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田中神代

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18 疑惑から生じる不信感

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 翌日の早朝。
結局、二人は村を出ることにしていた。
「良かったの?」
「何がです?」
 振り返らず,返事をする。
まだ辺りは薄暗く、ディエントからはぼんやりとしか見えない。
「もっと、あの村にいなくてよかったの?」
 すぐに村を出る事を提案したものの、了承されるとは思っていなかった。
あっさりと首を縦に振ったクァイリは、元から決めていたようにも見えた。
「宿の人に、大体、状況は聞けましたし、」
 大丈夫ですよ,と笑ったのは微かに分かった。
何となく、気をつかわせてしまっている気になり、申し訳なくなる。
 辺りが少しずつ、明るくなってくる。
「…、どんな話、聞いてもいい?」
「そーですね……」
 何から話そうか,と考える。
足元に少しずつ傾斜が付き始め、周りに木が増え始める。
「あの辺りの村でも、薬水は使っているみたいです」
「そうなんですか  てっきり、毛嫌いしているものかと」
 生を奪う、と表現していた村長。
どこか罪悪感を感じながら過ごしている村人たち。
てっきり栽培はしながらも自分たちは使っていないと考えていたディエントは驚く。
「ただ、幼少期に数回使うだけで、その後は使わないみたいです」
「それでも生きていけるんだ」
 その事実についても,純粋に驚く。
クァイリは脳裏にアンダスと立てていた仮説の一つを思い出していた。
多少ずれていたものの、少しずつ立証されていく仮説。
 その行き着く先の事は今は考えないようにして、話を続ける。
「そうして育てられたあの村のテイムは自我が強いみたいで、宿主と喧嘩も
することがあるみたいです」
「……へぇ」
 良いも悪いも言えず。
どっちが良いのか、は考えず。
ディエントの反応は気にせず、話を続ける。
「その王定典範ではない育て方を指示したのはクロニ女史と呼ばれる女性で、
何か、ものすごくあの村では尊敬されていました」
 一体,何をやったのでしょう、と。
答えを求めていない質問に、生返事を返す。
「そういえば、ディエントさん」
「なに?」
 ちら、と後ろを見る。
特にいうことがない無表情を確認して、前を向く。
「探していた、サディシャさんって、どんな人なんですか?」
 ぱき、と道に落ちていた枝を折る。
あの村の中では聞けなかった、話。
この話題の為に、普段なら説明しなかった事まで説明していた。
 その雰囲気を感じたのか、ディエントは少しの間,考える。
「サディシャさんは…、私の命の恩人、かな」
 ありきたりだけどね,と。
背を向けているので、表情は分からない。
ただ見ても見なくても、本心は見えなかっただろうな、と思える雰囲気だった。
「サラァテュに襲われた時、のですか」
 ええ、と肯定。
そこまで聞くと、後は考え始める。
(サラァテュは一般に、テイムの力を破壊と殺人に転用した凶悪な殺人鬼、災害と、)
 一般には、と疑念を投げかけたい願望が心の中に表れる。
混じり始めた感情を理性で抑え、思考を続ける。
(そこからディエントさんを助けた、サディシャ氏……)
 ディエントの口調からは、良い人のイメージが感じられた。
それだけに胡散臭さと、どこか気味の悪さを感じずにはいられなかった。
(サラァテュに対する力を持っているかもしれないのに、各地を放浪
助けられたディエントさんは、そのサラァテュに復讐するという道を選ぶ……)
 本当の善人ならその道は選ばせないはず、と。
ただ、それらはクァイリにとっても誤差くらいの話ではあった。
その程度で疑念を持つほど、捻くれてはいないつもりではある。
 疑い始めた理由は、あの村だった。
(正しい形を小さいながらも完成させた村で、どこか避けるように嫌われている事実)
 クロニ女史にしても、サディシャにしても、何をしたのかは分からない。
どんな人物で,どんな理由で尊敬され,嫌煙されているのかは分からない。
 それでも、理由となることをするような人物、とは見当をつけられた。
(………ディエントさん)
 気がつかれないように,後ろに視線をやる。
何かを考えているのか,少し下を向いて歩いていた。
(本当に、その人を信じて良いのですか?)
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