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六章 因果の始まり
祟り
しおりを挟む「ま、ごろく……?」
その手拭いは、生まれた頃から孫六の側にあったものだ。寝付くときは必ず、あの手拭いの隅をしゃぶるから、そこだけがぼろぼろだった。あの手拭いでなければだめだった。
いたずらも人一倍で、おたけはいつも怒ってばかりいた。尻を叩かれ、泣きつかれて眠るとき、必ずそうして手拭いを食んで寝るものだから、おたけは、そっと息をつきながら、まだまだ子どもだとよく微笑んだものだった。
その手拭いを放って、孫六は、一体、何をしているんだ。孫六、孫六……孫六は何故、起きない?この赤い液体はなんだろう。
おたけの頭と心が合致したとき、彼女は狂ったように走り出した。
「おんめえええええ、おらいの孫六さ何してんだ!」
その怒号は、断末魔にも似ていた。おたけの声も届かぬか、動じることなく、孫六の血を啜り続ける女児を、力付くで引き離そうとするが、その力の強いこと。
赤く染まった孫六の着物をひしと掴んで、ちゅるちゅると身までうまそうに食らう。おたけは心臓が磨り潰されるようだった。
「あんた、あんたっ、助けて。孫六が食われてる、食われてるよお」
一点を見つめて、放心状態だった又六が我にかえっておたけに加勢する。二人がかりで女児を引き離して、孫六の亡骸を抱き上げた。
血の気がひいた顔。血に染まった胸。腹の中は無惨にも、からっぽだった。
「あ……ああああ、孫六、なんで」
次から次に溢れる涙が落ちては、孫六の血液と混ざった。おたけは、我が子をひっしと抱き締める。又六はおおおおと、雄牛のように声をあげて泣いた。
幾時を刻んだ頃か……。泣き声の間に、野太い声が混じり聴こえた。
「賎しきことよ。浅ましきことよ。」
顔中、涙にさらされた二人の目に飛び込んできた。女児がふわふわと、宙に浮く姿。その顔は言わずもがな、藤左衛門の孫娘、おつるのそれだった。
「ほんに、可哀想にのう」
しかし、おつるの声ではない。
「氏神……様」
又六は無意識に呟いていた。
おつるは、声高々にヒャヒャヒャと笑う。笑い声は不気味に洞窟内にこだまして、はじけた。ひとしきり笑うと、宙に浮いていたおつるは、気を失ってバサリと地に落ちた。
又六は確信した。
それは、御神体を落として割ってしまった又六と、御神体を粗末に扱った藤左衛門に当たった罰であることを。これは祟りだ。又六は愚かな自分を、浅ましい自らを激しく悔いたが、時は既に遅かった。
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