戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ

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最終章 幸せな日々

番外編 第8話 親衛隊の連携

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「少し戦い方を変えるか。」


 お父さんが両手に強めの魔力を込めながら地面を蹴って土を一人の顔にかける。

 流石は親衛隊というべきか、土をかけられつつも取り乱したりはせず、即座に防御魔法を張って追撃を防いでいた。

 しかし、土をかけられた親衛隊は余分な行動を取らせされる事で一瞬だけ攻撃に参加出来ず、その隙にお父さんが両手から準備していた魔法を放って両横の二人に防御行動を強いる。

 最後に残った一人と瞬間的に一対一の状況を作り出し、横やりが入らない状態で殴って昏倒させた。


「卑怯な手は俺とて使える。」


 戦場で培った何でもありの泥臭い戦い方。

 お父さんがこんな戦い方をするとは微塵も思わなかった。

 普段はこんな戦い方なんてしない人なのに、それでも泥臭い戦いをしなければいけない程に追い詰められているという事。

 そして相手はまだ二十九人も残っている。


「私も出ないとなりませんね。」


 アーリィ親衛隊の長であるセイブンがお父さんの正面に立つ。


「ようやく隊長のお出ましか。」

「はい。戦力の逐次投入という愚策に気が付きましたので。まさか剣なしでここまで戦えるとは……。」

「伊達に英雄と呼ばれちゃいないさ。」


 セイブン隊長は剣なしのお父さんを私と同等と言ったけど、剣なしだろうとお父さんの方が間違いなく強い。

 私だったらきっともう倒されていた。

 個人の技量もさることながら、この人達は単純に連携が上手過ぎる。

 ただ連携が上手いだけなら遅れを取る事はないけど、一騎当千の人間四人が連携して同時攻撃をしてくるなど、悪夢以外の何物でもない。


「想定以上にお強いですが、それでも私の見込みではレイベルト様を打倒し得ると思っています。」


 セイブン隊長がお父さんに斬りかかり、お父さんがそれを防御する。

 他三方の親衛隊も攻撃に加わるが、上手くいなされていた…………と思っていたら、後方に待機していた親衛隊の一人がセイブン隊長の背中目掛けて魔法を放った。


「え? 同士討ち?」


 そう思った瞬間、セイブン隊長は背後から迫る魔法を避け、見事お父さんに当てて見せた。

 私が同士討ちだと誤解してしまうのも仕方ないと思う程に見事な連携。

 成る程。

 今の魔法、お父さんの視点からは完全に見えていなかった。


「今だ! やれ!!」


 予想もしていない攻撃をくらって体勢が崩れたお父さんに対して、セイブン隊長が猛撃を繰り出す。

 いかに体勢が崩れたとはいえ、それでも英雄。

 簡単に倒せるはずは…………と思っていたんだけど、セイブン隊長の猛撃のせいで崩れた体勢を整える事が出来ず、お父さんは無理な体勢のままで防御し続ける。

 そこに親衛隊が次々と殴りかかる事で、お父さんはまともに攻撃をくらい始めた。

 お父さんも攻撃をもらいながら少しづつ反撃しては親衛隊を倒していたけど、途中で力尽き、最後にはセイブン隊長と親衛隊十五名が立っていた。

 あの親衛隊を半分も倒せたお父さんが凄いのか、はたまたお父さんを半分の犠牲で倒してしまった親衛隊が凄いのか……。

 最後、親衛隊が剣ではなく拳でいったのはなんやかんや言っても殺す気なんてなかったからでしょうね。

 とにかく、決着はついた。

 倒された親衛隊とお父さんは全員仲良く地面で寝ている。


「アーリィ様。これで訓練に参加しなくとも問題ありません。」

「え? えっと……。」


 どこがよ。問題だらけでしょ。


「セイブン隊長。お父さんをボコボコにしてどうするの。反逆罪になるわよ?」

「問題ありません。」


 セイブン隊長はさも当然という顔で堂々と立っている。まるで歴戦の勇士のように。

 なにその自信満々な顔。


「あちゃぁ。やっぱこうなったか。」

「あ、ママ。」


 碧ママは防衛会議があって朝から出掛けていた。

 恐らく帰宅してから騒ぎを聞きつけて練兵場に真っ直ぐ来たに違いない。


「やっぱりって、分かってたの?」

「まぁ、アーリィを鍛えさせないよう私が親衛隊に言いつけておいたからね。」


 え?


「じゃあ、お父さんが今ここで寝っ転がってるのは……」

「私の指示だよ。」


 セイブン隊長が自信ありそうなのにも納得した。


「アオイ様の指示がなくとも、きっと私共はレイベルト様を打倒したでしょう。」


 何言ってんの?

 碧ママの指示が無かったらただの反逆罪よ? 

