―海神様伝説―

あおい たまき

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十一章 脱出

推察

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 *言でらいだ……言っていらした
 *ホラ吹いて……嘘ついて
 *ねがった……なかった

 和紙には、雑だが集落の地図らしきものが書いてある。下は、上はとり、左は牛、右はと記されていた。


「あ、これ知ってっぞ、古典の授業でやったばりだ」
 幹太が声をあげる。
「確か……酉が北、子は東、卯は南、牛が西だ」
「かんちゃん、すごい。私、十二支しか思い浮かばなかった」
 紗英は感嘆して、再び視線を地図に移す。東南には「岩殻崖」と。がんがら崖と読むのだろう。その脇には、半円が書かれており、「穴蔵あなぐら」とあった。これは、恐らく今、紗英らが閉じ込められた洞窟の事だ。

 北東には「部落」北西に「子守山こもりやま」。その下の鳥居の脇に「ほこら」の文字があり、その脇に朱色の筆で小さく丸印が施されていた。



「ここ、だね……」
 紗英は、朱印を指差して幹太を見つめる。


「ん……、この子守山っつーのは、裏の小森山のことだべな」
 幹太は顎を触りながら、唸った。
「んでば、祠は山のふもとのコトヒラさんだべか……あそこは海さ行くとき必ず集落のひとたちお参りすっぺよ」
「んだな……あ、山中の稲荷っつーこともあっかな」
「どうだろ、鳥居は山の下に書いてあるし、稲荷さんは五穀豊穣ごこくほうじょうの神様だよ」
「すっと、コトヒラさんが有力候補だな」
「うん、私はそう思う」


 話はまとまった。紗英と幹太は顔を見合わせ、深く頷いた。洞窟を見上げ、幹太は小さく呟く。

「……あとは、出口。昇り竜の鼻面か。紗英、心当たりねえか」
 すがるような目で問われて、紗英はもう一度、イチの文を読み返しながら、思案する。


「昇り竜……鼻面……道」
 イチと歩いた洞窟。昇り竜……登る、登りきった場所。

「もしかして」
 紗英は、唇を触りながら呟いた。
「心当たりあったか」
 幹太はしめた!と言わんばかりに指を鳴らせた。紗英は言う。


「さっき私が目覚めた場所だよ。この階段の先にあるの。はじめてかんちゃんの血を舐めたときにも見えた。イチとも歩いた。がんがら崖の上に繋がる一本道……」
「んで、そこさ行ってみるべ」


 紗英の手をとり、幹太は立ち上がる。
「でも、あそこの出口はたぶん、じっちゃたちが……それに」
 気になることがある。思ってみたものの、全ては口にせず、幹太にならって紗英も立ち上がった。


 紗英には、結局イチの残した言葉にしか選択肢がなかったのだ。信じるしかない。ほんの一分の望みだった。


 紗英はイチの巻物と、地図をポケットに突っ込んで、片手に御神体の入った箱を抱えた。うまく歩けない幹太と肩を組むように階段を一段一段上って行く。


 松明は持ちきれなかった。闇が広がる。心臓は否応なく叩かれた。空気が薄い。息が切れた。

 幹太はいかほど辛いだろうかと紗英は思う。幹太の横顔を盗み見ると、その目はしっかりと前を見据えていた。そんな幹太に紗英は、あえて声はかけず、二人はわずかずつ、進んでいった。


 暗がりに松明の火の揺らぎが見える。ようやく、昇り竜の鼻面についたらしい。


 狭い空間。低い天井を見上げれば、木枠。その上には恐らく平らな石で蓋をされているようだった。イチの時代でもここから外へ抜けた。出られないことはないはずだ。


 だが、耳をすませば、男衆の足音と、荒々しい声が聞こえる。

「そろそろ食った頃かいや……幹太も可哀想にの」
「一晩待てって、芳郎が言でらいだべ」
「それにしても紗英ちゃん、おららにやっぱしホラ吹いてただな」
「無理もねえべ今時の子だ。こん集落に縛られること考えたらよ、ホラも吹きてくなんのが人情だとおらは思うがの」
「んだからと言って、おららの船ぇ危険ささらしたんだど。今までこんなことねがったんべ」
「反抗的な化身様の候補はいただども、後は諦めてけらったらしい。紗英ちゃんも恐らくそうなっぺ」
「それまで、見張りがや……老体にはこんの寒さは堪えっぺど。おら気が進まねえ」
「若え衆ともうじき交代だ、それまで堪えろや」


 外には大勢の男衆がいるらしい。中には紗英や幹太に同情的な目を向ける者もいるが、やはり味方はいないと思っていいだろう。紗英と幹太は目を見合わせ、息を殺してその会話を聴いた。

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