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外への第一歩
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何度かシオンの部屋に忍び込んで勉強を教えてくれていたジルドナだったが、ある日、この先はシオンも一緒に勉強できるように、フーバート侯爵に直接お願いしようと言い出した。フローレンスが、いくら無駄だと言っても、大丈夫だから任せてほしいと自信満々に言い放ち帰ってしまった。
下手なことをして、これ以上シオンの環境が悪くなるくらいなら、余計な事はしないでそっとしておいてほしいと、フローレンスは、内心とても心配していたのだが、何日か後にシオンと共に呼ばれた義父の執務室で聞かされた言葉には、フローレンスだけではなくシオンまでもが驚かされた。
「先日、スコット伯爵から手紙を貰った。次男のルーベルト君の勉強相手を探しているらしい、同じ年頃の競争相手がいればお互い刺激になるだろうとのことだ。その勉強相手にシオンはどうだろうかと話を頂いた。フローレンスが、伯爵家に嫁ぐことになれば、シオンが我が侯爵家の跡継ぎになる。勉強もそうだが、そろそろ外に出て他の令息との交流を持つのもいいだろう。」
義父との会話は、相変わらず端的で短いものだったが、はっきりしたことはシオンの外出許可と身なりの改善だった。
その夜、シオンから夕食の内容が改善されたと、もう一つの驚きを貰ったフローレンスは、シオンをきつく抱きしめて、良かったね!と、涙を流して喜んだ。
「あら、そんな貧乏臭い姿で一体どこに行くつもりですの? あなたのようなみすぼらしい人間にその辺をウロウロされては、フーバート侯爵家の恥になるのではありませんか?」
母親の横に並んだフローレンスが、出掛けようとしているシオンを冷たい表情で見降ろしていた。
「父上に・・・・・、洋服を作ってもらえと・・・・・。」
「まあ、お義父さまが・・・・・・。でも、そうよね・・・・・、そんなみっともない恰好でスコット伯爵家には行けないわね・・・・・。ジルドナ様に嫌われでもしたら大変だわ。 ねぇ、お母様?シオン一人では心配だわ。この子、きっと変な物を選んでくるわ!私も一緒に行っていいかしら?駄目な弟の為に私が見立ててやろうと思いますわ! ジルドナ様に良い印象を与えなくてはね。」
そう言うなり、母親の返事も聞かずにフローレンスは馬車に乗り込んでしまった。
「はぁー・・・・・・。毎度毎度、心が痛いわ・・・・・・・。」
馬車が走り出すと、フローレンスは大きな溜息を吐いた。しかしシオンはというと、フローレンスの溜息や独り言よりも、窓からの景色に興奮して目を輝かせている。
(シオンったら、まったく、人の気も知らないで・・・・・。でも、シオンが邸の外に出るなんて、本当に久々ですものね。とても嬉しそうね・・・・・・。シオンとこうして一緒に買い物に行ける日がくるなんて・・・・。ジルドナ様に協力をお願いして本当に良かった。)
「姉さん、ほら見て! あそこに牛がたくさん。」 「姉さん、川が見えるよ。キラキラしてて、とても綺麗・・・。」
「姉さん、あの建物は何? すごく大きい!」 「姉さん、こんなにお店がたくさん。人の数もすごい・・・。」
シオンは、見る物全てが珍しいようで、何か見つけるごとに幼い子供のようにはしゃいで報告してきた。そんなシオンの喜ぶ姿を見る度に、フローレンスの心は温かくなり、まるで眩しい物でも見ているように目を細め、にっこり微笑んで見守っているのだった。
お店に着き、護衛を外で待たせておくと、シオンとフローレンスの二人は店内に入った。
「遅かったな!待ちくたびれたぞ!!」
入店するなり不躾な言葉をかけられ声の方を向くと、店のソファーに座るジルドナが、お店で用意されたクッキーをモグモグ食べていた。話を聞くと、私達と入れ違いで侯爵家に足を運んだそうで、留守と聞くなり自分も店に向かったということだった。
「フローレンス、今日は侯爵家へ行くって約束してただろう?なのになんで出かけてるんだよ。」
「え?・・・・・・・・・・あっ!! そういえば!!」
「お前・・・・・・・信じられないやつだな・・・・・。でも、この店で良かったよ。この辺じゃ、ここが一番大きいからお前ならここを選ぶと思ったよ。」
「あの・・・・・、ジルドナ様。」
ジルドナが、約束をすっかり忘れていたフローレンスをじろりと睨みつけていると、シオンがおずおずと話しかけて来た。
