―海神様伝説―

あおい たまき

文字の大きさ
69 / 88
十章 化身覚醒

狂気

しおりを挟む
「か、んちゃんっ何してんの、何したの!」
「紗英が傷つけらんねえなら、オレがやるしかあんめえよ」

 幹太の手のひらは、痛みに震えた。幹太は拳を握ったまま、川のようにしたたる血液を紗英の目の前に突き出す。

 幹太の赤々とした血液の色が、紗英の網膜に焼き付いた。

「舐めて消毒してけろや」
 幹太は、紗英におどけて見せた。辛そうに眉をしかめているのに、紗英の為に懸命に笑顔を作っている。


 結局、清三と同じようなことを、幹太にさせてしまった。罪悪感が紗英の胸に渦巻く。紗英は幹太の姿を見てうつむきながら、静かに覚悟を決めた。


「……ほー…んと、かんちゃんは変態だっちゃね」
「うっせえど」
 幹太は苦笑して、手を開く。


 拳がにぎられていた時には、圧迫されていた傷口から、血液は溢れた。

 紗英は膝をつき、幹太を見上げた。前に出された幹太の手を優しくとると血液は紗英の腕に伝う。ぞわぞわと言い様のない感覚が、紗英を襲った。

 まさるらのために、ここまでする幹太が愛しい。紗英はそう思い込む。わずかでもいい。楽にしてやりたい。痛みを消してやりたい。この傷に意味を持たせたい。

 感情を奮い立たせて、舌を出し、とうとう朱の血液を一滴、舐めとった。


 舌に当たるとろりとした液体。あたたかく、わずかな酸っぱさを覚える。鼻から抜けていく。幹太の血液の匂い。紗英の体を満たしていく充足感。

「かんちゃん……おい、し」
 もっと、もっと、もっと、もっと……これ以上進んでは元には戻れないかもしれない。ひしひしと感じる。「儀式」の危険性を。

 しかし、やめられぬ。紗英の中に花火が散った。
頭が、痺れる。目眩を起こす。倒れる寸でだ。


 それでも幹太の血を欲する細胞。生き返っていく。紗英の死んだ細胞が。嬉しい。幹太の血液が紗英の中でひとつになる。


 キスだけでは物足りなかった。舌を入れても満足出来なかった。きっとセックスをしたところで、この渇きは潤わなかったはずだ。


 これだ。これだったのだ。紗英と幹太が一つになる方法はこれだった。どうしてもっと早くにしなかったのだろう。紗英はこの上ない喜びに陶酔とうすいしていく。

「紗英、いてえ、もちっと優しく」
 手をぎりぎりと掴まれた幹太は、堪えられず声をあげた。


「ごめ……ん、むりよ、おいしいかんちゃん」
 紗英は、鼻まで赤く染めて、あとからあとから湧いてくる血液をずるずると啜った。 幹太のこめかみに、汗が浮く。

 もしか、やってはならない事をやってしまったか。今さら、そんなことを思うのだ。


「紗英」
 呼び掛けに応じない。今一度呼んでみる。
「紗英っ」
 それでも紗英の声は還らない。幹太がどうしたものかとあぐねていると、突然、指先を万力で擦り潰されるような痛みが走った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...