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弟の心配事
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「え?・・・シオンが?」
「うん。すっごい美貌で周りのご令嬢を失神に追い込んでいたわ。」
そう言うと、ルーナは澄ました顔でフローレンスの部屋のテーブルからカップを手に取ると、紅茶を一口飲んだ。
「あはは・・・失神に追い込むって・・・。それは、それは・・・さすがシオン。でも、シオンがお茶会に出席するなんてねぇー・・・。あー・・・もしかして、私の母親も一緒だった?」
「いえ、お母様は、いらしてないと思ったけれど・・・。」
「そう・・・。」
(この流れは、またあの母親が!! しかも、今度はシオンの婚約者探しを始めたのかも・・・。)
フローレンスは、そう瞬時に思いついたのだが、話を聞く限り母はお茶会には参加していないらしい。
「お宅の王子様がね、わざわざ私にも挨拶に来てくれたのよ。私、フローレンスと友人なのって言ったら、少し驚いた顔をしていたけれど、随分喜んでくれたわ。本当に笑顔の素敵な好青年よねー。」
「え?なになに?フローレンスの弟さんのお話?」
先ほどまで、フローレンスのベッドでうたた寝していたキャシーが、むくりと起き上がったかと思うと、獲物を狙う猫のような目でこちらを見ている。
「そう、聞いてキャシー! もー!キラキラのピカピカ!所作も完璧、笑顔も完璧、彼は、まるで王子様よ!」
「ふぇーー!?すごーい! ねぇ、フローレンス、私も是非お会いしたいわ!」
キャシーは、ベッドにちょこんと座り直すと、両手を組み合わせて目をキラキラさせている。
すると、フローレンスは天井に届く勢いで鼻を上に向けた。
「ふふん!!シオンは、私の自慢の弟ですのよ!それに、キラキラなのは顔だけじゃあなくってよ!頭脳も性格も誰にも負けませんことよ!! おーほっほっ!!」
「その上姉思いで!・・・ね・・・うん・・・まあね・・・。」
勢いよく弟自慢をしていたフローレンスだったが、話の途中から急に情けない顔で口ごもるので、それまで呆れながら聞いていたルーナとキャシーは急に心配になった。
「え?なに?どうしたの?」
「フローレンス?」
「・・・・・・・。」
「ちょっと、何?いきなりどうしたのよー?」
「いえね、ちょっと、最近・・・、愛する弟の役に立つどころか、心配ばかりかけてしまってるなぁと思って・・・。私も、子供の時はそれなりに役に立っていたはずなんだけどね・・・。私は何も変わらないのに、弟はどんどん素敵な大人に成長してゆくものだから・・・。」
姉さん、寂しい・・・と、両手で顔を抑え落ち込むフローレンスを横目に見て、ルーナはそんなことかと小さく息を吐いた。
「迷惑をかけているかは知らないけど、確かにお姉様を心配しているのは間違いなさそうよ?学園での貴女の様子を随分と真剣に聞いていたもの。」
「え・・・? そうなの?」
「ええ、おかげで誰よりも彼とたくさんお話が出来て幸せだったわ。」
「ええー!?ルーナばっかり、ずるいー!私も、私もたくさんお話したいー!!」
「でも、残念なことに、話題は、この姉さんの話ばかりだったわよ?」
ルーナが今度は大きな溜息をついた。
「ああ、なんてことかしら・・・シオンってば・・・。そんなに心配しなくても、姉さんだってちゃんと一人でやれているのよ。これじゃあ、役立たずどころか、足手まといじゃないの・・・。」
自分の知らない所で、シオンがそんなに心配してくれていたのかと思うと、フローレンスの大げさに落ち込んだ姿も、いよいよ本物になってきたのだった。
「ねぇ、フローレンス。貴女、ご家族にクレイズ様のことは話してないの?」
ルーナが、先ほどとは違う真面目な顔で聞いてきた。
「あ・・・、話すって言っても、別に婚約者って訳でもないし、話しようがないと言うか・・・。それに、レイはクレイズ公爵家の令息だし、かたや私は平民出身なわけだから・・・、こればっかりは、相手のご家族のこともあるわけだしね・・・。」
ルーナから視線を逸らし、目を泳がせながらなんとか説明するフローレンスだったが、全部聞かなくてもルーナとキャシーには、フローレンスの言いたいことがすぐに理解できた。
自分達はそれほど気にならないことでも、今の貴族社会では、暗黙の了解とばかりに本人達の気持ちを無視した「許されない関係」と言うものが確かに存在するからだ。それを考えると、相手が高位貴族、元平民で悪い噂のフローレンス、しかも婚約を解消したばかりの傷物とくれば、フローレンスが家族にも言わず、静かにしている理由も分かる。
(でも、クレイズ様の話をした時の彼の顔・・・。)
ルーナは、一瞬シオンが見せたあまりにも鋭い視線を思い出して、知らないうちに自分の腕を擦っていた。その顔は、直ぐに美しい微笑みに戻ったけれど、それもまた氷のように冷たいものに変わっていたのだった。
