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110.邪恋の果実
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翡翠の次の皇帝は藍晶とすると琥珀帝の決定を賜った元老院派貴族の母を持つ第一太子である藍晶と、瑪瑙帝の勧めで入宮した三妃の間に皇女が産まれた宮廷に、死んだ妃の太子であり、失墜したギルド長の外孫である天河の居場所など無かった。
そもそもいい思い出の無い城からは足がますます遠のいたのだが、現在において、同じギルド系という事もあろうが、孔雀が第二太子である自分の待遇をだいぶ改善させた。
まずは侍従に幼馴染でもある大嘴を正式につけた。
大嘴は、聖堂の司祭長の甥に当たる。
貴族でこそないが、特権階級の一族だ。
元老院派はすべからく聖堂に近しい、正しくは元老院派すら聖堂には傅かねばならない。
もし万が一があり得る家令という存在が司祭長に近い人間だという事実は、後ろ盾が弱い天河に取って充分なくらいの手助けとなった。
それが孔雀の判断だとして、やはり彼女は家令なのだと言わざるを得ない。
「もし、万が一、天河様が皇帝になりましたら、聖堂派の大嘴が総家令、かもしれませんね」という総家令とひいては皇帝の思惑の表明でもある。
それはただの予防線だとしても、牽制にはなるのだ。
天河はアカデミーでの研究を存分に出来るように、花石膏宮付きとして二妃に仕え、天河の教育係でもあった猩々朱鷺をアカデミー長にした。
アカデミー長になるには、アカデミー委員全員の認可が必要であり、皇帝と総家令の推薦状があったとしても、そう容易では無い。
猩々朱鷺が、それをどう取り付けたのか未だに謎ではあるが。
孔雀は翡翠と天河の親子の溝がどうたらとやたら心配するが以前など溝どころか距離しか無かった。
まるで新婚夫婦のように、カタログを眺めながらお互いの執務室や離宮の改装の準備を進める翡翠と孔雀が憎らしくて仕方なかった頃もあった。
何事にも特に興味の無い、感動が薄いタイプのあの父親が、こんなに何かに情熱を傾けるのも知らなかった。
そもそも彼は後宮にもそれほど寄り付か無かったのだ。
それが、見る見る更生し始めたわけだ。
今では、自分で国中あちこちに足を運び、国民にも親しむ皇帝として、稀有なほど支持されている。
リベラルと称えられた瑪瑙帝ですら、国民からの実際の支持率と言えば高くは無かった。
王族、貴族、皇帝。それは既得権益を貪る遠い存在でしか無かったのだから。
総家令である孔雀は、若いというより子供に近いからフットワークが軽い。
兄弟子や姉弟子が常に城にも軍にもおり、盤石なせいもあるので、孔雀が実際にあちこちに視察と言う名の用足しに行くのにそれほど障りがない。
それに翡翠がくっついて行っている結果でしか無いと天河は知っている。
その上、現在、翡翠には愛妻家でマイホームパパのイメージすら定着しているのだ。
それを孔雀は喜ぶのだ。
三妃とその間の紅水晶と出かけた先の写真や映像がよく報道されている。
あのズボラで薄情な男のどこにそんな甲斐性があるのだろうと信じがたいが、それもまた孔雀の采配の結果なのだと思うと「孔雀ってトリッキーだけど方々勘違いさせてある意味アゲマンよねえ」と猩々朱鷺が不遜にも言うのにも渋々ながら頷ける。
だから今回の四妃の入宮に関しても、孔雀は政治だ嫉妬だ以前に、真剣なのだ。
カーテンがどうの、壁紙がどうの、家具はどうしよう、食器はああで、でもお姫様が使うにはこのフォークは重いとか、そんなところまで気を回す。
継室を出す一宮家から、準備はそちらに任せると言われたものだから、失礼があってはならない、お気に召して頂けるようにと必死。
そもそも改装や模様替えが好きなタイプなのはわかっているが、政治がもはや二の次に何とも楽しそうなのだ。
小さな孔雀風と皇太子が名付けた趣味の良さは宮廷でも知られているから、そこに問題はないだろうが。
あの白鷹は琥珀を愛しいあまりに何人もの継室を廃妃にして、公式寵姫を追い出したのは未だ語り草だ。
天河の祖父であり、翡翠の父である継室の椿は廃される事は無かったが、結局は体良く実家に返された。祖父は、白鷹を未だに悪魔のような女だと言っている。
しかし、その琥珀だって嫉妬してあてつけからの行動だったらしい。
皇帝と総家令が特定の感情を伴う関係である事は別に必要ではない。
瑪瑙や梟がそうだったように。彼らは確かに皇帝と臣下であり、旧友であったが、そこを越える事は無かった。
しかし、琥珀と白鷹は間違いなく、ほぼ内縁関係のようなもの。
そうなると、愛憎任せにどこまでもこじれるという、あれはわかりやすい例だ。
天河は、ここに疑問というか、風穴を見つけたのだ。
「天河様。壁紙のお色。お若い方って、このサーモンピンクとライラック、どっちがいいでしょうか」なんて、自分よりも年上の継室だろうに、お若い方、と呼ぶのもおかしかったが。
その様子に、違和感を感じたのも事実。
「ああもう、白鷹お姉様ったら、継室が来るなんて言うと毎回狂ったように嫉妬して、おかしいやら、とばっちりだわで・・・」
孔雀達よりも上の世代の家令達がよくそう話していたではないか。
