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田中神代

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22 到着

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 山間。
細い山道を歩いていると、突然、現れる。
視界の端に一瞬映ったそれは、動かし続けていた足を止めるくらい,存在感があった。
「……あれね」
 ぽつりと、呟く。
後ろの声に振り返ると、表情が抜け落ちた様子でそれを見ていた。
 凝視する先には、石で作られた塔。
(……元々、何の建物だったんだろうか)
 少なくとも,今の主が作ったものではないと思うのだが,と。
クァイリはただ建物に対する感想を、抱く。
森の中に建てられた、10m程度の円柱型の塔。
採光用の窓が最上階につけられている程度で、屋上も特別な装飾もない。
 通称、斜陽の塔。
いつから呼ばれているかも、なぜ呼ばれているかも分からない。
ただ、その通称だけが今まで残っていた。
「あそこに…、いるのね」 
 独り言のように呟く。
握り締められた手は、青白くなっていた。
短く切られた爪が、傍目にも食い込んでいるのが分かった。
(サラァテュか…)
 今の塔の主。
災害とも言われる、破壊の象徴。
街や家族を奪われ、恨んでいる人は数知れず。
 ディエントのような人間も多いだろう。
(…しかし帰ってきた人も、復讐を遂げたという人も、聞かない)
 ようは、全員、返り討ち。
そう考えると、あの塔の中には何人もの死体が転がっている可能性もある。
「どうします?」
 行きたくないな。
死体が放置され腐敗している光景が脳裏に夜霧、思わず口からこぼれる。
言ってからハッと気がつき、取り消そうと後ろへ振り返る。
 そして目を見開いているディエントと目が合い、言葉を飲み込む。
 しばらく、見つめ合う。
「……行くわ」
 ええ、行くわ。
そう二度、言い聞かせるように応えた。
力強い意志を感じさせる言葉に、そうですね、と頷いて前へ視線を戻す。
 あの間は、何だったのだろうか。
 その事については、深く考えないようにした。
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