戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ

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最終章 幸せな日々

番外編 第9話 生き物は大切に

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 私は女の子らしさを身に付けようと必死になった。

 もしも前回の旦那様と上手くいかなかったらあまりの悲しさに、最終手段——権力で無理矢理結婚を実行してしまいそうだ。

 そうならない為にも頑張らないと。


「ねえお母さん。」

「どうしたの?」

「それ、何?」


 お母さんの肩には黒くてうねうねした正体不明の生き物が乗っている。

 目が十個も付いていて凄く不気味。


「可愛いでしょ?」

「どこが?」


 こんな不気味な生き物、見た事ない。


「あのね。『さぐぬtヴぃらヴんみr』に新しく生まれた神らしいのよ。せっかくだから、二度と力を発揮できないように封印して、ペットにしてみたの。」


 か、神をペット……?


「そんなもの捨ててきなさい!」

「嫌よ! この子、凄くお利口さんなんだから。ねえ、メメちゃん?」

『うむ。』


 喋った!?


「ほらね? メメちゃんはお話が出来るのよ?」


 既に名前まで付けてるし…………。


「お話っていうか、神なんだからもっと色々出来るでしょうに。封印されちゃってお話しか出来なくされた、が正解でしょ?」

「サクラは冷たいわね。生き物は大事にしないとダメよ?」


 お母さんに言われたくない。


「とにかく、ちゃんと元の場所に置いてきて? 可哀想でしょ?」


 下手に懐かれる前に捨てさせないと。


『別に可哀想ではない。エイミー殿は毎日お魚をくれるので一生ここにいたい。』


 そんな邪悪な顔でお魚が好きなんだ……。


「あのね? メメちゃん?はこの世界の生き物じゃないでしょ?」

『うむ。それを言うなら勇者もこの世界の生き物ではないぞ。』


 このやろっ。

 不気味な見た目で口が回るわね。


「えっと、お魚ならあっちにもあるんじゃないの?」

『あっちの魚はマズくてかなわん。それにだな、食べる時には必ず命乞いをしながら絶叫するから気分が悪いのだ。』


 それは気分が悪いわ。私だったら絶対に食べたくない。

 というか、そんな魚がいてたまるもんですか。


「もう良いでしょ? メメちゃんは良い子だから家で飼うの。色々と手伝って貰えて本当に助かってるんだから。」


 こんなのに何が手伝えるってのよ。

 お母さんもお母さんだわ。こんなのに何かを手伝わせないで欲しい。


「力は封印したって言ってたよね? 何を手伝わせるの?」

『うむ。我は恋の手伝いが出来るぞ。意中の相手に……お? 面白れぇ女。と思わせるのが得意だ。』


 この見た目で恋?

 そもそも、言っている事がまるで意味不明なんだけど。


「面白れぇ女と思われたら何だっての?」

『面白れぇ女とはつまり、興味だ。興味すら持たれなければ恋は始まらない。しかしどんなにハンデがあったとしても、ひとたび面白れぇ女と思われれば、後は行動次第でどうとでもなる。』

「な、成る程。」


 やけに詳しいじゃない。


『そうして他の存在とは違うという特別感を与え、自分が替えの利かない存在だと相手に認識させるのだ。』

「も、もっと詳しく!」


 凄く役に立つじゃないの!

 流石は神ね!


『これ以上はダメだ。我を飼ってくれないと教えられん。』

「飼うわ! 飼うから!」

『毎日お魚を一匹くれるか?』

「ちゃんとあげるから!」

『ならば教えよう。その前に……エイミー殿は昨日我にお魚を与え忘れたまま出掛けてしまったからな。先にお魚を持って来てくれ。』

「あら? ごめんなさいね。」

『うむ。たまにはそういう事もあるだろう。』


 なんて優しいのかしら。

 あと、お母さんはもっと生き物を大事にするべきだと思う。


「待ってて。今持ってくるから。」

『うむ。』








 そうして私はメメちゃんに与える為、厨房から大きめの魚を一匹持って来た。

 調理の担当者にはどうするのかと聞かれたので、私が食べると言ったら大層驚かれてしまった。


『これは有難い。三日分もあるではないか。』

「昨日は食べてないって言ったよね? だから大きいのを持って来たの。」

『感謝する。しかし、ペットに餌を与えすぎるのは良くないぞ?』


 何で私は餌を与えすぎた事をペット本人に注意されてるんだろう?


