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104.宮廷の慶事
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この後宮で、現在皇太子妃が気に留めなくてはならない事は皇太子からの興味関心や、円満な家庭生活とかそういうものではない。
そもそも宮廷にそんなもの厳密には存在しない。
その証拠に、翡翠の三妃は皇太子妃に対して、ただ穏やかに優しい姑振りを見せているではないか。
現在の皇太子妃の動向など、自分に何の影響もない事を知っているからだ。
逆に総家令への風当たりは強くなる一方。
さすが三妃は、ここで生き抜いて来た女だ。
二妃、正室すら命を落としたこの後宮で、だ。
三妃は翡翠が何を求めて皇太子妃を迎えたのか察している。
翡翠が欲しいのは、宮廷における慶事。
総家令の実績になるからだ。
皇太子妃は恐らく察してはいるが、それがどれ程の優先順位かは理解していないのだろう。
ならば藍晶が伝えるべきであろうが、彼はそんな役回りは望まないだろう。
琥珀帝の白鷹に対する執着は異常だったと言われるけれど、翡翠はもしかしたらその上を行く。
愛情だろうが信頼だろうが友情だろうが執着だろうが依存だろうが、とにかく何でもいいから家令は皇帝の一番近くに侍らねばならぬ、というのが家令達の総意。
だから家令の立場からしたら孔雀の存在というのは実に都合がいいのだ。
金糸雀は、こうなったらあの子は生贄《いけにえ》よ、と白鷹が嬉しそうに笑ったのを今だに思い出す。
孔雀は金糸雀に茶を差し出した。
「・・・・金糸雀お姉様、皇太子妃殿下のご実家の比嘉卿は、継室ご入宮はどうぞ速やかになんて仰るの」
孔雀は自分も静かに茶を飲んだ。
この度、継室に推薦された娘も同じ元老院筋の出身だから、柵もある。
むしろ、比嘉家からしたら、我が身より格上の姫が継室になる訳だから、差し障りないように進めてほしいのだ。
けれど、当の皇太子妃はそれを飲み込めないでいる訳だ。
「ここまで確立された非常に煩わしい後宮システムというのはね。守るためのでもあるのよ。取引も嫌だと仰るなら、宮廷にいらっしゃる資格はないわよ。翡翠様の三妃様を見てごらん。あの方はご自分の感情や立場に敏感な方だし、取引の余地がある。ここでは勝負や損得に拘るというのは大切なことよ。だからこそ梟お兄様は三妃様を後宮にお迎えになられたんだから」
金糸雀はそう言った。
異論があるなら言ってごらん、と妹弟子を見る。
「・・・資格と言うのなら、そうね。確かに、紅小百合様は資格は充分。では、資質は?ねぇ、金糸雀お姉様。ご正室やご継室に入る為の資格とか資質って、まずは、お相手を好きか・・・、嫌いでは無いかどうかよ。紅小百合様も、鈴蘭様もその条件を満たしているじゃない」
金糸雀はため息をついた。
自分が燃えなきゃ守れない。
非常にこの妹弟子らしい意見だが。
そもそもそういうスタンスで入宮する正室や継室は居ないのだ。
皇帝の家族というのは廷臣とは違う。
本当に一握りの特権階級。
その立場に与ることは、その資格のある者達にとっては栄誉であり、その為の努力は正義だ。
ある程度、その素養を守る為に正室や継室は決まったグループから出す仕組みになっている。
外戚同士が力を持ち、そのパワーバランスを保って政治を実行するシステム。
王族とその近しい廷臣達の為のリスクヘッジだ。
良いものだろうが悪いものだろうが、思想も感情も、度を超えたものは邪魔になる。
しかし、家令というのは常に度を越えている。
「あのね。翡翠様や藍晶様個人の為にヨメに来る女なんかいないの。怖いわよ、そんなの。旦那の為に何だってされちゃ、事故が起きるじゃないの。家令じゃないのよ?」
孔雀は膨れた。
