていたのかな。
どことなく熱い視線を感じ、目を伏せる。
僕のまつげが王子の胸元に当たってしまいそうになった。

「……ユヅ、」

王子の声に反応し、顔を上げる。
せつなそうな顔をした王子と目が合った。

「ほんとうに、覚えていないのか……」

音楽も止み、周りは雑音であふれる。
流動的なこの会場で、僕たち二人だけは動けずに立ち止まっていた。
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