ステュムパーリデスの鳥 〜あるいは宮廷の悪い鳥の物語〜

ましら佳

文字の大きさ
148 / 211
5.

148.新たな娯楽

しおりを挟む
 表向きインフルエンザで体調を崩したとされた第二太子宛の贈物や目録を整理していた金糸雀カナリア大嘴おおはしが話を聞いて|呆れて顔を見合わせた。

「何ですか、それ」

すっかり回復した天河てんがが、機嫌よく昼食の海鮮丼をかっ込んでいた。
一時心臓が止まったとは思えぬ食欲。

孔雀くじゃくにそんな事仰ったんですか?そういうのって頭を三角にして考えることですか?」

それで本当にうんうん唸って考えているとしたら、孔雀くじゃくに色恋沙汰は向いていない。

「・・・大嘴おおはし、次、緋連雀ひれんじゃくからカトレア。猩々朱鷺しょうじょうときお姉様からフルーツとナッツ盛り合わせ・・・。見てよこれ。一尺玉みたいな黒いスイカが二つも乗ってる」

お見舞いのフルーツ盛り合わせの籠にマスクメロンは定番だろうが、スイカが二玉も入っているなんて見たこともない。

「このボーリングの玉みたいな黒いスイカ。うまいやつだ」
猩々朱鷺しょうじょうときお姉様ってさ、いつもいいとこ持ってくのよ。博才ばくさいがあるタイプね」
孔雀くじゃくの動向について賭けに負けた金糸雀カナリアは悔しそうに呟いた。

金糸雀カナリアは、翡翠ひすいの怒りをかって天河てんが放逐ほうちくまたは廃嫡はいちゃく、にだいぶ賭けていたのだ。
ところが、孔雀《くじゃく》が涙ながらに取りなして現状維持、となった。

賭けに勝った緋連雀ひれんじゃく猩々朱鷺しょうじょうときからしたら、天河への謝礼のようなものだろう。
すらすら速記している大嘴おおはしも勝ったので、機嫌がいい。

「とりあえず、丁度いいから、食えば?」

と、果物とナッツ類を天河てんがが示した。

「・・・・天河様、私達、べつに本当に鳥なわけじゃありませんから」
「あ、そう」

天河てんがが構わず自分は文旦ぶんたんを食べ始めると、大嘴おおはしからノートを取り上げた。

「・・・なるほどね。見舞いの品を送ってきたのが賭けに勝ったやつらか」

ふくろう大嘴おおはし猩々朱鷺しょうじょうとき緋連雀ひれんじゃく。物品名の欄にカトレア、果物、モンブラン、等と書いてある。
孔雀くじゃくがお見舞いはこれがそれが常識だと教えられたということは、彼らもまたそうなのだろう。
記載のない家令達は、負けて、悔しい連中というわけだ。そっちは見舞いも寄越さないのが、らしい。
なんとも不謹慎で現金な鳥共。

意識が戻ってみたら、インフルエンザで療養中とされているが、実は心臓が止まったらしいと聞いた。
当たり前だが、そんな自覚は無い。

孔雀くじゃくの毒が回ったらしい。
そして、翡翠ひすいの血液から精製された血清で助かったそうだ。
なぜか頭にタンコブが出来ていて湿布が貼られていた。
心臓と関係ないはずなのにと言ったら、黄鶲きびたきに「金糸雀カナリアがぶん殴ったからです。私は去勢手術してやりたい」と鬼の形相で言われた。
それだけのことはしたし、させた。

「・・・全く。あれじゃ、まだマシな部類で腹上死、下手したら無理心中ですよ?!」

悔し紛れに金糸雀カナリアもバナナを剥いてむしゃむしゃ食べ始めた。
大嘴おおはしもピンポン玉程あるマスカットをつまんだ。

「いかに宮廷とは言え、第二太子が皇帝の寵姫とも言われる総家令を寝取ったら大事故ですよ。手癖の悪い家令が王族に手を出したなんては話はあるでしょうけど」
とんでもない言い草である。家令は全く始末に負えない。

金糸雀カナリアがため息をついた。
一番問題なのは、本人が後悔も反省もしていないことだ。
皇帝から正式に謹慎の書類が出て、サインを求めると、天河てんがはまるで宅配便の書類に気軽にサインするかのようにしてファイルをぽんと投げてよこした。
事態をちゃんと理解しているのだろうか。

「わかってるよ。ほら。書いてあったじゃないか。只今を以って第二太子は総家令への接近を今後無期限に厳しく禁ずるなり

確かにそうだ。
その一文を起こしたのは自分だものと金糸雀カナリアが頷いた。
およそ宮廷の司法に関することは、ふくろう金糸雀カナリアはいたかの目と手を通される。

「・・・だから、総家令の方から近付いて来てくれないとな」

金糸雀カナリアは呆れた。

「ああ、いい気分だ。あの孔雀くじゃくのことだ、一日中、頭をひねって俺のことああでもないこうでもないと考えてるわけだ。それこそインフルエンザにかかったみたいに、そのうちウィルスが身体中で増えて、にっちもさっちもいかなくなんだろ」

わけわからなくなるか、れるかすれば、間違いなく困惑してまたやってくるだろう。
自分の事で頭をいっぱいにして考えればいい。
泣き出すまで悩まされて焦れて煮詰まって、弱って弱々になったら。その時こそ、責任を取れと突きつけてやる。

「・・・・まあ、なんて悪質な。・・・まるで本当、ウィルスか悪霊じゃありませんか」
「お前達が言えたもんか、悪い鳥共」
天河は濃紫色の葡萄を口に含んだ。
甘く濃厚で鮮烈な風味に、天河てんが孔雀くじゃくとの記憶を思い出し機嫌を良くした。

天河てんが様、じゃあ、孔雀くじゃくをどうにかするつもりではなく、本気で孔雀くじゃくとどうにかなるつもりなんですか?あの翡翠ひすい様相手に?今更?」

あんまりおすすめはできないけど、と大嘴おおはしが言った。

「そう。さあ、どうしような」

天河てんがの悪乗りとも本気ともつかない様子に、これは面白いことになったぞ、と金糸雀カナリア大嘴おおはしはまた新たな賭けの対象をみつけた、とほくそ笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

処理中です...