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第3話『妊婦に席を譲る時は、まずお腹になにも入っていないことを確認しましょう』の巻
しおりを挟む「セイセイセイ。落ち着け落ち着け。」
鬼丸は、心を落ち着かせるように自分に言い聞かせる。
「いつからだ、俺はいつから卵を持っていなかった?」
森を歩き始め、オークを見つけ、倒して食す。ここまでの流れを何度も反芻し、記憶をより鮮明にしていく鬼丸。
(歩き始めは、確か変な歌歌いながら両手めいいっぱい振って歩いたな。……あれ?その時点で持ってなくね?)
鬼丸は、さらに原点に立ち返り、平八郎の執務室まで遡って行った。
(卵を抱えて、魔法陣に乗って、転送、ここ異世界俺歓喜、密告の恨みよ、君に届け……あれはキュンキュンしたな。)
その時、鬼丸の中に、両手を空に掲げて天に向かって叫んだ記憶が蘇った。
「あの時か!……って、ほぼスタートじゃねーか!くそ!あの秘書め!どこまで俺の邪魔をする気だ!」
鬼丸は、全く関係のない秘書に腹を立てながらぐるりと1周見回した。
来た道を戻るために、自分がどの方角から来たのかを確認したのだ。
「全然どこから来たかおぼえてねぇ。」
テンションが上がりきっていて、禄に進行方向の決め方や目印に気を配っていなかった鬼丸は、自分の現在地と出発地の位置関係をまったく把握出来なかった。
「俺の、俺のモフモフがぁ~~。」
その時、鬼丸の後ろの茂みから何かが動く気配を感じた。
カサカサカサカサ。
(なんだ?兎かなんかか?……兎というモフモフを捕まえて卵を諦めるっても……有りか?)
鬼丸はそっとその茂みに回り込んでいく。鬼丸が移動しても、その気配はどうやら移動していないようだった。
鬼丸は、大きく後ろに回り込むと、その気配がする所を確認できる位置までつけた。
そして、そっと木の影からその存在を確かめる。
「う、うまちょうですね。じゅるり。まちゃか、あんな所にオークの肉があるなんて。」
(熊……の獣人?)
そこにいたのは、茶色の髪に焦げ茶の熊の耳が生えている一人の小さな女の子、幼女だった。
その幼女は、茂みの影にしゃがみ、そこから顔を覗かせて、鬼丸が先程まで食べていたオークの肉の残りを眺めていた。
「ちゃっきまでいた人もどっか行っちゃったち。食べてもいいでちゅかね?じゅるり。」
(え、こいつそんな前から居たのに回り込まれたこと気付いてないの!?……てかこの子突っ込み所が多いな。)
鬼丸は、その状況で気付かれていない事に驚きつつも改めて幼女を観察する。
(まず、あの体に不釣合なでかいリュック。パンパンに膨らんでるし。何が入ってんだ?それに、あの大きく膨らんだお腹。どう考えても幼児体型の域を超えている。……あと、なにより滑舌が悪い。)
しばらく観察していると、よっこらせ、と幼女が動き出し、オークの肉の方に向かっていった。
鬼丸は、幼女が隠れていた茂みに移動して身を潜め、観察を続行することにした。
幼女は、オーク肉の前までくると、ブンブンと辺りを確認して誰もいないのを確認する。もちろん鬼丸には気付いていなかった。
「よち。」
そう言った幼女は、パンパンに詰まったリュックを地面に下ろし、そして服の中に手を突っ込んで……
【幻魔の卵】を取り出した。
卵を取り出した幼女は、それを大事そうにリュックの隣に置いて、鬼丸に背を向ける形で腰を下ろし、オーク肉に手を伸ばす。先程までぽっこり膨らんでいたお腹はすっかり凹んでいた。
「……あれ。俺の卵じゃねーか!」
鬼丸は、幼女の服の中から卵が出てきたという事実に一瞬停止したあと、すぐに自分のなくした【幻魔の卵】である事に気付き大声を出す。
その声に、幼女はビクッと飛び跳ねて後ろを振り返る。そして、鬼丸の顔を確認し、数秒静止した後、ゆっくりと立ち上がり、リュックを背負い込み、卵を腹の中にしまい込んだ。
そして、ゆっくりと鬼丸のほうをもう一度だけ見て、反対方向に走り出した。
「あっ!ちょっと待て!」
突然逃げたした幼女を見て鬼丸も走り出す。
(くそ、ここで逃げられたら俺のモフモフが!)
"タンッ!''
鬼丸は、足に鬼力を送り込み、思い切り地面を蹴り出す。しかし、転送酔いによって本調子の出ない鬼丸はその手応えの無さに自身の足を見て舌打ちをする。
足を見て、相変わらず鬼力の制御が上手く出来ていないのが分かった。
ニ、三歩で一度やめ、視線を前に戻す鬼丸。
しかし、そこにはすでにあの幼女の姿は見えなかった。
(ちっ、逃げられたか。本格的に暗くなってきたし。どうする?)
鬼丸は、空を見上げながらこれからの行動を考え始める。
すると、鬼丸の耳に何やら荒い息遣いと、トタトタという足音が聞こえてきた。
背後から聞こえると分かった鬼丸は後ろを振り返り…………
「はぁ、はぁ。見つかった、見つかったでちゅ。勝手に食べちゃったのがばれちゃったでちゅ。」
大きなリュックを背負い、お腹を膨らませる幼女。その子が目を瞑り全力疾走している姿を目撃した。
鬼丸は、静かに幼女の隣に移動し一緒になって歩行する。
かたや、全力疾走。かたや、ただの歩行。
悲しいことに、前進速度が同じであった。
(……足おそっっっ!)
視線を下げた少しの間に、抜き去っていたとは思わなかった鬼丸は心の中で驚愕しながら、後ろに回り込んでリュックの持ち手を掴んで幼女ごと持ち上げる。
「あ、あれ?なんか体が軽いでちゅ!……は!?危機的状況に置かれてマールは遂に【飛行】まで手に入れたでちゅか!」
空中で必死に手足を回転させる幼女は、自分が捕まった事に気付いていなかった。
(こいつ、マールっていうのか。)
鬼丸は、総合的に見て警戒に値しないと判断したのかのんびり幼女の独り言を聞きながら、焚き火をしていたポイントに戻る事にした。
「あ、あれ?ちょっちじゃないでちゅよ!!くぅ、自分のアビリティが凄すぎて制御できないでちゅ~!」
(こいつ、アホだな。)
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