「あの、父にスコット伯爵からお手紙を頂いたそうで・・・・・・。ジルドナ様のお陰でこうして、新しい洋服を買いに来ることもできましたし、食事も改善されました。外出も許可されて他の令息との交流も認めてもらえることになりました。本当にありがとうございました。」
「いや、そんなたいしたことはしてないから大丈夫だ。」
少し照れたように頭を搔いているジルドナをフローレンスがニヤニヤしながら見つめていると、その視線に気付いたジルドナがムッとしながら言った。
「お前は?」
「え?」
「お礼!!」
「あっ!! そうね! お礼ね! お礼よね!! 」
するとフローレンスは、頭を深く下げた後、「ジルドナ様、ありがとうございました。」と、眩しいほどの笑顔でジルドナにお礼を言った。そして、お礼を言い終わるなり、
「シオン、さあ、洋服を探しましょう!!」
と、元気いっぱいにシオンの手を引いて店内を歩き出した。自分でお礼を要求しておきながら、口元を隠して真っ赤な顔で俯いてしまったジルドナにはまるで気が付いていない様子だった。
シオンの手を引き、お姉さん風を吹かせて洋服を見て回るフローレンスだったが、基本的にシオン以外の男の子になど全く興味がないわけで、他の令息がどんな服装をしていたかなどちっともわからないのが本音だった。シオンはシオンで、今まで外との接触などあるわけもない。何が流行りなのか、どれが自分に似合うのかも全くわからないのが現状だった。結局、この姉弟では洋服一枚選ぶことが出来なかったのだ。
「お前ら・・・・・・・・、俺が居なかったら一体どうするつもりだったんだ!?」
ぶつぶつ文句をいいながら、なんだかんだとジルドナが自宅用の普段着と、余所行き用の少し畏まった物を数着ずつ選んでくれたのだった。シオンが使用人からの借り物の服を脱ぎ、新しい服に着替えると、元々整った顔立ちということもあり、見違えるように見目好く、そして少し大人びて見えた。
「姉さん、どうかな?」
新しい服を身に付け、恥ずかしそうに姉の顔色を伺うシオンに、フローレンスは喜びに胸が詰まって何も言えなくなってしまった。
「うっ・・・・・・・・。ふうっ・・・・・・・・。」
「おい、嘘だろう? また泣くのか?」
胸を押さえ、涙を溜めているフローレンスの頭をぐしゃぐしゃと撫でながら、ジルドナが馬鹿にしたように笑ったが、フローレンスを見ているその瞳はとても優しかった。
シオンはそんなジルドナを見て、一瞬だけ冷たい表情を見せたが、誰もそのことには気付かないのであった。
下手なことをして、これ以上シオンの環境が悪くなるくらいなら、余計な事はしないでそっとしておいてほしいと、フローレンスは、内心とても心配していたのだが、何日か後にシオンと共に呼ばれた義父の執務室で聞かされた言葉には、フローレンスだけではなくシオンまでもが驚かされた。
「先日、スコット伯爵から手紙を貰った。次男のルーベルト君の勉強相手を探しているらしい、同じ年頃の競争相手がいればお互い刺激になるだろうとのことだ。その勉強相手にシオンはどうだろうかと話を頂いた。フローレンスが、伯爵家に嫁ぐことになれば、シオンが我が侯爵家の跡継ぎになる。勉強もそうだが、そろそろ外に出て他の令息との交流を持つのもいいだろう。」
義父との会話は、相変わらず端的で短いものだったが、はっきりしたことはシオンの外出許可と身なりの改善だった。
その夜、シオンから夕食の内容が改善されたと、もう一つの驚きを貰ったフローレンスは、シオンをきつく抱きしめて、良かったね!と、涙を流して喜んだ。
「あら、そんな貧乏臭い姿で一体どこに行くつもりですの? あなたのようなみすぼらしい人間にその辺をウロウロされては、フーバート侯爵家の恥になるのではありませんか?」
母親の横に並んだフローレンスが、出掛けようとしているシオンを冷たい表情で見降ろしていた。
「父上に・・・・・、洋服を作ってもらえと・・・・・。」
「まあ、お義父さまが・・・・・・。でも、そうよね・・・・・、そんなみっともない恰好でスコット伯爵家には行けないわね・・・・・。ジルドナ様に嫌われでもしたら大変だわ。 ねぇ、お母様?シオン一人では心配だわ。この子、きっと変な物を選んでくるわ!私も一緒に行っていいかしら?駄目な弟の為に私が見立ててやろうと思いますわ! ジルドナ様に良い印象を与えなくてはね。」
そう言うなり、母親の返事も聞かずにフローレンスは馬車に乗り込んでしまった。
「はぁー・・・・・・。毎度毎度、心が痛いわ・・・・・・・。」