なのに、この寵姫宰相は嫉妬なんかしてないじゃないか。
さて、この胸に実り今や熟さんとする果実は甘いか苦いか。
天河は、いつかその果実を味わう事を心に決めた。
そもそもいい思い出の無い城からは足がますます遠のいたのだが、現在において、同じギルド系という事もあろうが、孔雀が第二太子である自分の待遇をだいぶ改善させた。
まずは侍従に幼馴染でもある大嘴を正式につけた。
大嘴は、聖堂の司祭長の甥に当たる。
貴族でこそないが、特権階級の一族だ。
元老院派はすべからく聖堂に近しい、正しくは元老院派すら聖堂には傅かねばならない。
もし万が一があり得る家令という存在が司祭長に近い人間だという事実は、後ろ盾が弱い天河に取って充分なくらいの手助けとなった。
それが孔雀の判断だとして、やはり彼女は家令なのだと言わざるを得ない。
「もし、万が一、天河様が皇帝になりましたら、聖堂派の大嘴が総家令、かもしれませんね」という総家令とひいては皇帝の思惑の表明でもある。
それはただの予防線だとしても、牽制にはなるのだ。
天河はアカデミーでの研究を存分に出来るように、花石膏宮付きとして二妃に仕え、天河の教育係でもあった猩々朱鷺をアカデミー長にした。
アカデミー長になるには、アカデミー委員全員の認可が必要であり、皇帝と総家令の推薦状があったとしても、そう容易では無い。
猩々朱鷺が、それをどう取り付けたのか未だに謎ではあるが。
孔雀は翡翠と天河の親子の溝がどうたらとやたら心配するが以前など溝どころか距離しか無かった。
まるで新婚夫婦のように、カタログを眺めながらお互いの執務室や離宮の改装の準備を進める翡翠と孔雀が憎らしくて仕方なかった頃もあった。
何事にも特に興味の無い、感動が薄いタイプのあの父親が、こんなに何かに情熱を傾けるのも知らなかった。
そもそも彼は後宮にもそれほど寄り付か無かったのだ。
それが、見る見る更生し始めたわけだ。
今では、自分で国中あちこちに足を運び、国民にも親しむ皇帝として、稀有なほど支持されている。
リベラルと称えられた瑪瑙帝ですら、国民からの実際の支持率と言えば高くは無かった。
王族、貴族、皇帝。それは既得権益を貪る遠い存在でしか無かったのだから。
総家令である孔雀は、若いというより子供に近いからフットワークが軽い。
兄弟子や姉弟子が常に城にも軍にもおり、盤石なせいもあるので、孔雀が実際にあちこちに視察と言う名の用足しに行くのにそれほど障りがない。
それに翡翠がくっついて行っている結果でしか無いと天河は知っている。
その上、現在、翡翠には愛妻家でマイホームパパのイメージすら定着しているのだ。
それを孔雀は喜ぶのだ。
三妃とその間の紅水晶と出かけた先の写真や映像がよく報道されている。
あのズボラで薄情な男のどこにそんな甲斐性があるのだろうと信じがたいが、それもまた孔雀の采配の結果なのだと思うと「孔雀ってトリッキーだけど方々勘違いさせてある意味アゲマンよねえ」と猩々朱鷺が不遜にも言うのにも渋々ながら頷ける。
だから今回の四妃の入宮に関しても、孔雀は政治だ嫉妬だ以前に、真剣なのだ。
カーテンがどうの、壁紙がどうの、家具はどうしよう、食器はああで、でもお姫様が使うにはこのフォークは重いとか、そんなところまで気を回す。
継室を出す一宮家から、準備はそちらに任せると言われたものだから、失礼があってはならない、お気に召して頂けるようにと必死。
そもそも改装や模様替えが好きなタイプなのはわかっているが、政治がもはや二の次に何とも楽しそうなのだ。
小さな孔雀風と皇太子が名付けた趣味の良さは宮廷でも知られているから、そこに問題はないだろうが。
あの白鷹は琥珀を愛しいあまりに何人もの継室を廃妃にして、公式寵姫を追い出したのは未だ語り草だ。
天河の祖父であり、翡翠の父である継室の椿は廃される事は無かったが、結局は体良く実家に返された。祖父は、白鷹を未だに悪魔のような女だと言っている。
しかし、その琥珀だって嫉妬してあてつけからの行動だったらしい。
皇帝と総家令が特定の感情を伴う関係である事は別に必要ではない。
瑪瑙や梟がそうだったように。彼らは確かに皇帝と臣下であり、旧友であったが、そこを越える事は無かった。
しかし、琥珀と白鷹は間違いなく、ほぼ内縁関係のようなもの。
そうなると、愛憎任せにどこまでもこじれるという、あれはわかりやすい例だ。
天河は、ここに疑問というか、風穴を見つけたのだ。
「天河様。壁紙のお色。お若い方って、このサーモンピンクとライラック、どっちがいいでしょうか」なんて、自分よりも年上の継室だろうに、お若い方、と呼ぶのもおかしかったが。
その様子に、違和感を感じたのも事実。
「ああもう、白鷹お姉様ったら、継室が来るなんて言うと毎回狂ったように嫉妬して、おかしいやら、とばっちりだわで・・・」
孔雀達よりも上の世代の家令達がよくそう話していたではないか。
なのに、この寵姫宰相は嫉妬なんかしてないじゃないか。
さて、この胸に実り今や熟さんとする果実は甘いか苦いか。
天河は、いつかその果実を味わう事を心に決めた。
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