意地悪な姉は 「お花畑のお姫様」

岬 空弥

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似た者同士

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 彼女は、不思議な子だった。こんな狭い場所に、目つきの悪い大男がわざわざ自分の隣に座るのだ。普通だったら直ぐに席を立って移動するだろう。この場所を譲りたくないと思ったレイサスも当然、彼女が移動してくれるものと思って隣に座った。しかし・・・。

 静かな室内で特に気を遣うことなくガタガタと音を立て椅子を引いた。どさっと乱暴に座ったのだから当然机にもその振動は伝わっているはずなのに、彼女はピクリとも動かなかったのだ。いや、正確には真剣な青い目だけは、凄い速さで本の上を動き回っていたのだが・・・。

レイサスは、彼女が自分の存在に全く気付かないことに戸惑った。肘がぶつかりそうな程の距離感で座ってしまったのに、相手は期待した行動を取ってくれないのだ。他にも席はたくさんあるというのに・・・。
このままでは、自分が気持ち悪い奴と思われるのではないだろうかと心配にもなってきた。やはり自分が違う場所に移るべきなのだろうか・・・。レイサスは、あれこれ考えすぎて、本を開いていても全く集中できない上に、彼女から漂ってくる香水でもない優しい花のような香りを感じ、どうしてもチラチラと彼女を意識してしまうのだった。


 本を読み終わったらしい彼女が静かに本を閉じた。満足そうに口角を上げたかと思うと、

「っ!?」

と、声にならない悲鳴を上げ、こちらを見てガタっとのけ反ったことがわかった。

(今、気付いたのか・・・。)

気付いたのなら、このまま違う場所に移ってくれと思いながら、レイサスは彼女の存在を無視した。驚いた彼女は、しばらく固まったままレイサスを凝視していた。

(いいから、早くこの場所から消えてくれ。)

しかし、レイサスの期待は裏切られることになった。不躾にレイサスを観察した後、彼女は澄ました顔で机に置いてあったもう一冊の本を読み始めたのだ。

(おい、嘘だろう?何故、ここに留まる!?)

 人気のない場所で、二人のこの距離感。それは、まるで親しい友人か恋人のようで、さすがのレイサスも、その無表情の裏で変な汗をかいていた。

しかし、そんなことが三日も続くと慣れてしまうものなのか、不思議と気にならなくなった。彼女は、自分と同じだったのだ。ただ本が好きなだけで、この場所も好きなのだろう。そして、一つ確かなことがあるとすれば、誰も寄り付かないレイサスから、彼女は離れて行かない人だということだ。

本を読みながら、たまに目線を横に持っていくと、綺麗な金色の髪を耳にかけ、真剣な眼差しで本を見つめている。眉間に皺を寄せている所を見ると、物語は難しい場面に差し掛かっているのだろうか。レイサスは、彼女につられて自分の眉間にも皺が寄っていることに気付いて、面白いなと口元を緩めた。

彼女が居ない日は、いつ来るのだろうと、物音がする度に気になって本に集中できなかった。もう、来ないのかもしれないと思ったら、何故だか気持ちが暗くなったし、次の日、彼女が座っているのを見るとほっと気持ちが軽くなった。

 彼女が、初めてフローレンスと名乗った時、レイサスは既にフローレンスのことを知っていた。貴族の間では、悪い少女の代表のように名を轟かせていたのが、まさか毎日自分の隣で本を読んでいる彼女だと知った時、レイサスは、どの角度から見たらあんな悪い噂が立つのか本気で首を傾げてしまった。
そもそもレイサスの知る彼女は、本に夢中になると、ここが学園の図書室だということも忘れる程、緊張感がないのだ。いきなり立ち上がったかと思えば、普通に尻を掻き、隣に座っていたレイサスをぎょっとさせるような女の子なのだから。

 フローレンスは、レイサスを拒まなかった。彼がいきなり話しかけてきても、フローレンスの腕を引いて手を繋いでも。驚いたり戸惑った顔はしていたが、彼女は笑いながらレイサスの名を呼んだのだ。レイサスから離れようと、図書室に来なくなったフローレンスに怒りをぶつけ、強引に抱きしめた時も、好きな気持ちを抑えられず口づけをしてしまった時も、フローレンスは全て受け入れてくれた。
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