6 / 10
6
しおりを挟む
月奈は情けない声でいじいじと指を遊ばせる。
皓がちらと一度その手に視線を落とした。
「皓はいっつもちゃんとしてて、約束とか時間は絶対守るじゃん」
「まあ、当たり前のことだからね」
「朝もちゃんとさあ、栄養バランス考えて料理してるしさあ」
「健康のためだよ?」
そうなのだ。皓は料理にハマって朝食を作っている訳じゃない。健康のため栄養効率のいい食事を追求した結果、自炊するようになったのだとか。
「余計だめじゃんんん!あたし、料理なんて決まったものしか作れないもん!無理だよおおお」
「月奈ちゃんに作らせようとか考えてないよ?まあたまには手料理食べたいけど」
「部屋だってこんな、こんなモデルルームみたいにきれいで……」
「家事のことが心配だったの?適材適所でやればいいじゃん。部屋は定期的にハウスキーピング頼んでいるからだし」
「そうなの?」
「そうだよ」
皓はこくんと頷いて、月奈のこめかみにちゅっとキスをした。
「心配ごとはなくなった?だったら……」
「まだある!」
月奈はぐっと拳を握った。
「なに?」
「あの、さあ、皓は――紳士だよね」
きょとんと首を傾げた彼は「ありがとう?」と不思議そうに言う。
「あたしは、あたしはその、だらしない女なんだよ…」
月奈は酔いに任せてぽつりと呟いた。
月奈はこれまで何人かの男性とお付き合いをしてきた。それは恋愛への憧れだったり、性欲だったり、好奇心だったり、しょうもないことで盛り上がってしょうもないことが原因で別れてきた。
大恋愛というものはなかったかもしれないが、どの恋も恋人期間中は楽しかったし、別れは辛かった。いまではそれぞれがいい経験だと思っている。
でも、皓との関係は少し違うのだ。
先のことを考えるとどうしても不安になる。いままでの相手と違いすぎてうまくいく未来が想像できない。皓は完璧すぎて月奈に見合っていないから。
それに月奈もわがままだから、我を押さえてまでいい彼女を演じたくはない。良妻なんてもっての他だ。
「ねえ皓、だからあたしたち合わないと思うんだ」
「前の男と比べて負けるのはシャクだなあ」
「負けるなんて!皓の方がよっぽどいい男だよ!」
「でも、オレと別れたいんだろ?」
ずいっと顔を寄せられて月奈は仰け反った。
別れ話を持ち出しているのに、顔が良すぎて酔いの回った頭が混乱する。やだ、好き。
「けどオレも似たようなものかもなー」
ふっと瞳を和らげた皓が月奈の頭をよしよしと撫でた。
「自分で言うのもなんだけど、結構モテるんだよ。顔も仕事も家柄も、王子様なんて持ち上げられるのはいまにはじまったことじゃない」
でしょうね、と月奈は思った。
やっぱり彼は自分のことをよくわかっている。
「女性に気に入られやすいっていうのは得ではあるけど、困ったことも多いんだ。男の嫉妬は面倒だし」
おかげでオレは人より処世術がうまくなった、と冗談めかして笑う。同僚らしき男性と気さくに笑っていたのもそのうちのひとつだったのかもしれない。
「月奈ちゃんに声をかけたのもね、素敵だな、好みだなって思ったのも本当だけど、一番は『この子、男の扱いに馴れてるな』って思ったからなんだ」
「え!!?」
予想もしていなかったビッチ認定に潰れた声が漏れる。それ一体どういう意味かな!?
