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43.寵姫の黒猫
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孔雀が描いたと思われる小さな海鳥と紫色の花と、緑色の鳥の絵。
「何これ。何の落書き?」
瑠璃鶲が眉を寄せた。
「・・・ミコアイサと、モクレンと、クジャクの絵だよ」
なるほど、この新しい総家令は、あの日記を全て読んだのか。
瑠璃鶲は、総家令代理のまま、次の代の白鷹に総家令職を譲った。
自分は正式な総家令ではないので、日記は読んではいない。
孔雀は、おそらく全部読んで、その時々の総家令の書き留めた事柄から、この雅やかな名前の毒はいつどんな目的で持って使われ、果たしてその成分は何であるかと見当をつけたのだろう。政治的な状況、後宮での人間関係、死亡した継室の症状あたりから判断して更に一つづつ資料から事実を拾い出したと思われる。
なかなか鋭い、いや、違う。おそらく、この娘は、一つづつ、しらみつぶしに考えたのだ。
このたった一つの、仮定としても答えを導き出す為に、膨大な資料を集め、考える事、出向く事を厭わない。
全て同じ物だと思った砂漠の砂つぶの中から、たった一つの星のかけらを見つけ出す事に喜びを見出す。
閃くタイプではなく、突き止めるタイプなのだろう。
ああ、そうよ。小さな妹。
世界は、発明より発見の方がいかに多い事か。
深い森の中で、たった一枚の葉っぱを探すの。
光も届かぬ暗い海の底で、漆黒の魚を捕まえるのよ。
諦めない。迷ったっていい、それが正しいと思うまで続けるのよ。
それがね、真実を掴むこつよ。
気が合いそうだ、と瑠璃鶲は嬉しくなった。
黄鶲は手紙を覗き込んだ。
鷂が油彩を指南したという孔雀はなかなかデッサンが優れているようだ。
花の絵も鳥の絵もなかなかだ。
「巫女愛紗お姉様と孔雀はこの寵姫の黒猫とかいう同じ物を飲まされたということ?・・・で、なんで、木蓮様は、この姫神の天秤とやらを飲まされたの?」
.瑠璃鶲はため息をついた。
「・・・当時、巫女愛紗お姉様は黒曜帝の子を妊娠していたんだけれどね・・・」
「それが、猩々朱鷺なんじゃないの?」
女家令の子の父親は詮索しないのが決まり。
|巫女愛紗は父親については何も言わなかったので、猩々朱鷺本人も、今でも父親が誰かなんて気にもしていない。
だが、母親が公式寵姫だったという立場上、多くの者が猩々朱鷺の父親は黒曜だと思っている。
「・・・違う。その子は結局流れた。当時の継室のひとりが、猩々朱鷺お姉様に毒を盛ってね。黒曜様はお怒りになって、その継室を廃妃では済まず死罪にしたけれど・・・」
当時を思い出して、瑠璃鶲は声を落とした。
トン、と指で、紙を弾く。
あの時、どんなに調べてもわからなかった事が書いてある。
「・・・・寵姫の黒猫。・・・なるほど、麝香猫ね。・・・当たりをつけたのも、いいセンスしてる。シベットよ。それから水銀じゃないかって。なんとも前時代的な処方だけれど」
黄鶲が絶句した。
「堕ろすのが目的ということ・・・?」
「そうだろうね。この成分見たらそうだもの」
「・・・孔雀はまだ城に上がって間もないのよ・・・?」
「牽制だろうねえ。あの、何にも無関心の情緒が欠落してるんじゃないかと思う翡翠が執着したらどうなるかなんてわからないと思ったんじゃないのかい?」
皇帝相手にひどい言い草だ。
「じゃあ、芙蓉様は木蓮様がご懐妊していたのご存知だったの・・・?まだ三ヶ月にも入ってなかったのよ。・・・芙蓉様付きの青鷺にも知らせなかったのに」
「我々家令がそうであるように。女官も仕事をしてるということよ」
もともと瑠璃鶲は、研究職である。
火がついたのか、ペンを持つと孔雀が書いた科学式にさらに注釈を加えて行った。
「・・・成分からしたら、目的は同じなのに。なんで、同じものを使わなかったのかしら?」
紫色の花が描かれた横に記してあるのは、姫神の天秤という文字。
「どうも、このチビ孔雀は気がついているようだね」
「・・・姫って、皇女様?・・・真鶴の事?」
「さてさて・・・」
どこか楽しそうに瑠璃鶲はまたペンを走らせた。
「近いうち、連れておいで。ほら、アカデミーには翡翠様の次男坊殿下もいることだし」
