戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ

文字の大きさ
96 / 128
最終章 幸せな日々

番外編 第29話 サクラは女優

しおりを挟む
「お待たせいたしました。サクラ、皆さんに会えるのが嬉しくて準備に時間が掛かっちゃったの。」


 自分の頭をコツンと叩き、舌をペロリと出して見せるサクラ。

 しかも一人称が自分の名前。


「やあやあ。サクラ殿、待ちわびましたぞ。早くディンと婚約を結ばせないと他の人に盗られてしまうのではないかと気が気じゃありませんでした。」


「サクラさんと会えるのを楽しみにしてたんですよ? でもそういう事なら仕方ないですわね。」


 改めて思うけど、ディンの親父さんにもめっちゃ気に入られてるじゃん!

 そしてまさかの母親まで!?


「なあアオイ。サクラは何か悪い物でも食ったのか?」


 そう。そうだよねレイベルト。これが普通の反応なんだよ。


「サクラ……相変わらず可愛いね。」

「ディン様。ずっとお待ちしておりました。」


 おっと、ここで二人の世界に入るの?

 二人は互いを見つめ合い、なにやら良い雰囲気だ。


「普段のおっちょこちょいな様子も可愛いけど、ちゃんとした場ではしっかり気を張って出来る女らしい装いをするところも素敵だよ。」


 あぁ……成る程ね。

 本当のサクラはおっちょこちょいでは全くない。むしろ色々と気が付くし仕事も出来る。

 普段は出来る女を装った実はおっちょこちょいの女の子を演出したというわけだ。

 それならたまにおっちょこちょいを見せてやるだけで、相手は勝手に「サクラは良く頑張ってるんだな。」とプラスの印象を抱きさえする。

 流石だ。

 サクラの媚びには穴が無い。


「あっ……誰かが助けを呼ぶ声が聞こえる。」

「は?」
「え?」


 この子、急に何言ってんの?

 サクラはやけに真剣な顔で意味不明な事を呟いたかと思えば、胸に付けているブローチを手に取った。


「プリティキューティーミラクルパワー!」


 謎の呪文を唱えたかと思えばブローチが輝き、サクラの体は虹色に包まれコスチュームチェンジが始まる。

 そしてどこからともなく出現した衣装が体を回転させる彼女へ次々と装着されていく。


「サクラ……案外デカいな。」

「レイベルト。後で私の触らせてあげるからそういう事言うのやめて。」


 娘の胸を見てデカいと感心する父親。よそ様の前でみっともない。


「闇より這い出でし混沌を倒す為、地獄の特訓から生還した冥土戦士。マジナガムーンキャット参上! 私の行いは全てが天の意思!」


 ビシっと決めポーズを取り、猫耳カチューシャとメイド服を装備したサクラ。

 あのさ。それ、一応国宝なんだけど。


「今日もマジナガムーンキャットが来てくれた!」
「相変わらず素敵だわ!」
「サクラ! 今日はどんな悪と戦うんだ!?」


 わーお。

 ザーラル家の皆さん。普通にサクラの奇行を受け入れてんじゃん。

 でも、これで分かったよ。サクラがやけに気に入られてる理由が。

 この世界で娯楽と言えばかなり限られている。

 そんな中で人知れず悪と戦う可憐な魔法少女を演じれば、たちまち人々を虜にしてしまえるというわけだね。


「助けを求める少女の心の声が聞こえるわ。急がなきゃ!」


 そう言ってどこかへ走り出すサクラと追いかけるザーラル家の皆さん。


「あ、おい。どこへ……。」

「レイベルト。追いかけるよ。」


 理解の追い付いていないレイベルトを引っ張り、私達もサクラを追いかけた。

















「キャー! 誰か助けてー!」

「へっへっへ。良いからお前のパンツを嗅がせろ。こんな路地裏に誰も助けになんて来ねえぜ?」

「それはどうかしら?」

「だ、誰だ!?」


 サクラを追ってきてみれば、女の子がならず者に襲われていた。


「私はマジナガムーンキャット。闇より這い出でし混沌を倒す者よ。」

「妙な恰好でわけのわかんねぇ事を……。お前のパンツを嗅がせろ!」


 ならず者は標的をサクラに変え、破廉恥な事を叫びながら襲い掛かる。


「なんて恐ろしい奴なの!? えーい!」


 襲われたサクラは可愛らしい掛け声とともに、魔法のステッキらしき物でならず者をブッ叩いた。

 メキョリと気色の悪い音を立てて吹っ飛んでいくならず者。

 えらくバイオレンスな魔法少女だ。

 てか死んでないよねあの人?


「助けてくれてありがとうございます!」

「まだよ!」


 助けられお礼を言う少女に待ったをかけるサクラ。

 倒れているならず者からは黒いモヤが湧き出ている。


「な、なんですかあれ?」

「あれは闇より這い出し混沌。あれを倒さなければ解決しないの。」


 サクラはステッキをバトンのように振り回して先端をピッと黒いモヤに突き付けた。


「ナガツキパワーは悪を許さない。滅せよ。」


 物騒なセリフとともにステッキが光り、黒いモヤが一瞬で消滅する。

 私もあんな怪しげなものは見た事がない。大方サクラの演出なんだろうけど、随分と凝ってるね。

 黒いモヤからは邪悪な気配が漏れ出ていた。

 気配までもを演出するなんてなかなかやるじゃん。


「今日もマジナガムーンキャットが悪を成敗したわ!」
「やはり彼女に任せておけば全ては解決だな!」
「サクラ……今日も素敵だ。」

「ふふ。サクラがマジナガムーンキャットだって、他の人には内緒ですよ?」


 お茶目にウインクして見せるサクラは女優だった。



 そっか。これがサクラの答えなんだ。

 強い女の子はこの世界じゃモテない。

 でもマジナガムーンキャットなる者を演じ、一家もろとも虜にして自分の強さがバレても「マジナガムーンキャットの力が普段の私にも影響を及ぼしているみたい。」とでも言っておけば問題ないもんね。

 嘘に嘘を重ねた女サクラ。

 あの子は一体どこに向かっているんだろう。

 エイミーはこの事を知っているのかな。
























 両家の顔合わせはつつがなく?終了し、無事サクラとディンは婚約を結んだ。


「碧殿。サクラ殿は何か良くないモノを呼んだな?」

「良くないモノ?」

「さぐぬtヴぃらヴんみrの臭いがするぞ。」

「は?」

「サクラ殿から随分と濃い瘴気の臭いがする。間違いなくさぐぬtヴぃらヴんみrのモノを呼び出している。しかも何度となくな。」


 先日やってた魔法少女っぽい演出。

 あれは演出だと思ってたけど、実はメメちゃんの世界のモノを呼び出してシバいていたという事?


「あの馬鹿娘……。」


 思いっきり引っ叩いてやる!!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

俺の好きな人は勇者の母で俺の姉さん! パーティ追放から始まる新しい生活

石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。 ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。 だから、ただ見せつけられても困るだけだった。 何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。 この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。 勿論ヒロインもチートはありません。 他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。 1~2話は何時もの使いまわし。 亀更新になるかも知れません。 他の作品を書く段階で、考えてついたヒロインをメインに純愛で書いていこうと思います。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

処理中です...