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28.離別
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全てに近い人たちの心配事が一気に解決する方法がこれだもの。
桃は心を決めて保真智に頭を下げた。
「保真智さん、やっぱり私では、ダメみたい」
突然に婚約解消を申し出られて、保真智は困惑しきり。
「・・・何か、嫌な事でもあった?それとも何か、その・・・心配な事とか?」
何か起きたのだろうか。
それともいわゆるマリッジ・ブルーというものか。
もしや、自分の不手際がバレた?
他の女と切れるに切れず、なかなか難航していたのだ。
こうなったら、間に、誰かそれなりの代理人でも立ててなんとか示談にするかとまで考えていた。
桃にそれを知られる事が、何より怖かった。
あれこれ考えているであろう保真智の慌てっぷりが分かり、ああ、やっぱり優しい人だなあと嬉しくなった。
同時に申し訳なくなって、桃は首を振った。
「ううん。そうじゃなくて。やっぱり私、相応しくないの」
言葉の、その通りだと思う。
結婚するという選択をした時より、結婚しなくなりましたという選択をした方が、納得する人が多かった。
父に電話をした時も「それならばそれでいい」と言われただけ。
紫乃は悲しそうだったが、父との諍いはなくなると分かり、それはそれでほっとしたようだった。
母方の祖父母も母も、残念だと言ったけれど、自分にとっていい決断ならばそれでいいと言ってくれた。
その後の事は後から考えればいいと励ましてくれた。
結婚するよりしない方が何とスムーズに物事が進むのだろう。
彼は、自分意外の誰かとなら、最初から必ず幸せになれる。
「・・・ご家族に、もう言ったの?」
桃が頷いた。
「・・・そうでもしないと、私、きっと、保真智《ほまち》さんに説得されちゃうから」
「するよ!・・・それは・・・」
「・・・すみません、本当に。・・・楽しかったし嬉しかったです。・・・保真智さん、どうぞ幸せになって」
「・・・それは、桃ちゃんじゃない人と?」
「そうです。・・・できるでしょ?」
保真智は、不満そうに顔をしかめたが、しばらくしてため息をついた。
「・・・・多分ね」
桃は微笑んだ。
「良かった。・・・保真智さんは、自分も奥様も幸せにできる才能があると思う。貴方が好きになった人となら、もっといいはずです」
何と残酷な言葉だろうかと保真智は思ったけれど。
でもそれは自分でもわかる。
桃の事は好ましいし、結婚までしようと思ったのだから、当然将来を一緒に生きていく覚悟もある。
だが、それは、絶対に桃でなければダメかと言われれば、そうではないだろう。
ただ、自分が選ばれなかったという問題。
それは別。
「他に好きな人でもいるの?絶対にその人じゃなきゃだめなような?」
桃は首を振った。
「そんなこともないんです。・・・ただ本当に、私が、相応しくないだけ。それがわかっただけです」
保真智はそれ以上聞かない事にした。
桃が自分との関係を終わらせたい、という気持ちが嫌になるくらいわかって。それをああだこうだと今こねくり回すのはあまりにも、惨めだ。
「・・・本来なら、お互いの親族に破談の説明に行った方がいいと思うんだけど・・・確かに、説得したいもんなあ・・・」
今だって、桃に必死に説得を試みたい気持ちだ。
「・・・私、保真智さんと保真智さんのご両親に説得されたら、多分、そうかもって思っちゃうだろうと思います」
きっと、保真智の両親は、桃が初めて挨拶に行った時のようにテープルいっぱいにお菓子や果物を並べて、その上で、あれこれ説得するはずだ。
それに保真智も加わるなら、もう桃に勝ち目はない。
嬉しくて、申し訳なくて、やっぱり言うとおりにする、と言ってしまいそう。
保真智が目に浮かぶようだと苦笑した。
「・・・それじゃだめ?」
「・・・はい」
桃は頷いた。
桃の榛色の目が、少し淡い。
保真智は、この不思議な色の瞳が感情や体調の揺れで色味が微妙に変わるのだと初めて知った。
随分考えて、泣きもして、決めたのだろうと思った。
「・・・じゃあ、来ない方がいい。絶対に。あの二人、それこそバイキング会場みたいにして桃ちゃんを待ち構えて説得するはずだから。・・・ちゃんと話すから、大丈夫だよ」
「・・・何と言ってくれても構いません。そのまま、私が突然、嫌だって言い出したって・・・」
そしたら、変な女だったから仕方ないとならないだろうか。
「うん・・・桃ちゃん、なんかそれだと、余計、俺がすっごい可哀想だけど・・・」
「・・・え?すみません・・・。そんな事ない・・・」
桃は慌てて否定した。
「・・・大丈夫。ちゃんと説明するから」
桃はもう一度、頭を下げた。
「・・・ありがとうございました。・・・お元気でいてくださいね」
「桃ちゃんもね。無理しないんだよ」
無理しがちで、自分の体力を見誤った桃が倒れた事も多い。
信じられないほどに、スムーズな別れ。
きっとそれなりに傷ついて辛く思い出す期間があるだろうけれど。
それでも、きっと、いつか、いい思い出だったとお互いの幸せを願い続ける事ができるような、出会いと別れであるだろうと思う。
あの夜に、悠と関係した事。
それも、自分が彼に、もしかしたら誰にも相応しくない理由。
でも。
悠との事は、後悔が無いのだ。
ならば、余計、自分は彼には相応しくない
悠と、もうこれきり、何かあるとも思わないけれど。
あれは禁忌というものだ。
何の発展性も無いのだから。
最初から終わってる。
桃は申し訳ない気持ちと、さっぱりとした喪失感を感じていた。
肩の荷が降りた、そんな気持ち。
ほんの少しだけ泣いて、保真智のもとを離れた。
桃は心を決めて保真智に頭を下げた。
「保真智さん、やっぱり私では、ダメみたい」
突然に婚約解消を申し出られて、保真智は困惑しきり。
「・・・何か、嫌な事でもあった?それとも何か、その・・・心配な事とか?」
何か起きたのだろうか。
それともいわゆるマリッジ・ブルーというものか。
もしや、自分の不手際がバレた?
