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~第1章~
~第38節 闇の胎動~
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「いつも悪いわね、この日本、世界そして地球の命運は、あなた達の手にかかっているの…」
影の組織『八咫烏』の司令こと、火神タカコの命により、新しくメンバーに加わった5人+既存の2人は黒い霧の発生した日本の摩天楼【新宿】へ専用シャトルにて向かっていた。各々の心中には想い想い座席につき、窓の外を眺めていた。ただ、移動はずっと地下トンネルの中のため、見えるのは一定間隔の照明だけなので、窓は自分の好きな画像・映像などを表示できるディスプレイとなっていた。
「ねぇ…今朝の話だけど、人ならぶつかるだけで済むとは思うんだけれど、車とかバイクとかだったら、どうなるの?」
車両の向かって左側の一番奥の席に座ったセレナは、今朝の出来事について飼猫のライムにさらなる解説を求めていた。
「今朝の話かニャァ…それは、ヤバイことになるニャ」
セレナはゴクリと自分の喉がなるのがわかった。ライムはセレナの膝の上に丸くなり、片目だけを開けて見上げている。
「気が付かない場合は、誰もいないと思い、そのまま普通に突っ込んでくるニャ…」
それを聞くなり、そのシーンが脳裏に浮かび、背中にゾッと悪寒が走る。
「そ、そのまま突っ込んでくる、だなんて…」
「だから、車やバイクがたくさん通る大通りとかは、十分注意するのニャ。でも、あんまり考えすぎないことだニャァ」
それだけ言うと、ライムは開けていた片目を閉じて、2本の前足をフミフミしたあと、再びうたた寝に入る。想像したくない現実を垣間見て、それを振り払うかのように、セレナは首を左右に素早く振った。
「先輩、この3本足のカラスのデザインって、いろんなところにありましたよね?」
自分の受け取ったIDカードを見ながら、カエデは通路を挟んだ座席に座る、アギトへ問いかける。
「あぁ、そうだな。アキラのいる研究室の装置もそうだし、パソコンのOSや俺のトラックにもそれは描かれているな。これらは全部、ここの組織のバックアップした技術で造られてるのさ。ほら、この専用シャトルにもマークが描かれてただろ?」
「そうですね、それまでは、このカラスにはどんな意味があるんだろ?って思ってました。でも、それを聞いて納得しました」
よくよく見れば、シートやそここにそのマークは見て取れた。
「それにしても、まさかこんなの被って戦うだなんて、どこかの戦隊ヒーローものじゃないんだから…」
両手で持ったARヘッドセットをまじまじと眺めながら、カケルが悪態をつく。そこで先頭車両の扉が横へスーッと開き、意外にもマサキが首を伸ばし覗き込む。専用シャトルは無人の自動走行なため、本来は人が先頭の運転室には乗っていないはずなのだが。
「なんだなんだ?そりゃぁ試作品だから、不格好なのは仕方ないじゃないか…これでも開発にはいろいろと苦労したんだぞ」
まさか乗っているとは思わなかった兄の姿を見て、カケルは一瞬ビクッと首をすくめる。
「に、兄さん!いつの間に乗ってたのさ?」
「まぁ、僕は戦闘要員ではないのだが、試作品のテストの行く末がどうにも気になってね。今回は同行をさせてもらうよ」
そしておもむろにカケルの横の席へ座る。
「いろいろと不満はあるかと思うが…これはまだベータテスト版だ。だからまず、このテスト結果の如何に因らず、この試作品の改良版の手助けをしてもらいたいのさ。我が弟よ」
「この…改良版…?」
人差し指をピンと突き出し、マサキは力説する。
「そうさ、そのためにも、機能の隅々までの、良い点悪い点を良く観察しておいて欲しい」
窓の外は暗いトンネルの中を、速いスピードで白い明かりの帯が通り過ぎて行っていた。
★ ★ ★
―――時は遡り、新宿での事件発生から、およそ1時間ほど前…ロウソクの薄暗い明かりだけが照らす、古城の玉座の間に、4つの人影がある重要な話し合いをしていた。一人のフードを目深に被った初老の男が玉座に腰をかけている。その前に2人の体格の違う男が跪いて首を垂れ、そして近くの部屋の石柱に背中を預け、妖艶な雰囲気を醸し出している一人の女性が、腕組みをして跪く2人の男の言動を見守っているようだ。そこで、初老の男が口を開いてしゃがれた声でゆっくりと話し出す。