「全く、あんたって継室候補群の出のくせにすっかり家令になっちゃって・・・。まあ、いずれ継室だってあともう一人は欲しいでしょう。後は天河様の方だって。あんたの仕事のうちよ。良いご縁まとめなさいよ」
「・・・私はこういうこと縁起が悪いの。どこかの誰かのせいで」
孔雀と燕は金糸雀と白鴎《はくおう》の結婚式でフラワーガールとリングボーイをやったのだが、新郎新婦の姉弟子兄弟子はすぐに離婚してしまい、ありがたくないイメージがついた。
金糸雀がしょうがないじゃない、と全く悪びれもせずに言った。
まあ悪いとは思っているのだ。
結婚式どころか二次会の準備やら引き出物の手配までさせた。
離婚の際もお詫びの品物の手配から何から何までこの妹弟子に押し付けたのだ。
金糸雀が白鴎を折檻したのに慌てて救急車を呼んで入院させたのも孔雀。
金糸雀が浮気相手の女を丸刈りにしたのをどうか示談に、と頭を下げたのも孔雀。
当の金糸雀のやった事後処理と言えば、「裁判になるならやってやるわよ、自分の弁護を!」と新婚旅行先であったハワイから電話で怒鳴り散らした事くらい。
きっと姉弟子は旅先で傷心だろうと孔雀は翡翠に頼み込み、ハワイにまで行ったのだ。
しかし、実際行ってみると、一人で豪遊ばかりか副業のデートクラブ運営で荒稼ぎしていた始末。
「良かったわー、ハワイ」
「・・・そうですか」
南の島で、これが本当に結婚破綻した新婦なのかと思う程、金糸雀は毎日いきいきとしていた。
孔雀は金糸雀からデートクラブの著名人の名前の連なる名簿を見せられて仰天して、一旦クラブを清算させた。
その後処理業務でくたくただった。
もしこれが警察機構にでもバレたら、時期が時期だけにまずい、と判断したのだ。
「我々は軍位があるんだから、警察も世間の目も手厳しいのよ。事件にされたら負けちゃうわ・・・。それに、白鴎お兄様もなんでよりにもよって警察庁にご勤務の旦那様のいらっしゃる方と浮気するのよ・・・」
「あら。でもあっちも脛に傷があるから、うまくいったじゃないのよ」
白鴎の浮気相手も社会的に地位のある夫のいるご夫人という身の上で、ここはお互い示談に、という事で纏まったのだ。
「大体、私が白鴎と浮気女を相手に訴訟起こす案件よ?!なんでこっちが払うのよ?」
「誰かさんのせいよ。あんなてるてる坊主みたいにしちゃったからよ・・・すっごい高かったあ・・・人毛のカツラ・・・」
金糸雀が無体を働き、ご夫人は丸刈りにされたわけだから、慰謝料の他に、ウィッグを用意したのだがそれがもう驚くべき金額で。
それを家令組合で出したのだ。
孔雀がため息をついた。
「もう、自分の髪を売ろうかと思ったくらいよ・・・」
「あら、そう?じゃ、またあるかもしれないから、アンタのは次回のためにとっといてよ」
全く反省が見られないとんでもない事を言って金糸雀が笑った。
金糸雀と鷂は、孔雀と同じ神殿の神官職であるが、髪がずるずる長いのはダサいと言って、予約だけでも三ヶ月待ちの美容室でカットしているので、売る髪もない。
鷂というのは孔雀とはまた違うセンスの持ち主で、スタイリッシュだと金糸雀は憧れている。
それは孔雀だって同じ事。
「私だってステキなヘアスタイルにしてみたい。お洋服だって鷂お姉様みたいのが着てみたい」と言っても「アンタは無理でしょ。総家令は宮城にいる時や営業中は常に家令服だよ。私服なんかたいして着る暇ないんだから。いいじゃないの、残り生地で縫ってやってるんだし」と、金糸雀に言われてしまう。
孔雀以外の家令は、宮城以外での勤務も多いから、皆それぞれに宮仕え以外では自由な服装をしているのだが、孔雀は宮城と離宮、オリュンポス、軍の生活の繰り返し。
軍服と神官服以外は、家令服ばかり着ているので、女官からは着たきり鴉の子と陰口を叩かれている。
孔雀が、今度はネロリの香りの茶を入れて、焼いたばかりのマドレーヌを出した。
金糸雀はその貝の形の焼き菓子を食べながら、ファイルをめくった。
