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弱虫に人の気持ちは分からない
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長い話が終わり、両家共に多少の疲れを感じながらの会食ではあったが、会話は殊のほか弾んでいた。
互いに椅子をくっ付け、幸せいっぱいに食事を食べさせ合う青春謳歌組を他所に、大人達の間では、若かりし頃の鬼神アーレンと英雄ロックナートの話で大いに盛り上がり、当時自分達が騎士だった時の苦労話に花を咲かせたかと思えば、銀髪でロックナートそっくりな孫が欲しいと切望するロゼット公爵夫人の物凄い意気込みに、ナーザス一家だけではなく、エステルダとレナートまでもが唖然とするのだった。
その日、アリッサ達一家は、ロゼット公爵が取ってくれた王都でも有名な高級宿に泊まることになった。夫妻の部屋とは別にアリッサとヴィスタにも、それぞれ一部屋ずつ与えられた。
部屋の真ん中に現れたキングサイズのベッドを見るなり、勢いよく飛び込んで行ったアリッサは、「凄い・・・。」 と、小声で呟いた。
「ほんとに信じられませんわ。子供のようにはしゃいでベッドに飛び込んだわりには、感想に全く気持ちがこもっていないんですもの。」
突然話しかけられたアリッサが、驚いて声の方に視線を向けると、ドアの横で呆れたような笑みを浮かべたエステルダがこちらを見ながら立っていた。
「え!?エステルダ様?・・・お帰りになったのでは?」
すると、ツカツカとベッドの側まで歩いて来たエステルダが、いきなりボフッとベッドに飛び込んで来た。寝ころんだまま、コロンと仰向けになったエステルダは、驚いて体を起こしたアリッサの顔を見ながら、ふふふっと笑った。
「こんなに広いベッド、小人のように小さなアリッサ様一人では勿体ないと思いましたの。どうせ明日もお会いすることですし、なにより、お独りでは心細いでしょう?仕方がないから一緒に泊まって差し上げますわ!」
「は?え?なぜです?せっかくこんな立派なお部屋をとって頂いたのにエステルダ様も一緒に寝るんですか?・・・いやぁ・・・ちょっと迷惑なんですけど・・・。」
「は!?なんですって!?せっかくこのわたくしがアリッサ様の為を思って、こうしてご一緒して差し上げると言っておりますのに失礼にも程がありますわよ!?もう・・・アリッサ様の意地っ張りには本当に困ったものですわ!どうせ弱虫のアリッサ様のことですから、お化けに怯えて眠れないに決まっています。素直に一緒に寝てくれてありがとうと言ってはどうですの!?」
ふん!!と、鼻を鳴らしたエステルダの顔を真顔で見つめていたアリッサだったが、何かを思いついたのか、ふふん!!と、鼻を鳴らすと蔑んだような目を向けてきた。
「また、そんなこと言って・・・・どうせ少しでもヴィスタの側にいたいなどという、下心がおありなのでしょう? 素直じゃないのはエステルダ様の方ですよ!」
その瞬間、アリッサのお腹目掛けてクッションが投げつけられた。それを咄嗟に手で掴んだアリッサは、突然何事かとエステルダを見た。
「アリッサ様が悪いのですわ!!」
そこには怒った顔のエステルダが、何故か瞳を潤ませながらアリッサを睨みつけていた。
「アリッサ様が、わたくしとレナートを捨てようとしたのです!!アリッサ様が・・・、アリッサ様が弱虫だから!!わたくし達は、何一つ諦めてなどいなかったのに!!せっかく殿下がわたくし達の願いを叶えてくださると言うのに・・・、何を偽善者ぶって領民の幸せなど望んでいるのですか!!」
エステルダは、呆然と自分を見ているアリッサに向かって、もう一つクッションを投げつけた。それをアリッサが難なく受け止めると、顔を歪めたエステルダの瞳からは、既にたくさんの涙が零れていた。
「わたくし達が、どんな思いであの舞踏会に参加したのか分かりますか!!あんな屑みたいな石をどれほど嬉しく感じたか、どれほど心の支えにしていたのか・・・、わたくし達から離れようとしていたアリッサ様には分からないでしょう!? わたくしが・・・、わたくしが自分の気持ちを無理やり押し通さなかったら、もし、貴女達のお気持ちを尊重してしまったなら!!アリッサ様とヴィスタ様は、わたくしとレナートなど直ぐに忘れて、新しい土地で幸せに暮らすのですか!?」
「姉上。」
エステルダの大きな声を遮るようにレナートの声がした。
「姉上、それではクッションが足りないでしょう?隣の部屋の分も持って来ましたよ。」
そう言ったレナートは、二つのクッションをエステルダの方へ投げてよこした。
