旦那様なんて好みじゃないの

しおだだ

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「本当に失礼ですね」


けれども返ってきたこみつの言葉はつんとして、ひどくそっけないものだった。


「何なんですかね、五曜様もあの女中たちも。失礼ったらないです」


それどころかぷりぷり怒っている。


「あの、こみつ?」

「なんですか?たしかにわたしは北辰様のことが好きでしたが、もう過去のことです。そんなにわたしの失恋話を蒸し返して楽しいですか!?」

「えっ?そんなわけでは…」


こみつにきっ!と睨まれて五曜はたじろぐ。


「大体、北辰様も言っていたじゃないですか。わたしとだと幼なじみの延長にしかならないんですよ。それはわたしも前からわかってました。そんなのどうしようもないじゃないですか」

「こみつ」

「だからもういい加減にしてください。わたしだってちゃんと年貢をおさめましたよ!」


年貢の納め時――先にそれを口にしたのは五曜だ。そうだ。

五曜はずっとこみつを好きだったが、自分では北辰を超えられないと思い込んでいた。だからこそ「ごめんね」だったわけで。


「ごめんね」

「もう、だから……っ」


腕を伸ばしてこみつを抱きしめる。


「こみつが好きなんだ」

「五曜様」

「私を受け入れて。私に応えてほしい」


こみつは一瞬固まった後、小さな手のひらでぐっと熱い五曜の胸を押し返した。

上目遣いで、口を軽く尖らせて、ちょっと睨むような感じで。


「……考えてみます」


五曜は息をのんで、途端に破顔して再びこみつをぎゅうぎゅう抱擁した。


「こみつ!!」

「だから、考えてみるだけって…!」

「こみつこみつ!!」


すりすりと頭に頬ずりされて、こみつはたまらず「ぷっ!」と吹き出してしまう。


「く、ふふ、あははっ!五曜様、犬みたい!」


笑い出したこみつに五曜がびっくり動きを止める。


「なんと。私は猫派なんだけど?」

「ああたしかに。五曜様、野良猫にごはんあげちゃいますもんね」

「……こみつも猫っぽいと思うけど」

「わたしが?」


笑いすぎて腹を抱えたこみつは全身で五曜に寄りかかっている。
そういうところ、と口には出さず、五曜はくすりと笑ってさり気なくこみつを抱え直した。



***
「あの、五曜様はどうしてそんなに、わたしのことを好…好いてくれているんですか?」

「うん?」


夕食を終えて、湯浴みも済ませて、二人きりの寝室で。どきどきそわそわする胸を抱えながらこみつは訊ねた。


「はじめて見たとき、ぴぴっ!ときたんだよね」

「ぴぴ?一目惚れ、ということでしょうか」


口にすると恥ずかしくなってくる。だって自分のことだから。


「一目惚れ…うーん、一目惚れなのかな。そうかもしれない」


五曜の顔が近づいてきて、こみつは瞼を下ろした。
ちゅ、ちゅ、と何度も啄まれ、ほうと吐息を漏らすと軽く唇を舐められる。とろりと舌を差し入れられ、こみつも受け入れて、そのままとんと布団の上にやさしく押し倒された。


「んふ」


舌を絡めながら五曜の手にあちこち撫でられて、こみつは思考がふわふわしてくる。

こうして触れ合うのにもすっかり慣れてしまった。
やさしく繊細な手つきで包み紙を解くようにするすると夜着を脱がされ、あらわれた白い肌に口づけられる。こみつは「あっ」と高く啼いた。


「北辰は犬派なんだよ」

「んっ、なに……?」


胸の先を口に含まれて震える。五曜が言うことはあまり聞いていなかった。


「北辰の後を一生懸命追いかけるこみつもかわいかったけどね」

「あ、あっ!」

「私の方が北辰よりもっと愛してあげられると思った」


膝を立て、脚を開かせたその奥へ、五曜は当たり前のように顔を寄せる。


「この感覚は一目惚れよりもっと重いと思うのだけど、なんて言うのかなあ?」

「んああ!五曜様……っ」

「かわいい、こみつ」


―――愛しているよ。
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