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194.象牙宮の女主人
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孔雀が持参した不思議な南国の花を女官に生けさせて、鈴蘭がここへ花瓶をテーブルに置くようにと指示した。
孔雀が|燕から鳥籠を受け取ると、そっと小さな鳥を取り出した。
鮮やかな鳥が羽ばたきながら花に近づき、蜜を吸い始めたのに、鈴蘭も女官達も歓声を上げた。
「まあ、妃殿下、なんてかわいいのでしょう」
「ハチドリなんて初めて見たわ。本当に蜜を吸うのね」
極北の地熱を利用した温室では、外は吹雪でも温室内は温度が保たれて、熱帯の植物やこういった鳥や蝶が飼われているのだと孔雀が言うと、鈴蘭は興味深そうに目を輝かせた。
「妃殿下、極北はオーロラが見えるそうですよ」
「本当に?見てみたいわね。ああでも私は寒さが苦手だから雪だるまみたいに着込んで行かなくちゃ」
と話し、象牙宮の女官達ともすっかり打ち解けた様子の鈴蘭を孔雀は頼もしく思った。
元は|翡翠の正室に仕えていた女官達の多くがそのまま皇太子宮に仕官している。
内廷でも特に秀逸な人材達であるからして同時にプライドも高い。
もとは元老院派でも中の下とされる比嘉家出の正室を、快く思っていなかった者も多かった。
しかし、彼女の人柄というのは人を萎縮させないし、ネガティブな感情をそのまま外に出すことも溜め込む事もしないのだ。
それは才能だと思う。
何より、孔雀は中学生程の年齢から、独身の頃から気の多い皇太子が次々と新しい恋人を作る経過を見ていたわけで、これはもはや雨が降るとか風が吹いてきたみたいな自然現象のようなものなんだなと納得していたのだが、皇太子妃がまずは二人の問題にしたいと夫に談判したというのだ。
孔雀はなんと意識が高いのだと感心した程だ。
それは女官の三役との恒例のお茶会において議題という名の噂話のタネになり、妃がそれも后である正室が皇太子の私事をその様に自らの問題にするというのは、何とも世俗的ではないか、褒められる事ではない、という宮廷独特の意見が出た。
翡翠の三妃が、自らの立場を正室にせよと主張する事は不敬とされるが、翡翠の愛情が自分以外にもあってもそれに対して意見を翡翠に直接物申さない、公式に表さないという事が好ましく正当であると受け止められる、それと同じ価値観だ。
「まあ、三妃様が当時中学生くらいの総家令殿をネチネチ虐めていたのは見てましたけどね」
「・・・女官長様、だって中学生ですことよ?・・・それは当たりたくもなりますよ」
「責められるべきはいつも男性であるべきなのにね」
女官とはなかなか大胆なことを言う。
孔雀が笑って聞いていた。
翡翠が噂されてくしゃみをしている事だろう。
皇太子妃が皇太子の交友関係に意見したというこの話は、いずれ宮廷の人々の口に登り、皇太子妃が嫉妬深く、狭量であると評価される事もあろう、と女官長はため息をついた。
「となれば。肩身の狭い思いをされる方もいるかもしれませんよ」
女官長が思わせぶりに首を振った。
皇太子妃は、継室どころか公式寵姫でもない孔雀をよく思っていない、つまりあの二人の関係は悪いと言う判断をされる、と言う事だ。
総家令の後押しで皇太子妃が入宮したのは宮廷の人間すべての知る所だ。それが、実は皇太子妃は総家令に反感を持っている、としたら。
母娘三代で宮廷女官長を務めた彼女からすると、「またゴタゴタするわよ、お気をつけあそばせ」と言う忠告なわけだ。
孔雀は、また笑った。
「・・・家令が成っていく様に。女官というものも成っていくものですね。・・・そのまあゴタゴタを何とかするのが私共家令の仕事でございますから。ただ、お気遣い感謝申し上げます。・・・それから嬉しいのは、そのう・・・天河様が、蝶と鳥どころかハブ対マングースだなんておっしゃる様な関係であった女官方と家令である私が、こうしてお話させていただけます事」
女官達はこれが|孔雀のおべんちゃらならまだ納得出来るが、本当にそう思っているのだ、という事に改めて複雑な思いを抱いた。
