ステュムパーリデスの鳥 〜あるいは宮廷の悪い鳥の物語〜

ましら佳

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7.

182.女皇帝候補

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「総家令。・・・誠に希望のあるお言葉ではありますが。・・・開発には、当ギルドの企業や人間を集結してもなかなか・・・・」
宝物は、まだ、地中深く埋まっているというのだ。そして、その実際の活用はどうする。
「・・・・他国から横槍が考えられます。それから、アカデミーも・・・」
アカデミーの連中は、貴重な物も、人も、例え虫であろうが砂礫であろうが。およそ価値のある物品は勝手に開発するな、勝手に研究するな。それは我らの特権、と言いだすのだ。
「権威とはそういうものだからね」
「そうなった時の猩々朱鷺しょうじょうときお姉様ったら、本当にワイバーンと言われるだけあるなあと思いますよねえ・・・」
軍で暴れ狂う姉弟子についたのは、怪物の飛龍の異名。。
「サラマンダーの母親がワイバーンって、ひどいもんだ」
翡翠ひすいは楽し気に笑うが、聞いている方は笑い事ではない。
「・・・ですから。私も考えました」
新興であるスカリーはまだまだ脆弱だ。アカデミーと比肩する組織になるには、時間も才能も、人が必要だ。
|孔雀の顔がぱっと輝いた。

「スカリーに名誉職の方をお迎えしようと思うんです。それこそ、スカリーというブドウの実をおいしい貴腐ワインに変えてしまうような才能のある方」
「ほう。あのワイバ・・・、失礼、アカデミー長と対峙できるような方ですか」
興味半分、怖いもの見たさも半分。
「はい。先日まで修道院で修道女としてお勤めだった方なのです。・・・・それはもう、女神様のようになんでも出来る方」
その感服した口調と内容に家令と翡翠ひすい天河てんががえっと孔雀を見た。

元尼僧の美しい才媛、という煽り文句が効いたのか。はたまたその女神が対峙してくれるのなら自分たちが暴れ龍の直接の被害に合わなくて済みそうだ、という安心感からか、それは素晴らしいお考えで、とギルドと議員が頷いた。


 どこが尼さんだ。
天河てんがは憎々し気に目の前の人物を見た。
家令服で颯爽と現れ、家令共はもとよりギルドも議員も、すっかり懐柔してしまった。
天下一品の学歴と山のようにある特許や研究成果の一部、文句無しの軍歴と実績を披露し、それから自分は|琥珀の末娘に当たるとダメ押しまで言った。
誰もが度肝を抜かれたが、その圧倒的な存在感と美貌、才知に、説得力を持って納得させられたわけだ。

これ以上、スカリーのトップに相応しい人物はおるまい。
いや、むしろ、この第二太子よりこっちの方が、極北総督府長に相応しいのではないか、という考えもよぎる始末。
いや下手したら、皇帝にふさわしいのも・・・、なんと押し出しがきく女皇帝候補だろう・・・とは誰もが慌てて脳裏から打ち消した。

「・・・いや、何とも驚きましたな。陛下の妹姫様が、家令になっていらしたとは」
「・・・先々帝が離宮でご出産されたという話は聞いたことがありますが。当時、あの白鷹総家令人肉を喰らうダキニと|月長様と子ではないかと噂されたものですよ」
「・・・|月長様とは?」
「・・・琥珀こはく様の長兄様に当たる方です」

その囁き声の会話に、どんな地獄耳か、違いますよ、と真鶴まづるは笑った。
実際は唇を読んだのだが。
それがまた神々しいばかりの微笑み。

「私の父は秘匿とされておりますから。・・・まあ、強いて言えば・・・。お母様と白鷹ダキニの子かしら」
とんでもない事を言い、凍りつく面々をそっちのけで、まあ、お姉様ったらそんなの怖い。そうよね、怪談よねえと姉妹は笑い合っていた。

天河てんがは恐々と、叔母に当たる女家令をちらちらと見ていた。
確かに、ものすごく美しい。
王族や家令の中でもずば抜けている。
これに比べたら、毒花、毒蛇とも言われる緋連雀ひれんじゃく雉鳩きじばと等、まだまだ貫禄不足だろう。
横綱と小結くらい違うな、と天河てんがは唸った。

「真鶴お姉様、修道女としてのお勤めを五年かかる所を一年で修了してしまったんですよね」
やっぱりなんでも優秀でらっしゃるから、と孔雀くじゃくはしきりに頷いている。
「そうね。ほら私、そもそも司祭長だし」
「・・・・学生じゃあるまいし、尼さんが修行をスキップするなんてこと、あるのかよ・・・」
実際は、修道院に|真鶴がいる事で風紀が乱れて修行どころか生活にならんという巫女愛紗みこあいさと副院長の判断で、さっさと卒業と言われたわけなのだが。
それってクビじゃないのか、と天河てんがはごちた。

「ま、ほら私。考えてみると。神官の資格も司祭の資格も持ってるのよね。そこを鑑みた院長様のお計らいでしょう。何と思慮深い」
「・・・・お礼に何か送っておきます。何がいいでしょう・・・」
「お金じゃない?」
「修道院って、今そんなにお台所事情が苦しいんでしょうか・・・・。きっとあちこちにご寄付してるのね」
ご敬虔なこと、と孔雀くじゃくがため息をついた。
「お金とは何とも失礼な気もしますけれど、恩賜金として、年金を支給出来るようにします」
「騙されてるぞ、孔雀。きっとこいつがさっさと刑期を終わらせるために、巫女愛紗みこあいさと取引したんだ・・・・」

微笑みながら真鶴まづる天河てんがの肩を掴んだ。
何気ない仕草ではあるが、骨ごと砕かれるような力。
こんなゴリラ程もある握力の尼僧なんかいるもんか。
その上、黙ってな、とドスの効いた声で囁かれて天河てんがは震え上がった。
「・・・アンタ、私が何て呼ばれてるか知ってるわよね」
ひぐま殺し、と天河がつぶやいた。

「だったらいいのよ。・・・ねぇ、孔雀くじゃく!私も巫女愛紗みこあいさにお礼送ろうかしら。いろいろ、お世話になったもの。ドレッシングセットとかどうかしら?」
なんでそのチョイスなんだ、いかにも口から出まかせの適当だ、と誰もが妙に思ったが、孔雀くじゃくは、なんて心優しいの、おシャレで良いと思います、巫女愛紗みこあいさお姉様きっと喜びます、と感激して目元を拭った。
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