40 / 55
似た者同士
しおりを挟む
彼女は、不思議な子だった。こんな狭い場所に、目つきの悪い大男がわざわざ自分の隣に座るのだ。普通だったら直ぐに席を立って移動するだろう。この場所を譲りたくないと思ったレイサスも当然、彼女が移動してくれるものと思って隣に座った。しかし・・・。
静かな室内で特に気を遣うことなくガタガタと音を立て椅子を引いた。どさっと乱暴に座ったのだから当然机にもその振動は伝わっているはずなのに、彼女はピクリとも動かなかったのだ。いや、正確には真剣な青い目だけは、凄い速さで本の上を動き回っていたのだが・・・。
レイサスは、彼女が自分の存在に全く気付かないことに戸惑った。肘がぶつかりそうな程の距離感で座ってしまったのに、相手は期待した行動を取ってくれないのだ。他にも席はたくさんあるというのに・・・。
このままでは、自分が気持ち悪い奴と思われるのではないだろうかと心配にもなってきた。やはり自分が違う場所に移るべきなのだろうか・・・。レイサスは、あれこれ考えすぎて、本を開いていても全く集中できない上に、彼女から漂ってくる香水でもない優しい花のような香りを感じ、どうしてもチラチラと彼女を意識してしまうのだった。
本を読み終わったらしい彼女が静かに本を閉じた。満足そうに口角を上げたかと思うと、
「っ!?」
と、声にならない悲鳴を上げ、こちらを見てガタっとのけ反ったことがわかった。
(今、気付いたのか・・・。)
気付いたのなら、このまま違う場所に移ってくれと思いながら、レイサスは彼女の存在を無視した。驚いた彼女は、しばらく固まったままレイサスを凝視していた。
(いいから、早くこの場所から消えてくれ。)
しかし、レイサスの期待は裏切られることになった。不躾にレイサスを観察した後、彼女は澄ました顔で机に置いてあったもう一冊の本を読み始めたのだ。
(おい、嘘だろう?何故、ここに留まる!?)
人気のない場所で、二人のこの距離感。それは、まるで親しい友人か恋人のようで、さすがのレイサスも、その無表情の裏で変な汗をかいていた。
しかし、そんなことが三日も続くと慣れてしまうものなのか、不思議と気にならなくなった。彼女は、自分と同じだったのだ。ただ本が好きなだけで、この場所も好きなのだろう。そして、一つ確かなことがあるとすれば、誰も寄り付かないレイサスから、彼女は離れて行かない人だということだ。
本を読みながら、たまに目線を横に持っていくと、綺麗な金色の髪を耳にかけ、真剣な眼差しで本を見つめている。眉間に皺を寄せている所を見ると、物語は難しい場面に差し掛かっているのだろうか。レイサスは、彼女につられて自分の眉間にも皺が寄っていることに気付いて、面白いなと口元を緩めた。
彼女が居ない日は、いつ来るのだろうと、物音がする度に気になって本に集中できなかった。もう、来ないのかもしれないと思ったら、何故だか気持ちが暗くなったし、次の日、彼女が座っているのを見るとほっと気持ちが軽くなった。
彼女が、初めてフローレンスと名乗った時、レイサスは既にフローレンスのことを知っていた。貴族の間では、悪い少女の代表のように名を轟かせていたのが、まさか毎日自分の隣で本を読んでいる彼女だと知った時、レイサスは、どの角度から見たらあんな悪い噂が立つのか本気で首を傾げてしまった。
そもそもレイサスの知る彼女は、本に夢中になると、ここが学園の図書室だということも忘れる程、緊張感がないのだ。いきなり立ち上がったかと思えば、普通に尻を掻き、隣に座っていたレイサスをぎょっとさせるような女の子なのだから。
フローレンスは、レイサスを拒まなかった。彼がいきなり話しかけてきても、フローレンスの腕を引いて手を繋いでも。驚いたり戸惑った顔はしていたが、彼女は笑いながらレイサスの名を呼んだのだ。レイサスから離れようと、図書室に来なくなったフローレンスに怒りをぶつけ、強引に抱きしめた時も、好きな気持ちを抑えられず口づけをしてしまった時も、フローレンスは全て受け入れてくれた。
静かな室内で特に気を遣うことなくガタガタと音を立て椅子を引いた。どさっと乱暴に座ったのだから当然机にもその振動は伝わっているはずなのに、彼女はピクリとも動かなかったのだ。いや、正確には真剣な青い目だけは、凄い速さで本の上を動き回っていたのだが・・・。
レイサスは、彼女が自分の存在に全く気付かないことに戸惑った。肘がぶつかりそうな程の距離感で座ってしまったのに、相手は期待した行動を取ってくれないのだ。他にも席はたくさんあるというのに・・・。
このままでは、自分が気持ち悪い奴と思われるのではないだろうかと心配にもなってきた。やはり自分が違う場所に移るべきなのだろうか・・・。レイサスは、あれこれ考えすぎて、本を開いていても全く集中できない上に、彼女から漂ってくる香水でもない優しい花のような香りを感じ、どうしてもチラチラと彼女を意識してしまうのだった。
本を読み終わったらしい彼女が静かに本を閉じた。満足そうに口角を上げたかと思うと、
「っ!?」
と、声にならない悲鳴を上げ、こちらを見てガタっとのけ反ったことがわかった。
(今、気付いたのか・・・。)
気付いたのなら、このまま違う場所に移ってくれと思いながら、レイサスは彼女の存在を無視した。驚いた彼女は、しばらく固まったままレイサスを凝視していた。
(いいから、早くこの場所から消えてくれ。)
しかし、レイサスの期待は裏切られることになった。不躾にレイサスを観察した後、彼女は澄ました顔で机に置いてあったもう一冊の本を読み始めたのだ。
(おい、嘘だろう?何故、ここに留まる!?)
