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田中神代

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24 さいごの階段で

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 生き物の気配は,感じない。
後ろからついてくる足音だけが、自分以外の存在を教えてくれる。
(……ここまで,来た)
 やっと辿り着いたこの場所。
嵐の前の静けさなのか、恐ろしいくらい落ち着いている。
やっと復讐できるという所なのに、怒りも恨みも興奮も悲しみも、何もない。
 不思議と,ふわふわとした現実味のない感覚。
(長かった、からかな…)
 思えば、たった5年。
街を襲った、あの災害。
通りすがったサディシャさんに瓦礫の下から、助けられた。
サラァテュを追うように旅をして、人を助けようとしていたサディシャさん。
結局、私の他には誰も助けられず、3年前に別れた。
(まだ、3年なんだ…)
 サディシャさんと別れ、一人、他の生活も考えていた。
だけど、何をしようにもあの時の、あの災害の事が頭をよぎって、どうしようもなかった。
 先に進むには、決着をつけないといけない。
 そう実感してすぐに、旅に出た。
(2年、かかったね……)
 最初は、サラァテュがどこにいるかも分からなかった。
偶然、近くにいたサディシャさんと会えたから、彷徨っていた時期は短かったけど。
「……ふぅ」
 ため息を吐く。
数年間の単調な日常は、思い出そうとしても、良く思い出せない。
途中で泊めてもらった村も、街も、思い出せない。
(……フローリアは、覚えてる?」
 覚えてない,と返ってくる。
 そんな日々の中、ここ最近は、色の濃い日常だった。
今日のことか昨日のことか、分からないくらい,毎日、いろいろなことがあった。
今までどおり、変わらない旅路だったはずなのに。
(…え、そうでもない?)
 異議を主張するように、キリキリ音がなる。
考えてみれば、まったく同じ旅ではなかった。
(山道が歩きやすかったし……って、冗談冗談)
 少しふざけて応えると、さっきよりも強く締められる。
 そして、ふと気がつかされる。
我に返って真顔になり、今まで自分が笑みを浮かべていた事に気がついた。

 憎い仇を討とうとしている、この時。
数年間、募り募った怨み辛みを、今から相手にぶつけるというのに。

(…不思議と、違和感,ありませんね)
 えっ、と聞き返すように、ツルが緩む。
自分でも意外だけど、こんな穏やかな気持ちでいられることに抵抗はない。
どこか、清々しい気持ちで、今この場に立っていられることが、とても心地が良い。
 なぜ,だろうか。
 ふと、後ろを盗み見てみる。
淡々と階段を登る姿が見えた。
何かを考えているのか、視線は下を向いたまま。
(…私も、考えて良いのかしら)
 小さく、口元に笑みが浮かんだ。
 そう一度思うと、止め処なく色々な事が溢れ出す。
階段を登る足の感覚が薄れ、浮き足立ってくる。
(………、ああ、これが幸せなのかな)
 少し、笑みがこぼれた。
この時間が、少しでも長く続けば良いのに。 
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