「うん。すっごい美貌で周りのご令嬢を失神に追い込んでいたわ。」
そう言うと、ルーナは澄ました顔でフローレンスの部屋のテーブルからカップを手に取ると、紅茶を一口飲んだ。
「あはは・・・失神に追い込むって・・・。それは、それは・・・さすがシオン。でも、シオンがお茶会に出席するなんてねぇー・・・。あー・・・もしかして、私の母親も一緒だった?」
「いえ、お母様は、いらしてないと思ったけれど・・・。」
「そう・・・。」
(この流れは、またあの母親が!! しかも、今度はシオンの婚約者探しを始めたのかも・・・。)
フローレンスは、そう瞬時に思いついたのだが、話を聞く限り母はお茶会には参加していないらしい。
「お宅の王子様がね、わざわざ私にも挨拶に来てくれたのよ。私、フローレンスと友人なのって言ったら、少し驚いた顔をしていたけれど、随分喜んでくれたわ。本当に笑顔の素敵な好青年よねー。」
「え?なになに?フローレンスの弟さんのお話?」
先ほどまで、フローレンスのベッドでうたた寝していたキャシーが、むくりと起き上がったかと思うと、獲物を狙う猫のような目でこちらを見ている。
「そう、聞いてキャシー! もー!キラキラのピカピカ!所作も完璧、笑顔も完璧、彼は、まるで王子様よ!」
「ふぇーー!?すごーい! ねぇ、フローレンス、私も是非お会いしたいわ!」
キャシーは、ベッドにちょこんと座り直すと、両手を組み合わせて目をキラキラさせている。
すると、フローレンスは天井に届く勢いで鼻を上に向けた。
「ふふん!!シオンは、私の自慢の弟ですのよ!それに、キラキラなのは顔だけじゃあなくってよ!頭脳も性格も誰にも負けませんことよ!! おーほっほっ!!」
「その上姉思いで!・・・ね・・・うん・・・まあね・・・。」
勢いよく弟自慢をしていたフローレンスだったが、話の途中から急に情けない顔で口ごもるので、それまで呆れながら聞いていたルーナとキャシーは急に心配になった。
「え?なに?どうしたの?」
「フローレンス?」
「・・・・・・・。」
「ちょっと、何?いきなりどうしたのよー?」
「いえね、ちょっと、最近・・・、愛する弟の役に立つどころか、心配ばかりかけてしまってるなぁと思って・・・。私も、子供の時はそれなりに役に立っていたはずなんだけどね・・・。私は何も変わらないのに、弟はどんどん素敵な大人に成長してゆくものだから・・・。」
姉さん、寂しい・・・と、両手で顔を抑え落ち込むフローレンスを横目に見て、ルーナはそんなことかと小さく息を吐いた。
「迷惑をかけているかは知らないけど、確かにお姉様を心配しているのは間違いなさそうよ?学園での貴女の様子を随分と真剣に聞いていたもの。」
「え・・・? そうなの?」
「ええ、おかげで誰よりも彼とたくさんお話が出来て幸せだったわ。」
「ええー!?ルーナばっかり、ずるいー!私も、私もたくさんお話したいー!!」
「でも、残念なことに、話題は、この姉さんの話ばかりだったわよ?」
ルーナが今度は大きな溜息をついた。
「ああ、なんてことかしら・・・シオンってば・・・。そんなに心配しなくても、姉さんだってちゃんと一人でやれているのよ。これじゃあ、役立たずどころか、足手まといじゃないの・・・。」
自分の知らない所で、シオンがそんなに心配してくれていたのかと思うと、フローレンスの大げさに落ち込んだ姿も、いよいよ本物になってきたのだった。
「ねぇ、フローレンス。貴女、ご家族にクレイズ様のことは話してないの?」
ルーナが、先ほどとは違う真面目な顔で聞いてきた。
「あ・・・、話すって言っても、別に婚約者って訳でもないし、話しようがないと言うか・・・。それに、レイはクレイズ公爵家の令息だし、かたや私は平民出身なわけだから・・・、こればっかりは、相手のご家族のこともあるわけだしね・・・。」
ルーナから視線を逸らし、目を泳がせながらなんとか説明するフローレンスだったが、全部聞かなくてもルーナとキャシーには、フローレンスの言いたいことがすぐに理解できた。
自分達はそれほど気にならないことでも、今の貴族社会では、暗黙の了解とばかりに本人達の気持ちを無視した「許されない関係」と言うものが確かに存在するからだ。それを考えると、相手が高位貴族、元平民で悪い噂のフローレンス、しかも婚約を解消したばかりの傷物とくれば、フローレンスが家族にも言わず、静かにしている理由も分かる。
(でも、クレイズ様の話をした時の彼の顔・・・。)
ルーナは、一瞬シオンが見せたあまりにも鋭い視線を思い出して、知らないうちに自分の腕を擦っていた。その顔は、直ぐに美しい微笑みに戻ったけれど、それもまた氷のように冷たいものに変わっていたのだった。
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