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第13話 殺し屋ロフィという男

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まずは現状の把握といこう。

俺は工場内部の潜入に成功した。

見張りらしき人物はいない。
皆、忙しそうに木の箱を運んでいる。
いよいよ、良からぬことをしている。

少しばかり大きい木の箱を運んでいる前を行く3人。
その右側を担当している男が木の箱を叩く。

仮に中に物が入っているならそんなことする必要があるか?

同じように左側の男も叩く。

そして不気味ににやつく。

ああ、そうか。
中にいるんだな?

モンスターに変えられた人間が。

確証はまだない。

だから、それを得るまでは、まだ騒ぎは起こしたくはなかったーー

「大丈夫か!?」

木の箱を運んでいた右側の男が脚を押さえる。
それと同時に体制を崩して、木の箱が下に落下する。

“バレットサイレンス”の機能を作動し、無音状態で右側の男の脚を撃ってやった。

「ビンゴ」

落下した衝撃で木の箱がつぶれ、中から犬の耳を生やした半獣が見える。

「まずいぞ! こんなところ見られたら、ボスに何て言われるか! 急げ!」

「あぁぁ」

両耳を掴まれ、強引に別の木の箱に男は入れる。

再びーー

「いてええええ!! クソッ! 誰かいやがる!」

残りの2人の男の脚も狙撃。
内1人はよほど痛かったのか、声すら出ないようで、撃たれた箇所を押さえている。

3人共、あたりを見渡す。

俺の位置が分からないようで、何やら話し始めた。

そうだ。怯えろ。

殺し屋がやって来たと。

そして、何処かにいるであろうルアードと、そのボスとやらに伝えろ。

そもそも、お前らのとこのマントがこの場所を俺に伝えた。
俺が来ることなど重々承知だろう。
それを知らないということは下っ端か、雇われた運び屋ってとこか?

3人の男は、半獣の入った木の箱を置いてその場から去ってしまった。

こんな場所に放り出して。
ボスにどやされないか?

まあ、俺には関係ない。

木の箱に飛び乗り、上部についてある鍵を回して開く。

そこにはぐったりとしている半獣が底でうずくまっている。

「おい」

そう言って呼びかけてみる。

だが、反応はない。

こんな短い手足だ。

木の箱の角に乗って覗き込むしか出来ない。

どうしたものか。
こんな半獣がいたんだ。
他にもこの工場の何処かにいそうだ。

ただ、せっかく3人の男の手から解放された。
何処か隠れられる場所に。

工場の中は、通路と、そしてシンプルな作りをしたドアが複数。
鉄のドア。
開いて中に人がいたら面倒だ。

流石に子竜の姿では重い。
半獣を背負って通路を進んで行く。

「ここで待ってろ」

目立たない場所に半獣を下ろしてそう言った。
半獣は元気のない表情でゆっくりと頭を縦に振った。
まだ子供だろうか?

小さく、息が小さい。
ぐったりとし、恐らく、モンスターになる薬を打たれてから時間はさほど立っていないのだろう。

もう一度、半獣の子の状態を確認する。
目を瞑り、ゆっくりと、ゆっくりと小さな呼吸をする。

心配だが、行こう。

此処に俺が居ても、事態は解決しない。

辺りを見回して、人がいないこと確認して走って行く。

工場というからには、もっと機械的なものが置かれていると思っていたがそうでもない。
特に怪しい物も置かれていない。
工場内を清掃するのか、箒とちりとりが角に置いてある。
綺麗にすることはいいことだが、やっていることはクズ以下だ。

道すがら上や左右を確認する。
ごうごうと工場内を換気している空調設備がある。
そのせいか、工場内の音が聞こえずらい。

だが、微かに聞こえる音。
俺は聞き逃さなかった。

今、走っている遠くの方で、何かが固い物を蹴るような音。

機械的な音ではなく、決まったリズムではない。

監視カメラらしきものは……ない。

一気に突っ走ろう。
もたもたしていたら、ローサに何を言われるか。

俺がこの工場に来たことで、恐らくモンスターにはされていないとは思うが。
ただ、ローサがいなければ、この工場に来れなかったかもしれない。
マメルの町にルアードがいると教えてくれたセフ婆に会えたのも、ローサに出会ったから。

……さて、この工場の何処にいる?

さっきの半獣の子のように、モンスターに変えられた人間もいるかもしれない。
多少労力は増えてしまったが、ローサだけ助けても後味が悪い。

……それに、俺はモンスターにされた人間を撃った。

だからって、許してほしいという理由で動く気もない。

償い。

俺は殺める必要のなかった命を奪った。

だから、俺は助けよう。

二度と、俺が犯した惨劇を生まないように。

「……これは」

走りを進める中、『リターンH』と書いてある小瓶を見つけた。

リターン……戻るH?

H……H……

考える必要なんてなかった。

此処で人間をモンスターにしているのなら、この『リターンH』と書かれている小瓶は、文字通り戻るんだ。

H……ヒューマンに。

俺は小瓶の蓋を開けて一気に飲んだ。



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