意地悪な姉は 「お花畑のお姫様」

岬 空弥

文字の大きさ
13 / 55

名前も知らない読書仲間

しおりを挟む
 学園でのフローレンスは、平和な日々を過ごしていた。頭の良いジルドナとシオンに勉強を見てもらっていたせいか、授業に関しては問題なく周りについて行くことが出来た。
学園では、無駄な演技も必要なかったので、ジルドナとも仲良く過ごしていた。クラスは別だったが、よく二人で話もしていたし、お昼を一緒に食べたりもしていた。

「化粧変えたのか?」

 いつものベンチに二人で座り、お昼ご飯を食べ始めると、ジルドナが唐突に聞いてきた。

「え?お化粧?・・・変えたというか、殆どしてないに等しいかな・・・。変かしら?」

「いや、変じゃないけど・・・、どうして変えたんだ?」

「うーん・・・。あんな厚化粧をこのキツイ顔にって、正直、自分でも怖いって思ってたのよ。 ふふっ、笑ってしまうわよね。ふふふ、初めて会った時の怯えた顔のルーを思い出すわ。あんな化粧、時間も凄くかかるし、何より私の好みじゃないのよ。」

 フローレンスが、面白そうに笑うと、ジルドナもつられて笑った。

「ははは、お前は顔に似合わず可愛らしいのが好きだもんな。」

「ふふっ、顔に似合わずって、相変わらず失礼な人ね。だけどシオンに会った頃なんて、この子と顔を取り換えたいって、何度も思ったわ。 ねぇ、想像して?シオンの髪を長くして、ふわふわにカールするの、薄っすらお化粧するんだけど、大きな緑の瞳に長いまつ毛、唇は薄いピンク色で、頬をほんのり赤くしたりして・・・。うーー!!! シオン!!可愛い!!羨ましい!!」

「ええーー!? 気持ち悪くないか?シオンはどう見てもシオンだろう!?」

「もーー!! ジルは想像力が足りないわ!もしくは女を見る目がないのかしら・・・。」

 シオンの女装姿を想像して、露骨に嫌な顔をしたジルドナを、フローレンスは呆れたように見ている。

「そうなのかもな。俺はシオンの女装なんかより、お前の顔の方が好みだぞ。」

「ふふ、やっぱりあなたは女の趣味が悪いのね。」

「ああ、だから、あんまり綺麗になるな! 変な虫が寄って来る。」

 ジルドナが少し赤い顔をして、乱暴にフローレンスの頭をぐしゃぐしゃと撫でると、せっかく早起きして、なんとかまとめたフローレンスの髪が酷くボサボサになってしまった。それを見たジルドナは、どこか満足そうに笑ったのだった。

 こうしてジルドナが相手をしてくれるお陰で、フローレンスもあまり気にしないでいられるが、もしジルドナがいなかったらフローレンスは学園でずっと独りぼっちで過ごすことになっていた。フローレンスが侯爵家に入ってからの数々の悪い噂を、周りの生徒達は何の疑いもなく信じていた。実際、お茶会などでフローレンスの不愉快な言動を見た者もいたし、一度付いてしまった悪い印象は、貴族の世界ではなかなか消えるものではない。そんなこともあって、フローレンスに話しかけようとする者は一人もいなかったし、まだ見ぬ弟のシオンに深く同情する者もいれば、無理やり婚約者にさせられたジルドナを憐れむ者までいた。フローレンスは、こうなることが全て分かった上で演技していたわけだから、今更誤解を解くつもりもないし、こんな自分だから仕方がないと、不満も感じず独りぼっちを素直に受け入れていた。

 ジルドナが傍に居ない時、フローレンスはよく図書室に行っていた。

(小さな頃から独りぼっちには慣れていたはずだったのに、変ね・・・。)

 シオンと離れてしまった今、時間の潰し方をすっかり忘れてしまっていたフローレンスだったが、暇つぶしに入った図書室で、一冊の本を手に取ると、すぐに幼い頃を思い出したかのように、本の世界に没頭していった。

 日当たりの良いこの場所は、窓からの景色もよくフローレンスのお気に入りだった。図書室は静かで本を読んだり、勉強したりするのにとても良い環境だった、授業が終わって自分の部屋に帰っても、一人、狭い部屋で息が詰まりそうになっていたフローレンスは、時間があればここに来て自由に過ごしていた。

(えっ!! また怖い人が隣にいる・・・一体いつの間に・・・。)

 その人は、一体いつからそこに座っていたのか・・・。物語のラストを読み終わり 「ふぅ」 と、心を落ち着けると、視界の隅に他の人の手が見えた。驚いてぱっと顔を上げると、そこに座っていたのは、いつもの無表情の男性だった。赤に近い茶色の髪に同じ色の瞳。その瞳はフローレンスと同じように少し吊り上がっていて、鋭い眼差しが、まるで人を寄せ付けないように冷たい印象を与えるのだ。彼は、フローレンスには目もくれず涼しい顔で本を読んでいる。