孔雀は紫色のぶどうを一房大切そうに抱えると、夢中で食べ始めた。
「やだ、あんた共食いみたい」
金糸雀が笑った。
孔雀の紫色の瞳を揶揄ったのだ。
金糸雀はずいっと継室候補の資料を妹弟子に見せた。
「この一宮家の長女。正室候補群の家なのよね。・・・鈴蘭様の比嘉家より、当然格上」
その時々の情勢によって皇后より継室の方が格上の家の出身という場合はないわけではないが、速やかに縁談が纏まれば、比嘉家は一宮《いち宮》家に大きな貸しが出来るというわけだ。
権勢の張り合い。
「亡くなった前元老院次席を後ろ盾にして正室に入ろうとして。それが叶わないならば継室で、だなんてねぇ。可能だけれど、正室候補の立場から継室には嫌がる向きも多いのになかなかよねぇ」
継室候補群の人間は正室にはなれないが、正室候補群の方は、正室にも継室にもなれるのだ。
高い者は低い方にも行けるけれど低い者は高い方にはいけない、厳然とした身分の壁。
孔雀が首を振った。
「もちろん一宮家にちょうど良い年齢のお姫様がいらっしゃるという事もありましたが、実際は、一宮家だけでは正室としての輿入れの用意が出来ないという事だったみたい。前元老院次席のおうちで費用は全額持つ話だったみたいなの」
正室となると実家が輿入れに関わる準備をする。
宮城は支度金を用意するが、正室には持参金があるのだ。
結局は、正室の実家の持ち出し分がかなりある。
金糸雀は驚いて顔を上げた。
「あそこそんなに財務が苦しいの?」
どうやらそうらしい、と孔雀が頷いた。
「だから前元老院次席が目をつけたようです。・・・今となっては、まあご継室ならこちらから何もかもご用意しますからね。それならばぜひという事みたい」
世知辛い話だ。
孔雀もため息をついた。
「何にしても、王族の婚姻や後継の誕生は、総家令の実績でもあるからね。早めに決めた方がいいわよ。あんたの為よ」
金糸雀はそう言った。
「お姉様、ドライでクールね」
孔雀の自分への評価に金糸雀《カナリア》が眉を寄せた。
「何よ。そんなもんでしょう」
「・・・夏の下着みたいね」
孔雀が茶化したのに、金糸雀も笑った。
そもそも宮廷にそんなもの厳密には存在しない。
その証拠に、翡翠の三妃は皇太子妃に対して、ただ穏やかに優しい姑振りを見せているではないか。
現在の皇太子妃の動向など、自分に何の影響もない事を知っているからだ。
逆に総家令への風当たりは強くなる一方。
さすが三妃は、ここで生き抜いて来た女だ。
二妃、正室すら命を落としたこの後宮で、だ。
三妃は翡翠が何を求めて皇太子妃を迎えたのか察している。
翡翠が欲しいのは、宮廷における慶事。
総家令の実績になるからだ。
皇太子妃は恐らく察してはいるが、それがどれ程の優先順位かは理解していないのだろう。
ならば藍晶が伝えるべきであろうが、彼はそんな役回りは望まないだろう。
琥珀帝の白鷹に対する執着は異常だったと言われるけれど、翡翠はもしかしたらその上を行く。
愛情だろうが信頼だろうが友情だろうが執着だろうが依存だろうが、とにかく何でもいいから家令は皇帝の一番近くに侍らねばならぬ、というのが家令達の総意。
だから家令の立場からしたら孔雀の存在というのは実に都合がいいのだ。
金糸雀は、こうなったらあの子は生贄《いけにえ》よ、と白鷹が嬉しそうに笑ったのを今だに思い出す。
孔雀は金糸雀に茶を差し出した。
「・・・・金糸雀お姉様、皇太子妃殿下のご実家の比嘉卿は、継室ご入宮はどうぞ速やかになんて仰るの」
孔雀は自分も静かに茶を飲んだ。
この度、継室に推薦された娘も同じ元老院筋の出身だから、柵もある。
むしろ、比嘉家からしたら、我が身より格上の姫が継室になる訳だから、差し障りないように進めてほしいのだ。
けれど、当の皇太子妃はそれを飲み込めないでいる訳だ。
