戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ

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最終章 幸せな日々

番外編 第28話 ザーラル家

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 サクラが恋愛強者だという事実を知ってから、私は彼女が度々出掛ける様子を目撃している。

 きっとディン=ザーラルに会いに行ってるんだろうね。

 となれば、やはりサクラの恋愛は順調だったという事。あれから半年が経過し、そろそろ正式にお付き合いしている事を両家に報告でもするのかな? なんて思っていたら……


「ザーラル伯爵家から向こうの三男とサクラを婚約させたいと打診があったぞ。ザーラル伯爵家とは特別親しくはしていなかったと思うが……アオイは何か知ってるか?」


 そっかそっか。一気に段階をすっ飛ばしてきたね。

 というか、やはりディン=ザーラルはサクラに落ちたのか。

 こうやって手紙が来た事を考えれば、ザーラル伯爵家までもを陥落させたのかもしれない。


「サクラの作戦が実を結んだという事さ。」

「はぁ……。事情は分からんが取り敢えず分かった。」


 良いんだよレイベルト。きっと知らない方が良い。

 自分の娘があんな事をしていたなんて知ったら、君はショックで女性不審になりかねない。


「受けると返事しておけば良いんだろ?」

「頼んだよ。私の旦那様。」


 そう。知らない方が幸せな事もある。



















「良く来てくれた。歓迎するよ。」

「はい。本日はわざわざ息子の為に場を用意して下さりありがとうございます。」

「英雄の屋敷に入れるなんて夢のようですわ。ほら、貴方も挨拶なさい。」

「お初にお目にかかりますナガツキ大公様。私、ディン=ザーラルと申します。」

「初めまして。三人とも普通にレイベルトと呼んでくれていいぞ。堅苦しいのはどうも苦手でな。」


 今日はサクラとディンが婚約を結ぶための初顔合わせ。

 ザーラル夫妻とその息子ディンが屋敷を訪ねて来たのだ。

 ディンとサクラは既に何度も会ってるようだけど、こちらはちゃんとした面識がないからね。

 当然ザーラル夫妻の方とは貴族として面識はあるけども。


「ではレイベルト殿と……レイベルト殿は強さだけではなく、親としても大層素晴らしいのですね。」

「え? いや、あははは。そうだと良いのだが。」


 取り敢えず相手に合わせて愛想笑いするレイベルト。

 サクラがザーラル家とどういう経緯で繋がったのか分かっていないので、これは仕方ない。


「サクラ殿を見ていれば分かりますとも。本当に素晴らしい娘さんだ。私がもう少し若ければと思わずにいられません。」

「あらアナタったら浮気ですか? でもサクラさんなら私も許しちゃうかもしれないわ。」

「はっはっは。冗談だ。」


 既に両親にも気に入られているね。サクラはどんな風にザーラル家を懐柔したんだろ。


「うちのサクラを気に入ってもらえて嬉しいですよ。」

「あれ程素晴らしい娘さんがいるとは驚きでした。儚げでおっちょこちょいで大変可愛らしい。だというのに、いざ話をしてみれば驚く程博識であれこれ気が付く人だ。つい先日も内部で横領している者を見つけ出してくれましてですね。」


 何でやねん。

 他家で起きた横領事件なんてどうやって分かったのよ。

 やっぱり密偵でも放ってたの?


「は、儚げでおっちょこちょい? 誰かと間違えてないか?」


 気持ちは分かるよレイベルト。

 サクラは別に儚げじゃないもんね。


「サクラという珍しい名前を間違える事はそうそうありませんよ。私はザーラル家当主として、サクラ殿がディンの嫁に来てくれたらディンにザーラル家を継がせようかと思っているんです。」


 それはマズい。

 ニコニコしながら何て事を言うのかこのおっさんは。


「頼むから考え直してくれ。後継ぎが決まっているのに今更変更だなんてお家騒動の元だぞ?」

「そうだね。いくらサクラを気に入ってくれたからと言っても、それはオススメしないよ。」


 ナガツキ家の当主はレイベルトだから基本的には任せてしまおうと思っていたけど、流石にこれは私も口を出さないといけない。


「ナガツキ家から爵位を渡して婿に取る事も可能だから、ザーラル家は元から決まっていた人に後を継がせてよ。」

「そうですか? しかし貴重な爵位を貰ってしまうのも気が引けますし……。」


 サクラのせいでザーラル家がお家騒動なんて事になったら、そっちの方が気が引けるっての。

 またナガツキ家に変な噂が立つじゃん。


「気にしないでくれ。最初からそうするつもりだったんだ。アオイ、サクラを呼んできてくれ。」

「オッケー。」


 私はサクラを呼ぶ為、一度場を後にした。















「サクラ。ザーラル家の人達が来たよ。」

「今か今かと待ってたわ。」

「アンタ、ザーラル家を乗っ取ろうと考えてるの?」

「どうして? 乗っ取りなんて考えてもいないんだけど。」


 何のことか分からないという顔でとぼけるサクラ。


「洗脳魔法使ったでしょ? そんな事するなんて乗っ取りを考えているとしか思えないよ。」

「洗脳魔法? そんなの使えないわよ。お母さんと一緒にしないで。」


 エイミーは怪しげな魔法を使える。そして娘のサクラもそんな感じの魔法が使える。

 疑ってしまうのも無理はないと思うんだけど。


「洗脳してないなら、あのザーラル家の様子はなんなのさ。サクラを嫁にもらってザーラル家をディンに継がせるとか言い出したんだよ?」

「何それ? そこまで頼んでないわよ。少しやり過ぎたかしら?」


 やり過ぎたって何をよ。

 何をやり過ぎたのか。


「一体何したらああなるの。」

「普通に媚びてたらあんな風になったの。」

「ナガツキ家の方が格上なんだから媚びないでよ。」

「旦那様の家族には気に入られたいから仕方ないじゃない。」


 媚びたからってあんな風になるものかな?

 どれだけ媚びたのか気になるけど、でも聞きたくないような気もする。


「……まあいいや。兎に角、一度顔合わせに行くよ。」

「はいはい。碧ママってば結構細かいよね。」

「アンタが気にしなさ過ぎなの。」


 なるようになれ、みたいなこの考え。

 誰に似たんだろう。
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