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ロゼット公爵家にて 3
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「私達は、戦士として育てられました。南の砦では、剣や矢に危険な物を仕込まれた際、命を落とさない為に幼い頃より耐性をつけるのです。ですから・・・お茶で薄まった―――」
「す、すまない・・・。だが、とても軽い物なんだ!自分でもこんなことは駄目だと分かっていたけれど、他に方法が思い浮かばなくて・・・、仕方がなかったんだ! アリッサ、ごめん。私は卑怯者だった・・・どうか、許してほしい。・・・でなければ、私は・・・」
(私なんかの為に、そんなに頭を下げて・・・可哀想なレナート様。貴方は何も悪くないのに・・・。)
「許すも何も・・・私は怒っていません。それに・・・、軽い物なら尚更私には効かないでしょう・・・。」
私は最後に、伏せていた瞳でしっかりレナート様と視線を合わせました。
(私の大好きなレナート様・・・。夢のような時間を本当にありがとうございました。)
「嫌な思いをさせてしまい、本当に申し訳ありませんでした。準備が整い次第、私は国を出ることに致します。婚約は王命ですが、私が居なくなってしまえば、いずれ白紙に戻ることでしょう・・・。私の出国後、どうか、ヴィスタを宜しくお願い致します。」
(今度こそ、本当のさようならです。愛していました・・・レナート様。)
部屋を出ようと立ち上がった時、突然、私の側に駆け寄って来たレナート様が、両膝を付いて頭を床に擦り付けて謝ってきたのです。
「ごめん。アリッサ、本当にごめん。どうか、許して・・・。まさか、こんなことになるなんて、国を出るなんて・・・、そんなことになるなんて思いもしなかったんだ。アリッサ、もう二度としない。こんなこと二度としないから・・・お願いだから許して。私を嫌いにならないで・・・。アリッサ、ごめん・・・。ごめん。」
レナート様は、大きな体を丸め、床の上で私の足に縋り付きながら、なぜか泣き崩れてしまいました。
なぜ追いすがるように泣いているのか理解できない私は、取りあえず怒っていないことをもう一度説明しなくてはと思い、レナート様の前に座りました。
「許して」 を繰り返すレナート様に抱きしめられると、私は相手を落ち着かせる為に彼の背に手を回しました。するとレナート様の腕の力が強まり、小さな声が聞こえました。
「アリッサ、本当にごめん・・・許してくれる?」
「はい。先ほども言いましたが、私は怒っていません。ですが、とても申し訳なく思っています。」
「アリッサは、何も悪くない・・・。」
「いいえ・・・。悪いのは私です。レナート様をここまで追い込んでしまいました。」
「違う!!悪いのは私だ!!」
「もう、いいのです。私は充分に幸せをいただきました。これからはレナート様ご自身の幸せを考えてください。今までありがとうございました。」
「くっ!」 と言う声が漏れると、レナート様の腕の力が更に強まり、私の体に痛みが走ります。
「いっ・・・、レ、ナート、様・・・」
「嫌だ!!私から離れると言うなら、このままどこかに閉じ込める。アリッサを失うくらいなら、私は何もかも捨てて犯罪に手を染めます。私が欲しいのはアリッサだけです。他には何もいらない。アリッサさえいればそれでいい。私は、アリッサを絶対に離さない!!」
「毒殺は、既に犯罪です!!」
「・・・ど?」
「くっ、・・・毒です!!」
「は?」
「骨がっ、・・・お、折れますっ!」
「はっ!!あっ、ご、ごめん、アリッサ、大丈夫ですか!?」
「・・・・・。」
(大丈夫ではありません。痛いです・・・毒殺に失敗したら今度は絞め殺すんですか・・・。)
「レナート!?先ほどから大きな声を出して、アリッサ様と喧嘩でもしてますの!?」
その時、ドアをノックする音と共にエステルダ様とヴィスタが部屋に入ってきました。
床の上で、脇腹に手を当てて呻いている私の横では、慌てふためいたレナート様が泣きながらオロオロしています。そんな私達を目にした二人は、何事かと目を瞠って立ち尽くしていました。
ふーっと息を吐いたエステルダ様が私達を立たせ、ソファーに座らせました。
「喧嘩の原因は知りませんが、アリッサ様とヴィスタ様がお泊りするせっかくの夜です。お茶でも飲んで、少し落ち着いた方がいいですわ。さあ、ヴィスタ様もこちらで一緒に頂きましょう。」
そう言ったエステルダ様が、新しいカップにお茶を注ぐと、その香りにヴィスタの眉がピクリと上がったのです。
「姉さん、これ・・・。」
ヴィスタは真面目な顔でエステルダ様からお茶を取り上げると、咎めるような厳しい目で私を見据えました。そんなヴィスタに、私は目を閉じて答えます。
「ええ、毒よ。」
「毒!?」
きょとんとした顔でヴィスタを見ていたエステルダ様が、大きな声を上げました。そして、何故か毒を仕込んだ張本人のレナート様も、目玉が飛び出るほど大きく目を見開き驚いた顔をしているのです。
