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姉の旅立ち
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そうこうしているうちに、フローレンスとジルドナの入学式が迫って来ていた。学園生活の準備に追われていたフローレンスだったが、今夜も周りが寝静まるのを待って、こっそりシオンの部屋のドアを叩いた。
生活が改善されてもフローレンスとシオンは、夜の二人の時間を大切にしていた。以前のようにたくさんの食べ物を用意する必要はなくなったけれど、フローレンスのポケットには、今でも小さなおやつが何個か入っていて、 「勉強中の気分転換にね!」 と、シオンの机の上に置いてある瓶に、毎日少しづつ入れて行くのだ。今ではちゃんと食事を与えられているシオンが、その瓶に手を付けることはあまりないのだが、今でもこうして、自分を気遣ってくれるフローレンスの優しさに、いつまでも浸っていたいシオンは、もう必要ないと、断ることが出来ないでいた。
「この邸の人間を完全に信用したわけではないけれど、シオンもこんなに立派になったし、お母様との関係も少しずつ変わってきている。だから、きっと・・・もうシオンは大丈夫なのよね・・・。少し寂しく感じてしまうけれど、私もそろそろ弟離れする時が来たのかもしれないわね。いつまでも子供扱いしていてごめんなさいね。本当は、私なんかより貴方の方が、ずっとしっかりしてるのにね。」
「・・・そんなことないよ。僕は、この邸から姉さんが居なくなるのがとても寂しいよ・・・。もうこの時間にノックの音が聞こえない日が来るなんて信じたくもないよ。姉さんは、僕をここに一人残して平気なの?」
勉強机の椅子に座っているシオンが、追いすがるようにフローレンスに向かって両手を伸ばしている。
「平気じゃないわ。私の大切な弟ですもの。だけど、今のシオンは本当に立派な青年になったのよ? 私の助けを必要としていた、あの頃のシオンじゃないわ。もっと自信を持って!シオンはもう、一人でもちゃんとやっていけるのよ。」
両手を伸ばし、今すぐ抱きしめてほしいと懇願するようなシオンから、わざと目を逸らし、フローレンスは、話続けた。
「大丈夫よ、シオン。今は独りぼっちで孤独を感じるでしょうけど、あなたも一年後、学園に入学すれば、友人がたくさんできるわ。シオンはとっても素敵だから、きっとたくさんの令嬢達にモテモテよ。そうよ、そうなったら、姉さんも鼻が高いわね!」
そこまで話終わると、すっと立ち上がったシオンにフローレンスは抱きしめられた。
フローレンスの入学式が近づくにつれ、シオンのスキンシップが大胆になってきていた。
「姉さん、僕の傍に居て。僕は姉さん以外誰も必要としていない。お願いだから離れて行かないで。」
フローレンスが返事をする間もなく、シオンは唇でフローレンスの言葉を遮った。
「シオ、んっん・・・・。ちょっと・・・ん・・・。」
最近では、気が付くとシオンの腕の中にいることが多い。最初は挨拶程度の軽い口づけも、こうして回数を重ねるごとにどんどん深い物に変わっていった。シオンの今までの環境を思い出せば、フローレンスは彼にとって、たった一人の家族のようなものだ。愛情に飢えたフローレンスがシオンをことさら大切にしたように、シオンにとってもフローレンスが何よりも大切な存在になっているのだろう。いくら欲しても手に入らない愛情が、どれほど幼い子供を苦しめるのか、フローレンスは痛いほど知っていた。だから、シオンの日に日に酷くなる嫉妬心や独占欲も受け入れようと思っていた。時が来れば、自然と離れて行くものと思うようにしていた。
(こんなに私に執着するのも、きっと今だけ。たくさんの人たちに囲まれれば、シオンもきっと変わるはず。その時はきっと、私のことなんて、目にも入らなくなるわ。)
フローレンスが、長く濃厚な口づけからやっと解放され、荒くなった息を落ち着けていると、抱きしめているシオンの腕の力が更に強まった。
「姉さん、僕との約束、忘れちゃ駄目だよ。姉さんはずっと僕と一緒だからね。」
フローレンスが、小さな声で 「うん。」 と言うと、フローレンスの髪に鼻を埋めたシオンが大きく息を吸い込んだ後、ぼそっと呟いた。
「・・・離したくない・・・。」
入学式までの間、顔を合わせる度に、シオンはフローレンスに様々な約束事をさせた。
「いい?姉さん、絶対一人で街に出かけてはいけないよ!」
「姉さん、男の人の甘い言葉を信じて、人気のない場所について行ったりしては駄目だよ!」
「姉さん、何かあったらジルドナ様を頼ってね。でも、あんまり彼と親しくし過ぎるのはいけないよ。」
「僕が、学園に入学するまで、大人しく、静かに待っていてね。」
「姉さん、帰れる時はちゃんと帰ってきてね。」
「姉さん、僕のこと忘れちゃ駄目だよ。いつも思っていてね。」
「姉さん、――――」
(シオン・・・しつこい・・・。)
いくらフローレンスがシオンに寛容と言っても、いくらなんでもこれは疲れる。シオンの長すぎる話に半目になりながらも、(シオンと結婚する人は大変そうだなぁ・・・。)などと、フローレンスは他人事のように呑気に思ったりしていた。
そうして慌ただしい日々が過ぎ去ると、フローレンスは晴れやかな気持ちでシオンに手を振り、学園に旅立って行った。
生活が改善されてもフローレンスとシオンは、夜の二人の時間を大切にしていた。以前のようにたくさんの食べ物を用意する必要はなくなったけれど、フローレンスのポケットには、今でも小さなおやつが何個か入っていて、 「勉強中の気分転換にね!」 と、シオンの机の上に置いてある瓶に、毎日少しづつ入れて行くのだ。今ではちゃんと食事を与えられているシオンが、その瓶に手を付けることはあまりないのだが、今でもこうして、自分を気遣ってくれるフローレンスの優しさに、いつまでも浸っていたいシオンは、もう必要ないと、断ることが出来ないでいた。
「この邸の人間を完全に信用したわけではないけれど、シオンもこんなに立派になったし、お母様との関係も少しずつ変わってきている。だから、きっと・・・もうシオンは大丈夫なのよね・・・。少し寂しく感じてしまうけれど、私もそろそろ弟離れする時が来たのかもしれないわね。いつまでも子供扱いしていてごめんなさいね。本当は、私なんかより貴方の方が、ずっとしっかりしてるのにね。」
「・・・そんなことないよ。僕は、この邸から姉さんが居なくなるのがとても寂しいよ・・・。もうこの時間にノックの音が聞こえない日が来るなんて信じたくもないよ。姉さんは、僕をここに一人残して平気なの?」
勉強机の椅子に座っているシオンが、追いすがるようにフローレンスに向かって両手を伸ばしている。
「平気じゃないわ。私の大切な弟ですもの。だけど、今のシオンは本当に立派な青年になったのよ? 私の助けを必要としていた、あの頃のシオンじゃないわ。もっと自信を持って!シオンはもう、一人でもちゃんとやっていけるのよ。」
両手を伸ばし、今すぐ抱きしめてほしいと懇願するようなシオンから、わざと目を逸らし、フローレンスは、話続けた。
「大丈夫よ、シオン。今は独りぼっちで孤独を感じるでしょうけど、あなたも一年後、学園に入学すれば、友人がたくさんできるわ。シオンはとっても素敵だから、きっとたくさんの令嬢達にモテモテよ。そうよ、そうなったら、姉さんも鼻が高いわね!」
そこまで話終わると、すっと立ち上がったシオンにフローレンスは抱きしめられた。
フローレンスの入学式が近づくにつれ、シオンのスキンシップが大胆になってきていた。
「姉さん、僕の傍に居て。僕は姉さん以外誰も必要としていない。お願いだから離れて行かないで。」
フローレンスが返事をする間もなく、シオンは唇でフローレンスの言葉を遮った。
「シオ、んっん・・・・。ちょっと・・・ん・・・。」
最近では、気が付くとシオンの腕の中にいることが多い。最初は挨拶程度の軽い口づけも、こうして回数を重ねるごとにどんどん深い物に変わっていった。シオンの今までの環境を思い出せば、フローレンスは彼にとって、たった一人の家族のようなものだ。愛情に飢えたフローレンスがシオンをことさら大切にしたように、シオンにとってもフローレンスが何よりも大切な存在になっているのだろう。いくら欲しても手に入らない愛情が、どれほど幼い子供を苦しめるのか、フローレンスは痛いほど知っていた。だから、シオンの日に日に酷くなる嫉妬心や独占欲も受け入れようと思っていた。時が来れば、自然と離れて行くものと思うようにしていた。
(こんなに私に執着するのも、きっと今だけ。たくさんの人たちに囲まれれば、シオンもきっと変わるはず。その時はきっと、私のことなんて、目にも入らなくなるわ。)
フローレンスが、長く濃厚な口づけからやっと解放され、荒くなった息を落ち着けていると、抱きしめているシオンの腕の力が更に強まった。
「姉さん、僕との約束、忘れちゃ駄目だよ。姉さんはずっと僕と一緒だからね。」
フローレンスが、小さな声で 「うん。」 と言うと、フローレンスの髪に鼻を埋めたシオンが大きく息を吸い込んだ後、ぼそっと呟いた。
「・・・離したくない・・・。」
入学式までの間、顔を合わせる度に、シオンはフローレンスに様々な約束事をさせた。
「いい?姉さん、絶対一人で街に出かけてはいけないよ!」
「姉さん、男の人の甘い言葉を信じて、人気のない場所について行ったりしては駄目だよ!」
「姉さん、何かあったらジルドナ様を頼ってね。でも、あんまり彼と親しくし過ぎるのはいけないよ。」
「僕が、学園に入学するまで、大人しく、静かに待っていてね。」
「姉さん、帰れる時はちゃんと帰ってきてね。」
「姉さん、僕のこと忘れちゃ駄目だよ。いつも思っていてね。」
「姉さん、――――」
(シオン・・・しつこい・・・。)
いくらフローレンスがシオンに寛容と言っても、いくらなんでもこれは疲れる。シオンの長すぎる話に半目になりながらも、(シオンと結婚する人は大変そうだなぁ・・・。)などと、フローレンスは他人事のように呑気に思ったりしていた。
そうして慌ただしい日々が過ぎ去ると、フローレンスは晴れやかな気持ちでシオンに手を振り、学園に旅立って行った。
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