特に、女官長、揚羽は心底そう思う。
中学生くらいの彼女が総家令として宮廷に上がったあの時、誰もこんな日が来るなんて思いもしなかったものだ。
一時期は、その若さ、継室候補群から召し上げられた家令という特異な立場、そして皇帝からの寵愛という点、全てにおいて、彼女自身疎まれ、憎まれて来た。
そもそも家令という存在は宮廷でも、古来から賛否ある存在なのだ。
しかし今、彼女無くして、家令なくして宮廷も国も回らぬ事など、自分達が一番知っている。
そして何より。
女官として宮廷に仕える自分達を守ってきたのが家令である事も。
家令というのは戦場に行くのだ。
度重なる戦争で、勝敗を繰り返し、それでも女官達に直接の戦禍が振りかからなかったのは彼らがいたから。
議会で、家令の越権行為について、厳しく責め立てられた時があった。
あれは孔雀が二十歳をやっと過ぎ、それまで元老院とギルド会員三役との会議から、皇帝と共に議会に出入りする様に成った頃。
まるでそれは狼の群れに囲まれた雛鳥だ。
総家令は家令の存在についてどうお考えになる、と詰問が飛んだ。
議会は大分険悪だったそうだ。
梟は、それ来たぞ、という顔で孔雀を促した上に、「さあ、せっかく鴨がネギ背負って出て来たんだから期待に応えて差し上げなければな」と妹弟子を茶化したのを翡翠が咎めた程だ。
|孔雀は、兄弟子にちょっとだけ頬を膨らませてから、集まっていた人間に向き直ると、優雅な礼をして顔を上げた。
「総家令の孔雀が申し仕ります。・・・家令はそもそもが宮城の宮宰でございます。宮廷内でのお勤めの他に、時を経まして、いわゆる宗教政治経済法律外交の立場も預かるようになりました。また軍属帰下に置きましても。・・・私共には、戦場で、戦い、傷つき、|斃れ、犯された兄弟姉妹がおります。過去の話ではございません。現在でも、我々はその様な、それが正しい生き方死に方とされる存在です。・・・また。その過去においては高貴なる人質という習慣がございました。各国との条約の代わりに人質を交換するものです。我が国は王族を差し出す訳には参りません。その為に、継室方、または継室候補群の家の者を差し出してきたのです。また、宮廷に関わる者は須らく廷臣。官吏、女官の方も含めてです。有事におきましていかなる厄災が身に降りかかるか。それは終わった事ではありません。事が起きれば当然またその様な事になるものです。ならない為に、我々がおります」
この議場にいる人間達にも継室候補群の家の者がおり、また姉妹や妻や娘が女官として城に上がっている者も多い。
知ってるのか、ならば理解しているのか、と彼女は言ったのだ。
后妃は、女官は、官吏は、知っているぞ。
自分達が戦で犯されず、殺されないのは、家令が身を挺して来たからだ、と。
「どうぞ、我々の、できうる限りの活動が許されることのお願いを申し上げたく存じます」
小娘が何を言い出した、そんなもが答弁かと席を立った者もいた。
が、我が身の保身だけではなく、心を打たれた者がやはりいるのだ。
その話は、たちどころに宮廷に広まり、良くも悪くも人を炙り出したのだ。
伝え聞いた天河の祖母である元ギルド長は、あの子、家令に御成りね、と嘆いたそうだ。
当時の女官長であった母も、かつてそうであった祖母も、その話をすると黙ってしまった。
揚羽を不思議そうに孔雀が見ていた。
ちょっと昔の話を思い出していたの、と|揚羽は桜の花が描かれたティーカップを摘んだ。
「・・・総家令様、不躾ではございますけれど、どうされるおつもりでございますか。かと言って。総家令様から皇太子妃様に申し上げたらまた角が立つことでしょうし」
副女官長が尋ねた。
孔雀は大分厚くカステラを切り分けながら頷いた。
「鈴蘭様、あの藍晶様相手にがっぷり四つで行く、という事ですもの。何とも頼もしいではないですか。あの藍晶様ですよ?」
全員が笑った。
「私、あの、がつく様な事故物件ばかり身近にいて育って来てしまいましたから。ああ、この人はこういうものなんだ、と変に慣れてしまっているらしいんです」
あの、とは家令達の事だろう。誰もが納得した。