「なぜ、お茶に毒なんて・・・?」
今にも泣きそうなエステルダ様に向かって、レナート様は慌てて大きな声を出しました。
「違いますっ!! 毒ではありません!!」
「す、すまない・・・。だが、とても軽い物なんだ!自分でもこんなことは駄目だと分かっていたけれど、他に方法が思い浮かばなくて・・・、仕方がなかったんだ! アリッサ、ごめん。私は卑怯者だった・・・どうか、許してほしい。・・・でなければ、私は・・・」
(私なんかの為に、そんなに頭を下げて・・・可哀想なレナート様。貴方は何も悪くないのに・・・。)
「許すも何も・・・私は怒っていません。それに・・・、軽い物なら尚更私には効かないでしょう・・・。」
私は最後に、伏せていた瞳でしっかりレナート様と視線を合わせました。
(私の大好きなレナート様・・・。夢のような時間を本当にありがとうございました。)
「嫌な思いをさせてしまい、本当に申し訳ありませんでした。準備が整い次第、私は国を出ることに致します。婚約は王命ですが、私が居なくなってしまえば、いずれ白紙に戻ることでしょう・・・。私の出国後、どうか、ヴィスタを宜しくお願い致します。」
(今度こそ、本当のさようならです。愛していました・・・レナート様。)
部屋を出ようと立ち上がった時、突然、私の側に駆け寄って来たレナート様が、両膝を付いて頭を床に擦り付けて謝ってきたのです。
「ごめん。アリッサ、本当にごめん。どうか、許して・・・。まさか、こんなことになるなんて、国を出るなんて・・・、そんなことになるなんて思いもしなかったんだ。アリッサ、もう二度としない。こんなこと二度としないから・・・お願いだから許して。私を嫌いにならないで・・・。アリッサ、ごめん・・・。ごめん。」
レナート様は、大きな体を丸め、床の上で私の足に縋り付きながら、なぜか泣き崩れてしまいました。
なぜ追いすがるように泣いているのか理解できない私は、取りあえず怒っていないことをもう一度説明しなくてはと思い、レナート様の前に座りました。
「許して」 を繰り返すレナート様に抱きしめられると、私は相手を落ち着かせる為に彼の背に手を回しました。するとレナート様の腕の力が強まり、小さな声が聞こえました。
「アリッサ、本当にごめん・・・許してくれる?」
「はい。先ほども言いましたが、私は怒っていません。ですが、とても申し訳なく思っています。」
「アリッサは、何も悪くない・・・。」
「いいえ・・・。悪いのは私です。レナート様をここまで追い込んでしまいました。」
「違う!!悪いのは私だ!!」
「もう、いいのです。私は充分に幸せをいただきました。これからはレナート様ご自身の幸せを考えてください。今までありがとうございました。」
「くっ!」 と言う声が漏れると、レナート様の腕の力が更に強まり、私の体に痛みが走ります。
「いっ・・・、レ、ナート、様・・・」
「嫌だ!!私から離れると言うなら、このままどこかに閉じ込める。アリッサを失うくらいなら、私は何もかも捨てて犯罪に手を染めます。私が欲しいのはアリッサだけです。他には何もいらない。アリッサさえいればそれでいい。私は、アリッサを絶対に離さない!!」
「毒殺は、既に犯罪です!!」
「・・・ど?」
「くっ、・・・毒です!!」
「は?」
「骨がっ、・・・お、折れますっ!」
「はっ!!あっ、ご、ごめん、アリッサ、大丈夫ですか!?」
「・・・・・。」
(大丈夫ではありません。痛いです・・・毒殺に失敗したら今度は絞め殺すんですか・・・。)
「レナート!?先ほどから大きな声を出して、アリッサ様と喧嘩でもしてますの!?」
その時、ドアをノックする音と共にエステルダ様とヴィスタが部屋に入ってきました。
床の上で、脇腹に手を当てて呻いている私の横では、慌てふためいたレナート様が泣きながらオロオロしています。そんな私達を目にした二人は、何事かと目を瞠って立ち尽くしていました。
ふーっと息を吐いたエステルダ様が私達を立たせ、ソファーに座らせました。
「喧嘩の原因は知りませんが、アリッサ様とヴィスタ様がお泊りするせっかくの夜です。お茶でも飲んで、少し落ち着いた方がいいですわ。さあ、ヴィスタ様もこちらで一緒に頂きましょう。」
そう言ったエステルダ様が、新しいカップにお茶を注ぐと、その香りにヴィスタの眉がピクリと上がったのです。
「姉さん、これ・・・。」
ヴィスタは真面目な顔でエステルダ様からお茶を取り上げると、咎めるような厳しい目で私を見据えました。そんなヴィスタに、私は目を閉じて答えます。
「ええ、毒よ。」
「毒!?」
きょとんとした顔でヴィスタを見ていたエステルダ様が、大きな声を上げました。そして、何故か毒を仕込んだ張本人のレナート様も、目玉が飛び出るほど大きく目を見開き驚いた顔をしているのです。
「なぜ、お茶に毒なんて・・・?」
今にも泣きそうなエステルダ様に向かって、レナート様は慌てて大きな声を出しました。
「違いますっ!! 毒ではありません!!」
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