17 / 24
17
しおりを挟む
「本当に失礼ですね」
けれども返ってきたこみつの言葉はつんとして、ひどくそっけないものだった。
「何なんですかね、五曜様もあの女中たちも。失礼ったらないです」
それどころかぷりぷり怒っている。
「あの、こみつ?」
「なんですか?たしかにわたしは北辰様のことが好きでしたが、もう過去のことです。そんなにわたしの失恋話を蒸し返して楽しいですか!?」
「えっ?そんなわけでは…」
こみつにきっ!と睨まれて五曜はたじろぐ。
「大体、北辰様も言っていたじゃないですか。わたしとだと幼なじみの延長にしかならないんですよ。それはわたしも前からわかってました。そんなのどうしようもないじゃないですか」
「こみつ」
「だからもういい加減にしてください。わたしだってちゃんと年貢をおさめましたよ!」
年貢の納め時――先にそれを口にしたのは五曜だ。そうだ。
五曜はずっとこみつを好きだったが、自分では北辰を超えられないと思い込んでいた。だからこそ「ごめんね」だったわけで。
「ごめんね」
「もう、だから……っ」
腕を伸ばしてこみつを抱きしめる。
「こみつが好きなんだ」
「五曜様」
「私を受け入れて。私に応えてほしい」
こみつは一瞬固まった後、小さな手のひらでぐっと熱い五曜の胸を押し返した。
上目遣いで、口を軽く尖らせて、ちょっと睨むような感じで。
「……考えてみます」
五曜は息をのんで、途端に破顔して再びこみつをぎゅうぎゅう抱擁した。
「こみつ!!」
「だから、考えてみるだけって…!」
「こみつこみつ!!」
すりすりと頭に頬ずりされて、こみつはたまらず「ぷっ!」と吹き出してしまう。
「く、ふふ、あははっ!五曜様、犬みたい!」
笑い出したこみつに五曜がびっくり動きを止める。
「なんと。私は猫派なんだけど?」
「ああたしかに。五曜様、野良猫にごはんあげちゃいますもんね」
「……こみつも猫っぽいと思うけど」
「わたしが?」
笑いすぎて腹を抱えたこみつは全身で五曜に寄りかかっている。
そういうところ、と口には出さず、五曜はくすりと笑ってさり気なくこみつを抱え直した。
***
「あの、五曜様はどうしてそんなに、わたしのことを好…好いてくれているんですか?」
「うん?」
夕食を終えて、湯浴みも済ませて、二人きりの寝室で。どきどきそわそわする胸を抱えながらこみつは訊ねた。
「はじめて見たとき、ぴぴっ!ときたんだよね」
「ぴぴ?一目惚れ、ということでしょうか」
口にすると恥ずかしくなってくる。だって自分のことだから。
「一目惚れ…うーん、一目惚れなのかな。そうかもしれない」
五曜の顔が近づいてきて、こみつは瞼を下ろした。
ちゅ、ちゅ、と何度も啄まれ、ほうと吐息を漏らすと軽く唇を舐められる。とろりと舌を差し入れられ、こみつも受け入れて、そのままとんと布団の上にやさしく押し倒された。
「んふ」
舌を絡めながら五曜の手にあちこち撫でられて、こみつは思考がふわふわしてくる。
こうして触れ合うのにもすっかり慣れてしまった。
やさしく繊細な手つきで包み紙を解くようにするすると夜着を脱がされ、あらわれた白い肌に口づけられる。こみつは「あっ」と高く啼いた。
「北辰は犬派なんだよ」
「んっ、なに……?」
胸の先を口に含まれて震える。五曜が言うことはあまり聞いていなかった。
「北辰の後を一生懸命追いかけるこみつもかわいかったけどね」
「あ、あっ!」
「私の方が北辰よりもっと愛してあげられると思った」
膝を立て、脚を開かせたその奥へ、五曜は当たり前のように顔を寄せる。
「この感覚は一目惚れよりもっと重いと思うのだけど、なんて言うのかなあ?」
「んああ!五曜様……っ」
「かわいい、こみつ」
―――愛しているよ。
けれども返ってきたこみつの言葉はつんとして、ひどくそっけないものだった。
「何なんですかね、五曜様もあの女中たちも。失礼ったらないです」
それどころかぷりぷり怒っている。
「あの、こみつ?」
「なんですか?たしかにわたしは北辰様のことが好きでしたが、もう過去のことです。そんなにわたしの失恋話を蒸し返して楽しいですか!?」
「えっ?そんなわけでは…」
こみつにきっ!と睨まれて五曜はたじろぐ。
「大体、北辰様も言っていたじゃないですか。わたしとだと幼なじみの延長にしかならないんですよ。それはわたしも前からわかってました。そんなのどうしようもないじゃないですか」
「こみつ」
「だからもういい加減にしてください。わたしだってちゃんと年貢をおさめましたよ!」
