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花森小町様
拝啓
先日は弊社の社員採用試験にご応募いただき誠にありがとうございました。
慎重な選考の結果、今回は残念ながら採用を見送らせていただくことになりました。────
相変わらず就活の方はまったく成果が出ず、見慣れた不採用通知に枯れたはずの溜息をついた。どこの会社も似たり寄ったりのテンプレ文章でつまらない。もっと捻りを加えたりとかできないわけ? なんて心の中で無駄に文句を言って憂さ晴らしをする。あーあ。次に受けるとこ探さなきゃ。あたしは気持ちを切り替えバイトに向かった。
「……あれ?」
信号待ちをしていると、向こう側の道路に制服姿の鳴海くんを見かけた。しかし、その顔は六角堂で見ている雰囲気とは違い鋭くて冷たい。周りを遮断するようにイヤホンをつけ、光のない目で足早に去って行く。あたしは角を曲がって見えなくなるまでその姿を追っていた。……あれは本当に鳴海くんだろうか。もしかして見間違い? いや、でも鞄にお掃除戦隊クリーンファイブのキーホルダーをじゃらじゃらとつけてる男子高校生は多くないだろうし、本人の可能性が高い。
声を掛ける暇もなく──というか、とてもじゃないけど声を掛けられる雰囲気ではなかった。ふと気付くと、とっくに青に色を変えていた信号は点滅していて、あたしは慌てて横断歩道を渡った。
*
「だぁーかぁーらぁー! きのこ派かたけのこ派かっつったらどう考えてもきのこだろ!? なんでわかんねーの!?」
健太くんがお菓子の箱を握り潰しそうにしながら叫ぶ。
「えー? 僕はたけのこ派だなぁ。だってほろほろで美味しいもん」
「オレもたけのこ派ー」
「はぁ!? 裏切り者め!!」
その日、六角堂ではきのこ・たけのこ戦争が勃発していた。
きのこ・たけのこ戦争とは、某有名メーカーが発売している有名なスナック菓子シリーズの「きのこ」と「たけのこ」のどちらが好きかという決着のつかない論争だ。
ちなみに、きのこ派は柳田さんと健太くん、たけのこ派はあたしと淳一くんと隆史くんと鳴海くんの四人である。二対四という数では有利なたけのこ派だが、きのこ派の二人は口が回る強敵だ。しかし、ここは負けられない。
「何言ってんのよ。たけのこのしっとりした食感なんてめちゃくちゃ美味しいじゃない。クッキーとチョコの溶け具合なんて神の領域!」
「あ゛? それを言うならきのこのカリッとした食感とチョコとのバランスの方が最高だろうが」
あたしの意見に柳田さんが舌打ちをしながら反論する。
「そうだそうだ! あのカリっとの魅力がわかんねーなんてお前らおかしいぞ!?」
「ケンちゃんこそ! クッキー部分の美味しさがわかんないなんてありえないよ!」
「なんだと!?」
小学生の論争は白熱していく。
「ははっ。盛り上がってるねぇ」
チラリと様子を伺うと、鳴海くんは楽しそうに笑っていた。さっき見た時とは違い雰囲気はやわらかい。いつもの鳴海くんだ。
「俺のことそんなに見つめてどうしたの小町ちゃん」
「えっ!?」
あまりに見すぎたのか、鳴海くんが不思議そうに言った。あたしは慌てて誤魔化す。
「いや、あの! そ、そう! たけのこ派エースである鳴海くんの意見が聞きたいなぁと思って!」
そう言うと、鳴海くんは「それじゃあ期待に応えましょうかね」とニヤリと口角を上げ立ち上がった。
「よく聞きたまえ、きのこ派の諸君。全国の調査でも圧倒的にたけのこ派が多いんだ。君たちが何を言おうがこの事実は覆せない! まず第一に、」
──鳴海くんの本格的な論破が始まった。
花森小町様
拝啓
先日は弊社の社員採用試験にご応募いただき誠にありがとうございました。
慎重な選考の結果、今回は残念ながら採用を見送らせていただくことになりました。────
相変わらず就活の方はまったく成果が出ず、見慣れた不採用通知に枯れたはずの溜息をついた。どこの会社も似たり寄ったりのテンプレ文章でつまらない。もっと捻りを加えたりとかできないわけ? なんて心の中で無駄に文句を言って憂さ晴らしをする。あーあ。次に受けるとこ探さなきゃ。あたしは気持ちを切り替えバイトに向かった。
「……あれ?」
信号待ちをしていると、向こう側の道路に制服姿の鳴海くんを見かけた。しかし、その顔は六角堂で見ている雰囲気とは違い鋭くて冷たい。周りを遮断するようにイヤホンをつけ、光のない目で足早に去って行く。あたしは角を曲がって見えなくなるまでその姿を追っていた。……あれは本当に鳴海くんだろうか。もしかして見間違い? いや、でも鞄にお掃除戦隊クリーンファイブのキーホルダーをじゃらじゃらとつけてる男子高校生は多くないだろうし、本人の可能性が高い。
声を掛ける暇もなく──というか、とてもじゃないけど声を掛けられる雰囲気ではなかった。ふと気付くと、とっくに青に色を変えていた信号は点滅していて、あたしは慌てて横断歩道を渡った。
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「だぁーかぁーらぁー! きのこ派かたけのこ派かっつったらどう考えてもきのこだろ!? なんでわかんねーの!?」
健太くんがお菓子の箱を握り潰しそうにしながら叫ぶ。
「えー? 僕はたけのこ派だなぁ。だってほろほろで美味しいもん」
「オレもたけのこ派ー」
「はぁ!? 裏切り者め!!」
その日、六角堂ではきのこ・たけのこ戦争が勃発していた。
きのこ・たけのこ戦争とは、某有名メーカーが発売している有名なスナック菓子シリーズの「きのこ」と「たけのこ」のどちらが好きかという決着のつかない論争だ。
ちなみに、きのこ派は柳田さんと健太くん、たけのこ派はあたしと淳一くんと隆史くんと鳴海くんの四人である。二対四という数では有利なたけのこ派だが、きのこ派の二人は口が回る強敵だ。しかし、ここは負けられない。
「何言ってんのよ。たけのこのしっとりした食感なんてめちゃくちゃ美味しいじゃない。クッキーとチョコの溶け具合なんて神の領域!」
「あ゛? それを言うならきのこのカリッとした食感とチョコとのバランスの方が最高だろうが」
あたしの意見に柳田さんが舌打ちをしながら反論する。
「そうだそうだ! あのカリっとの魅力がわかんねーなんてお前らおかしいぞ!?」
「ケンちゃんこそ! クッキー部分の美味しさがわかんないなんてありえないよ!」
「なんだと!?」
小学生の論争は白熱していく。
「ははっ。盛り上がってるねぇ」
チラリと様子を伺うと、鳴海くんは楽しそうに笑っていた。さっき見た時とは違い雰囲気はやわらかい。いつもの鳴海くんだ。
「俺のことそんなに見つめてどうしたの小町ちゃん」
「えっ!?」
あまりに見すぎたのか、鳴海くんが不思議そうに言った。あたしは慌てて誤魔化す。
「いや、あの! そ、そう! たけのこ派エースである鳴海くんの意見が聞きたいなぁと思って!」
そう言うと、鳴海くんは「それじゃあ期待に応えましょうかね」とニヤリと口角を上げ立ち上がった。
「よく聞きたまえ、きのこ派の諸君。全国の調査でも圧倒的にたけのこ派が多いんだ。君たちが何を言おうがこの事実は覆せない! まず第一に、」
──鳴海くんの本格的な論破が始まった。
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