ステュムパーリデスの鳥 〜あるいは宮廷の悪い鳥の物語〜

ましら佳

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155.二十日鼠

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天河てんがが負傷したという報告書と診断書を受け取り、孔雀くじゃくは顔面蒼白になった。

早晩か死ぬか、いや未明か、という内容の報告。
しかし、黄鶲きびたきの小さなメモに"心配無いから見舞いのモンブランでも送ってきなさい"と書いてあったのを見つけるとほっと胸を撫で下ろした。

「心臓から3センチで貫通。肋骨も神経も傷つけないでいいとこ当てて来たなぁ。狙撃手を見つけたら褒賞あげるべきだよ」

翡翠ひすいが唸った。

「・・・家令がお側に控えていて大変な失態です」

今回の件で、翡翠ひすいは家令に対する処分を禁じたが、それでも悔やまれる。

「よく聞いてみれば、天河てんがが毎朝5キロも同じコースランニングしてるっていうんだから・・・。実験のハツカネズミみたいにぐるぐる毎日同じ時間に同じ行動してりゃ狙われるの当たり前」

金糸雀カナリアいさめても、彼は部屋を抜け出して走っていて、いい汗かいた、腹減ったと戻ったところを撃たれたらしい。

しかし。と孔雀くじゃくは思うのだ。
天河てんがは試したのではないか。
誰が、どの程度、自分をどうやって脅かすのか。
まさに実験したとしたら。
案外、あの第二太子は命知らずだ。
これは、急がねばならない。

午後の議会でも相当、孔雀くじゃくが責められたが、では代わりに誰が、と翡翠ひすいが問うと、静まり返った。
険悪な空気になったのを救ったのは当の孔雀くじゃく
まずは第二太子の容体は安定している事と、今現在の話ではなく、近い将来の話を始めたのだ。
状況が安定したら王族、元老院、議会、ギルドから希望者をそれぞれ出向させる事を考えていると言い出した。
お手元に資料があればよろしかったんですけど、と孔雀くじゃくが微笑んだ。

何分なにぶん、まだ何も詳しく申し上げられる事がありませんので。まあこれから安全保障ですとかのお話ですもの。何の身の保障もできませんけれど」

元老院と議員達が、非難の声を上げた。
数名は席を立った者もいた。
皇帝の面前で会場を出るという事は不敬であり、処分対象だ。

ギルド長の白鴎はくおうの父親が隣の副ギルド長の女性に何か話しかけられて、頷いた。
副ギルド長が、総家令に小さく目配せした。
孔雀くじゃくは何気ない様子で少し微笑んだ。
その数分後には雉鳩《きじばと》の元になるべく早く総家令と面談したいという旨のギルド長の名前の正式な封書が届いた。
雉鳩きじばとに耳打ちされて、孔雀くじゃくがギルド長に微笑んだ。
さすが、カネの匂いに鼻が効く。

あの気働きの良い副ギルド長はきっと近いうちギルド長になるだろうと孔雀くじゃく雉鳩きじばとに耳打ちすると、そうか、なら今のうちにお近付きになっておかなくてはと兄弟子が笑った。
絶対やめて、揉めるから、と孔雀くじゃくが膨れた。

議会はその間も紛糾し、議員の一人が口を開いた。

「総家令、北総督府に以前城から放逐処分となった家令が出入りしていると聞きましたが」
「・・・私共の上の世代の姉弟子の事でしょうか。陛下がご即位になりました折にそれは撤回されております」
「ええ、覚えております。まだ子供でらした総家令が陛下におねだりしたとか」

議員の不遜な言い草に仏法僧ぶっぽうそうが眉を寄せた。
姉弟子に不名誉であると不快に思った。

「海軍がA国の軍艦を攻撃した件も、総家令が陛下をたぶらかしたのだともちきりですよ。それはどうなんでしょうね」
「A国が中立地帯の難民キャンプを襲撃しそのまま侵攻してきた為の措置です」

雉鳩きじばとが言った。
美貌の家令がそうぴしりと告げた事で彼は一瞬怯んだ。
孔雀くじゃくが兄弟子をゆったりと見た。

「・・・雉鳩きじばとお兄様、そうではなくて。私が陛下におねだりしたかどうかをお聞きになりたいということでしょう」

孔雀くじゃくが言った。
彼らにとって、この場で、軍事的な遣り取り等実際はどうでもいいのだ。
興味を満たしたい。
不遜であればそれを糾弾したい。
それはつまり欲求不満だ。
ああ、と雉鳩きじばとが頷いた。

「・・・それなら間違い無いでしょう。私がかたわらに控えておりましたから。総家令の提案に諾也そうせよと陛下からお言葉を賜りましたと返答致しましょう。間違いなく確認しています。必要ならば、総家令が陛下と夜を共にした当日の正式な日時の入った文書を提出可能ですよ」

仏法僧ぶっぽうそうが兄弟子の発言に目を見開いた。
何も孔雀くじゃくが自分で混ぜっ返す事も、雉鳩きじばとが言葉にする必要もないだろうに。
しかし、それを聞いて、なぜか翡翠ひすいが嬉しそうなのがおかしい。
やっぱり、この人物はどこかおかしいのだと思う。

「・・・総家令。今の発言をどうお思いになられますか」

売り言葉に買い言葉にしても身内からも言質を取った、ということだ。
議員は気色ばんだのに、孔雀くじゃくは、ええと、とちょっと戸惑ったように唇を結んだ。
しかし、その困惑は、発言の主が求めている感情とは全く別のもので。

「まあ、そんな・・・お恥かしい事ですこと・・・」

と言って頬を染めて、翡翠ひすいと微笑みあう。
その場にいた家令と翡翠ひすい以外の全員が絶句した。

「まあ、私ったら。・・・それから、総督府に姉弟子達が出入りしているのは、もちろん業務もありますけれど、何せあちらだいぶ老朽化が進んでおりますので。ただいまリフォーム中なんです。仕方ないので、仕事をして住みながら直そうと。建築、空調、電気、水回り、家令は皆、手に職があるから安上がりで本当に助かります。この調子で開発も進むと良いですことね。ああ、ではそろそろ」

総家令のマイペースっぷりに毒気を抜かれてしまう。
宮城も離宮も改築してしまった総家令がまた新しく改装を始めたのか、と誰もが呆れた。

「来年の春には、使節団を出しますので。では、来月までにそれぞれ希望者の方おられましたら名簿を提出くださいませね。それではごきげんよう」

孔雀くじゃくは優雅に女家令の礼をした。

翡翠ひすい孔雀くじゃくの手を取ると、議会を退出し、家令達も付き従ったのを、議会の全員が見送った。
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