年貢の納め時――先にそれを口にしたのは五曜だ。そうだ。
五曜はずっとこみつを好きだったが、自分では北辰を超えられないと思い込んでいた。だからこそ「ごめんね」だったわけで。
「ごめんね」
「もう、だから……っ」
腕を伸ばしてこみつを抱きしめる。
「こみつが好きなんだ」
「五曜様」
「私を受け入れて。私に応えてほしい」
こみつは一瞬固まった後、小さな手のひらでぐっと熱い五曜の胸を押し返した。
上目遣いで、口を軽く尖らせて、ちょっと睨むような感じで。
「……考えてみます」
五曜は息をのんで、途端に破顔して再びこみつをぎゅうぎゅう抱擁した。
「こみつ!!」
「だから、考えてみるだけって…!」
「こみつこみつ!!」
すりすりと頭に頬ずりされて、こみつはたまらず「ぷっ!」と吹き出してしまう。
「く、ふふ、あははっ!五曜様、犬みたい!」
笑い出したこみつに五曜がびっくり動きを止める。
「なんと。私は猫派なんだけど?」
「ああたしかに。五曜様、野良猫にごはんあげちゃいますもんね」
「……こみつも猫っぽいと思うけど」
「わたしが?」
笑いすぎて腹を抱えたこみつは全身で五曜に寄りかかっている。
そういうところ、と口には出さず、五曜はくすりと笑ってさり気なくこみつを抱え直した。
***
「あの、五曜様はどうしてそんなに、わたしのことを好…好いてくれているんですか?」
「うん?」
夕食を終えて、湯浴みも済ませて、二人きりの寝室で。どきどきそわそわする胸を抱えながらこみつは訊ねた。
「はじめて見たとき、ぴぴっ!ときたんだよね」
「ぴぴ?一目惚れ、ということでしょうか」
口にすると恥ずかしくなってくる。だって自分のことだから。
「一目惚れ…うーん、一目惚れなのかな。そうかもしれない」
五曜の顔が近づいてきて、こみつは瞼を下ろした。
ちゅ、ちゅ、と何度も啄まれ、ほうと吐息を漏らすと軽く唇を舐められる。とろりと舌を差し入れられ、こみつも受け入れて、そのままとんと布団の上にやさしく押し倒された。
「んふ」
舌を絡めながら五曜の手にあちこち撫でられて、こみつは思考がふわふわしてくる。
こうして触れ合うのにもすっかり慣れてしまった。
やさしく繊細な手つきで包み紙を解くようにするすると夜着を脱がされ、あらわれた白い肌に口づけられる。こみつは「あっ」と高く啼いた。
「北辰は犬派なんだよ」
「んっ、なに……?」
胸の先を口に含まれて震える。五曜が言うことはあまり聞いていなかった。
「北辰の後を一生懸命追いかけるこみつもかわいかったけどね」
「あ、あっ!」
「私の方が北辰よりもっと愛してあげられると思った」
膝を立て、脚を開かせたその奥へ、五曜は当たり前のように顔を寄せる。
「この感覚は一目惚れよりもっと重いと思うのだけど、なんて言うのかなあ?」
「んああ!五曜様……っ」
「かわいい、こみつ」
―――愛しているよ。
2
あなたにおすすめの小説
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
旦那様の愛が重い
おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。
毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。
他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。
甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。
本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
十年越しの幼馴染は今や冷徹な国王でした
柴田はつみ
恋愛
侯爵令嬢エラナは、父親の命令で突然、10歳年上の国王アレンと結婚することに。
幼馴染みだったものの、年の差と疎遠だった期間のせいですっかり他人行儀な二人の新婚生活は、どこかギクシャクしていました。エラナは国王の冷たい態度に心を閉ざし、離婚を決意します。
そんなある日、国王と聖女マリアが親密に話している姿を頻繁に目撃したエラナは、二人の関係を不審に思い始めます。
護衛騎士レオナルドの協力を得て真相を突き止めることにしますが、逆に国王からはレオナルドとの仲を疑われてしまい、事態は思わぬ方向に進んでいきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる