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第2話『物を持っている時は、両手を空に挙げないようにしましょう。』の巻。
しおりを挟む閑散とした雰囲気を持つとある森の中、突如として地面に魔法陣が展開された。
ぼんやりと発光していたそれは、回転しながら発光を強めていき、やがて辺りを強い光で包み込む。
そして、光が収まった時。
その魔法陣の上には大声で叫ぶ一人の男が立っていた。
「おぉぉぉ!ここが異世界か!」
180cm超の締まった体を黒の甚兵衛に包み、赤髪の天然パーマの前髪から突き出た一本の白い角。
いわずもがな、死後の世界から事実上追放された【閻魔大王】の息子、鬼丸であった。
興奮冷めやらぬ顔で辺りをブンブンと見渡す鬼丸。
某政務活動費で購入した地球産ラノベの中でも異世界転移モノを愛読していたために、今自身がその世界に立っていることに感動を覚えていた。
「まさか左遷で異世界に行けるとはな!もはや左遷とは言えない気もするが……ハハハ!俺はついにこの世界に来てしまったぞ、秘書よ!!」
親父から左遷を言い渡された時に見せられた報告書。
その中に、良好な関係を築けていたはずの専属秘書による密告が記載されていた事を地味に根に持っていた鬼丸は、空高く両手を伸ばし、天に向かって大声で叫んだ。
「こっそりとお前も読んでたの知ってんだからな!このクソ!バーカ!アーホ!メガネ!」
秘書に向けられた怨みが森の中に木霊する。もちろんこの世界に存在しない秘書の返事が返ってくるわけもなく、木霊が終わると再び静寂が訪れた。
「……ふぅ。すっきりしたぜ。んじゃ、行くか!」
鬼丸は、まずは探索をする事にしようと決め、適当な方向に歩き出した。
「スラスラスーライッム!出てっておいでぇ~!出~ないと鬼火で焼っき切るぞ~!」
まだ興奮が冷めていないのか、いつも以上にハイテンションな姿を見せながら歩く鬼丸は……
カサカサ。
「……。」
その後ろ姿を誰が見ている事に気付くことなく、そのままの勢いでずんずんと森の中を突き進んで行った。
◆◆◆
ふごふご、ふごふご。
「(あ、あれが噂のオークか!)」
一本の木に身を潜め、顔だけを覗かせる鬼丸。視線の先には、でっぷりとした腹を持つ二足歩行の豚が、肩に石斧を担いで歩いていた。
異世界初戦闘にしては悪くない、そう考えた鬼丸は真正面から闘ってみようとオークの前に飛び出した。
「ブゴォ!?」
突然目の前に現れた相手に、驚きを見せるオーク。
「あっ。」
しかし、オークを目の前にして、鬼丸は突然何かを思い出したようにオークに背を向ける。
そして、顎に手を添えてぶつぶつ独り言をしゃべりだした。
「(待てよ。たしか……この世には二種類のオークがいると聞いたことがある。良いオークと悪いオークだ。もし、今俺の前にいるオークが人間と交流を図れる良いオークだった時、俺は殺人、否。殺豚を犯してしまうかもしれない。……よし、聞いてみるか。)」
鬼丸は、ズビシッ!と振り向きざまにオークを指差し、大きな声で問いかけた。
「そこの豚野郎!君はどっちのオ……あ。」
しかし、振り向いた時、そこにはすでに20cmの距離まで詰め寄ったオークがいた。
振りかぶった石斧が、間抜けた声を出す鬼丸に振り下ろされる。
そして……首が宙を待った。
その頭の持つ視界はクルクルと回転し、その中には鬼丸が手刀で袈裟斬りをした残心の姿が映っていた。
鬼丸は、静かに姿勢を直し、紅く揺らめく闘気を纏った右手からゆっくりとその闘気を沈めていく。
そして、目の前に落ちたオークの首を見て、哀しげに呟いた。
「どうやら君は悪いオークだったようだな。残念だよ。」
(…………決まった。うん、今の決まった。)
その後すぐに満面の笑みを浮かべて、うんうんと一人頷く鬼丸。
ラノベのクサい台詞を一度言ってみたいと思っていた鬼丸は一つ小さな夢が実現し、満足していた。
「……さてと、記念すべき異世界初戦闘を華やかに演出してくれたこのオークは、俺が美味しく頂くとしよう!」
今日一日、記者会見のせいでご飯を食べる暇が無かったからな、と鬼丸はお腹を鳴らしながら闘気を纏った手刀で死体を適当に解体していく。
「にしても、さっきも感じたが鬼闘術が使いずれーな。……最近使ってなかったからか?」
解体しながら疑問を口に出す鬼丸。今の解体にしても、先ほどの袈裟斬りにしても、鬼丸はどこか違和感を感じていた。
事実、鬼丸は''死後の世界''からこの異世界に転送された副作用として、体内に循環する''鬼力''が乱れる症状、所謂【転送酔い】というものに掛かっていたのた。
(予定では斬った首はクルクル回転などせずに滑り落ちるはずだったんだけど)
どこか、体内の鬼力の循環が悪いような悪くないような。
(まあ、いずれ勘が戻ってくるだろ。)
説明しにくい違和感に、【転送酔い】の存在を知らない鬼丸はとりあえずは、と解体を進めていくことにした。
一通り解体し終わった鬼丸は、適当な長さの木の枝を集めていき1箇所にまとめる。
「【鬼魔術】鬼火。……これも違和感あるな~。まあいっか。よし、食おう!」
鬼魔術によって、手からソフトボール大の火の玉を出した鬼丸は、集めた木の枝に着火し、早速肉を焼いていった。
ジュージューと音を鳴らし、綺麗な焼き色が入っていくと同時に、香ばしい匂いを漂わせていくオーク肉。その全てが鬼丸の脳を刺激し空腹感を高めていく。
「め、めちゃくちゃ旨そうだなこれ。」
鬼丸は、その魅力的な見た目に思わず、ごくりと唾を飲む。
五分ほど経過し、遂にオーク肉が完璧な焼け具合になった。
鬼丸は、手を合わせて「いざ、実食!!」と叫び、かぶりつく。
その瞬間、
「う、ううう、ううめぇぇぇぇぇぇええ!」
鬼丸の歓喜の声が森の中に木霊した。
◆◆◆
「げっぷ。……ふぅ、結構腹一杯になったな。」
オーク肉を一割程残し、膨らんだ腹を撫でながら一息つく鬼丸。
空はすでに日が落ち始めているのか微かに赤みがかってきていた。
「う~ん。オークもいいが、どうせならスライムとかゴブリン早く見てみたいな。」
穏やかに燃える焚き火を見つめながら、頭に定番のモンスターを浮かび上げていく。
スライム、ゴブリン、角ウサギ的な奴、狼の魔物。
「ふわぁ~。やっぱモフモフもいいよな。ふわぁ~。」
食後の満腹感と、目の前の穏やかな炎を上げる焚き火によって眠気を感じ始めていた鬼丸。
その場で横になり、腕枕をしながら想像を膨らましていく。
「盗賊に襲われる貴族令嬢。そこに颯爽と駆けつける狼に乗った俺。……かっけぇな。やっぱ、モフモフの代表っつったら狼…………モフモフ?」
そこで、いきなり言葉を止めた鬼丸。
眠たげな表情から一変、なにか考え事をしているような険しい表情へと変わっていた。
「モフモフ。…………なんかめちゃくちゃ大事な事を忘れてる気がするぞ。」
モフモフ。その言葉に何か引っ掛かりを感じていた鬼丸は、首を捻りながらその何かを思い出そうとする。
「………………は!?」
鬼丸は目を大きく見開き、何か突然思い出したのか、ガバッと立ち上がり辺りをキョロキョロ見渡し始めた。
""お前一人だと寂しいじゃろうからな、これは儂からの餞別と思え。''
''こ、これは!?(モフモフキタァァァー!)''
鬼丸の頭の中で、平八郎との会話が流れていく。
そして、それが見当たらなかったのか鬼丸は顔を青ざめて呟いた。
「【幻魔の卵】が……ない。」
カサカサ、カサカサカサ
そして、その影には鬼丸の姿を眺める者がいた。
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