馬車が走り出すと、フローレンスは大きな溜息を吐いた。しかしシオンはというと、フローレンスの溜息や独り言よりも、窓からの景色に興奮して目を輝かせている。
(シオンったら、まったく、人の気も知らないで・・・・・。でも、シオンが邸の外に出るなんて、本当に久々ですものね。とても嬉しそうね・・・・・・。シオンとこうして一緒に買い物に行ける日がくるなんて・・・・。ジルドナ様に協力をお願いして本当に良かった。)
「姉さん、ほら見て! あそこに牛がたくさん。」 「姉さん、川が見えるよ。キラキラしてて、とても綺麗・・・。」
「姉さん、あの建物は何? すごく大きい!」 「姉さん、こんなにお店がたくさん。人の数もすごい・・・。」
シオンは、見る物全てが珍しいようで、何か見つけるごとに幼い子供のようにはしゃいで報告してきた。そんなシオンの喜ぶ姿を見る度に、フローレンスの心は温かくなり、まるで眩しい物でも見ているように目を細め、にっこり微笑んで見守っているのだった。
お店に着き、護衛を外で待たせておくと、シオンとフローレンスの二人は店内に入った。
「遅かったな!待ちくたびれたぞ!!」
入店するなり不躾な言葉をかけられ声の方を向くと、店のソファーに座るジルドナが、お店で用意されたクッキーをモグモグ食べていた。話を聞くと、私達と入れ違いで侯爵家に足を運んだそうで、留守と聞くなり自分も店に向かったということだった。
「フローレンス、今日は侯爵家へ行くって約束してただろう?なのになんで出かけてるんだよ。」
「え?・・・・・・・・・・あっ!! そういえば!!」
「お前・・・・・・・信じられないやつだな・・・・・。でも、この店で良かったよ。この辺じゃ、ここが一番大きいからお前ならここを選ぶと思ったよ。」
「あの・・・・・、ジルドナ様。」
ジルドナが、約束をすっかり忘れていたフローレンスをじろりと睨みつけていると、シオンがおずおずと話しかけて来た。
「あの、父にスコット伯爵からお手紙を頂いたそうで・・・・・・。ジルドナ様のお陰でこうして、新しい洋服を買いに来ることもできましたし、食事も改善されました。外出も許可されて他の令息との交流も認めてもらえることになりました。本当にありがとうございました。」
「いや、そんなたいしたことはしてないから大丈夫だ。」
少し照れたように頭を搔いているジルドナをフローレンスがニヤニヤしながら見つめていると、その視線に気付いたジルドナがムッとしながら言った。
「お前は?」
「え?」
「お礼!!」
「あっ!! そうね! お礼ね! お礼よね!! 」
するとフローレンスは、頭を深く下げた後、「ジルドナ様、ありがとうございました。」と、眩しいほどの笑顔でジルドナにお礼を言った。そして、お礼を言い終わるなり、
「シオン、さあ、洋服を探しましょう!!」
と、元気いっぱいにシオンの手を引いて店内を歩き出した。自分でお礼を要求しておきながら、口元を隠して真っ赤な顔で俯いてしまったジルドナにはまるで気が付いていない様子だった。
シオンの手を引き、お姉さん風を吹かせて洋服を見て回るフローレンスだったが、基本的にシオン以外の男の子になど全く興味がないわけで、他の令息がどんな服装をしていたかなどちっともわからないのが本音だった。シオンはシオンで、今まで外との接触などあるわけもない。何が流行りなのか、どれが自分に似合うのかも全くわからないのが現状だった。結局、この姉弟では洋服一枚選ぶことが出来なかったのだ。
「お前ら・・・・・・・・、俺が居なかったら一体どうするつもりだったんだ!?」
ぶつぶつ文句をいいながら、なんだかんだとジルドナが自宅用の普段着と、余所行き用の少し畏まった物を数着ずつ選んでくれたのだった。シオンが使用人からの借り物の服を脱ぎ、新しい服に着替えると、元々整った顔立ちということもあり、見違えるように見目好く、そして少し大人びて見えた。
「姉さん、どうかな?」
新しい服を身に付け、恥ずかしそうに姉の顔色を伺うシオンに、フローレンスは喜びに胸が詰まって何も言えなくなってしまった。
「うっ・・・・・・・・。ふうっ・・・・・・・・。」
「おい、嘘だろう? また泣くのか?」
胸を押さえ、涙を溜めているフローレンスの頭をぐしゃぐしゃと撫でながら、ジルドナが馬鹿にしたように笑ったが、フローレンスを見ているその瞳はとても優しかった。
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