 指示があっても主をボコボコにするのはどうかと思うけど。


「主が間違っていたらお諫めする。我らとて心が痛いのです。」


 嘘つけ。思いっきり躊躇なく殴ってたじゃない。


「うんうん。ちゃんと指導した通り動けてるね。」

「碧ママ? 何言ってるの?」


 主を取り囲んで殴りつけるなんて、どんな指導したのよ。


「レイベルトはアーリィが末っ子だからって過剰に心配してるんだよ。だから、レイベルトの変な教育方針を実行されないよう密かにアーリィ隊を私が指導してたってわけ。いざという時は主を殴って止めろってね。」


 危なっ!?

 これ、私も危うくボコボコにされるところだったんじゃない!!


「エイミーに敵役を務めてもらって、指導は私がやったのさ。」


 ははぁ……。


「通りで連携が上手いと思った。人類じゃ勝てない相手で訓練したのね。」

「そゆこと!」


 碧ママは笑顔でピースしているけど……貴女の旦那様、ボロボロになって転がってるんですが?


「え? え? どういう事ですか? エイミーママは人間じゃないんですか!?」


 アーリィが涙目で質問してきた。

 そう言えばこの子はお母さんが強いって事を知らないんだ。


「大丈夫だよアーリィ。エイミーは人類の枠から大分逸脱してるけど、ちゃんと人間だから。」


 お母さんが人類だと聞いて安心した表情を浮かべるアーリィ。

 すんなり納得してくれて良かったわ。


「なぁんだ。良かったです。パパもママもサクラお姉ちゃんも大概人類を逸脱してますもんね。」


 え?

 それ、どこに安心する要素があったの?

 というか、私の事をそんな風に思ってたの?


「ま、とにかくこうなっちゃったのは仕方ないよ。アーリィは女の子なんだから訓練なんてしなくて良いってレイベルトにはもう一回言っておくから。」

「でも、本当に大丈夫でしょうか?」


 心配そうに呟くアーリィ。


「大丈夫。というかアーリィは訓練していない今ですら、王に仕える騎士団の副長くらい強いじゃん。これ以上強くなったら本当に嫁にいけないかもしれないんだから、意地でも訓練なんてしちゃダメだよ?」


 ナガツキ大公家に仕える兵より遥かに弱いじゃない。心配だわ。


「サクラ。それじゃあ弱いと思ってるね?」

「え? うんまぁ……。簡単にやられちゃいそうだなって思うけど。」

「十分強いって。戦力評価すれば兵士三十人分くらいだよ? 盗賊程度なら一人でも余裕。」


 盗賊なら余裕でも、軍が相手じゃ心許ない。心配だなぁ……。


「サクラはもう手遅れだけど、アーリィはまだ間に合うんだから、変な道に引き込もうとしないでよね。」


 手遅れって言うな。

 確かに訓練なんてしないで女の子らしくしろと何度も碧ママに言われてきたけどさ。


「ママ。そんな言い方しないで下さい。サクラお姉ちゃんが結婚出来るようにエイミーママもたくさん嘘をついて頑張ってるみたいなんですから。」

「アーリィ…………。」


それ、全然慰めになってないわよ。


「せっかくエイミーに似て可愛いのに。あーあ。サクラは結婚出来ないのかぁ……。」

「碧ママ酷くない?」

「私の言う事聞かないで訓練ばっかするからだよ。女の子らしさ、今からでも身に付けてみなよ。」

「女の子らしさなら既に持ってるよ?」


 私は両腕をギュッと閉じて、胸に谷間をつくってみた。


「先ず胸を強調するその考えがダメ。レイアとのデートでもやたらと胸を押し付けたんだって? それじゃただの痴女だよ。」


 ち、痴女……?


「わ、私にだってありのままで愛してくれる人がきっと……。」
「あぁ。ありのままの君で……なんて戯言があるけどさ、ありのままで愛されるなんて幻想だからね?」


 え?


「私の世界だったらともかく、この世界での男は男性らしさ、女の子は女性らしさ、これが絶対必要条件。先ずは女の子らしさ・・・をつくって、そこを取っ掛かりにして中身を知ってもらわないと無理だから。レイベルトみたいに強い女を二人も嫁に貰うような奇特な奴なんてそうそう居やしないよ。」


 流石は現役勇者。

 私じゃ口でさえ勝てない…………。



 ねえお母さん?

 お母さんが言っていた通り、お母さんが頑張って探してきてくれたから、旦那様が婿入りしてくれたんだね。

 お母さんが私の強さを必死で隠してくれたから、前回は結婚出来たんだね。

 お母さんが「訓練する暇なんてあったらお父さんの書類仕事を手伝いなさい。」って散々言ってくれたから、旦那様の前で一度も強さを見せずに済んだんだね。

 やっぱり、母は偉大なんだ。

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