小国の若き王、ラスボスを拾う~何気なしに助けたラスボスたるダウナー系のヤンデレ魔女から愛され過ぎて辛い!~

リヒト

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キス

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「……まさか、出会うとは思っていなかったな」

 正直に言って、うまく行くとはまるで思っていなかった。
 現実逃避兼お散歩目的で僕は自国を練り歩いていたのだ。まさか、本当に魔女と出会うとは思っていなかった。

「……」

 とはいえ、……とはいえ、これは本当に生きている、のか?
 僕の目の前にいるのは一人の女性───とは、決して言えないような人物だった。人よりも、枯れ木の方が近い。人型ではあるが、色は茶色くて何時折れてもおかしくないほど線が細い。
 頭部らしき部分には顔のような面影もあるが、樹木の模様だと言われれば納得できる。
 生きている人にはまるで見えない。だけど、ゲームではこの姿で生きているという設定だった。

「眠り姫の目覚めの相場は王子様のキスってのがお決まりだよね……まぁ、僕はもう王様になってしまったけど」

 とりあえず、設定に従おう。
 僕は膝をつき、地面に倒れている彼女へと口づけを一つ。
 これがファーストキスかぁー……なんてことを考えたその次の瞬間、魔女の体が光に包まれ、そのままその体が一人の美しい女性へと変わる。
 枯れ木のようだった肉体へと一気に血が流れ、肉が膨れる。
 黒く美しい髪も腰まで一気に生えて伸び、樹木の模様と言われても疑わなかったその相貌は、神が作ったと言われても納得するほど精工で美しい女性のものへと変わった。

「……!?!?」

 いやいや!?急に変わり過ぎでしょ!?ナニコレ、こっわ!?魔法のある世界でもこんなびっくり変化始めた見たんだけど!

「……あ、……なたは」

 驚愕に目を回している僕の前で起き上がった魔女がゆっくりと口を開く。

「……」

 それで、はたと今まで気にしていたなかったことに思い至る。
 あー、今更だけど、僕が魔女のことを知っているのはおかしいか。
 僕は吹けば飛ぶような小国の人間。魔女を殺せていなかったという勇者しか知らない情報を知っているのは違和感しかない。
 それに、魔女は未だ人類の大敵として深く人々の記憶に刻み込まれている。わかった上で助けたとなれば、どんな罪に問われるか……。 

「……い、生きているっ!?」

 ヤバくね?そう、思い至った僕は咄嗟に謎の演技を開始する。

「……えっ?」

「だ、大丈夫ですか!?あぁっ!?雨でぬれて……というか、さっきまでのは一体っ!?」

「う、うん……」

「ま、まさかつい前に見た絵本の通りに朽ちた枝が人になるなんて……いや!?本当の人に対して朽ちた枝なんて言っちゃいけない言葉でしたね。ごめんなさい」

「う、ううん……いいの」

 すっごい雑な僕の演技に対し、魔女は首を振る。

「助けてくれた。それだけで……ありがとう。助かった」

「そう、言っていただけると。あー、私はマーインと申します。貴方の名前は?」

 良し。なんかいい時間に軌道修正出来たかな!

「えっ……名前。……私の、名前はシルク。そう、シルクよ」

「シルク。良い名前ですね」

 魔女に名前ってあったんだ。
 いや、まぁ……あるか。あの設定だもんな。

「それにしても、こんなところで何があったのですか?」

「……っ」

「あぁ、言いたくないなら良いですよ?誰にでも言いたくない事情の一つや二つくらいあるでしょうから」

 魔女であるなんていう事情はそりゃ語ってこないわな。

「行く、宛てはありますか?」

「……ない、かな」

「ありゃ。でしたら、私のところでよろしければ、身を寄せますか?一時でも構いませんので」

「……駄目、だよ?」

「ん?」

「……そんな、簡単に言ってしまったら。悪い人に、騙されちゃう」

「えー?お姉さんはそんな悪い人には見えませんよ?何か僕に対して悪いことをする予定でもあるんですか?」

「しない、けど」

「それなら良いじゃないですか!行きましょう。自分のところ今、絶賛人手不足で猫の手でも借りたいような状況なんですよ」

「……自分の、ところ?何か、人手が必要になる事業でも、やっているの?」

「あぁ、最初の自己紹介の時に言っていなかったですね。私はシーマーク王国王朝第十二代目当主。マーイン・。シーマーク王国が現国王です」


 ■■■■■


「……えっ?どうしよ?」

 その場の勢いと流れでシルクを王宮に連れ帰ってきた僕は一人、洗面所で頭を抱える。

「マジでどうしよ」

 魔女なんてオーバースペックもいいところなんだけどっ。
 確かに詰んでいる小国の現状を変えることを望み、その一環として魔女を探していた。
 でも、それが実際にうまく行くとは思っていなかったし、うまく行った時のことなんて当然何も考えていなかった。
 何もない小国がいきなり核兵器に等しい魔女なんて手に入れても手に余る……彼女は、ラスボスとしてゲームに君臨していたが、その根は優しい少女だったという設定がある。

 生まれながらに生命から命を奪う魔力を放出してしまうせいで常に孤独で一人。悪い人に利用される形で暴走させられ、世界を渾沌に陥れる羽目になっただけで、その根は良い子という設定だった。
 設定を信じるのであれば、彼女を人として信じては良いと思う。
 とはいえ……とはいえなぁ!本当にどう活用すればいいの!?……もういっそ、本当に魔女なんて知らず、ただ普通の女の子を拾ってきたとでも考えようかな?足りない文官を埋める為、文官として育成するか?

「お風呂、上がったよ」

 なんて僕が考えていた中、王宮のお風呂に浸かってもらっていた魔女が服を着て洗面所の方に出てくる。

「んっ、あったまること出来た?」

 それを受け、頭を抱えていた僕はころりと態度を変え、笑顔でシルクへと声をかけるのだった。
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