「鈴蘭様のご意志としては、公明正大に、敬意と尊敬をもって諦めないで取り組み、お互いに素晴らしい試合にしようということ・・・。さすが鈴蘭様はテニスをされるから。これがスポーツマンシップって事でしょうか。何だか感激しちゃって」
ちょっとズレているが、そこは触れないでおこうかしらね、と女官達が目配せした。
「とれば、全力で、応援しようと思います」
応援、という方法に、なるほど、と女官達も同意した。
という訳で、現在、女官達の多くは皇太子妃寄りなのだ。
皇太子も正室に信頼を寄せて、継室の入宮を断り続けている事がこれまた、女官達にも受けがいい。
入宮は政治の話と分かっているからこそ、それを断り正室に誠実である皇太子というのは魅力的なのだ。
元は皇太子の二妃として入宮するはずだった一宮家の長女が、翡翠の四妃になった事は特に非難もされず、むしろ正しい事だと受け止められていたし、深窓の姫君である彼女が皇太子の継室として入宮し、格下の出の正室が気に病まなくて良かったとまで思われていた。
特に入宮して五年経つがまだ懐妊の兆候の無い彼女に対して、撫子はすぐに妊娠をした。
結局、それは叶わなかったけど。
だから撫子を皇太子の継室に入れればよかったのだ、あの正室では役に足らぬと発言したさる元老院の人間を、象牙宮の女官どころか珊瑚宮の女官達までもが冷遇しているという話を聞いて、孔雀は彼女達を頼もしく思ったのだ。
象牙宮の皇太子妃殿下は今や立派な女主人だ。
本来ならば慶事が続き、総家令の実績にならなければならないのにと言う翡翠も、孔雀が嬉しそうなのでまあ良いかと言う事したらしい。
皇帝の総家令であり寵姫宰相と揶揄される孔雀に、皇太子までもが、自分の総家令あるいは継室にと衆目で望み、しかし総家令がそれを振り、その理由が第二太子と付き合っていると来たものだ。
あの事件は、一時宮廷でも大騒ぎになり、さすがに家令の素行と手の悪さだと非難されたが、庇ったのは不思議な事に藍晶の正室だった。
鈴蘭としては、皇太子と言うだけでまたは彼自身の魅力を感じる女達より、特に感じない孔雀の方に好感を持ったのだ。
何より彼女の推薦で入宮した事もあろうが。
さてさて、物見高く口さがない宮廷の人間が立場の違う女二人の関係性の噂話にまた大喜びだろうと¥揚羽はため息をついた。
孔雀が|燕から鳥籠を受け取ると、そっと小さな鳥を取り出した。
鮮やかな鳥が羽ばたきながら花に近づき、蜜を吸い始めたのに、鈴蘭も女官達も歓声を上げた。
「まあ、妃殿下、なんてかわいいのでしょう」
「ハチドリなんて初めて見たわ。本当に蜜を吸うのね」
極北の地熱を利用した温室では、外は吹雪でも温室内は温度が保たれて、熱帯の植物やこういった鳥や蝶が飼われているのだと孔雀が言うと、鈴蘭は興味深そうに目を輝かせた。
「妃殿下、極北はオーロラが見えるそうですよ」
「本当に?見てみたいわね。ああでも私は寒さが苦手だから雪だるまみたいに着込んで行かなくちゃ」
と話し、象牙宮の女官達ともすっかり打ち解けた様子の鈴蘭を孔雀は頼もしく思った。
元は|翡翠の正室に仕えていた女官達の多くがそのまま皇太子宮に仕官している。
内廷でも特に秀逸な人材達であるからして同時にプライドも高い。
もとは元老院派でも中の下とされる比嘉家出の正室を、快く思っていなかった者も多かった。
しかし、彼女の人柄というのは人を萎縮させないし、ネガティブな感情をそのまま外に出すことも溜め込む事もしないのだ。
それは才能だと思う。
何より、孔雀は中学生程の年齢から、独身の頃から気の多い皇太子が次々と新しい恋人を作る経過を見ていたわけで、これはもはや雨が降るとか風が吹いてきたみたいな自然現象のようなものなんだなと納得していたのだが、皇太子妃がまずは二人の問題にしたいと夫に談判したというのだ。
孔雀はなんと意識が高いのだと感心した程だ。
それは女官の三役との恒例のお茶会において議題という名の噂話のタネになり、妃がそれも后である正室が皇太子の私事をその様に自らの問題にするというのは、何とも世俗的ではないか、褒められる事ではない、という宮廷独特の意見が出た。
