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第一章
第5話 お見合い
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そして二日後、相手には失礼な話だとは思うが、全く気乗りしない俺のお見合いが始まった。
目の前には絵画から飛び出て来たのでは、と思われるような美女……見合い相手がいる。
黒髪黒目の美しい女性。異国の姫だろうか?
気持ちの整理はまだ付かないが、アオイと過ごせたお蔭で随分気持ちが軽くなっているのも事実。
このまま黙っているだけというのは人として礼を欠くと思い、一先ず前向きに話してみようかと声を掛けた。
「初めまして。レイベルトです。」
「フフッ。」
俺の挨拶が何か可笑しかっただろうか?
異国の姫だとすれば、作法の心得も当然あるはず。一騎士家の長男でしかない俺以上に礼儀作法を修めているだろう事は想像に難くない。自身でもが気付かぬうちに無礼な事をしてしまった可能性がある。
……謝罪すべきか?
「初めましてではありませんよ。」
俺が戸惑っていると、目の前の女性は美しい笑顔で口を開いた。
「失礼しました。……どこかでお会いした事が?」
「わかりませんか?」
「えっと……あなたの様な美しい方を忘れてしまい、申し訳ありません。」
本当に覚えがない。流石にこれ程の美女を忘れるはずがないと思うのだが……。
「もう! まだわかんないかなぁ。」
突然彼女の口調と声色が変わる。
「え?」
「英雄様は意外と薄情な奴だったんだね。」
「……アオイ?」
間違いなくアオイの声だ。聞き覚えのある声だと思っていたが、普段の恰好と結びつかずに今の今まで気が付かなかった。
「勇者アオイを忘れるなんて。英勇コンビでしょうが!」
「待て待てっ! 男だったんじゃないのか!?」
「男だとは一度も言ってないよ。誤解されるように男のフリはしてたけどね。」
何だそれ……。
「軍隊に女が交ざると面倒でしょ? だから王様が男のフリをしろってさ。」
「……確かにその通りだ。」
実際軍内には給仕係の女性もいたのだが、女性の絶対数が少なく兵士達の間で取り合いのようになっており、かなり面倒な事態に陥っていたのだ。
今回の戦争はただでさえ負け戦として認識されていた為、戦時中に女をめぐって諍いが起こるのも無理はない。
「それに私は勇者ではあるけど女だから、特に色恋沙汰に気を付けて欲しいって事で男のフリを続けてたってわけ。私だってあんな兵士だらけのむさい逆ハーレムは勘弁して欲しいしね。」
「それは嫌だな。」
俺はあまりにもおかしくて、つい笑ってしまった。
アオイと話すのは本当に楽しい。今までは男だと思っていたが……いざ性別を意識してみると、これ程の美女で会話も弾むし命を預け合った事だってある。
不満などあろうはずがない。
一気にアオイに惹きこまれていくのが自覚出来た。
「それで? 英雄様は私をお気に召したのかな?」
「それは……勿論。でもアオイは俺で良いのか?」
彼女は呆れた顔で俺を見る。
「何言ってんだか。私が君を指名したからこのお見合いがあるんだけど。」
「そうなのか?」
こちらとしては嬉しいが、俺よりもっと良い奴も居そうなものだが……。
「当たり前じゃん。これでも伝説にまで謳われた勇者だよ? 私の意見が無視されて勝手に見合い話が進むわけないでしょ。」
「……それは、そうだな。」
その通りだ。勇者の意見がないがしろにされる事などあり得ない。
「今のやり取りで気が付いたとは思うけど、君と結婚したいから見合い話を王様に提案してもらった。元々レイベルトには婚約者もいたし、諦めてたんだけどさ。」
「……。」
「今回の件もあって、レイベルトには悪いけど強引に話を進めさせてもらったよ。君はあのままじゃどこかへ行ってしまいそうだったからね。」
確かに、見合い話がなければ……どこか別の国へ行ってしまおうかとさえ思っていたのは事実だ。
「どうかな? どこかへ行こうって気持ちは消えた?」
「あぁ……心配かけた。」
アオイには敵わんな。
「良かったよ。これでも気持ちが変わらないなら、無理矢理体を使ってでも引きとめようと思ってたからね。」
「……おい。それはいくらなんでもダメだろう。」
「べ、べつに? 全然ダメじゃないし?」
アオイは照れているのか顔が赤い。そんなに恥ずかしいなら言わなければ良いのにと思うが、それを指摘するのは野暮だろう。
「で? 結局さ、結婚してくれるの?」
「言わなくても分かるだろ。」
俺は照れくさくて言葉にするのをためらった。
「こういう事は言ってくれないと。言葉って凄く大事だよ?」
そう……だな。
「アオイ。結婚してくれ。」
「勿論だよ。英勇コンビから英勇夫婦に格上げだね。」
「あぁ。まさかお前と夫婦になるとは思ってもみなかったがな。」
「女だって言ってなかったから仕方ないけどさ。これからはもう少し女の子らしく扱ってよ?」
「それは勿論。勇者様のご要望にお応えしますよ。」
「それなら、私も英雄様のご要望にも応えなきゃね。」
俺達は笑い合い、結婚する事となった。
あれ程強烈な失恋をしたばかりだというのに、アオイと見合いし即座に結婚を決めるだなんて……我ながら薄情なのかと思ったが、誰にも文句を言われる筋合いはないかと思い直した。
文句を言われるはずもないか。特にエイミーなんかにはな……。
目の前には絵画から飛び出て来たのでは、と思われるような美女……見合い相手がいる。
黒髪黒目の美しい女性。異国の姫だろうか?
