3 / 3
第3話『妊婦に席を譲る時は、まずお腹になにも入っていないことを確認しましょう』の巻
しおりを挟む「セイセイセイ。落ち着け落ち着け。」
鬼丸は、心を落ち着かせるように自分に言い聞かせる。
「いつからだ、俺はいつから卵を持っていなかった?」
森を歩き始め、オークを見つけ、倒して食す。ここまでの流れを何度も反芻し、記憶をより鮮明にしていく鬼丸。
(歩き始めは、確か変な歌歌いながら両手めいいっぱい振って歩いたな。……あれ?その時点で持ってなくね?)
鬼丸は、さらに原点に立ち返り、平八郎の執務室まで遡って行った。
(卵を抱えて、魔法陣に乗って、転送、ここ異世界俺歓喜、密告の恨みよ、君に届け……あれはキュンキュンしたな。)
その時、鬼丸の中に、両手を空に掲げて天に向かって叫んだ記憶が蘇った。
「あの時か!……って、ほぼスタートじゃねーか!くそ!あの秘書め!どこまで俺の邪魔をする気だ!」
鬼丸は、全く関係のない秘書に腹を立てながらぐるりと1周見回した。
来た道を戻るために、自分がどの方角から来たのかを確認したのだ。
「全然どこから来たかおぼえてねぇ。」
テンションが上がりきっていて、禄に進行方向の決め方や目印に気を配っていなかった鬼丸は、自分の現在地と出発地の位置関係をまったく把握出来なかった。
「俺の、俺のモフモフがぁ~~。」
その時、鬼丸の後ろの茂みから何かが動く気配を感じた。
カサカサカサカサ。
(なんだ?兎かなんかか?……兎というモフモフを捕まえて卵を諦めるっても……有りか?)
鬼丸はそっとその茂みに回り込んでいく。鬼丸が移動しても、その気配はどうやら移動していないようだった。
鬼丸は、大きく後ろに回り込むと、その気配がする所を確認できる位置までつけた。
そして、そっと木の影からその存在を確かめる。
「う、うまちょうですね。じゅるり。まちゃか、あんな所にオークの肉があるなんて。」
(熊……の獣人?)
そこにいたのは、茶色の髪に焦げ茶の熊の耳が生えている一人の小さな女の子、幼女だった。
その幼女は、茂みの影にしゃがみ、そこから顔を覗かせて、鬼丸が先程まで食べていたオークの肉の残りを眺めていた。
「ちゃっきまでいた人もどっか行っちゃったち。食べてもいいでちゅかね?じゅるり。」
(え、こいつそんな前から居たのに回り込まれたこと気付いてないの!?……てかこの子突っ込み所が多いな。)
鬼丸は、その状況で気付かれていない事に驚きつつも改めて幼女を観察する。
(まず、あの体に不釣合なでかいリュック。パンパンに膨らんでるし。何が入ってんだ?それに、あの大きく膨らんだお腹。どう考えても幼児体型の域を超えている。……あと、なにより滑舌が悪い。)
しばらく観察していると、よっこらせ、と幼女が動き出し、オークの肉の方に向かっていった。
鬼丸は、幼女が隠れていた茂みに移動して身を潜め、観察を続行することにした。
幼女は、オーク肉の前までくると、ブンブンと辺りを確認して誰もいないのを確認する。もちろん鬼丸には気付いていなかった。
「よち。」
そう言った幼女は、パンパンに詰まったリュックを地面に下ろし、そして服の中に手を突っ込んで……
【幻魔の卵】を取り出した。
卵を取り出した幼女は、それを大事そうにリュックの隣に置いて、鬼丸に背を向ける形で腰を下ろし、オーク肉に手を伸ばす。先程までぽっこり膨らんでいたお腹はすっかり凹んでいた。
「……あれ。俺の卵じゃねーか!」
鬼丸は、幼女の服の中から卵が出てきたという事実に一瞬停止したあと、すぐに自分のなくした【幻魔の卵】である事に気付き大声を出す。
その声に、幼女はビクッと飛び跳ねて後ろを振り返る。そして、鬼丸の顔を確認し、数秒静止した後、ゆっくりと立ち上がり、リュックを背負い込み、卵を腹の中にしまい込んだ。
そして、ゆっくりと鬼丸のほうをもう一度だけ見て、反対方向に走り出した。
「あっ!ちょっと待て!」
突然逃げたした幼女を見て鬼丸も走り出す。
(くそ、ここで逃げられたら俺のモフモフが!)
"タンッ!''
鬼丸は、足に鬼力を送り込み、思い切り地面を蹴り出す。しかし、転送酔いによって本調子の出ない鬼丸はその手応えの無さに自身の足を見て舌打ちをする。
足を見て、相変わらず鬼力の制御が上手く出来ていないのが分かった。
ニ、三歩で一度やめ、視線を前に戻す鬼丸。
しかし、そこにはすでにあの幼女の姿は見えなかった。
(ちっ、逃げられたか。本格的に暗くなってきたし。どうする?)
鬼丸は、空を見上げながらこれからの行動を考え始める。
すると、鬼丸の耳に何やら荒い息遣いと、トタトタという足音が聞こえてきた。
背後から聞こえると分かった鬼丸は後ろを振り返り…………
「はぁ、はぁ。見つかった、見つかったでちゅ。勝手に食べちゃったのがばれちゃったでちゅ。」
大きなリュックを背負い、お腹を膨らませる幼女。その子が目を瞑り全力疾走している姿を目撃した。
鬼丸は、静かに幼女の隣に移動し一緒になって歩行する。
かたや、全力疾走。かたや、ただの歩行。
悲しいことに、前進速度が同じであった。
(……足おそっっっ!)
視線を下げた少しの間に、抜き去っていたとは思わなかった鬼丸は心の中で驚愕しながら、後ろに回り込んでリュックの持ち手を掴んで幼女ごと持ち上げる。
「あ、あれ?なんか体が軽いでちゅ!……は!?危機的状況に置かれてマールは遂に【飛行】まで手に入れたでちゅか!」
空中で必死に手足を回転させる幼女は、自分が捕まった事に気付いていなかった。
(こいつ、マールっていうのか。)
鬼丸は、総合的に見て警戒に値しないと判断したのかのんびり幼女の独り言を聞きながら、焚き火をしていたポイントに戻る事にした。
「あ、あれ?ちょっちじゃないでちゅよ!!くぅ、自分のアビリティが凄すぎて制御できないでちゅ~!」
(こいつ、アホだな。)
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる