意地悪な姉は 「お花畑のお姫様」

岬 空弥

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発熱と仮病

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「コンコココン。」

「えっ!?・・・・・姉さん?」

 このノックの音はフローレンスのもの・・・・・。分かってはいてもシオンはすぐに返事をすることができなかった。
 今は、まだ昼間。フローレンスがシオンの部屋に来ることができる時間ではないのだ。しかし、シオンが戸惑っている間に、またドアをノックされたかと思うと、フローレンスの小さな声が聞こえてきた。

「シオン、早く、開けて!」
 
「姉さん!?」

 シオンが急いでドアを開けると、勢いよくフローレンスが部屋に飛び込んできた。

「姉さん!? こんな時間に、どうしたの? 誰かに見つかったら怒られてしまうよ!」

「もー!!シオンってば!!早く開けてくれないから、本当に見つかってしまうかと思ったわよ。 はぁー・・・ドキドキした。」

 フローレンスは、透き通るような白い肌を上気させ、シオンに向かって紙袋を差し出してきた。

「あ・・・・・・い、ちご?」

 差し出された紙袋の中を覗いて驚いたシオンがフローレンスの顔を見ると、いかにも鼻高々のフローレンスが腰に手を当て得意気に話始めた。

「ふふふ。どう? 美味しそうでしょう? 以前からね、庭師のおじいさんを無理やり付き合わせて、シオンに内緒で一緒に育てていたの。さっき、初めて収穫したのよ。一番最初の苺はシオンにプレゼントしたくて、急いで持ってきたの。」

「えっ? 姉さんが育てた苺なの? へぇー・・・・・凄いなぁ、さすが姉さんだね。こんな大きいのもあるよ! 僕、苺なんて凄く久しぶりだよ・・・・・。」

「そうでしょう!? まあ、殆どおじいさんが育てたもので私は水やりくらいしかしてないんだけどね。そんなことより、ほら、シオン、食べてみて? 姉さんに感想を聞かせてよ。」

 嬉しそうに苺を勧めてくるフローレンスを前に、シオンは大きく真っ赤に育った苺を手に取ると、わくわくしながら一口齧った。

「甘い・・・・・・。」

 久しぶりに食べた苺は、濃厚な香りと甘酸っぱい風味がシオンの口の中いっぱいに広がった。

「姉さん、ありがとう。とても美味しい。」

「うん。そう・・・・・・それは良かった・・・・・。」

「でも姉さん、こんなところを、父上や継母上に見つかったら・・・。」

「・・・・・・・・・・・・。」

 シオンが、両親に見つかる心配をしているというのに、なぜかフローレンスは、シオンの顔を凝視しながら難しい顔をしていた。

「姉さん?」

「シオン?あなた・・・・・。」

 シオンの顔をじっと見ながら、眉根を寄せて怪訝な顔をしたフローレンスは、そっとシオンのおでこに手を当てた。

「やっぱり。・・・・シオン、駄目だわ。あなた熱がある。どおりでいつもより目に元気がないと思った・・・・ちょっと待ってね。えーと、まずは・・・。」

「えっ? 熱ある? そうか、だから起きた時から何か変だと・・・・・。 姉さん、僕、大丈夫だよ。 今からでも身体を休めるから。 心配しなくても明日には治ってるよ。」

「大丈夫よ、シオン。姉さんに任せて。今日はうるさい二人は居ないわ。 
家庭教師の先生も今日はお休みだし・・・。 いい?すぐに戻って来るから少しだけ待っていて。シオンは早くベッドへ。 あと、もっと苺食べてね。」

 そして、フローレンスは、急いでシオンの部屋から出て行った。少しして戻って来たフローレンスは、何度か出たり入ったりを繰り返して汗を拭く為のタオルやおでこを冷やす為の水、果実水の入った大きな水差し、小さなはちみつの瓶に厚手の毛布まで運び込んできた。

「姉さん、こんなに持ち込んだら使用人達にバレてしまう・・・。」

 ベッドから起き上がろうとするシオンの肩を優しく押してまた寝かせると、フローレンスは、その上から持ってきた毛布をてきぱき掛けた。 汗を拭くタオルを枕元に置くと、「暑くなったら毛布を取って、汗を拭くのよ。」と言い、濡れたタオルをシオンのおでこにそっと当てる。熱でとろんとしたシオンの目を見ると、気持ちよさそうに細めていた。

「喉が痛くなったり咳が出るようになったら蜂蜜を舐めるといいわよ?
・・・・・ああ、あと、何があったかしら・・・。まあ、いいわ、それより急がなくちゃ・・・。
シオン、よく聞いてね。これから私はお腹が痛くなるの。いい?」

「え? 姉さん、お腹痛いの?」

「違う。私は元気よ。いい? お腹痛いって騒いでお医者様を呼ぶわ。なんとかここに連れてくるから、あなたは静かにベッドで寝ているのよ。 シオン、そんな心配そうな顔をしない! 大丈夫。あなたの姉さんはなんでもできる器用な人間よ。だから何も心配しないでフローレンスを信じなさい。」

 シオンは気付いていないようだが、妙に熱が高いことがフローレンスは気になって仕方なかった・・・・。今のシオンの環境で、重い病に侵された場合、あの両親がまともな治療をしてくれるとは考え難かった。ろくな治療もしてもらえず苦しむシオンなんてフローレンスは絶対見たくなかった。シオンを護るには、どうしても病を拗らせる訳にはいかないのだ。早いうちにちゃんとした医者に見せるにはこうして嘘を付くしか方法が見つからなかった。

 シオンには心配するなと強がってみたものの、実際こんな方法が上手くいくのか、本当はフローレンスも不安だった。医者を騙してシオンの病気を診させたことが両親や使用人にバレた場合、自分は何をされてもいいが、シオンに危害が及ぶかもしれないと考えると、医者の人間性に賭けるしかないことをフローレンスは心配していた。しかし、悩んでいる時間などなかった、もたもたしていてもシオンの熱が下がるわけでもないし、最悪、両親の帰って来る時間にぶつかってしまう・・・。
 フローレンスは、シオンの部屋を出ると、急いで仕事中のメイドを探した。
腹痛の演技をして、熱もあるような気がすると嘘を付き、すぐに医者を呼ぶよう言いつけると、自室に戻ってベッドに入り、今か今かとじりじりしながら医者の到着を待った。
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