他の女と切れるに切れず、なかなか難航していたのだ。
こうなったら、間に、誰かそれなりの代理人でも立ててなんとか示談にするかとまで考えていた。
桃にそれを知られる事が、何より怖かった。
あれこれ考えているであろう保真智の慌てっぷりが分かり、ああ、やっぱり優しい人だなあと嬉しくなった。
同時に申し訳なくなって、桃は首を振った。
「ううん。そうじゃなくて。やっぱり私、相応しくないの」
言葉の、その通りだと思う。
結婚するという選択をした時より、結婚しなくなりましたという選択をした方が、納得する人が多かった。
父に電話をした時も「それならばそれでいい」と言われただけ。
紫乃は悲しそうだったが、父との諍いはなくなると分かり、それはそれでほっとしたようだった。
母方の祖父母も母も、残念だと言ったけれど、自分にとっていい決断ならばそれでいいと言ってくれた。
その後の事は後から考えればいいと励ましてくれた。
結婚するよりしない方が何とスムーズに物事が進むのだろう。
彼は、自分意外の誰かとなら、最初から必ず幸せになれる。
「・・・ご家族に、もう言ったの?」
桃が頷いた。
「・・・そうでもしないと、私、きっと、保真智《ほまち》さんに説得されちゃうから」
「するよ!・・・それは・・・」
「・・・すみません、本当に。・・・楽しかったし嬉しかったです。・・・保真智さん、どうぞ幸せになって」
「・・・それは、桃ちゃんじゃない人と?」
「そうです。・・・できるでしょ?」
保真智は、不満そうに顔をしかめたが、しばらくしてため息をついた。
「・・・・多分ね」
桃は微笑んだ。
「良かった。・・・保真智さんは、自分も奥様も幸せにできる才能があると思う。貴方が好きになった人となら、もっといいはずです」
何と残酷な言葉だろうかと保真智は思ったけれど。
でもそれは自分でもわかる。
桃の事は好ましいし、結婚までしようと思ったのだから、当然将来を一緒に生きていく覚悟もある。
だが、それは、絶対に桃でなければダメかと言われれば、そうではないだろう。
ただ、自分が選ばれなかったという問題。
それは別。
「他に好きな人でもいるの?絶対にその人じゃなきゃだめなような?」
桃は首を振った。
「そんなこともないんです。・・・ただ本当に、私が、相応しくないだけ。それがわかっただけです」
保真智はそれ以上聞かない事にした。
桃が自分との関係を終わらせたい、という気持ちが嫌になるくらいわかって。それをああだこうだと今こねくり回すのはあまりにも、惨めだ。
「・・・本来なら、お互いの親族に破談の説明に行った方がいいと思うんだけど・・・確かに、説得したいもんなあ・・・」
今だって、桃に必死に説得を試みたい気持ちだ。
「・・・私、保真智さんと保真智さんのご両親に説得されたら、多分、そうかもって思っちゃうだろうと思います」
きっと、保真智の両親は、桃が初めて挨拶に行った時のようにテープルいっぱいにお菓子や果物を並べて、その上で、あれこれ説得するはずだ。
それに保真智も加わるなら、もう桃に勝ち目はない。
嬉しくて、申し訳なくて、やっぱり言うとおりにする、と言ってしまいそう。
保真智が目に浮かぶようだと苦笑した。
「・・・それじゃだめ?」
「・・・はい」
桃は頷いた。
桃の榛色の目が、少し淡い。
保真智は、この不思議な色の瞳が感情や体調の揺れで色味が微妙に変わるのだと初めて知った。
随分考えて、泣きもして、決めたのだろうと思った。
「・・・じゃあ、来ない方がいい。絶対に。あの二人、それこそバイキング会場みたいにして桃ちゃんを待ち構えて説得するはずだから。・・・ちゃんと話すから、大丈夫だよ」
「・・・何と言ってくれても構いません。そのまま、私が突然、嫌だって言い出したって・・・」
そしたら、変な女だったから仕方ないとならないだろうか。
「うん・・・桃ちゃん、なんかそれだと、余計、俺がすっごい可哀想だけど・・・」
「・・・え?すみません・・・。そんな事ない・・・」
桃は慌てて否定した。
「・・・大丈夫。ちゃんと説明するから」
桃はもう一度、頭を下げた。
「・・・ありがとうございました。・・・お元気でいてくださいね」
「桃ちゃんもね。無理しないんだよ」
無理しがちで、自分の体力を見誤った桃が倒れた事も多い。
信じられないほどに、スムーズな別れ。
きっとそれなりに傷ついて辛く思い出す期間があるだろうけれど。
それでも、きっと、いつか、いい思い出だったとお互いの幸せを願い続ける事ができるような、出会いと別れであるだろうと思う。
あの夜に、悠と関係した事。
それも、自分が彼に、もしかしたら誰にも相応しくない理由。
でも。
悠との事は、後悔が無いのだ。
ならば、余計、自分は彼には相応しくない
悠と、もうこれきり、何かあるとも思わないけれど。
あれは禁忌というものだ。
何の発展性も無いのだから。
最初から終わってる。
桃は申し訳ない気持ちと、さっぱりとした喪失感を感じていた。
肩の荷が降りた、そんな気持ち。
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