「未だ、先日の目的を達成できず、ガントの片腕まで奪われる羽目になるとはな」
名前の挙がった跪く2人のうちの一人、ガントの左腕は右腕とは違う色合いに見える。まるで違う色の岩を繋げたような具合だ。
「も、申し訳ありません。岩の硬さを誇っていた私が驕り高ぶり、油断をしていました…」
頭を上げ、ガントは岩の擦れるような低い声で謝罪と同時に、苦悶の表情を出す。そこへ隣で跪く男、カズヤはガントを横からフォローする。
「私もいながら、大変申し訳ありませんでした。次こそは…」
カズヤの話を始める途中で、初老の男がそれを遮る。
「次か…疑ってはいないが、彼女『那由他ミフユ』の手も借りるが良い」
初老の男が差し伸べた手の先にいる女性は、ミドルの銀髪に猫のような目つき、露出度が高めで妖艶な服を身に着け、タロットカードを広げて両手に持っていた。
「とうとう…あたいの手を煩わすことになるとは…ね」
しゃしゃり出てきたミフユに、露骨にイヤな顔をするカズヤ。
「別名『白虎のミフユ』か…お前の手を借りずとも…」
それを遮るようにして、ミフユは両手のタロットカードの中から、1枚の表の見えないカードをカズヤへ突き出す。
「でも、現に今、出来てないじゃない?あたいに、いい考えが、あるわ」
「くっ、こんなカードが、なんだというのだ?」
面倒くさそうに受け取り、めくると、石造りの塔が雷や嵐によって崩された絵柄のカードであった。それを見るなり、ミフユはさも嬉しそうにウフフと口角を上げ、不敵な笑みをこぼす。
「これは塔のカード。大アルカナといって、全タロットカード78枚のうち、22枚しか入っていない種類になるわ。それが出たということは、そのカードはとても強い意味が込められているの。そしてそれを意味するのは、未来に衝撃的な出来事が起こる、というものよ」
『衝撃的な』という言葉に反応し、カズヤは興味を惹かれる様にして、肩眉を吊り上げる。
「ほぅ、衝撃的とは面白い。それは、どちらにとって、どうなんだ?」
そうして塔の絵が見えるように、ミフユの眼前にサッと見せる。
「もちろん、あたい達の方の側に、良い出来事よ」
それを聞くと、同様に口角を上げて、カズヤは再び問い返す。
「それならば、詳しく聞かせてもらいたいところだな?」
★ ★ ★
―――八咫烏の東京拠点の地下に到着した専用シャトルからは、アキラ達7人に加えて非戦闘要員の御宮寺マサキが続々と自分の好きな武具を装備の上、ホームへ降り立っていく。到着より少し前、各々は自分に合った武具を、最後尾の列車の武具車両から選び、身に着けていた。お馴染みの手甲を身に着けながら、ナツミが自分たちの装備を見て、あからさまに映画館などが立ち並ぶ歓楽街の通りへ出ることに、いささかの疑問を抱いていた。
「ところで、こんないかにもな装備して出て行って、普通の人が見たら、なんの集団かと変な目で見られるんじゃないの?」
その疑問にいち早く、アキラが答える。
「それに関しては防具はともかく、みんなの持つ武器の柄には、僕の呪符魔術の『不可視』の護符を巻き付けてある。だから、一般人には見えないようになっているから、大丈夫さ」
「防具はまぁ、最近はコスプレしたままその辺を歩いている奴らも、たくさんいるだろ?だから、特にそれは問題ないのさ。誰も本物とは思わねぇだろ」
補足を入れる形で、アギトがフォローした。そして、全員がマサキから依頼された、ARヘッドセットを身に着けた。そんな中、カエデは少し顔を赤らめている。
「これ…ちょっと、このまま人前に出ると思うと、なんだか恥ずかしいです…」
「そうだね、ちょっと恥ずかしいけど…マサキさんの依頼ですもの、頑張って全うしなきゃ、ね!」
同じように恥ずかしい気持ちを気合で抑えながら、セレナはカエデを納得させてようとしていた。その反応に、マサキは大いに満足する。
「さすがは火神教授の娘さんだ。呑み込みが早い!申し訳ないけど、データ取得に協力のお願いをさせてほしい」
そうこうしているうちに、シャトルは現場に到着し、車内に自動音声でアナウンスが流れる。
《東京拠点へ到着、東京拠点へ到着。落ち着いて現場へ向かってください!》
そして車両のエアロックの扉が外側に開き、列車は車外へ出ることを促す。
「さぁ、奴さん達が、首を長くして俺たちを待ってるぜ」
アギトが皮肉たっぷりに白い歯をむき出し、黒い霧から出る魔物たちを、揶揄して見せた。
影の組織『八咫烏』の司令こと、火神タカコの命により、新しくメンバーに加わった5人+既存の2人は黒い霧の発生した日本の摩天楼【新宿】へ専用シャトルにて向かっていた。各々の心中には想い想い座席につき、窓の外を眺めていた。ただ、移動はずっと地下トンネルの中のため、見えるのは一定間隔の照明だけなので、窓は自分の好きな画像・映像などを表示できるディスプレイとなっていた。
「ねぇ…今朝の話だけど、人ならぶつかるだけで済むとは思うんだけれど、車とかバイクとかだったら、どうなるの?」
車両の向かって左側の一番奥の席に座ったセレナは、今朝の出来事について飼猫のライムにさらなる解説を求めていた。
「今朝の話かニャァ…それは、ヤバイことになるニャ」
セレナはゴクリと自分の喉がなるのがわかった。ライムはセレナの膝の上に丸くなり、片目だけを開けて見上げている。
「気が付かない場合は、誰もいないと思い、そのまま普通に突っ込んでくるニャ…」
それを聞くなり、そのシーンが脳裏に浮かび、背中にゾッと悪寒が走る。
「そ、そのまま突っ込んでくる、だなんて…」
「だから、車やバイクがたくさん通る大通りとかは、十分注意するのニャ。でも、あんまり考えすぎないことだニャァ」
それだけ言うと、ライムは開けていた片目を閉じて、2本の前足をフミフミしたあと、再びうたた寝に入る。想像したくない現実を垣間見て、それを振り払うかのように、セレナは首を左右に素早く振った。
「先輩、この3本足のカラスのデザインって、いろんなところにありましたよね?」
自分の受け取ったIDカードを見ながら、カエデは通路を挟んだ座席に座る、アギトへ問いかける。
「あぁ、そうだな。アキラのいる研究室の装置もそうだし、パソコンのOSや俺のトラックにもそれは描かれているな。これらは全部、ここの組織のバックアップした技術で造られてるのさ。ほら、この専用シャトルにもマークが描かれてただろ?」
「そうですね、それまでは、このカラスにはどんな意味があるんだろ?って思ってました。でも、それを聞いて納得しました」
よくよく見れば、シートやそここにそのマークは見て取れた。
「それにしても、まさかこんなの被って戦うだなんて、どこかの戦隊ヒーローものじゃないんだから…」
両手で持ったARヘッドセットをまじまじと眺めながら、カケルが悪態をつく。そこで先頭車両の扉が横へスーッと開き、意外にもマサキが首を伸ばし覗き込む。専用シャトルは無人の自動走行なため、本来は人が先頭の運転室には乗っていないはずなのだが。
「なんだなんだ?そりゃぁ試作品だから、不格好なのは仕方ないじゃないか…これでも開発にはいろいろと苦労したんだぞ」
まさか乗っているとは思わなかった兄の姿を見て、カケルは一瞬ビクッと首をすくめる。
「に、兄さん!いつの間に乗ってたのさ?」
「まぁ、僕は戦闘要員ではないのだが、試作品のテストの行く末がどうにも気になってね。今回は同行をさせてもらうよ」
そしておもむろにカケルの横の席へ座る。
「いろいろと不満はあるかと思うが…これはまだベータテスト版だ。だからまず、このテスト結果の如何に因らず、この試作品の改良版の手助けをしてもらいたいのさ。我が弟よ」
「この…改良版…?」
人差し指をピンと突き出し、マサキは力説する。
「そうさ、そのためにも、機能の隅々までの、良い点悪い点を良く観察しておいて欲しい」
窓の外は暗いトンネルの中を、速いスピードで白い明かりの帯が通り過ぎて行っていた。
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―――時は遡り、新宿での事件発生から、およそ1時間ほど前…ロウソクの薄暗い明かりだけが照らす、古城の玉座の間に、4つの人影がある重要な話し合いをしていた。一人のフードを目深に被った初老の男が玉座に腰をかけている。その前に2人の体格の違う男が跪いて首を垂れ、そして近くの部屋の石柱に背中を預け、妖艶な雰囲気を醸し出している一人の女性が、腕組みをして跪く2人の男の言動を見守っているようだ。そこで、初老の男が口を開いてしゃがれた声でゆっくりと話し出す。
「未だ、先日の目的を達成できず、ガントの片腕まで奪われる羽目になるとはな」
名前の挙がった跪く2人のうちの一人、ガントの左腕は右腕とは違う色合いに見える。まるで違う色の岩を繋げたような具合だ。
「も、申し訳ありません。岩の硬さを誇っていた私が驕り高ぶり、油断をしていました…」
頭を上げ、ガントは岩の擦れるような低い声で謝罪と同時に、苦悶の表情を出す。そこへ隣で跪く男、カズヤはガントを横からフォローする。
「私もいながら、大変申し訳ありませんでした。次こそは…」
カズヤの話を始める途中で、初老の男がそれを遮る。
「次か…疑ってはいないが、彼女『那由他ミフユ』の手も借りるが良い」
初老の男が差し伸べた手の先にいる女性は、ミドルの銀髪に猫のような目つき、露出度が高めで妖艶な服を身に着け、タロットカードを広げて両手に持っていた。
「とうとう…あたいの手を煩わすことになるとは…ね」
しゃしゃり出てきたミフユに、露骨にイヤな顔をするカズヤ。
「別名『白虎のミフユ』か…お前の手を借りずとも…」
それを遮るようにして、ミフユは両手のタロットカードの中から、1枚の表の見えないカードをカズヤへ突き出す。
「でも、現に今、出来てないじゃない?あたいに、いい考えが、あるわ」
「くっ、こんなカードが、なんだというのだ?」
面倒くさそうに受け取り、めくると、石造りの塔が雷や嵐によって崩された絵柄のカードであった。それを見るなり、ミフユはさも嬉しそうにウフフと口角を上げ、不敵な笑みをこぼす。
「これは塔のカード。大アルカナといって、全タロットカード78枚のうち、22枚しか入っていない種類になるわ。それが出たということは、そのカードはとても強い意味が込められているの。そしてそれを意味するのは、未来に衝撃的な出来事が起こる、というものよ」
『衝撃的な』という言葉に反応し、カズヤは興味を惹かれる様にして、肩眉を吊り上げる。
「ほぅ、衝撃的とは面白い。それは、どちらにとって、どうなんだ?」
そうして塔の絵が見えるように、ミフユの眼前にサッと見せる。
「もちろん、あたい達の方の側に、良い出来事よ」
それを聞くと、同様に口角を上げて、カズヤは再び問い返す。
「それならば、詳しく聞かせてもらいたいところだな?」
★ ★ ★
―――八咫烏の東京拠点の地下に到着した専用シャトルからは、アキラ達7人に加えて非戦闘要員の御宮寺マサキが続々と自分の好きな武具を装備の上、ホームへ降り立っていく。到着より少し前、各々は自分に合った武具を、最後尾の列車の武具車両から選び、身に着けていた。お馴染みの手甲を身に着けながら、ナツミが自分たちの装備を見て、あからさまに映画館などが立ち並ぶ歓楽街の通りへ出ることに、いささかの疑問を抱いていた。
「ところで、こんないかにもな装備して出て行って、普通の人が見たら、なんの集団かと変な目で見られるんじゃないの?」
その疑問にいち早く、アキラが答える。
「それに関しては防具はともかく、みんなの持つ武器の柄には、僕の呪符魔術の『不可視』の護符を巻き付けてある。だから、一般人には見えないようになっているから、大丈夫さ」
「防具はまぁ、最近はコスプレしたままその辺を歩いている奴らも、たくさんいるだろ?だから、特にそれは問題ないのさ。誰も本物とは思わねぇだろ」
補足を入れる形で、アギトがフォローした。そして、全員がマサキから依頼された、ARヘッドセットを身に着けた。そんな中、カエデは少し顔を赤らめている。
「これ…ちょっと、このまま人前に出ると思うと、なんだか恥ずかしいです…」
「そうだね、ちょっと恥ずかしいけど…マサキさんの依頼ですもの、頑張って全うしなきゃ、ね!」
同じように恥ずかしい気持ちを気合で抑えながら、セレナはカエデを納得させてようとしていた。その反応に、マサキは大いに満足する。
「さすがは火神教授の娘さんだ。呑み込みが早い!申し訳ないけど、データ取得に協力のお願いをさせてほしい」
そうこうしているうちに、シャトルは現場に到着し、車内に自動音声でアナウンスが流れる。
《東京拠点へ到着、東京拠点へ到着。落ち着いて現場へ向かってください!》
そして車両のエアロックの扉が外側に開き、列車は車外へ出ることを促す。
「さぁ、奴さん達が、首を長くして俺たちを待ってるぜ」
アギトが皮肉たっぷりに白い歯をむき出し、黒い霧から出る魔物たちを、揶揄して見せた。
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