「ここまで確立された非常に煩わしい後宮システムというのはね。守るためのでもあるのよ。取引も嫌だと仰るなら、宮廷にいらっしゃる資格はないわよ。翡翠様の三妃様を見てごらん。あの方はご自分の感情や立場に敏感な方だし、取引の余地がある。ここでは勝負や損得に拘るというのは大切なことよ。だからこそ梟お兄様は三妃様を後宮にお迎えになられたんだから」
金糸雀はそう言った。
異論があるなら言ってごらん、と妹弟子を見る。
「・・・資格と言うのなら、そうね。確かに、紅小百合様は資格は充分。では、資質は?ねぇ、金糸雀お姉様。ご正室やご継室に入る為の資格とか資質って、まずは、お相手を好きか・・・、嫌いでは無いかどうかよ。紅小百合様も、鈴蘭様もその条件を満たしているじゃない」
金糸雀はため息をついた。
自分が燃えなきゃ守れない。
非常にこの妹弟子らしい意見だが。
そもそもそういうスタンスで入宮する正室や継室は居ないのだ。
皇帝の家族というのは廷臣とは違う。
本当に一握りの特権階級。
その立場に与ることは、その資格のある者達にとっては栄誉であり、その為の努力は正義だ。
ある程度、その素養を守る為に正室や継室は決まったグループから出す仕組みになっている。
外戚同士が力を持ち、そのパワーバランスを保って政治を実行するシステム。
王族とその近しい廷臣達の為のリスクヘッジだ。
良いものだろうが悪いものだろうが、思想も感情も、度を超えたものは邪魔になる。
しかし、家令というのは常に度を越えている。
「あのね。翡翠様や藍晶様個人の為にヨメに来る女なんかいないの。怖いわよ、そんなの。旦那の為に何だってされちゃ、事故が起きるじゃないの。家令じゃないのよ?」
孔雀は膨れた。
「全く、あんたって継室候補群の出のくせにすっかり家令になっちゃって・・・。まあ、いずれ継室だってあともう一人は欲しいでしょう。後は天河様の方だって。あんたの仕事のうちよ。良いご縁まとめなさいよ」
「・・・私はこういうこと縁起が悪いの。どこかの誰かのせいで」
孔雀と燕は金糸雀と白鴎《はくおう》の結婚式でフラワーガールとリングボーイをやったのだが、新郎新婦の姉弟子兄弟子はすぐに離婚してしまい、ありがたくないイメージがついた。
金糸雀がしょうがないじゃない、と全く悪びれもせずに言った。
まあ悪いとは思っているのだ。
結婚式どころか二次会の準備やら引き出物の手配までさせた。
離婚の際もお詫びの品物の手配から何から何までこの妹弟子に押し付けたのだ。
金糸雀が白鴎を折檻したのに慌てて救急車を呼んで入院させたのも孔雀。
金糸雀が浮気相手の女を丸刈りにしたのをどうか示談に、と頭を下げたのも孔雀。
当の金糸雀のやった事後処理と言えば、「裁判になるならやってやるわよ、自分の弁護を!」と新婚旅行先であったハワイから電話で怒鳴り散らした事くらい。
きっと姉弟子は旅先で傷心だろうと孔雀は翡翠に頼み込み、ハワイにまで行ったのだ。
しかし、実際行ってみると、一人で豪遊ばかりか副業のデートクラブ運営で荒稼ぎしていた始末。
「良かったわー、ハワイ」
「・・・そうですか」
南の島で、これが本当に結婚破綻した新婦なのかと思う程、金糸雀は毎日いきいきとしていた。
孔雀は金糸雀からデートクラブの著名人の名前の連なる名簿を見せられて仰天して、一旦クラブを清算させた。
その後処理業務でくたくただった。
もしこれが警察機構にでもバレたら、時期が時期だけにまずい、と判断したのだ。
「我々は軍位があるんだから、警察も世間の目も手厳しいのよ。事件にされたら負けちゃうわ・・・。それに、白鴎お兄様もなんでよりにもよって警察庁にご勤務の旦那様のいらっしゃる方と浮気するのよ・・・」
「あら。でもあっちも脛に傷があるから、うまくいったじゃないのよ」
白鴎の浮気相手も社会的に地位のある夫のいるご夫人という身の上で、ここはお互い示談に、という事で纏まったのだ。
「大体、私が白鴎と浮気女を相手に訴訟起こす案件よ?!なんでこっちが払うのよ?」
