―海神様伝説―

あおい たまき

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四章 衝動の行く末

土蔵

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 *もちと……もう少し
 *こっちゃけれ……こっちにくれ
 *トト……お父さん
 *カカ……お母さん


 ***
 雨は一刻もせぬうちに、止んでしまった。
刻々と時は過ぎて、眩かった太陽が夕闇に消えてゆき、海からの熱風は涼しくなっていく。

 日中のうち、一旦家に帰った二人は、真夜中こっそりと家を抜け出して、紗英の家の蔵の中にいた。
 この辺りでは珍しい土蔵どぞうだ。漆喰しっくいが塗り込められている。火事のとき中のものを守れるようにと、配慮がなされているのだ。

 ……漆喰塗りの土蔵には、なくしては困るものが眠る。紗英がそれを聞かされたのは、他ならぬ静香からだ。海神様にまつわる「何か」を、保管できる場所はここしかないと、そう、紗英は睨んだのだった。

 とはいえ、蔵の一階は、もはや物置と化しており、祖父や父の古びた漁師道具が乱雑に置かれていて、二階へ続く通路をふさいでいた。

「紗英、あかりさ、もちと、こっちゃけれ」
「わかった」
 紗英が懐中電灯を幹太に向けると、幹太はせっせと道具を動かす。作業が終わる時を待ちながら、紗英は辺りをぐるりと見回した。

 明かりとりの窓も、ぴしゃりと閉まっていては、役にも立たない。ただ形だけのお飾りだ。足下は、申し訳程度の板が張られている。しかし、踏みしめれば外の土埃が入ったか、ざりりと砂の音がした。

 埃と、カビに古い空気。吸い込めば噎せっかえる。
「この空気……懐かしい」
 紗英は咳をしながら、ひとつ呟いた。

 幼い頃、紗英は、静香に連れられて、度々この蔵を訪れた。静香が木梯子きばしごを登ってゆくのを、幼い紗英は、追いかける。

「紗英はあっちゃで遊びんしゃい」
 まだ若い静香の手のひらが、紗英を優しく一階の物置へと促した。

 紗英は仕方なく、下の階で、アバリをつかい網修理の真似事をして遊んだ。その間、静香は二階でガサガサと何かを物色すると、しばしの静寂のあとで、とっ、とっ、と、静かに梯子を降りてくる。

「ここさ来たこたあトトにも、カカにも、言うでねえど」
 静香は毎度そう言っては、紗英が頷くのを待って、ざらめがたくさんついた、大きなあめ玉をくれたものだった。

 何故、ここに来たことを、家族にすら秘密にしたがったのか。思考を巡らせるも紗英には、わかりはしない。

 まあ、いい……どうせすぐにわかる。
と、紗英は息をついた。
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