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五章 化身の正体
再び
しおりを挟む*めんこい……かわいい
***
「明日、沖さ出るよう、村長から達しがあった」
「そうか……明日……。とうとう、決まったか」
紗英が目を開くと、目の前は洞窟の中の、祭壇前だった。松明の灯が四方の岩盤を橙色に染め上げている。辺りはもうもうとしていて、暑かった。
そこでは二人の男女が、何やら話し込んでいる。女は十七、八。男は二十歳前といったところだろうか。身にまとった布は、すりきれてボロボロだ。紗英が目のやり場に困ってしまうほど、両者とも裸体に近い格好だった。
しかし、当の二人は互いの着物など、気にも止めず、話を続ける。
「のう、勘助」
「なんだべか、海神様」
その掛け合いを聞いて、紗英はこれが成長した勘助と、イチであることを悟る。なるほど、年は重ねたようだが、それぞれ面影は残していた。
「ヌシ……後悔しておらぬか、私の贄であったことを」
そう聞くイチの眉間には、山が聳えており、とても辛そうに、うかがえた。勘助は、そんなイチをまっすぐに見つめて、心の限りを尽くす。
「海神様、何言うだ。おら、贄でいがった。海神様のお役に立てた。それがおらの全てだで。んでねがったら、おらなんか糞の役にも立たねえ木偶になっちまってたと思うだよ」
勘助は、笑った。にこりと、笑った。イチは、勘助の笑顔が辛かった。体に楔を打ち付けられ、晒し者にされた方がまだ幾分ましだろうかと思うほどだ。堪えきれず、勘助の胸に添い、涙を流す。
「私は……嫌だっ」
それはいつも冷たく勘助をあしらっていたイチが、はじめて見せた燃えるような心だった。勘助は、戸惑いながら、イチの髪をすく。愛しそうに細められたその目は、迷わずにイチを見つめていた。イチは尚も続ける。
「勘助、私はヌシが」
イチは、すっかり背の高くなった勘助を見上げて、唇を噛み、言葉に詰まる。続く言葉を、伝えられたらどんなに幸せであっただろう。
イチはすがるように勘助を見つめあげた。勘助はイチの頬にそっと触れて、笑う。
「こんなして噛んだら海神様のめんこい唇が切れちまうべさ……切るなら、なあ、おらの体だべ」
おどけて言う幹太を、イチはたまらずに睨みあげた。
「私が好き好んで、ヌシを傷つけていたとでも思っているのか。
辛くて、苦しくて、ヌシの悲鳴に、ここが痛くて」
心臓のあたりをぎゅっと握ってイチは、歯を食いしばる。幹太は、何か言いたげだったが、あぐねて苦笑を返した。
二人の様子を静かに見守っていた紗英は、はたと気付く。勘助の体には、至るところに無数の傷があった。とても、とても深い傷だ。
ある傷は、刃物で切ったような、またある傷は抉られたような、そしてある傷は、噛み痕のような……紗英は息を飲んだ。
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