「誰かさんのせいよ。あんなてるてる坊主みたいにしちゃったからよ・・・すっごい高かったあ・・・人毛のカツラ・・・」
金糸雀が無体を働き、ご夫人は丸刈りにされたわけだから、慰謝料の他に、ウィッグを用意したのだがそれがもう驚くべき金額で。
それを家令組合で出したのだ。
孔雀がため息をついた。
「もう、自分の髪を売ろうかと思ったくらいよ・・・」
「あら、そう?じゃ、またあるかもしれないから、アンタのは次回のためにとっといてよ」
全く反省が見られないとんでもない事を言って金糸雀が笑った。
金糸雀と鷂は、孔雀と同じ神殿の神官職であるが、髪がずるずる長いのはダサいと言って、予約だけでも三ヶ月待ちの美容室でカットしているので、売る髪もない。
鷂というのは孔雀とはまた違うセンスの持ち主で、スタイリッシュだと金糸雀は憧れている。
それは孔雀だって同じ事。
「私だってステキなヘアスタイルにしてみたい。お洋服だって鷂お姉様みたいのが着てみたい」と言っても「アンタは無理でしょ。総家令は宮城にいる時や営業中は常に家令服だよ。私服なんかたいして着る暇ないんだから。いいじゃないの、残り生地で縫ってやってるんだし」と、金糸雀に言われてしまう。
孔雀以外の家令は、宮城以外での勤務も多いから、皆それぞれに宮仕え以外では自由な服装をしているのだが、孔雀は宮城と離宮、オリュンポス、軍の生活の繰り返し。
軍服と神官服以外は、家令服ばかり着ているので、女官からは着たきり鴉の子と陰口を叩かれている。
孔雀が、今度はネロリの香りの茶を入れて、焼いたばかりのマドレーヌを出した。
金糸雀はその貝の形の焼き菓子を食べながら、ファイルをめくった。
孔雀は紫色のぶどうを一房大切そうに抱えると、夢中で食べ始めた。
「やだ、あんた共食いみたい」
金糸雀が笑った。
孔雀の紫色の瞳を揶揄ったのだ。
金糸雀はずいっと継室候補の資料を妹弟子に見せた。
「この一宮家の長女。正室候補群の家なのよね。・・・鈴蘭様の比嘉家より、当然格上」
その時々の情勢によって皇后より継室の方が格上の家の出身という場合はないわけではないが、速やかに縁談が纏まれば、比嘉家は一宮《いち宮》家に大きな貸しが出来るというわけだ。
権勢の張り合い。
「亡くなった前元老院次席を後ろ盾にして正室に入ろうとして。それが叶わないならば継室で、だなんてねぇ。可能だけれど、正室候補の立場から継室には嫌がる向きも多いのになかなかよねぇ」
継室候補群の人間は正室にはなれないが、正室候補群の方は、正室にも継室にもなれるのだ。
高い者は低い方にも行けるけれど低い者は高い方にはいけない、厳然とした身分の壁。
孔雀が首を振った。
「もちろん一宮家にちょうど良い年齢のお姫様がいらっしゃるという事もありましたが、実際は、一宮家だけでは正室としての輿入れの用意が出来ないという事だったみたい。前元老院次席のおうちで費用は全額持つ話だったみたいなの」
正室となると実家が輿入れに関わる準備をする。
宮城は支度金を用意するが、正室には持参金があるのだ。
結局は、正室の実家の持ち出し分がかなりある。
金糸雀は驚いて顔を上げた。
「あそこそんなに財務が苦しいの?」
どうやらそうらしい、と孔雀が頷いた。
「だから前元老院次席が目をつけたようです。・・・今となっては、まあご継室ならこちらから何もかもご用意しますからね。それならばぜひという事みたい」
世知辛い話だ。
孔雀もため息をついた。
「何にしても、王族の婚姻や後継の誕生は、総家令の実績でもあるからね。早めに決めた方がいいわよ。あんたの為よ」
金糸雀はそう言った。
「お姉様、ドライでクールね」
孔雀の自分への評価に金糸雀《カナリア》が眉を寄せた。
「何よ。そんなもんでしょう」
「・・・夏の下着みたいね」
孔雀が茶化したのに、金糸雀も笑った。
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