気持ちの整理はまだ付かないが、アオイと過ごせたお蔭で随分気持ちが軽くなっているのも事実。
このまま黙っているだけというのは人として礼を欠くと思い、一先ず前向きに話してみようかと声を掛けた。
「初めまして。レイベルトです。」
「フフッ。」
俺の挨拶が何か可笑しかっただろうか?
異国の姫だとすれば、作法の心得も当然あるはず。一騎士家の長男でしかない俺以上に礼儀作法を修めているだろう事は想像に難くない。自身でもが気付かぬうちに無礼な事をしてしまった可能性がある。
……謝罪すべきか?
「初めましてではありませんよ。」
俺が戸惑っていると、目の前の女性は美しい笑顔で口を開いた。
「失礼しました。……どこかでお会いした事が?」
「わかりませんか?」
「えっと……あなたの様な美しい方を忘れてしまい、申し訳ありません。」
本当に覚えがない。流石にこれ程の美女を忘れるはずがないと思うのだが……。
「もう! まだわかんないかなぁ。」
突然彼女の口調と声色が変わる。
「え?」
「英雄様は意外と薄情な奴だったんだね。」
「……アオイ?」
間違いなくアオイの声だ。聞き覚えのある声だと思っていたが、普段の恰好と結びつかずに今の今まで気が付かなかった。
「勇者アオイを忘れるなんて。英勇コンビでしょうが!」
「待て待てっ! 男だったんじゃないのか!?」
「男だとは一度も言ってないよ。誤解されるように男のフリはしてたけどね。」
何だそれ……。
「軍隊に女が交ざると面倒でしょ? だから王様が男のフリをしろってさ。」
「……確かにその通りだ。」
実際軍内には給仕係の女性もいたのだが、女性の絶対数が少なく兵士達の間で取り合いのようになっており、かなり面倒な事態に陥っていたのだ。
今回の戦争はただでさえ負け戦として認識されていた為、戦時中に女をめぐって諍いが起こるのも無理はない。
「それに私は勇者ではあるけど女だから、特に色恋沙汰に気を付けて欲しいって事で男のフリを続けてたってわけ。私だってあんな兵士だらけのむさい逆ハーレムは勘弁して欲しいしね。」
「それは嫌だな。」
俺はあまりにもおかしくて、つい笑ってしまった。
アオイと話すのは本当に楽しい。今までは男だと思っていたが……いざ性別を意識してみると、これ程の美女で会話も弾むし命を預け合った事だってある。
不満などあろうはずがない。
一気にアオイに惹きこまれていくのが自覚出来た。
「それで? 英雄様は私をお気に召したのかな?」
「それは……勿論。でもアオイは俺で良いのか?」
彼女は呆れた顔で俺を見る。
「何言ってんだか。私が君を指名したからこのお見合いがあるんだけど。」
「そうなのか?」
こちらとしては嬉しいが、俺よりもっと良い奴も居そうなものだが……。
「当たり前じゃん。これでも伝説にまで謳われた勇者だよ? 私の意見が無視されて勝手に見合い話が進むわけないでしょ。」
「……それは、そうだな。」
その通りだ。勇者の意見がないがしろにされる事などあり得ない。
「今のやり取りで気が付いたとは思うけど、君と結婚したいから見合い話を王様に提案してもらった。元々レイベルトには婚約者もいたし、諦めてたんだけどさ。」
「……。」
「今回の件もあって、レイベルトには悪いけど強引に話を進めさせてもらったよ。君はあのままじゃどこかへ行ってしまいそうだったからね。」
確かに、見合い話がなければ……どこか別の国へ行ってしまおうかとさえ思っていたのは事実だ。
「どうかな? どこかへ行こうって気持ちは消えた?」
「あぁ……心配かけた。」
アオイには敵わんな。
「良かったよ。これでも気持ちが変わらないなら、無理矢理体を使ってでも引きとめようと思ってたからね。」
「……おい。それはいくらなんでもダメだろう。」
「べ、べつに? 全然ダメじゃないし?」
アオイは照れているのか顔が赤い。そんなに恥ずかしいなら言わなければ良いのにと思うが、それを指摘するのは野暮だろう。
「で? 結局さ、結婚してくれるの?」
「言わなくても分かるだろ。」
俺は照れくさくて言葉にするのをためらった。
「こういう事は言ってくれないと。言葉って凄く大事だよ?」
そう……だな。
「アオイ。結婚してくれ。」
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「あぁ。まさかお前と夫婦になるとは思ってもみなかったがな。」
「女だって言ってなかったから仕方ないけどさ。これからはもう少し女の子らしく扱ってよ?」
「それは勿論。勇者様のご要望にお応えしますよ。」
「それなら、私も英雄様のご要望にも応えなきゃね。」
俺達は笑い合い、結婚する事となった。
あれ程強烈な失恋をしたばかりだというのに、アオイと見合いし即座に結婚を決めるだなんて……我ながら薄情なのかと思ったが、誰にも文句を言われる筋合いはないかと思い直した。
文句を言われるはずもないか。特にエイミーなんかにはな……。
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