老家令は、黄鶲が持ってきた孔雀のカルテを眺めながら、菓子箱から貝の形の焼き菓子をつまんで口に放り込むと、うまそうに呑み下した。
「何これ。何の落書き?」
瑠璃鶲が眉を寄せた。
「・・・ミコアイサと、モクレンと、クジャクの絵だよ」
なるほど、この新しい総家令は、あの日記を全て読んだのか。
瑠璃鶲は、総家令代理のまま、次の代の白鷹に総家令職を譲った。
自分は正式な総家令ではないので、日記は読んではいない。
孔雀は、おそらく全部読んで、その時々の総家令の書き留めた事柄から、この雅やかな名前の毒はいつどんな目的で持って使われ、果たしてその成分は何であるかと見当をつけたのだろう。政治的な状況、後宮での人間関係、死亡した継室の症状あたりから判断して更に一つづつ資料から事実を拾い出したと思われる。
なかなか鋭い、いや、違う。おそらく、この娘は、一つづつ、しらみつぶしに考えたのだ。
このたった一つの、仮定としても答えを導き出す為に、膨大な資料を集め、考える事、出向く事を厭わない。
全て同じ物だと思った砂漠の砂つぶの中から、たった一つの星のかけらを見つけ出す事に喜びを見出す。
閃くタイプではなく、突き止めるタイプなのだろう。
ああ、そうよ。小さな妹。
世界は、発明より発見の方がいかに多い事か。
深い森の中で、たった一枚の葉っぱを探すの。
光も届かぬ暗い海の底で、漆黒の魚を捕まえるのよ。
諦めない。迷ったっていい、それが正しいと思うまで続けるのよ。
それがね、真実を掴むこつよ。
気が合いそうだ、と瑠璃鶲は嬉しくなった。
黄鶲は手紙を覗き込んだ。
鷂が油彩を指南したという孔雀はなかなかデッサンが優れているようだ。
花の絵も鳥の絵もなかなかだ。
「巫女愛紗お姉様と孔雀はこの寵姫の黒猫とかいう同じ物を飲まされたということ?・・・で、なんで、木蓮様は、この姫神の天秤とやらを飲まされたの?」
.瑠璃鶲はため息をついた。
「・・・当時、巫女愛紗お姉様は黒曜帝の子を妊娠していたんだけれどね・・・」
「それが、猩々朱鷺なんじゃないの?」
女家令の子の父親は詮索しないのが決まり。
|巫女愛紗は父親については何も言わなかったので、猩々朱鷺本人も、今でも父親が誰かなんて気にもしていない。
だが、母親が公式寵姫だったという立場上、多くの者が猩々朱鷺の父親は黒曜だと思っている。
「・・・違う。その子は結局流れた。当時の継室のひとりが、猩々朱鷺お姉様に毒を盛ってね。黒曜様はお怒りになって、その継室を廃妃では済まず死罪にしたけれど・・・」
当時を思い出して、瑠璃鶲は声を落とした。
トン、と指で、紙を弾く。
あの時、どんなに調べてもわからなかった事が書いてある。
「・・・・寵姫の黒猫。・・・なるほど、麝香猫ね。・・・当たりをつけたのも、いいセンスしてる。シベットよ。それから水銀じゃないかって。なんとも前時代的な処方だけれど」
黄鶲が絶句した。
「堕ろすのが目的ということ・・・?」
「そうだろうね。この成分見たらそうだもの」
「・・・孔雀はまだ城に上がって間もないのよ・・・?」
「牽制だろうねえ。あの、何にも無関心の情緒が欠落してるんじゃないかと思う翡翠が執着したらどうなるかなんてわからないと思ったんじゃないのかい?」
皇帝相手にひどい言い草だ。
「じゃあ、芙蓉様は木蓮様がご懐妊していたのご存知だったの・・・?まだ三ヶ月にも入ってなかったのよ。・・・芙蓉様付きの青鷺にも知らせなかったのに」
「我々家令がそうであるように。女官も仕事をしてるということよ」
もともと瑠璃鶲は、研究職である。
火がついたのか、ペンを持つと孔雀が書いた科学式にさらに注釈を加えて行った。
「・・・成分からしたら、目的は同じなのに。なんで、同じものを使わなかったのかしら?」
紫色の花が描かれた横に記してあるのは、姫神の天秤という文字。
「どうも、このチビ孔雀は気がついているようだね」
「・・・姫って、皇女様?・・・真鶴の事?」
「さてさて・・・」
どこか楽しそうに瑠璃鶲はまたペンを走らせた。
「近いうち、連れておいで。ほら、アカデミーには翡翠様の次男坊殿下もいることだし」
老家令は、黄鶲が持ってきた孔雀のカルテを眺めながら、菓子箱から貝の形の焼き菓子をつまんで口に放り込むと、うまそうに呑み下した。
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