薬師と少女の物語―幸せへの路―

弥雨 林(みさめ りん)

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真実の行方と少女の覚悟ー2

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 アランはいつでも控えめだった。
 チェストが稽古に励んでいる時も、ビルトが馬鹿な事をしている時も。
 いつも穏やかに微笑んでいた。
 自分の性質と彼のそれは正反対のような気がして、だからこそ惹かれたのだと思う。
 友人に……親友になりたいと、自然に思えたのだ。
 薬師として活躍する彼は、誰の前でも弱い心を出さなかった。
 少なくとも、ビルトは見たことが無い。
 そんな彼が唯一、冗談めかして弱音にも取れる本音を漏らした事がある。
 丁度、今回の一連の事件が起きる少し前だった。
「ビルト。私に万が一何かあったら、ルーナを……お願いしますね」
 そう言ったアランは何処か寂し気で、ビルトは瞳を瞬かせる。
「やなこった」
「えっ?」
「ちびは俺には懐かねぇよ。だから、『何か』は無いようにしろ」
 ぐっと酒を呑んで言うビルトに、今度はアランの瞳が瞬く。
「……はい」
 苦々しそうに笑んだその顔はビルトの脳内に焼き付いていた。
 今から考えると、一連の事件を考えていたものだと思えば全ての辻褄が合う。
 一つ一つが今回に繋がっているような気がして、腹立たしかった。
 何が目的なのかは分からないが、アランの事だからきっと悩みや理由があるはずだ。
 一言、相談してくれれば止められたかもしれないと思うと、ビルトは心がずきりと痛んだ。



 少女はスープを煮ながら、ぼうっとしていた。
 先ほどのビルトの言葉、そしてポケットの中の実……。
 何も考えられず、ただ心の中でアランを呼び続けた。
「……あ……」
 はっと気付くとだいぶ煮詰まってしまったスープに水を足して味を調整する。
 ――お師匠さまに、会いたい。ぎゅっとして、全部否定して欲しい。
 火を消すと、ルーナはその場にへたり込む。
「う~~~~……」
 涙が溢れてきて、少女は呻いた。
 拭っても拭っても落ちてくる涙が鬱陶しい。
 ……自分はあの時と何も変わってはいない。
 自らの神格者を……アージスを、ただ失いたくない。
 ずっと傍に居て欲しい。
 本当に一連の事件の当事者だったら、自分は『また』一人になるのか。
 悲しくて、辛くて、自分の無力さが情けなくて、嗚咽だけが部屋に響いていた。
 すると、コンコン、と扉を叩く軽い音がした。
 少女ははっとする。
 ――……お師匠さま?
 本当はあれはフォリーエルブなどではなく、ビルトの発言も全て勘違いで――……。
 自然と体は逸り気味に玄関に向かった。
「お師匠さまぁ!!」
 勢いよく扉を開けると、居たのはアランでは無い。
「……り、ら……?」
「……ルーナちゃん、泣いてたの……?」
 玄関先に居たのは、リラだった。
 いつになく真面目な表情で、少女は嫌でも現実に引き戻される。
 ふらりと世界が歪んだ。
「ルーナちゃん、リーと一緒に来て? お願い」
 リラは小さな体と細い腕で、ルーナを引っ張る。
「やだ……」
「ルーナちゃん」
「今ここから離れたら、私、もうお師匠さまと居られなくなる気がする。だからお願い、リラ離して……!」
「ルーナちゃん!」
「っ……」
 いつもの甘えた彼女は何処へ行ったのだろう、しっかりとルーナを見据えるリラの瞳に迷いは無かった。
「リーは……ルーナちゃんの味方だから……」
「……」
 ぎゅうと抱きしめてきた彼女の腕を振りほどこうとは思えず、むしろルーナは少しずつ平静を取り戻していく。
「……リラ、ありがとう」
「ルーナちゃ……」
「大丈夫、私必ずここに戻ってくるから。今リラが私を連れていく場所は……きっと、事件に関係あるんでしょう?」
「……」
 こく、と頷いたリラの真剣な顔に、ルーナは涙を拭い覚悟を決めた。
「こっち」
 リラと手を繋いで歩く。
 村民はまだアージスに祈っているのだろうか、まるで廃村のように空気はシンとしていた。
「……村長は、今どこにいるの? こないだ怒らせちゃったかなって……」
「お父さんは……家にいると思う」
「そっか」