翡翠の三妃が、自らの立場を正室にせよと主張する事は不敬とされるが、翡翠の愛情が自分以外にもあってもそれに対して意見を翡翠に直接物申さない、公式に表さないという事が好ましく正当であると受け止められる、それと同じ価値観だ。
「まあ、三妃様が当時中学生くらいの総家令殿をネチネチ虐めていたのは見てましたけどね」
「・・・女官長様、だって中学生ですことよ?・・・それは当たりたくもなりますよ」
「責められるべきはいつも男性であるべきなのにね」
女官とはなかなか大胆なことを言う。
孔雀が笑って聞いていた。
翡翠が噂されてくしゃみをしている事だろう。
皇太子妃が皇太子の交友関係に意見したというこの話は、いずれ宮廷の人々の口に登り、皇太子妃が嫉妬深く、狭量であると評価される事もあろう、と女官長はため息をついた。
「となれば。肩身の狭い思いをされる方もいるかもしれませんよ」
女官長が思わせぶりに首を振った。
皇太子妃は、継室どころか公式寵姫でもない孔雀をよく思っていない、つまりあの二人の関係は悪いと言う判断をされる、と言う事だ。
総家令の後押しで皇太子妃が入宮したのは宮廷の人間すべての知る所だ。それが、実は皇太子妃は総家令に反感を持っている、としたら。
母娘三代で宮廷女官長を務めた彼女からすると、「またゴタゴタするわよ、お気をつけあそばせ」と言う忠告なわけだ。
孔雀は、また笑った。
「・・・家令が成っていく様に。女官というものも成っていくものですね。・・・そのまあゴタゴタを何とかするのが私共家令の仕事でございますから。ただ、お気遣い感謝申し上げます。・・・それから嬉しいのは、そのう・・・天河様が、蝶と鳥どころかハブ対マングースだなんておっしゃる様な関係であった女官方と家令である私が、こうしてお話させていただけます事」
女官達はこれが|孔雀のおべんちゃらならまだ納得出来るが、本当にそう思っているのだ、という事に改めて複雑な思いを抱いた。
特に、女官長、揚羽は心底そう思う。
中学生くらいの彼女が総家令として宮廷に上がったあの時、誰もこんな日が来るなんて思いもしなかったものだ。
一時期は、その若さ、継室候補群から召し上げられた家令という特異な立場、そして皇帝からの寵愛という点、全てにおいて、彼女自身疎まれ、憎まれて来た。
そもそも家令という存在は宮廷でも、古来から賛否ある存在なのだ。
しかし今、彼女無くして、家令なくして宮廷も国も回らぬ事など、自分達が一番知っている。
そして何より。
女官として宮廷に仕える自分達を守ってきたのが家令である事も。
家令というのは戦場に行くのだ。
度重なる戦争で、勝敗を繰り返し、それでも女官達に直接の戦禍が振りかからなかったのは彼らがいたから。
議会で、家令の越権行為について、厳しく責め立てられた時があった。
あれは孔雀が二十歳をやっと過ぎ、それまで元老院とギルド会員三役との会議から、皇帝と共に議会に出入りする様に成った頃。
まるでそれは狼の群れに囲まれた雛鳥だ。
総家令は家令の存在についてどうお考えになる、と詰問が飛んだ。
議会は大分険悪だったそうだ。
梟は、それ来たぞ、という顔で孔雀を促した上に、「さあ、せっかく鴨がネギ背負って出て来たんだから期待に応えて差し上げなければな」と妹弟子を茶化したのを翡翠が咎めた程だ。
|孔雀は、兄弟子にちょっとだけ頬を膨らませてから、集まっていた人間に向き直ると、優雅な礼をして顔を上げた。
「総家令の孔雀が申し仕ります。・・・家令はそもそもが宮城の宮宰でございます。宮廷内でのお勤めの他に、時を経まして、いわゆる宗教政治経済法律外交の立場も預かるようになりました。また軍属帰下に置きましても。・・・私共には、戦場で、戦い、傷つき、|斃れ、犯された兄弟姉妹がおります。過去の話ではございません。現在でも、我々はその様な、それが正しい生き方死に方とされる存在です。・・・また。その過去においては高貴なる人質という習慣がございました。各国との条約の代わりに人質を交換するものです。我が国は王族を差し出す訳には参りません。その為に、継室方、または継室候補群の家の者を差し出してきたのです。また、宮廷に関わる者は須らく廷臣。官吏、女官の方も含めてです。有事におきましていかなる厄災が身に降りかかるか。それは終わった事ではありません。事が起きれば当然またその様な事になるものです。ならない為に、我々がおります」
