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田中神代

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25 間違いと分かっていながら

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 ああ…、この階段が永遠に続けば良いのに。
一分でもでも,一秒でも、長くこの時間が続けば良いのに。
(…気持ち悪い)
 頭がクラクラする。
考えすぎなのは、昔から注意されてはいる。
ただ今は、この事については、考え続けていたい。
(もう少し、もう少しで分かりそうなのに…)
 多分、もう分かる。
分かるはずなのに、まだ理解できていない自分が、もどかしい。
 自分は、ここまで頭の回転が悪い人間だったのだろうか?
(少し……、落ち着きがないだけだろうな)
 アンダス先生に言わせれば、若い、のだろう。
こういうことは冷静に考えられるのに、肝心な事は考えがまとまらない。
 情報が多すぎて、整理しきれてない。
 ようは、時間がもっと欲しい。
(……、とりあえず、研究対象は、薬水で決定かな)
 とりあえず、だけれども。
あの村を回って感じた事は、ズレている感覚だった。
あの村がズレているのではなく、あの村以外の全てが正しい事柄からズレている。
 理想的な関係,かどうかはまだ分からないけど。
私が目指したい理想型が、あの村にはあった。
(テイムと人とが対等に付き合っていける関係……)
 ようは、ケンカができるかどうか。
対等な立場ではないと、ケンカはできない。
ズレが分かるくらい意見を交換し、その上で付き合っていける関係。
(例の女史も気にはなりますが、今は他が優先ですかね…)
 王定典範に違反する薬水の使用方法。
辺境の村とは言え、典範を知らないはずはない。
その典範よりも信頼を寄せられている、女史。
 一体何をしたのかは分からないけど、恐らくアンダス先生と同業だろう。
研究者でないと、この事実にまで至ろうと考えられない。
「……ふぅ」
 ため息が聞こえる。
どこか満足したような響きがあった。
これから達成しようという人間の、ため息ではなかった。
 確信はあったものの、再認識せざる得なかった。
(…サディシャ氏は、おそらく、ディエントさんを見限っている)
 復讐は遂げられないだろう,と。
あの人の目的が何なのかは分からないけど、達成できないだろうと諦めている。
(胡散臭さではなく……、完全に信用できない人間ですね)
 そう考えてみると、ディエントさんは何を考えているのだろうか。
傍目で見ていた私よりも、サディシャ氏の感情は感じ取っていただろうに。
なぜ,あそこまで露骨に利用されて、尚も従順に従い続ける理由はなんだろうか。
(………、あれ)
 ふと、気がついた。
研究関係の事ばかり考えていたので,気がつかなかった。
(今のこの状況……、どこからが、まずいのだろう)
 利用されている、という確信は得た。
長らく感じていた、ディエントさんの旅へ感じていた違和感の正体も,分かった。
 でも
(……災害と言われているサラァテュからディエントさんを助けたサディシャ氏
サラァテュを追っているサディシャ氏……研究をしているサディシャ氏)
 何の?

ーーークァイリはサディシャさんと同じように、テイムを研究しているんですよ

 テイムの研究。
サラァテュを追っているサディシャ氏。
テイムの力を破壊と殺人に転用している殺人鬼、災害、と言われているサラァテュ。
(殺人鬼……、ということは、人ですかね)
 テイム単体では、殺人鬼、ではないはず。
テイム単体だと殺人鬼ではなく、凶暴な原種と表現される。
(…サラァテュの発生は、確か、この十年前後だったはず)
 長らく追っているサディシャ氏。
ただ最近は、村々を巡回している様子だった。
ようするに、もう追う必要はなくなったと。
(最近、サラァテュの被害を聞かない……)
 活動が沈静化している?
この塔にいることについては、ディエントさんはサディシャ氏から聞いた様子だった。
(……あれ?)
 違和感の正体。
というよりも、私が納得できない点。
不可解な事が、どこかで起きている。
 その当事者の一人は、この先にいる。
(こんな状態で……、復讐を遂げさせて良いのか…?)
 サラァテュはもしかすると、殺人鬼よりも災害に近い存在なのかもしれない。
 災害。
人為的な、災害。
(……誰の意志で)
 本人、と断定はされている。
ただこの違和感を感じている以上、私は腑には落ちない。
 そうしていると、前を歩いていたディエントさんが足を止めた。
 顔をあげると、階段は終わっていた。
「……ここかしらね」
 大仰な、鉄の扉があった。
拒絶の意志を感じられるほど、堅牢で武骨な扉。
後ろを振り返ると、ただただ長い階段がそこにはあった。
 この扉は、一体、何を拒絶しているのか。
 そう考えながら。ディエントさんを追い抜かして、扉に手をかける。
すぐ近くで頷くのを気配で感じながら、私は目を閉じた。
(……先生、ごめんなさい)
 多分、致命的な間違いだろう。
流れに逆らわず、順当に事を進めているのは。
 それを分かりながら、私は扉を押し開けた。
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