「ルーナちゃんは何も気にしなくていいよ? お父さんが酷いんだもの」
「……リラ……?」
 前進していく彼女は振り向かない。
 ルーナは首を傾げた。
「リラも、気にしなくていいんだよ?」
「……」
 彼女の足がぴたりと止まった。
「あれはリラの言葉じゃない。だから、私平気だよ」
 ――災厄。
 村長がルーナに放ったその言葉は、恐らく本人よりもリラを傷つけていたのでは無いだろうか。
 ルーナ自身がそう思ったからこその言葉だった。
「……優しいよね、ルーナちゃん」
 振り向かないのはきっと、今の表情を見られたくないんだろう。
 ルーナはきゅっとリラの肩を抱きしめる。
 たぶん、今リラは自分を責めていると思ったからだ。
 彼女は一瞬俯いて、しかし小さな手でぱちんと自らの顔を叩いた。
「ありがとう、大丈夫。行こう」
「うん」
 歩みを再開すると、二人は先ほどよりも強く互いの手を握る。
 湖を通りすぎて、東へと向かっていた。
「東の森に行くの?」
「うん。そこでちゃんと話さなきゃいけないことがあるんだ」
「……ん。分かった」
 森への入口は薄暗く元々墓場にしているだけあって、村民であっても少々の不気味さを感じる。
 リラも同じように感じたのだろうか、足が止まった。
「リ――」
 少女が声をかけようとしたその時。
 彼女は空いている片手でピィと指笛を吹いた。
 途端に森の中からガサガサと音がして、少女は目を見張る。
 ニィ。
 出てきたのは普通より一回りほど大きい一匹の猫だった。
「ニャンちゃん、ありがとうね」
「え? えぇ?」
 突然リラにすり寄ってきたその猫を見て、ルーナは今何が起きているのかと混乱した。
 野良猫の類では無いことは容易に分かる上に、何故リラが操っているように見えるのかも不思議でたまらない。
「この子はシェトルフっていって、森にいる猫の精霊。今のリーが呼べる、唯一の子なの」
「せ、い……れい、って……?」
 湖の精霊と言われている、村民の拠り所で信仰しているアージス。
 しかし、精霊が実在して尚且つ触れられるなど聞いたことが無い。
 その上に呼べるとなると、リラは一体何者なのだろうか。
「こわい?」
 ルーナがシェトルフから視線を外して彼女を見ると、複雑そうに苦笑している顔を向けていた。
「……ううん、リラの友達なんでしょ? 怖くないよ。ちょっと驚いたけど」
「ふふっ、ルーナちゃんならきっとそう言うと思ってた!」
 不安そうだった顔を満面の笑みにしてリラが笑った。
 すると二人の顔を交互に見ていたシェトルフが鳴いたと思えば、足にちょんと触って振り返りながら森の奥へと向かっていく。
 まるで付いてこいと言った仕草だ。
「ニャンちゃん、お願いね」
 リラが声をかけるとシェトルフはもう一度鳴いた。
「リラ」
「なぁに?」
「ずっとこんな能力……持ってたの?」
「……ルーナちゃん、眼鏡のレンズの材料って知ってる?」
「えっ?」
 リラは疑問に答えず思いもよらない質問を自分に向けられて、そういえば全く知らないと思う。
「ガラスじゃないの?」
「ぶー。……アージス様の、ウロコなんだよ」
「っ……ウロコ!?」
「うん、そう伝えられてる」
 さも当然のようにリラが言うが、ルーナには意味が分からなかった。
「アージス様の御神体の珠は、魂を閉じ込めたものなんだって。そして、長の家に代々伝わるのが……眼鏡。っていっても、他の街とかにあるようなものじゃない。精霊を見る事と使役する事が出来るの」
「…………」
 少女には、リラが何を言っているのかがいまいち掴めない。
「目が悪くてかけてる訳じゃないんだ。この眼鏡を取るとニャンちゃんは言う事聞かなくなる。だから視界が少し悪くなっても、リーはかけてないといけないの」
「ご、ごめん。何言ってるのか……よく分からない」
 そういえば彼女は眼鏡をしてちるにも関わらずよく転んでいたっけ、と思い当たる節があった。
「聞き流していいよ。だけど……」
 ルーナの理解出来る範囲を大きく超えていて、自分の頭を抱えてしまう。
 それを見たリラは歩を止めずにただ苦笑いしている。
 そもそもいつもの彼女は一体どこへいってしまったのだろうと考えるくらい、今日のリラはしっかりしていた。
 まるで、年長者のように。
 どちらが一体本当のリラなのだろう。
「村の中にある眼鏡は、全部村長が管理してるの」
「管理……?」
「長の一族だけが、着ける事を許されてる。……長が長である為に」
「……」
 何か違和感があった。
 リラは様々な感情が入り乱れているようで辛そうに眉間に皺を寄せている。
 多くの情報が突然湧いてきて、少女の脳内は片付かない。
 森も普段立ち入る場所ではない獣道を、だいぶ進んできた。
「ルーナちゃん、色んな事急に言ってごめんね。でも、ここで考えて欲しいのは一つだけなんだ」
「え……?」
「長の一族以外は持つことがない筈なのに、眼鏡を持ってる人はもう一人居るの」
 リラと、シェトルフが足を止めた。
 考え込んで俯いていたルーナは、顔を上げる。
 その瞬間目に入ってきたのは、一番信じたくない光景だった。
「これって……」
 ……悪魔の食事草フォリーエルブが森の一画を占めるように生えていた。
 このショックに追い打ちをかけるようにリラの言葉に促されて頭に浮かんだのは、見慣れた片眼の眼鏡モノクルをかけた少女にとって唯一無二の存在。
「おし、しょう……さま……」
 ルーナが呆然と口にすると、リラは小さく頷いた。



 その頃ビルトは、どうチェストを起こして連れ出すかを考えていた。
 アランは当然のように勘が鋭い。
 人の様子を見逃さないのは職業柄だろうが、昔から感情や行動といった機微には敏感だった。
 ――……既に俺だって、手中に入っているのかもしれない。
 そう思うとぞくりと冷や汗を掻きそうな気持ちになる。
「ビルト?」
「あ? あぁっ、なんだ?」
「家の方寄りましたか? ルーナの姿が見えないので」
「あいつは……――」
 ここは一芝居打つのが得策だろう。
 アランが家に行っている間にチェストを連れ出して、後からルーナを連れ出せば……。
 そこまで考えて、男ははっとした。
 ――……今、俺は何を考えた?
「ビルト?」
「……いや、わりぃ。俺見てくるわ」
「はぁ」
 大股でその場を離れ、診療所から出た。
 ……自分の事を殴り飛ばしたくなる。
 ――俺は馬鹿か? 勘の良いあいつの前でそんな事をしたら、ちびに危険が増すのは当然だ……!
 同時に二人をアランから引き離す。
 そうでなければ、『二人共は救えない』。
「くそっ……!」
 ぎりりと歯噛みしつつ、冷静さを取り戻そうとビルトは頭を振った。
 ――……どうするのがベストなのかを、考えろ。
 アランにこれ以上、事件は起こさせない。
 その為には、平静になれ。
 ビルトは深呼吸をして、目を閉じた。
「おい、ちび」
 声を落ち着かせて、扉を叩く。
 しかし、応答は無く、気配も無い。
「……ちび?」
 ビルトは眉を顰めた。
 扉に手をかけるとなんの抵抗も無く開く。
「ルーナ? おい、ルーナ!」
 部屋のどこを見回しても彼女の姿は無い。
 ビルトがルーナに声を掛けてからさほど時間は経っていないのに、一体どこに行ったというのだ。
 調理場を見れば、スープがそのまま放置されていた。
 という事は、突然決まった外出だと推測を立てる。
 ――落ち着け、俺。部屋を見る限り、誰かに連れ去られたのではない。
 荒らされた形跡も、抵抗した形跡もない。
 行き先に心当たりもなく、自分から付いていくとすれば、アラン・チェスト・リラくらいのものだとは思うが、アランとチェストは診療所。
 ということは、リラと一緒かもしれない。
 村長宅へと赴いて仮説の証明をしたいところだが、悠長に確認する時間が惜しい。
 この状況で遊びに出たとは思い難いが、果たして一緒であれば二人はどこに行ったのだろう。
 ビルトは、一か八かでルーナの部屋に書き置きを残す事にした。
 アランの性格からいって、勝手にルーナ宛の手紙を見る事は無いだろう。
 適当なまっさらな羊皮紙とペンを借りて、こう書いた。
『帰ったら、気取られないように俺の家に来てほしい ビルト』
 それだけ書いて、少女を待つ事に決めた。
 内心は複雑だった。
 何故なら、これでチェストを無理やり引っ張って連れ戻すことは不可能になったのだから。
 そんなことをすれば、アランと帰ってきたルーナがもし鉢合わせた場合どうなるか分からない。
 期を待つのならば、ルーナが帰ってきてからとも考えたが、その間にまた犠牲が出ないとも限らない。
 考えながらとりあえず診療所に戻った。
「おや? ルーナは?」
「今出てるみたいだ」