「あはは。だって月奈ちゃん、社交辞令をちゃんと社交辞令として受け取ってくれるじゃん?ちょっとした一言で好意を寄せられて困惑してきた身としてはさ、すごく新鮮で、ちょっと気が楽だったんだよね」
「はじめから皓が周りに毅然とした態度をとっていればよかったんじゃ……?」
「そうかもしれないけど、むやみに悪態ついてもいいことないからね」
なるほど処世術…と月奈は口の中で呟いた。
「でも、月奈ちゃんをいいなあと思ったのは本当!いっしょにいて楽しいから付き合いたいなって思ったし、付き合ったら付き合ったで、かわいくてどんどん好きになった。だからもっといっしょにいたいと思って同棲を提案したし、さらに先のことも考えてる」
「だけど……」
「月奈ちゃんの思う不安や心配をひとつずつ二人で解決していこうよ。だって月奈ちゃん、いままでの相手よりもずっとオレのことを好きになっちゃいそうで困ってるんだろ?」
「え?」
不安になる度にかりかりと爪を立てていた細い指を、皓は自身の膝の上から掬い上げた。
「ね。やだやだ言いながら、ずっとオレに触ってるよ」
顔を覗き込んで微笑まれて、月奈はかああっと顔を熱くさせた。
皓がちらと一度その手に視線を落とした。
「皓はいっつもちゃんとしてて、約束とか時間は絶対守るじゃん」
「まあ、当たり前のことだからね」
「朝もちゃんとさあ、栄養バランス考えて料理してるしさあ」
「健康のためだよ?」
そうなのだ。皓は料理にハマって朝食を作っている訳じゃない。健康のため栄養効率のいい食事を追求した結果、自炊するようになったのだとか。
「余計だめじゃんんん!あたし、料理なんて決まったものしか作れないもん!無理だよおおお」
「月奈ちゃんに作らせようとか考えてないよ?まあたまには手料理食べたいけど」
「部屋だってこんな、こんなモデルルームみたいにきれいで……」
「家事のことが心配だったの?適材適所でやればいいじゃん。部屋は定期的にハウスキーピング頼んでいるからだし」
「そうなの?」
「そうだよ」
皓はこくんと頷いて、月奈のこめかみにちゅっとキスをした。
「心配ごとはなくなった?だったら……」
「まだある!」
月奈はぐっと拳を握った。
「なに?」
「あの、さあ、皓は――紳士だよね」
きょとんと首を傾げた彼は「ありがとう?」と不思議そうに言う。
「あたしは、あたしはその、だらしない女なんだよ…」
月奈は酔いに任せてぽつりと呟いた。
月奈はこれまで何人かの男性とお付き合いをしてきた。それは恋愛への憧れだったり、性欲だったり、好奇心だったり、しょうもないことで盛り上がってしょうもないことが原因で別れてきた。
大恋愛というものはなかったかもしれないが、どの恋も恋人期間中は楽しかったし、別れは辛かった。いまではそれぞれがいい経験だと思っている。
でも、皓との関係は少し違うのだ。
先のことを考えるとどうしても不安になる。いままでの相手と違いすぎてうまくいく未来が想像できない。皓は完璧すぎて月奈に見合っていないから。
それに月奈もわがままだから、我を押さえてまでいい彼女を演じたくはない。良妻なんてもっての他だ。
「ねえ皓、だからあたしたち合わないと思うんだ」
「前の男と比べて負けるのはシャクだなあ」
「負けるなんて!皓の方がよっぽどいい男だよ!」
「でも、オレと別れたいんだろ?」
ずいっと顔を寄せられて月奈は仰け反った。
別れ話を持ち出しているのに、顔が良すぎて酔いの回った頭が混乱する。やだ、好き。
「けどオレも似たようなものかもなー」
ふっと瞳を和らげた皓が月奈の頭をよしよしと撫でた。
「自分で言うのもなんだけど、結構モテるんだよ。顔も仕事も家柄も、王子様なんて持ち上げられるのはいまにはじまったことじゃない」
でしょうね、と月奈は思った。
やっぱり彼は自分のことをよくわかっている。
「女性に気に入られやすいっていうのは得ではあるけど、困ったことも多いんだ。男の嫉妬は面倒だし」
おかげでオレは人より処世術がうまくなった、と冗談めかして笑う。同僚らしき男性と気さくに笑っていたのもそのうちのひとつだったのかもしれない。
「月奈ちゃんに声をかけたのもね、素敵だな、好みだなって思ったのも本当だけど、一番は『この子、男の扱いに馴れてるな』って思ったからなんだ」
「え!!?」
予想もしていなかったビッチ認定に潰れた声が漏れる。それ一体どういう意味かな!?