人気のない場所で、二人のこの距離感。それは、まるで親しい友人か恋人のようで、さすがのレイサスも、その無表情の裏で変な汗をかいていた。
しかし、そんなことが三日も続くと慣れてしまうものなのか、不思議と気にならなくなった。彼女は、自分と同じだったのだ。ただ本が好きなだけで、この場所も好きなのだろう。そして、一つ確かなことがあるとすれば、誰も寄り付かないレイサスから、彼女は離れて行かない人だということだ。
本を読みながら、たまに目線を横に持っていくと、綺麗な金色の髪を耳にかけ、真剣な眼差しで本を見つめている。眉間に皺を寄せている所を見ると、物語は難しい場面に差し掛かっているのだろうか。レイサスは、彼女につられて自分の眉間にも皺が寄っていることに気付いて、面白いなと口元を緩めた。
彼女が居ない日は、いつ来るのだろうと、物音がする度に気になって本に集中できなかった。もう、来ないのかもしれないと思ったら、何故だか気持ちが暗くなったし、次の日、彼女が座っているのを見るとほっと気持ちが軽くなった。
彼女が、初めてフローレンスと名乗った時、レイサスは既にフローレンスのことを知っていた。貴族の間では、悪い少女の代表のように名を轟かせていたのが、まさか毎日自分の隣で本を読んでいる彼女だと知った時、レイサスは、どの角度から見たらあんな悪い噂が立つのか本気で首を傾げてしまった。
そもそもレイサスの知る彼女は、本に夢中になると、ここが学園の図書室だということも忘れる程、緊張感がないのだ。いきなり立ち上がったかと思えば、普通に尻を掻き、隣に座っていたレイサスをぎょっとさせるような女の子なのだから。
フローレンスは、レイサスを拒まなかった。彼がいきなり話しかけてきても、フローレンスの腕を引いて手を繋いでも。驚いたり戸惑った顔はしていたが、彼女は笑いながらレイサスの名を呼んだのだ。レイサスから離れようと、図書室に来なくなったフローレンスに怒りをぶつけ、強引に抱きしめた時も、好きな気持ちを抑えられず口づけをしてしまった時も、フローレンスは全て受け入れてくれた。
1
あなたにおすすめの小説
チョイス伯爵家のお嬢さま
cyaru
恋愛
チョイス伯爵家のご令嬢には迂闊に人に言えない加護があります。
ポンタ王国はその昔、精霊に愛されし加護の国と呼ばれておりましたがそれももう昔の話。
今では普通の王国ですが、伯爵家に生まれたご令嬢は数百年ぶりに加護持ちでした。
産まれた時は誰にも気が付かなかった【営んだ相手がタグとなって確認できる】トンデモナイ加護でした。
4歳で決まった侯爵令息との婚約は苦痛ばかり。
そんな時、令嬢の言葉が引き金になって令嬢の両親である伯爵夫妻は離婚。
婚約も解消となってしまいます。
元伯爵夫人は娘を連れて実家のある領地に引きこもりました。
5年後、王太子殿下の側近となった元婚約者の侯爵令息は視察に来た伯爵領でご令嬢とと再会します。
さて・・・どうなる?
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない
紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。
完結済み。全19話。
毎日00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
【完結】小公爵様の裏の顔をわたしだけが知っている
おのまとぺ
恋愛
公爵令息ルシアン・ド・ラ・パウルはいつだって王国の令嬢たちの噂の的。見目麗しさもさることながら、その立ち居振る舞いの上品さ、物腰の穏やかさに女たちは熱い眼差しを向ける。
しかし、彼の裏の顔を知る者は居ない。
男爵家の次女マリベルを除いて。
◇素直になれない男女のすったもんだ
◇腐った令嬢が登場したりします
◇50話完結予定
2025.2.14
タイトルを変更しました。(完結済みなのにすみません、ずっとモヤモヤしていたので……!)
蝋燭
悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。
それは、祝福の鐘だ。
今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。
カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。
彼女は勇者の恋人だった。
あの日、勇者が記憶を失うまでは……
妹の身代わりに殺戮の王太子に嫁がされた忌み子王女、実は妖精の愛し子でした。嫁ぎ先でじゃがいもを育てていたら、殿下の溺愛が始まりました・長編版
まほりろ
恋愛
国王の愛人の娘であるアリアベルタは、母親の死後、王宮内で放置されていた。
食事は一日に一回、カビたパンやまふ腐った果物、生のじゃがいもなどが届くだけだった。
しかしアリアベルタはそれでもなんとか暮らしていた。
アリアベルタの母親は妖精の村の出身で、彼女には妖精がついていたのだ。
その妖精はアリアベルタに引き継がれ、彼女に加護の力を与えてくれていた。
ある日、数年ぶりに国王に呼び出されたアリアベルタは、異母妹の代わりに殺戮の王子と二つ名のある隣国の王太子に嫁ぐことになり……。
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※小説家になろうとカクヨムにも投稿しています。
※中編を大幅に改稿し、長編化しました。2025年1月20日
※長編版と差し替えました。2025年7月2日
※コミカライズ化が決定しました。商業化した際はアルファポリス版は非公開に致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる