世界の裏側

あおい たまき

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七章・行方知れず

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  ***
 久しぶりのキャンパスだった。大学の周りの木々は青々としていて、太陽はやわらかく微笑む。余計、心が重たくなる気がした。

 大学の講義室へ顔を出すと、和冴の姿はなく、私は胸を撫で下ろす。その直後だった。突然肩を叩かれ、振り向くと


「近藤、カズ知らね?」
 同じ講義を選択している筒野大地が、私に尋ねた。

「あんなやつ、知らない」
「なんだよ、また喧嘩か」
 けたけたと人の不幸を笑う大地をにらみあげると、大地はわざとらしく両手のひらを私に向けて「悪かったって」と言った。


「でもマジか、近藤も知らないとなると、あいつ本当どこいきやがったんだ」
 独り言のように大地が口にした言葉に、乗ってやる。

「電話すりゃあいいじゃない」
「だってカズの携帯、繋がらねーんだもん」
「いつかは繋がるでしょ、繋がるまでかけ直したらいいじゃない」
 そう言った私に、大地から予想だにしない言葉が返された。


「違うんだって。番号をお確かめになってお掛け直しくださいってアナウンス流れるんだぜ、カズの番号。大学にも出てねえし。おかしくね?二、三日前までは普通に電話呼んでたんだぜ。出はしなかったけどさ」


 時間がとまった。
 周りの声も雑踏も、お菓子袋を開ける音さえ、やけに大きく聴こえる。やがて、開きっぱなしだった唇が言葉を発した。

「うそ、どういうこと」
「わかんねえから困ってんじゃん。ったく、住環境のレポどうすんだよ」

 私は大地の言葉を聞くがはやいか、廊下の端まで駆けて、スマホを取り出した。数日前まで何度も何度もかかってきて、その度私が耳をふさいで、無視した和冴の番号を、震える指がタップする。

 うそだうそだ、うそだ。願うようにスマホにすがる。プッと繋がる音がして、間もなく……無情にも響くアナウンス。



「あなたがお掛けになった電話は現在使われておりません……」



 2度、3度とかけ直しても、繋がる先は和冴ではなかった。


 私はパニックになった。和冴に怒鳴り散らしたのも、別れを告げたのも私だというのに。……なんて滑稽な女だろう。


 何故、番号が使われなくなったのか。その理由がどうしてもわからない。その時、思い出す。
「ひかちゃん置いてかないで」
 耳にこびりついた最後の、和冴の辛そうな声。あれは幻などではなかったんじゃないか。


 頭の中には、悪いことだらけ。見慣れた和冴の部屋。ベッドの上で倒れている彼の姿が脳裏に浮かぶ。まさか、身辺整理をして、死のうというのか。あの和冴に限って、そんなことあるはずない、でももし死ぬ気なら……もう遅いのかもしれない。もう、和冴は……


 想いが堂々巡って、いても立ってもいられずに、私は和冴を探すことにした。
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