「今回だけだから。ね?」

『うむ。仕方ない。今日と明日に分けて食べるとしよう。』


 食べる配分まで考えるんだぁ……。


「お利口さんでしょ?」

「お利口さんだけど、ペットとしては何か違わない?」

『我以外を飼う時は参考にしてもらいたい。』

「参考にするわ。」


 お母さん。やっぱりそれ、ペットじゃないよ。


『さて。本題に入ろう。面白れぇ女と思われる為の具体的な行動をいくつか紹介したいと思う。』

「うんうん。」

『モテモテな男がいたとしよう。どんな女性でも大抵靡くので、ある種の遊戯的に女と恋仲になろうとするような軽薄な男だ。』

「うん。」

『その男が口付けを迫ってきたら、ひっ叩いてこう言うのだ。「誰もが貴方に靡くと思わない事ね。」とな。そうする事で男は衝撃を受け、面白れぇ女と呟くわけだ。』

「相手の悔しさやプライドを利用するのね?」

『そういう事だ。』

「他には?」

『ある男がいて、その男を好いている女がいた。女はしつこく男を追いかけ回すが、男はその女には全く気がなく、なんなら鬱陶しいとすら思っていた。』

「それで?」

『その女は別な女に追い返されて悲しいフリをして去って行ったが、フリだと男に見抜かれる。女のしつこさに一度はっきり言ってやろうと男は女を追いかけた。すると、女は服を障害物に引っ掛けた事を男が引き留めてくれたと勘違いして一人芝居をしてしまった。』

「そっか! 確かに面白れぇ女だわ! 他には?!」

『うむ。男には婚約者がいた。男と婚約者は幼馴染同士。だが、二人は結ばれる運命ではなかった。本来結ばれるべき女が他にいたのだ。』

「ふむふむ。」

『婚約者はそれを知り、死を偽装した。本来結ばれるべき女と男をくっつけ、その後に自分もその輪に加わる為に。』


 あれ? なんか聞いた事があるような……。


『婚約者が死を偽装した後、男はその結ばれるべき女に婚約者の思い出話をし、その女が嬉しがって聞いてくれるので、感傷に浸りながらもその女を面白れぇ女と思った。この場合は、今までの面白れぇ女とは意味合いが全く違うがな。』


 もしかしてこの話って……。


『気付いたか。これはサクラ殿の親の話だ。』

「何で知ってるの?」

『我は様々な恋の事例をそれなりに知識として持っている。また、一度見た相手の恋に関する情報を知る能力があった。今は封印されている故に、予測や傾向を立てる事が出来る程度でしかないがな。』


 凄い。

 これなら、確実に旦那様と結婚出来るかも。


『今までの話は全て、男にとっての未経験を味合わせる事で成立する。』

「つまり、常識では考えられない突拍子もない事をすれば良いのね?」

『全く違う。それではサクラ殿が頭のオカシイ奴だと思われるだけだ。』


 難しいわ。


「じゃあどうするの?」

『先ず、相手の周囲にいる女を徹底的に調べつくす。そうすれば、周囲の女の行動が分かり、自分が他の女とは違う行動を取る為の指針となる。』

「道理ね。」

『次に相手の男が笑うような……言ってみれば、興味を引くような事柄を知る。この二点を組み合わせて且つ、犯罪やあまりにも常識から逸脱しない範囲での面白れぇ女と思われる行動を導き出すのだ。』

「あ、ありがとうメメちゃん! 私、早速調べてくるわ!」


 こうしてはいられない。急いで旦那様の周囲を調べなきゃ!


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