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思わぬ歓迎
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その日の放課後、邸へ戻るいつもの馬車には、少し緊張気味のヴィスタが、背筋を伸ばし畏まって座っていた。目の前には、にこにこと微笑むエステルダが、少しでも気を楽にしてもらおうと、話題を見つけては一生懸命に話しかけていた。
(ヴィスタ様・・・、いつもの笑顔が消えてますのね。とても緊張されていて見ているこちらも辛いところですが・・・、真顔で外の景色を眺める憂いを帯びた眼差しが、最高に素敵ですわ・・・。なんて美しい横顔・・・ああ、鼻血出そう。)
エステルダは、勇気づける意味を込めて自分の手を伸ばすと、ヴィスタの手の上にそっと重ねた。
「そんなに心配されなくても大丈夫ですわ。理由は分かりませんが、反対しているのは父だけです。その父は、きっと顔を出さないと思いますので、どうか、お気を楽にしてくださいな。母は、お二人に会うのをとても楽しみにしていますのよ?昨日も、お二人にお出しするお菓子を一人で長い時間をかけて悩んでおりましたわ。」
なんとか心配を取り除こうと、あれもこれもと話しかけるエステルダは、自分でも気付かないうちにヴィスタの両手をしっかり包み込んでおり、今やヴィスタよりも心配しているように見える。そんなエステルダの優しさに目を細めたヴィスタは、「ありがとう。」と、優しく微笑むと、その手を口元へ持ってゆき、そっと感謝の口付けを捧げた。
一方、ロゼット公爵家へ向かうもう一台の馬車の中では、心配そうに様子を伺うレナートの膝の上で、大切に抱え込まれた真っ青な顔のアリッサがピクリとも動かず石像のように固まっていたのだった。
ロゼット公爵家に着いたアリッサとヴィスタは、着いて早々、これは住んでいる世界が違うと、大き過ぎる立派なお屋敷に目を瞠りながら、場違いな場所に来てしまったことを後悔していた。
「ヴィスタ・・・あの石像の馬、羽が生えてる。 ユニコーンよ。」
「うん、ペガサス。・・・言うと思ったよ。」
「乗ったら怒られるかしら・・・。」
「やめて。」
「ヴィスタ、噴水よ。大きいわね・・・。」
「ああ。うちにあるのは畑だものね・・・。」
「まるでお城みたいね。使用人、何人いるのかしら・・・。あの花瓶、倒して割ったら、きっと死ぬまでただ働きだわ・・・。ヴィスタ、私、怖い。歩いてでもいいから、もう帰りたい。」
「姉さん、泣かない・・・。」
しかし、そんな気後れした二人とは逆に、迎え入れてくれたロゼット公爵夫人を始め使用人達の歓迎ぶりは驚く程に熱烈で、夫人は二人の姿を見るなり挨拶も忘れ、両手を広げて抱擁しようと駆け寄り、エステルダとレナートに止められていたし、なぜか二人の姿を一目見ようと、あちこちから顔を覗かせた使用人が、頬を染めてうっとりと目を細めているのがやたらと視界の隅に入って来た。
実は、彼らは毎日のように父親の説得を試みるレナートとエステルダを陰ながら応援しているメイドや使用人達であった。それもこれも、彼らの間で噂される身分違いの純粋な恋物語が、様々な尾ひれを付けながら邸内を泳ぎ回った結果であった。
使用人達の間では、叶わぬ恋に立ち向かうレナートとエステルダを応援する者が日増しに増えていた。しかも、星飾りのお祭で護衛にあたった騎士によって、二人の祖父が国の英雄ロックナートだと知らされた上に、美しい桃色の髪に緑の瞳が印象的な稀にみる美男美女の姉弟であることが追加されると、その噂はまるで夢物語のように使用人達を魅了し、結婚後はレナートとエステルダ、どちらの家に誰が仕えるだの、桃色頭の赤ちゃんのお世話を誰がするのかなど、無駄な揉め事をおこしたりするほど、アリッサとヴィスタの邸内での人気は凄まじいものになっていた。
そんなことなど露ほども知らないアリッサとヴィスタは、案内された美しい庭園で、見たこともないほどの豪華なお茶菓子を前に畏まって座っていた。
ニコニコと可愛らしく微笑むロゼット公爵夫人にお茶とお菓子を勧められるが、さすがにアリッサもヴィスタも緊張しすぎてピクリとも動けなかった。しかし、そんな二人とは逆にどこか嬉しそうなレナートは、甲斐甲斐しくお菓子を取り分け、アリッサに寄り添いながら、手ずから食べさせようとして、彼女を困らせていたし、全く喜びを隠せないエステルダに至っては、ヴィスタの椅子と自分の椅子をピッタリとくっ付けて、彼をうっとりと見上げながら、その手を握って離さなかった。
そんな見たこともない娘と息子の様子を見た夫人は、可笑しそうに口に手を当ててクスクスと笑っていた。
「貴方達、我が家に招待できて嬉しいのは分かりますが、もう少し自分の気持ちを抑えなさいな。アリッサさんとヴィスタさんのお顔が困り果てていますわよ?」
その言葉にアリッサとヴィスタは、眉根を下げて困ったように笑うしかなかった。
「お二人の髪のお色は、お母様と一緒ですわね。そして、瞳はお父様のお色。もう何年もお会いしていませんが、わたくしね、ご両親には何度かご挨拶させていただいていますのよ。初めてお二人を拝見した時は、その美しさに誰もが目を見張ったものですわ。貴方達は、当時のお父様とお母様に本当によく似ていらっしゃる。そして、ロックナート様にも・・・。おじい様はお元気でいらっしゃいますか?」