 フローレンスが、この場所を好んで座っているのと同じ理由なのか、彼も必ずこの席を選ぶ。

(だけど、他にも席は沢山空いているのに、何故こんな隅っこの狭い席に来るのかしら・・・ここには、必ず私がいるのに・・・。こんな近くで、嫌じゃないのかしら・・・。)

 一番後ろで、一番隅にあるこの席だけは、窓の下に机を置いてある。本棚の影になっていて、他の席からは見えない場所にひっそりと存在しているのだ。その狭いスペースは横に三人座るのが限界で、その三つの椅子もかなり近い。その狭いスペースのフローレンスの隣に、彼はわざわざ座るのだ。お互いの肘がぶつかりそうな状態で、フローレンスが、チラチラと隣の様子を伺った後に、不思議に思って首を傾げてしまうのも仕方のないことだった。

 はたから見ると、まるで恋人同士のような距離感で本を読んでいるのだが、二人が言葉を交わすことはなかった。フローレンスは、自分が周りに嫌われていることを知っていたから、あえて友人を作ろうとはしなかったし、彼も、まるでフローレンスのことなど見えていないかのように本に目を向けていた。二人は視線すら合うことがなかった。最初、彼の雰囲気を怖いと思い、本に集中できずにストレスを感じていたフローレンスだったが、そのうち彼が一言も話さないし、目も合わないことを知ると、段々気にならなくなってきた。

(そもそも、いつだって私が先にこの席に座っているんだし、私が嫌なら他へ行けばいいのよ。私が気にすることなんてないんだわ。)

 そう思うようになると、今度は逆に彼の隣で本を読むのが、心地よく感じている自分に気が付いた。フローレンスがいくら強がっていたとしても、結局は独りぼっちを寂しいと感じていたようだ。一言も話さなくても、お互いの名前を知らなくても、今日も、隣の席に座ってくれた彼の気配を感じながら、嫌がらずに自分の傍に居てくれることに、密かに感謝するのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チョイス伯爵家のお嬢さま

cyaru
恋愛
チョイス伯爵家のご令嬢には迂闊に人に言えない加護があります。 ポンタ王国はその昔、精霊に愛されし加護の国と呼ばれておりましたがそれももう昔の話。 今では普通の王国ですが、伯爵家に生まれたご令嬢は数百年ぶりに加護持ちでした。 産まれた時は誰にも気が付かなかった【営んだ相手がタグとなって確認できる】トンデモナイ加護でした。 4歳で決まった侯爵令息との婚約は苦痛ばかり。 そんな時、令嬢の言葉が引き金になって令嬢の両親である伯爵夫妻は離婚。 婚約も解消となってしまいます。 元伯爵夫人は娘を連れて実家のある領地に引きこもりました。 5年後、王太子殿下の側近となった元婚約者の侯爵令息は視察に来た伯爵領でご令嬢とと再会します。 さて・・・どうなる? ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】小公爵様の裏の顔をわたしだけが知っている

おのまとぺ
恋愛
公爵令息ルシアン・ド・ラ・パウルはいつだって王国の令嬢たちの噂の的。見目麗しさもさることながら、その立ち居振る舞いの上品さ、物腰の穏やかさに女たちは熱い眼差しを向ける。 しかし、彼の裏の顔を知る者は居ない。 男爵家の次女マリベルを除いて。 ◇素直になれない男女のすったもんだ ◇腐った令嬢が登場したりします ◇50話完結予定 2025.2.14 タイトルを変更しました。(完結済みなのにすみません、ずっとモヤモヤしていたので……!)

蝋燭

悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。 それは、祝福の鐘だ。 今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。 カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。 彼女は勇者の恋人だった。 あの日、勇者が記憶を失うまでは……

妹の身代わりに殺戮の王太子に嫁がされた忌み子王女、実は妖精の愛し子でした。嫁ぎ先でじゃがいもを育てていたら、殿下の溺愛が始まりました・長編版

まほりろ
恋愛
 国王の愛人の娘であるアリアベルタは、母親の死後、王宮内で放置されていた。  食事は一日に一回、カビたパンやまふ腐った果物、生のじゃがいもなどが届くだけだった。  しかしアリアベルタはそれでもなんとか暮らしていた。  アリアベルタの母親は妖精の村の出身で、彼女には妖精がついていたのだ。  その妖精はアリアベルタに引き継がれ、彼女に加護の力を与えてくれていた。  ある日、数年ぶりに国王に呼び出されたアリアベルタは、異母妹の代わりに殺戮の王子と二つ名のある隣国の王太子に嫁ぐことになり……。 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろうとカクヨムにも投稿しています。 ※中編を大幅に改稿し、長編化しました。2025年1月20日 ※長編版と差し替えました。2025年7月2日 ※コミカライズ化が決定しました。商業化した際はアルファポリス版は非公開に致します。

処理中です...