「そう……ですか」
「チェストは? 目ぇ覚めたか?」
「いえ、まだ」
「そうか……」
 力無く椅子に座り込むビルトは、肩を落としてため息を吐いた。
 ――……チェストはある意味ここから力尽くで連れ出せる。問題はルーナをどう救うべきかだ。
 リラだとしたら、何の為にルーナを連れ出したのか。
 あんな状態のルーナが付いていったとすれば、事件に関する情報をリラが持ってきたのだろうか。
 もしそうだとしたら、リラはアランの元に少女を帰すだろうか。
 万が一ルーナが帰ってきたとしても、アランが少女に危害を加えるだろうか。
 そして、一番信じたい仮説が浮き出てくる。
 ――アランは事件とは無関係なのではないか。
 しかしビルトの直感は、優しい仮説を潰そうと首を擡げてきた。
 急にぞわりと悪寒が背筋を通った。
 ――……既に、チェストに一服盛られていたとしたら。
 既に一晩彼女はアランの元に居た。
 チャンスはいくらでもあったはず。
 彼女が目を覚まさないという現実を考えると、アランを激情のまま問い詰めたくなる。
「困りましたね……。そろそろ診療所にも人が来るかもしれませんし」
 ふぅと溜息を吐いて言う彼に、ビルトはぐっと拳を握り感情を抑えた。
「俺がチェスト見てるからよ。お前は準備してろよ」
「はは、じゃあお任せしますね」
 カタンとビルトは立って奥に向かう。
 奥の部屋にはチェストが横になったままで、起こそうとした時ズキリと心が痛んだ。
 ――果たして、こいつをアランから引き離して、薬が無くなったらいつまで生きられるんだ?
 いや、かといってここに放置していていい訳が無い。
 ……裏口が確かあった筈だ。
 ともかく、チェストを起こして背負ってでもここから離れなければ。
 すると、突然足元を何かに引っ張られた。
 ――猫?
 猫は一切鳴く事も無く、まるで導くかのようにビルトを裏口へと引っ張っていく。
 そして、そこには何故かルーナに宛てたはずの手紙があった。
「……もしかしてお前さん、ちびの居場所知ってるのか」
 男の呟きに応えるように、猫は小さくニィと鳴いた。
「少し待っててくれ。連れてこなきゃいけない奴がいるんだ」
 話が通じていると信じて彼女の居る部屋に戻ると、何度か頬を軽く叩いて起こそうとするが、彼女は起きない。
「やっぱ、既に何か盛られてるのか……?」
 ルーナとチェストを安全な場所に避難させたら、アランとは話をつけなくてはならないだろう。
 覚悟を決めて彼女を背負うと、男は出来るだけ物音を立てないように、診療所から離れた。



「シェトルフ大丈夫かなぁ」
「リーの言う事、ちゃんと聞いてくれるから大丈夫。心配しなくても平気だよ」
 ルーナには、こちらを見て微笑むリラの事が、やはり自分よりもずっと大人に思えた。
 悪魔の食事草フォリーエルブの群生地の手前で二人は落ち葉を敷いて座り込んでいた。
 リラは先読みが出来るように話を繋げていく。
 ビルトの性格と状況からいって置手紙をした事も、それを見せれば半信半疑でもチェストと一緒に動いてくれるという事も。
 ……漸く平静を取り戻したルーナにリラが話して聞かせた計画は順調だった。
 ここまでシェトルフが、ビルトとチェストを引っ張ってくれば、なんとか逃げるにしても対峙するにしても作戦が立てやすい。
「ねぇ、リラ」
「んー?」
「お師匠さまは……村長の子供なの?」
「……たぶん、違うと思う。お父さんから、ちゃんと聞いた訳じゃないから、あくまで仮説だけど」
「そう……」
 ルーナは俯いた。
 その時だ。
 がさざっと何者かの足音が近づいてくる音で、リラとルーナは視線を上げた。
「――ルーナ! リラ!」
「ビルト……!」
 視線の先で、大男が声を張り上げて安堵した表情を浮かべていた。
「朝は……ごめんなさい」
「ばか、いいんだ。無事で……良かった」
「チェストは――」
「……彼女は、まだ目覚めません」
『!!』
 ビルトの後を追っていたのだろうか。
 後ろから姿を現した姿に、ルーナは震えそうになる足を堪えて、睨み上げた。
 見慣れた銀髪。
 片眼の眼鏡モノクル
 ――アラン=ギルフォード。
 少女の師である筈の、青年だった。
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