「祖父をご存知なのですか?」
(ヴィスタ様・・・、いつもの笑顔が消えてますのね。とても緊張されていて見ているこちらも辛いところですが・・・、真顔で外の景色を眺める憂いを帯びた眼差しが、最高に素敵ですわ・・・。なんて美しい横顔・・・ああ、鼻血出そう。)
エステルダは、勇気づける意味を込めて自分の手を伸ばすと、ヴィスタの手の上にそっと重ねた。
「そんなに心配されなくても大丈夫ですわ。理由は分かりませんが、反対しているのは父だけです。その父は、きっと顔を出さないと思いますので、どうか、お気を楽にしてくださいな。母は、お二人に会うのをとても楽しみにしていますのよ?昨日も、お二人にお出しするお菓子を一人で長い時間をかけて悩んでおりましたわ。」
なんとか心配を取り除こうと、あれもこれもと話しかけるエステルダは、自分でも気付かないうちにヴィスタの両手をしっかり包み込んでおり、今やヴィスタよりも心配しているように見える。そんなエステルダの優しさに目を細めたヴィスタは、「ありがとう。」と、優しく微笑むと、その手を口元へ持ってゆき、そっと感謝の口付けを捧げた。
一方、ロゼット公爵家へ向かうもう一台の馬車の中では、心配そうに様子を伺うレナートの膝の上で、大切に抱え込まれた真っ青な顔のアリッサがピクリとも動かず石像のように固まっていたのだった。
ロゼット公爵家に着いたアリッサとヴィスタは、着いて早々、これは住んでいる世界が違うと、大き過ぎる立派なお屋敷に目を瞠りながら、場違いな場所に来てしまったことを後悔していた。
「ヴィスタ・・・あの石像の馬、羽が生えてる。 ユニコーンよ。」
「うん、ペガサス。・・・言うと思ったよ。」
「乗ったら怒られるかしら・・・。」
「やめて。」
「ヴィスタ、噴水よ。大きいわね・・・。」
「ああ。うちにあるのは畑だものね・・・。」
「まるでお城みたいね。使用人、何人いるのかしら・・・。あの花瓶、倒して割ったら、きっと死ぬまでただ働きだわ・・・。ヴィスタ、私、怖い。歩いてでもいいから、もう帰りたい。」
「姉さん、泣かない・・・。」
しかし、そんな気後れした二人とは逆に、迎え入れてくれたロゼット公爵夫人を始め使用人達の歓迎ぶりは驚く程に熱烈で、夫人は二人の姿を見るなり挨拶も忘れ、両手を広げて抱擁しようと駆け寄り、エステルダとレナートに止められていたし、なぜか二人の姿を一目見ようと、あちこちから顔を覗かせた使用人が、頬を染めてうっとりと目を細めているのがやたらと視界の隅に入って来た。
実は、彼らは毎日のように父親の説得を試みるレナートとエステルダを陰ながら応援しているメイドや使用人達であった。それもこれも、彼らの間で噂される身分違いの純粋な恋物語が、様々な尾ひれを付けながら邸内を泳ぎ回った結果であった。
使用人達の間では、叶わぬ恋に立ち向かうレナートとエステルダを応援する者が日増しに増えていた。しかも、星飾りのお祭で護衛にあたった騎士によって、二人の祖父が国の英雄ロックナートだと知らされた上に、美しい桃色の髪に緑の瞳が印象的な稀にみる美男美女の姉弟であることが追加されると、その噂はまるで夢物語のように使用人達を魅了し、結婚後はレナートとエステルダ、どちらの家に誰が仕えるだの、桃色頭の赤ちゃんのお世話を誰がするのかなど、無駄な揉め事をおこしたりするほど、アリッサとヴィスタの邸内での人気は凄まじいものになっていた。
そんなことなど露ほども知らないアリッサとヴィスタは、案内された美しい庭園で、見たこともないほどの豪華なお茶菓子を前に畏まって座っていた。
ニコニコと可愛らしく微笑むロゼット公爵夫人にお茶とお菓子を勧められるが、さすがにアリッサもヴィスタも緊張しすぎてピクリとも動けなかった。しかし、そんな二人とは逆にどこか嬉しそうなレナートは、甲斐甲斐しくお菓子を取り分け、アリッサに寄り添いながら、手ずから食べさせようとして、彼女を困らせていたし、全く喜びを隠せないエステルダに至っては、ヴィスタの椅子と自分の椅子をピッタリとくっ付けて、彼をうっとりと見上げながら、その手を握って離さなかった。
そんな見たこともない娘と息子の様子を見た夫人は、可笑しそうに口に手を当ててクスクスと笑っていた。
「貴方達、我が家に招待できて嬉しいのは分かりますが、もう少し自分の気持ちを抑えなさいな。アリッサさんとヴィスタさんのお顔が困り果てていますわよ?」
その言葉にアリッサとヴィスタは、眉根を下げて困ったように笑うしかなかった。
「お二人の髪のお色は、お母様と一緒ですわね。そして、瞳はお父様のお色。もう何年もお会いしていませんが、わたくしね、ご両親には何度かご挨拶させていただいていますのよ。初めてお二人を拝見した時は、その美しさに誰もが目を見張ったものですわ。貴方達は、当時のお父様とお母様に本当によく似ていらっしゃる。そして、ロックナート様にも・・・。おじい様はお元気でいらっしゃいますか?」
「祖父をご存知なのですか?」
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