レナートの後ろには、伏し目がちなヴィスタが、申し訳なさそうにエステルダの方を見ていた。
互いに椅子をくっ付け、幸せいっぱいに食事を食べさせ合う青春謳歌組を他所に、大人達の間では、若かりし頃の鬼神アーレンと英雄ロックナートの話で大いに盛り上がり、当時自分達が騎士だった時の苦労話に花を咲かせたかと思えば、銀髪でロックナートそっくりな孫が欲しいと切望するロゼット公爵夫人の物凄い意気込みに、ナーザス一家だけではなく、エステルダとレナートまでもが唖然とするのだった。
その日、アリッサ達一家は、ロゼット公爵が取ってくれた王都でも有名な高級宿に泊まることになった。夫妻の部屋とは別にアリッサとヴィスタにも、それぞれ一部屋ずつ与えられた。
部屋の真ん中に現れたキングサイズのベッドを見るなり、勢いよく飛び込んで行ったアリッサは、「凄い・・・。」 と、小声で呟いた。
「ほんとに信じられませんわ。子供のようにはしゃいでベッドに飛び込んだわりには、感想に全く気持ちがこもっていないんですもの。」
突然話しかけられたアリッサが、驚いて声の方に視線を向けると、ドアの横で呆れたような笑みを浮かべたエステルダがこちらを見ながら立っていた。
「え!?エステルダ様?・・・お帰りになったのでは?」
すると、ツカツカとベッドの側まで歩いて来たエステルダが、いきなりボフッとベッドに飛び込んで来た。寝ころんだまま、コロンと仰向けになったエステルダは、驚いて体を起こしたアリッサの顔を見ながら、ふふふっと笑った。
「こんなに広いベッド、小人のように小さなアリッサ様一人では勿体ないと思いましたの。どうせ明日もお会いすることですし、なにより、お独りでは心細いでしょう?仕方がないから一緒に泊まって差し上げますわ!」
「は?え?なぜです?せっかくこんな立派なお部屋をとって頂いたのにエステルダ様も一緒に寝るんですか?・・・いやぁ・・・ちょっと迷惑なんですけど・・・。」
「は!?なんですって!?せっかくこのわたくしがアリッサ様の為を思って、こうしてご一緒して差し上げると言っておりますのに失礼にも程がありますわよ!?もう・・・アリッサ様の意地っ張りには本当に困ったものですわ!どうせ弱虫のアリッサ様のことですから、お化けに怯えて眠れないに決まっています。素直に一緒に寝てくれてありがとうと言ってはどうですの!?」
ふん!!と、鼻を鳴らしたエステルダの顔を真顔で見つめていたアリッサだったが、何かを思いついたのか、ふふん!!と、鼻を鳴らすと蔑んだような目を向けてきた。
「また、そんなこと言って・・・・どうせ少しでもヴィスタの側にいたいなどという、下心がおありなのでしょう? 素直じゃないのはエステルダ様の方ですよ!」
その瞬間、アリッサのお腹目掛けてクッションが投げつけられた。それを咄嗟に手で掴んだアリッサは、突然何事かとエステルダを見た。
「アリッサ様が悪いのですわ!!」
そこには怒った顔のエステルダが、何故か瞳を潤ませながらアリッサを睨みつけていた。
「アリッサ様が、わたくしとレナートを捨てようとしたのです!!アリッサ様が・・・、アリッサ様が弱虫だから!!わたくし達は、何一つ諦めてなどいなかったのに!!せっかく殿下がわたくし達の願いを叶えてくださると言うのに・・・、何を偽善者ぶって領民の幸せなど望んでいるのですか!!」
エステルダは、呆然と自分を見ているアリッサに向かって、もう一つクッションを投げつけた。それをアリッサが難なく受け止めると、顔を歪めたエステルダの瞳からは、既にたくさんの涙が零れていた。
「わたくし達が、どんな思いであの舞踏会に参加したのか分かりますか!!あんな屑みたいな石をどれほど嬉しく感じたか、どれほど心の支えにしていたのか・・・、わたくし達から離れようとしていたアリッサ様には分からないでしょう!? わたくしが・・・、わたくしが自分の気持ちを無理やり押し通さなかったら、もし、貴女達のお気持ちを尊重してしまったなら!!アリッサ様とヴィスタ様は、わたくしとレナートなど直ぐに忘れて、新しい土地で幸せに暮らすのですか!?」
「姉上。」
エステルダの大きな声を遮るようにレナートの声がした。
「姉上、それではクッションが足りないでしょう?隣の部屋の分も持って来ましたよ。」
そう言ったレナートは、二つのクッションをエステルダの方へ投げてよこした。
レナートの後ろには、伏し目がちなヴィスタが、申し訳なさそうにエステルダの方を見ていた。
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