「あはは。だって月奈ちゃん、社交辞令をちゃんと社交辞令として受け取ってくれるじゃん?ちょっとした一言で好意を寄せられて困惑してきた身としてはさ、すごく新鮮で、ちょっと気が楽だったんだよね」
「はじめから皓が周りに毅然とした態度をとっていればよかったんじゃ……?」
「そうかもしれないけど、むやみに悪態ついてもいいことないからね」
なるほど処世術…と月奈は口の中で呟いた。
「でも、月奈ちゃんをいいなあと思ったのは本当!いっしょにいて楽しいから付き合いたいなって思ったし、付き合ったら付き合ったで、かわいくてどんどん好きになった。だからもっといっしょにいたいと思って同棲を提案したし、さらに先のことも考えてる」
「だけど……」
「月奈ちゃんの思う不安や心配をひとつずつ二人で解決していこうよ。だって月奈ちゃん、いままでの相手よりもずっとオレのことを好きになっちゃいそうで困ってるんだろ?」
「え?」
不安になる度にかりかりと爪を立てていた細い指を、皓は自身の膝の上から掬い上げた。
「ね。やだやだ言いながら、ずっとオレに触ってるよ」
顔を覗き込んで微笑まれて、月奈はかああっと顔を熱くさせた。
2
あなたにおすすめの小説
どんなあなたでも愛してる。
piyo
恋愛
遠征から戻った夫の姿が変わっていたーー
騎士である夫ディーノが、半年以上の遠征を終えて帰宅した。心躍らせて迎えたシエラだったが、そのあまりの外見の変わりように失神してしまう。
どうやら魔女の呪いでこうなったらしく、努力しなければ元には戻らないらしい。果たして、シエラはそんな夫を再び愛することができるのか?
※全四話+後日談一話。
※毎日夜9時頃更新(予約投稿済)&日曜日完結です。
※なろうにも投稿しています。
偽りの愛に囚われた私と、彼が隠した秘密の財産〜最低義母が全てを失う日
紅葉山参
恋愛
裕福なキョーヘーと結婚し、誰もが羨む生活を手に入れたはずのユリネ。しかし、待っていたのはキョーヘーの母親、アイコからの陰湿なイジメでした。
「お前はあの家にふさわしくない」毎日浴びせられる罵倒と理不尽な要求。愛する旦那様の助けもなく、ユリネの心は少しずつ摩耗していきます。
しかし、ある日、ユリネは見てしまうのです。義母アイコが夫キョーヘーの大切な財産に、人知れず手をつけている決定的な証拠を。
それは、キョーヘーが将来ユリネのためにと秘密にしていた、ある会社の株券でした。
最低なアイコの裏切りを知った時、ユリネとキョーヘーの関係、そしてこの偽りの家族の運命は一変します。
全てを失うアイコへの痛快な復讐劇が、今、幕を開けるのです。
譲れない秘密の溺愛
恋文春奈
恋愛
憧れの的、国宝級にイケメンな一条社長と秘密で付き合っている 社内一人気の氷室先輩が急接近!? 憧れの二人に愛される美波だけど… 「美波…今日充電させて」 「俺だけに愛されて」 一条 朝陽 完全無欠なイケメン×鈴木 美波 無自覚隠れ美女
『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』
星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】
経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。
なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。
「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」
階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。
全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに!
「頬が赤い。必要だ」
「君を、大事にしたい」
真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。
さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!?
これは健康管理?それとも恋愛?
――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。
各務課長が「君の時間を十分ください」と言った結果
汐埼ゆたか
恋愛
実花子はカフェで恋人と待ち合わせしているが、彼はなかなか来ない。
あと十分でカフェを出ようとしたところで偶然上司の各務と会う。
各務から出し抜けに「君の時間を十分ください」と言われ、反射的に「はい」と返事をしたら、なぜか恋人役をすることになり――。
*☼*――――――――――*☼*
佐伯 実花子(さえき みかこ) 27歳
文具メーカー『株式会社MAO』企画部勤務
仕事人間で料理は苦手
×
各務 尊(かがみ たける) 30歳
実花子の上司で新人研修時代の指導担当
海外勤務から本社の最年少課長になったエリート
*☼*――――――――――*☼*
『十分』が実花子の運命を思わぬ方向へ変えていく。
――――――――――
※他サイトからの転載
※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※無断転載禁止。
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない
朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。
止まっていた時が。
再び、動き出す―――。
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
衣川遥稀(いがわ はるき)
好きな人に素直になることができない
松尾聖志(まつお さとし)
イケメンで人気者
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる