―海神様伝説―

あおい たまき

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十章 化身覚醒

救いか否か

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 *めら……お前ら
 *ずんつぁん……じいさん
 *おんちゃん……おじちゃん

「いってっ」
 驚いて幹太が手のひらをうかがえば、紗英が指先にかじりついていた。ぎりぎりとのこぎりのように歯を左右に動かして、人差し指をうまそうに食んでいる。


 上目で幹太を見つめたその目は、もう、紗英のそれではない。最早もはや、狂気といっても過言ではない眼だ。一気に与えすぎたのか、紗英の力は暴走しているらしい。幹太の表皮には、あわが浮く。

「さ、紗英……っ」
 悲鳴に近い声で、紗英を呼んでも応答はなし。
食われる……予感めいた恐怖に体は硬直してしまった。

「紗英、目ぇ覚ませ、紗英っ、いてえって……っ」
 声を大にしたその時だ。紗英の部屋の扉が開く。



「何だ、めら、何如してんだ!」
 二艘にそうの船の不明を受けて、帰宅した紗英の父、ひろしだった。


 宏は血にまみれた紗英と幹太を見て心底、驚いた。すぐに引き離しにかかるも、紗英は幹太の腕を潰すように握っている。


 離れない。


 歯でぷちぷちと細胞を押しきる痛みに、幹太は#__おのの__#いた。力任せに引けば、幹太の指が千切れるかもしれない。宏は紗英の歯の間に、己の指を入れ、部屋の外へ向かって叫んだ。

「ずんつぁん、来てけれ」
 宏は、紗英の祖父を呼び、二人がかりでようやく紗英を幹太から引き離した。幹太の体から離れると、紗英は意識を手放し、その場に崩れ落ちたのだった。


 幹太は、おのれの傷にも構わずに、紗英に駆け寄って抱き寄せる。


「紗英、紗英っ、紗英」
 何度も呼ぶ。大きく叫んだ。体を揺さぶると、紗英の体は力なく惰性だせいであちこちに揺られた。


「幹太、め、手当てせねば」
 幹太の腕をとり、宏が小さく告げる。幹太は錯乱状態で、涙を浮かべながら、宏にすがった。
「おんちゃん、オレより紗英がっ、オレが無茶したからっ」
「紗英はずんつぁんがなんとかする、めはこっちゃ来い」

 幹太は、引っ張られるように、紗英の部屋を連れ出されたのだった。
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