この議場にいる人間達にも継室候補群の家の者がおり、また姉妹や妻や娘が女官として城に上がっている者も多い。
知ってるのか、ならば理解しているのか、と彼女は言ったのだ。
后妃は、女官は、官吏は、知っているぞ。
自分達が戦で犯されず、殺されないのは、家令が身を挺して来たからだ、と。
「どうぞ、我々の、できうる限りの活動が許されることのお願いを申し上げたく存じます」
小娘が何を言い出した、そんなもが答弁かと席を立った者もいた。
が、我が身の保身だけではなく、心を打たれた者がやはりいるのだ。
その話は、たちどころに宮廷に広まり、良くも悪くも人を炙り出したのだ。
伝え聞いた天河の祖母である元ギルド長は、あの子、家令に御成りね、と嘆いたそうだ。
当時の女官長であった母も、かつてそうであった祖母も、その話をすると黙ってしまった。
揚羽を不思議そうに孔雀が見ていた。
ちょっと昔の話を思い出していたの、と|揚羽は桜の花が描かれたティーカップを摘んだ。
「・・・総家令様、不躾ではございますけれど、どうされるおつもりでございますか。かと言って。総家令様から皇太子妃様に申し上げたらまた角が立つことでしょうし」
副女官長が尋ねた。
孔雀は大分厚くカステラを切り分けながら頷いた。
「鈴蘭様、あの藍晶様相手にがっぷり四つで行く、という事ですもの。何とも頼もしいではないですか。あの藍晶様ですよ?」
全員が笑った。
「私、あの、がつく様な事故物件ばかり身近にいて育って来てしまいましたから。ああ、この人はこういうものなんだ、と変に慣れてしまっているらしいんです」
あの、とは家令達の事だろう。誰もが納得した。
「鈴蘭様のご意志としては、公明正大に、敬意と尊敬をもって諦めないで取り組み、お互いに素晴らしい試合にしようということ・・・。さすが鈴蘭様はテニスをされるから。これがスポーツマンシップって事でしょうか。何だか感激しちゃって」
ちょっとズレているが、そこは触れないでおこうかしらね、と女官達が目配せした。
「とれば、全力で、応援しようと思います」
応援、という方法に、なるほど、と女官達も同意した。
という訳で、現在、女官達の多くは皇太子妃寄りなのだ。
皇太子も正室に信頼を寄せて、継室の入宮を断り続けている事がこれまた、女官達にも受けがいい。
入宮は政治の話と分かっているからこそ、それを断り正室に誠実である皇太子というのは魅力的なのだ。
元は皇太子の二妃として入宮するはずだった一宮家の長女が、翡翠の四妃になった事は特に非難もされず、むしろ正しい事だと受け止められていたし、深窓の姫君である彼女が皇太子の継室として入宮し、格下の出の正室が気に病まなくて良かったとまで思われていた。
特に入宮して五年経つがまだ懐妊の兆候の無い彼女に対して、撫子はすぐに妊娠をした。
結局、それは叶わなかったけど。
だから撫子を皇太子の継室に入れればよかったのだ、あの正室では役に足らぬと発言したさる元老院の人間を、象牙宮の女官どころか珊瑚宮の女官達までもが冷遇しているという話を聞いて、孔雀は彼女達を頼もしく思ったのだ。
象牙宮の皇太子妃殿下は今や立派な女主人だ。
本来ならば慶事が続き、総家令の実績にならなければならないのにと言う翡翠も、孔雀が嬉しそうなのでまあ良いかと言う事したらしい。
皇帝の総家令であり寵姫宰相と揶揄される孔雀に、皇太子までもが、自分の総家令あるいは継室にと衆目で望み、しかし総家令がそれを振り、その理由が第二太子と付き合っていると来たものだ。
あの事件は、一時宮廷でも大騒ぎになり、さすがに家令の素行と手の悪さだと非難されたが、庇ったのは不思議な事に藍晶の正室だった。
鈴蘭としては、皇太子と言うだけでまたは彼自身の魅力を感じる女達より、特に感じない孔雀の方に好感を持ったのだ。
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